元の額に、じわりと冷や汗が滲んだ。まさか、おとなしいはずの杏奈があそこまで直球で実力行使に出るとは思っておらず、完全に度肝を抜かれてただ傍観してしまっていたのだ。ハッと我に返り、元は涼平をさっと引き離し、女ふたりの間に急いで割り込んだ。表向きは中立を装っているが、杏奈のすぐそばに立つその立ち位置が、彼がどちらの味方であるかを雄弁に語っていた。「ええと……紗里さんは入院で長いことベッドに寝てたから、外に出たくなったって涼平から聞いたけど。それなら、せっかくだし楽しもうよ。無理に仲良くしろとは言わないけど、休日に険悪な空気で過ごすのも損じゃないか」紗里は、いつもの完璧な作り笑いを浮かべた。「ええ、もちろんよ」元が間に入った以上、杏奈もそれ以上は構う気はなかった。振り返って車のドアを開けながら言った。「先にモモちゃんを連れて行きますから、あとからついて来てください」「あっ!ちょっと待って、俺はまだ乗ってないんだけど!」元が慌てて追いかけようとした瞬間、紗里の顔色がさっと蒼白になった。もしここで彼女に何かあっては蒼介に申し訳が立たないと、元は結局その場に留まらざるを得なかった。「大丈夫か?無理せず、もう病院に戻ったほうがいいんじゃないか」こんなところで倒れられて、余計な迷惑をかけられても困る。紗里は小さく首を振り、弱々しく微笑んだ。「大丈夫よ。少し立ちっぱなしだったから、ちょっと立ちくらみがしただけだから」杏奈の車が、すでに視界の先で角を曲がって消えかけている。元はこれ以上構っていられず、紗里の細い腕を支えて手早くミニバンへと乗り込ませた。「とりあえず、車の中で落ち着いて。目的地に着いたら、ゆっくり休める場所を探すから」「……ありがとう」紗里は頷きながら、儚げに笑った。しかし、その瞳の奥で、かすかな光が妖しくまたたいた。何かを冷酷に計算するような、静かで危険な光だ。「お前、乗らないのか?」まだぼうっと車の外に立っている涼平を、元は心底呆れた目で見た。涼平は弾かれたように慌てて助手席に乗り込んだが、何か言いたそうに口をもごもごさせている。元はそれを完全に無視したまま、荒っぽくエンジンをかけた。しばらく走った後、涼平がためらいがちに口を開いた。「なあ……」黙っていてほしかったが、止め
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