重苦しい沈黙が、その場に重くのしかかった。夜風だけが木々を揺らして流れ、言いようのない重圧が全員の間に息苦しく漂っていた。誰もがその見えない圧に押され、思わず息を呑んだ。しばらくの沈黙の後、蒼介がようやくゆっくりと口を開いた。表情も声も、先ほどと何一つ変わらない。「そうか。じゃあ、お前はモモを連れて先に行け」元は、その短い言葉の裏にすぐさま気づいた。「お前たち」ではなく、「お前」だ。自分一人だけを帰し、杏奈をこの場に残させようとしている。どう上手く断ろうかと考え始めた瞬間、モモを抱いていた杏奈が、何事もなかったような落ち着き払った口調で静かに割り込んだ。「……ご飯はいいわ。今、モモちゃんが私にしか抱っこされないから。先に失礼します」元にちらりと、涼しげな目を向けた。「車、出してくれます?モモちゃんも疲れてますし、もう遅いから」それだけ言うと、杏奈は蒼介や紗里たちを一瞥することすらなく、モモを抱いたままさっさと早足で歩き出した。たった数歩で、女の細い後ろ姿は夜の深い闇の中へと溶けていった。そのあまりの迷いのなさと早さに、その場の誰もがとっさに反応できなかった。「……じゃあ蒼介、俺たちはお先に」元は一呼吸おいてから手短に挨拶し、杏奈の背中を慌てて追った。取り残された涼平が、口をへの字に曲げて露骨に不満を漏らした。「なんだよあいつら。飯一回断るのにあんなに勿体つけてさ、まるでこっちが頭を下げて拝み倒してるみたいじゃないか。俺たちと来たくないなら、最初から誘いなんて全部断ればいいのに。さっきもわけのわからない偉そうなことばかり言って、本当に意味わからん女だぜ」ぶつぶつと文脈を吐き出しながら、涼平はまったく気づいていなかった。すぐそばに黙って立つ蒼介の黒い目が、夜の闇よりなお深く、底なし沼のように静かで深く――しかし、刺すような冷たさを帯びていたことに。……気づけば、時刻は夜の十時近くになっていた。疲れ切って眠ってしまったモモを家まで送り届けてから、杏奈は祐一郎に借りた別荘へと戻ってきた。疲労の溜息をつきながら玄関の鍵を開けようとした瞬間、隣との境界にある背の高い植え込みの向こうから、不意に声がした。「今、帰りですか?」静寂に包まれた夜に、気配を殺した、ひどく軽い声。杏奈は心臓が跳ね上
더 보기