彼はかすかに眉をひそめた。その目には、杏奈に名を言い当てられたことへの好奇心と、獲物をいたぶる遊びを邪魔された苛立ちが入り混じっていた。しばしの沈黙ののち、彼は口を開いた。「オレを知っているのか?」「知らないわ」杏奈はあっさりと首を振った。だが、想像に難くなかった。以前、理玖から、彼が異常なまでのシスコンだと聞かされていた。妹が誰かに虐げられたと知れば、駆けつけてくるのも当然のことだ。もっとも、杏奈が彼の正体を見抜けた最大の理由は、その体に漂う火薬の匂いだった。骨の髄まで染み込んだ、決して洗い流せない戦場の匂い。国内では銃器の所持が禁じられている。彼が武器商人であるという事実と考え合わせれば――目の前で理不尽に行く手を阻むこの男が誰なのか、答えはおのずと導き出された。「ほーう。面白い」アルバートソンズの彫りの深い顔に、不敵な笑みが広がった。見下ろす瞳には、さらに強い興味の色が浮かんでいる。「オレのことを知らないのに、一目見ただけで名前を当ててみせるとはな。どうやら……」彼は焦らすように言葉を引き伸ばした。杏奈の警戒する視線を受けながら、触れそうなほどぐっと身を乗り出してくる。「三浦さんは、オレが思っていたより愚かではないらしい」後ずさろうにも、背後はすでに壁だった。杏奈はやむなく手を伸ばして彼の胸を押し返し、強い口調で言い放った。「アルバートソンズさん、ここはあなたの国じゃない。好き勝手が許される場所ではないわ。もしこれ以上、妙な真似をするなら――」パシッ。唐突に大きな手が、杏奈の耳元をかすめた。一筋の髪が宙を舞い、はらりと落ちる。間髪入れず、猛獣のように屈強な彼の体が、覆いかぶさるように迫ってきた。息苦しいほどの圧迫感とともに、二人の距離は握り拳の半分にも満たないほどまで縮まる。互いの瞳に相手の姿がくっきりと映り込むほどの近さだ。「三浦さんが賢明な人なら、オレがなぜここへ来たのか、もう分かるよな?」彼は面白そうに口を開き、胸に押し当てられた華奢な手などまるで意に介さなかった。手のひらから伝わるかすかな抵抗を感じながら、彼は喉の奥で笑いを押し殺す。まったく……本当に、か弱い子ウサギのようだ。杏奈は本気で怒っていた。顔を上げて彼を睨みつけ、声に冷たさをにじませる。「今日の出来事が国内外に広
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