三浦家へと帰り着き、玄関のドアを開けた杏奈は、その場に釘付けにされたように立ち尽くした。明るいリビングでは、三浦家の面々がソファを囲んで和やかに団欒していた。その中心には、おもちゃを手にはしゃぐ小春の姿があった。屈託のない笑い声が夜の静寂を柔らかく溶かし、そこには絵に描いたような温かな空気が漂っていた。ところが、杏奈が姿を見せた途端、全員がまるで一時停止ボタンを押されたかのように、ぴたりと動きを止めたのだ。恵理子は顔にぎこちない作り笑いを貼り付けたまま、手をもじもじとすり合わせ、何と声をかければいいのか戸惑っていた。隣に座る武史に至っては、ふいっと目を逸らす始末だった。小春を膝に抱き上げていた隆正はあわてて彼女を降ろし、普段のよく通る大きな声に、妙な後ろめたさを滲ませて口を開いた。「杏奈ちゃん、お、お前、なんで帰ってきたんだ?」口にしてから己の言葉のおかしさに気づいたのか、慌てて言い直す。「いや、違う、そういう意味じゃない。今日は随分と帰りが早いなと思ってな」杏奈が返事をするよりも早く、少し離れた場所に立っていた祐一郎が、くすっと含み笑いをこぼした。「おじいさん、杏奈が化け物か何かみたいに、そんなに緊張してどうするんですか。まさか――」背筋を伸ばし、唇の端に悪戯っぽい笑みを浮かべて言葉を続けようとした瞬間、彼の後頭部に鋭い一撃が飛んだ。パーン!乾いた音が、リビングに漂う気まずい空気を切り裂いた。恵理子が凄みのある笑顔を浮かべながら、祐一郎の耳をきゅっと引っ張り上げた。「生意気言わないの。おじいさんをからかうつもり?」祐一郎は身をかがめて首をすくめ、必死の形相で訴えた。「いてぇえええ!ごめんってば!みんな杏奈と顔を合わせにくそうにしてるから、ちょっと空気をほぐそうと思っただけじゃないですか」その言葉に、その場にいる全員の笑顔がわずかに引きつった。彼らが小春に優しく接していたのは、愛する杏奈を何よりも大切に思っているからこそだ。だが、だからといって、これだけ長い時間を一緒に過ごしてきて、何の情も芽生えないはずがない。本当に何も感じないのだとすれば、それは血の通った人間ではなく、血も涙もない機械と同じだ。今日,杏奈が出かけたあと、恵理子は小春が目を覚ましたら吉川の家へ送り届けるつもりでいた
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