西暦2125年。VR技術は、人間の生き方そのものを変えてしまった。 今や、誰もが満員電車に揺られる必要はない。国が支給する専用のVR端末とネット環境さえあれば、学校も職場も、すべて仮想空間の中に存在する。 授業も会議もログインひとつ。人々は通勤の苦痛から解放され、タイムパフォーマンスという言葉が新たな価値になった。 もちろん、いいことばかりではない。交通機関の利用者は激減し、現実の商業施設や観光業は軒並み打撃を受けた。 それでも、誰もこの便利さを手放せなかった。 ——現実(リアル)なんて、ログインすれば事足りる。 そうした新時代を、誰よりも自然に受け入れている青年がいた。現在大学生活を謳歌する、一色和士。彼の日常は、ほとんどVRの中で完結していた。 朝起きて端末を装着し、仮想キャンパスにログイン。授業を受け、サークルの仲間たちと会話し、放課後には少しゲームをする。 実際に外へ出るのは、アルバイトかスポーツをするときくらいだった。だからこそ、現実の空気を吸うたびに「懐かしい」と思う。VRの生活が当たり前になりすぎていた。 ——いや、もしかしたら、彼にとって現実のほうが“逃避”だったのかもしれない。 和士には、忘れられない過去がある。 幼いころは海外で育ち、父は一流のサッカー選手だった。しかし、突然の事故で父を失い、母と共に日本へ帰国。その母も心の傷から立ち直れず、早くに亡くなってしまった。 それでも和士は、父の背中を追ってサッカーに打ち込み続けた。ユース日本代表に選ばれるほどの有望株。 けれど——試合中の事故で膝と足首を壊した。 何度も手術を受けたが、元の動きは戻らなかった。夢は潰えた。十代の終わりにして、世界から取り残されたような気分になった。 そんな和士を救ったのが、友人の一言だった。「まあ、息抜きだと思ってやってみろよ。面白いからさ」 そう言われて始めたのが、ファンタジーVRMMORPG、Vivid Arcadia Online——通称VAOだった。 最初はただの暇つぶしだった。 だが、初めて体験する“もう一つの現実”は、あまりにも鮮烈だった。 広大な世界、美しい景色、そして数えきれないほどの冒険者たち。 和士は夢中になった。サッカーで失った
Terakhir Diperbarui : 2025-11-22 Baca selengkapnya