All Chapters of 聖衣の召喚魔法剣士: Chapter 21 - Chapter 30

67 Chapters

20  襲撃

 悪魔が炎によって燃え尽きたのを見届けると、カリナは左耳の魔法イヤホンに手を当て、カシューに連絡を取った。「聞こえていたか、カシュー?」「うん、どうやら色々と考察する余地がありそうだね」 イヤホンの向こうから、冷静だが真剣味を帯びたカシューの声が聞こえる。「先ずは奴の言っていたことが気にかかる。近くの街はチェスターだ。情報通りならそこに悪魔が向かっていることになる。私は急いで戻る。そっちからも援軍を出してくれないか?」「わかった、戦車部隊に戦力を乗せて全速力で向かわせるよ。それなりの距離だから間に合うか微妙だけどね」「頼んだ。とりあえず一旦切るぞ」「了解、また何かあればよろしく」 カシューの返答を聞いてから、左耳のイヤホンに注いでいた魔力を切った。急いで街に戻らなければならない。意識を切り替えて、真眼と魔眼の効果を解除した。  眩い光が収束し、黄金の獅子の聖衣が光の粒子となって解け、カイザーの姿へと戻る。「お見事でした、我が主よ」「いや、お前の力がなければ危なかったよ。ありがとう、また喚んだときは頼んだぞ。ゆっくり休んでくれ」 光の粒子になってカイザーは消えていった。そして湖の中から自動回復した黒騎士達が、水飛沫を上げながら無言で戻って来た。ヤコフの両親を運ぶのはこの騎士達に任せるとするかと考えていたとき、背後からシルバーウイングの面々が雪崩れ込んできた。「やったな! まさか本当に悪魔を斃してしまうとは!」「ああ、すげーぜ! こっちまで興奮してきた! あの黄金の鎧、なんだありゃ!?」 アベルとロックは興奮を隠せない様子で、単独で悪魔を撃破した少女に称賛の言葉を贈る。「ええ、召喚術ってすごいのね。しかもあの召喚獣を身に纏う戦い方なんて初めて目にしたわ」「結局格闘術だけで押し切ってしまいましたね。魔法剣を使うまでもなかったということでしょうか? あんな小さな身体のどこにそんな力が……」 エリアとセレナも、畏敬の念を含んだ眼差しで矢継ぎ早に話しかけて来る。「あれは聖衣という、召喚獣の力をその身に纏う鉄壁の鎧だ。あらゆる能力が著しく向上する私の奥の手だよ。召喚獣との信頼関係がないと身に纏うことはできないけどな」 カリナはさらりと答えたが、心の中では冷や汗をかいていた。剣を使わなかったのは、格闘術だけでどこまでやれ
last updateLast Updated : 2025-11-24
Read more

21  ミッション終了

 疲労で仰向けに倒れ込んだカリナは、まだ明るい空を見上げていた。VAOがゲームのときは、その中でいくら身体を動かしても、実際には現実の身体を動かしてはいない。そのため、長時間のプレイで精神的に疲れることがあっても肉体に疲労感を感じることなどなかった。しかし、今のこの世界は現実世界と何ら変わりない。身体の芯から湧き上がる鉛のような疲労感が、そのことを雄弁に物語っていた。「長時間の戦闘には気を付けないといけないな……」 危険な攻撃を躱す瞬間に擦り減る神経。接触した際に響く衝撃。敵を斬り裂き、殴り飛ばす時に感じる生々しい感触。どれもが僅かだが、確実に疲労を蓄積させる。ゲーム内でのステータスは今は見えないが、これまでに鍛え抜いた力があるだけに、現実世界で急激な運動をしたとき程の負担がある訳ではないが、ある程度の自分の限界は見定めておくべきだと思うのだった。 深呼吸をしてから、ゆっくりと立ち上がる。身に纏っていた白銀の聖衣が解除され、ペガサスの姿に戻る。同時に二対の黄金の剣に姿を変えていた巨蟹のプレセペも元の姿に戻った。「ご苦労だったなお前達、また力を貸してくれ」 ペガサスの頭と巨大な蟹の甲羅の背中を労わるように撫でる。「ふん、所詮は伯爵レベルよな。我の力があれば主も余裕であっただろう。では次の機会を楽しみにしているぞ」 そう言って大口を叩く巨蟹のプレセペだが、そのハサミは少し誇らしげに揺れている。二体の召喚獣は光の粒子に包まれて消えていった。その光が空へ向けて霧散していくのを見守っていると、魔物の討伐を終えたワルキューレの姉妹達が、カリナの下へ集結して来た。「主様、討伐完了致しました。目に着いた怪我人も我々が治療しておきました。燃えていた建物も、ミストの水魔法で消火済みです」 その場に跪いたヒルダが凛とした声で報告する。「そうか、よくやってくれた。感謝する。ありがとう。お前達の御陰で被害は少なくて済んだみたいだな」「私達を即座に現場に送り込んだ主様の判断の御陰ですよ。私達はただ任務を熟したに過ぎません」 黒髪のロングヘアが美しい三女のカーラが、涼しげな顔で答える。「それに私達にはそれぞれ得意な属性がありますから。それを上手く分担したまでですよ。」 金髪の末っ子エイルがえっへんと胸を張った。 ワルキューレ。古ノルド語で「戦死
last updateLast Updated : 2025-11-25
Read more

22  祝勝会

 エデン王国。 執務室のデスクでカシューはカリナと悪魔との会話で聞き出した内容について、眉間に皺を寄せながら考えていた。「我らが王、人間を贄にする、あの方の復活ね……。そして情報を話そうとした悪魔は口封じに消された。あの悪魔は侯爵、かなり上位の存在になる。その悪魔が王と称する存在か……」 悪魔の情報通り、チェスターの街が襲撃された。そしてその襲撃した者とカリナが斃した侯爵は繋がっていた。これまで悪魔が単独で姿を現すことはあっても、集団で組織的に行動するのを見聞きしたことは五大国襲撃事件以来ない。だが、まだ決定的な証拠となるものがない。 カシューは腕組みをして一頻り考えた後、デスクに置かれているベルをチリンと鳴らした。カシュー王の側近執政官アステリオンを呼び出すためである。程なくして執務室のドアがノックされる。「お呼びでしょうか、陛下」「ああ、入れ」「失礼致します」と恭しく礼をしながら入室して来たアステリオンに、カシューが真剣な表情で語り掛ける。「カリナからの通信で悪魔の動向が僅かだがわかった。今から言うことからできる限りの情報を集めて来い。侯爵レベルの悪魔にとっての我らが王。人間を贄として、その王を復活させる。組織的に動いている悪魔達。これがどういうことなのか……」「悪魔に関しての情報ですか……。では城や城下の図書、禁書庫の資料を手当たり次第に漁ってみることに致します。何か分かればまたご報告致します」「ああ、頼んだ」 一礼をすると、アステリオンは音もなく退室して行った。部屋に静寂が戻る。豪華なチェアーのひじ掛けに腕をついて、カシューは天井を見上げた。「悪魔以上の存在……。魔王……、まさかね……」 その問いに答える者は誰もいなかった。  ◆◆◆ 「ぷはー! 生き返るー!」 運ばれて来たエールを半分程一気に飲み干して、上機嫌なエリアがジョッキを高々と持ち上げた。「いやー、今日は大変だったわね。さあ、今日は私達の奢りだからカリナちゃんも好きな物を好きなだけ食べて頂戴!」 鹿の角亭。大きな丸テーブルを囲んで、カリナとシルバーウイングの四人のメンバーが今日の祝勝会をしている。カリナの左隣にはエリアが座り、そこからセレナ、アベル、ロックという並びで腰掛けている。テーブルには既に運ばれて来た豪華な肉料理や色鮮やかなサラダが所狭しと並べられている
last updateLast Updated : 2025-11-26
Read more

23  素材分配

 カリナがアイテムボックスから取り出したのは、最初の侯爵が残した大鎌と二本の角、巨大な魔法結晶に10本の鋭利な爪。そして街で討伐した伯爵のコウモリの様な両翼、黒く輝く両手剣、此方からも魔法結晶に両角と長い尻尾である。それ以外はロックが死者の迷宮の道中で回収したアンデッドが落とした魔法石が大量にあった。「悪魔の素材に武器か……、こうして見るとやはり厳ついし何だか禍々しい雰囲気があるな」「そうだな、確かに普通の魔物が落とす素材とは少々異なるかもしれない。でももうただの素材だよ」 素材が放つ異様なオーラの様なものを感じて眉をひそめるアベルに対して、カリナは平然とそう言った。狩りで手に入れた素材の分配は冒険者達が最も盛り上がる瞬間である。しかしシルバーウイングの面々は少々遠慮気味だった。「でもいいの? これって結局カリナちゃんが全部斃した戦利品じゃないの。私達に貰う権利があるようには思えないんだけど」「まあそう言えばそうだな。俺も灰になったアンデッドから拾っただけだし。やっつけたのはあのワルキューレの姉ちゃんだしなあ」 エリアとロックは高級素材を前に生唾を飲み込みつつも、うんうんと唸って躊躇している。「気にすることはないよ。私達はパーティだろ? 一緒に冒険をしたんだ。それに私はそんなにお金には困っていないからね」「太っ腹なカリナちゃん、素敵……一生ついていきます……」 分配するのがさも当然とでも言うカリナにすり寄るセレナだったが、すぐさまエリアに首根っこを掴まれて引き剥がされた。「私は当事者ではありませんが、本当に良いのですか?」 一同の様子を見ていた団長のセリスが、少し驚いたように疑問を口にした。「構わないよ。どうせ私は使わないし、こういう物は使える者が使った方がいいに決まっているしな。それに安易に売却してそれが悪人の手に渡る方が問題あるだろ?」 カリナはゲーム時代からパーティプレイをした際には常に平等に分配してきた。自分が使わないのなら、それを使える人間に使って貰った方が良い。これまでずっとそうやってきたのだ。パーティで一緒に行動したのだから全員にドロップアイテムを手にする権利があると思っている。それに今のこの世界は現実世界である。もし売却してそれが悪人の手に渡り、犯罪に繋がるのだけは避けなければならない。彼らなら信用できると思っての提案である
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

24  シルバーウイングギルド会館

 翌朝。宿屋『鹿の角亭』のシングルの部屋のベッドの上で目が覚めたカリナは、起き上がるとぐいっと伸びをして身体の調子を確認した。まだ寝起きでぼけっとしてはいるが、魔力も体力もしっかり回復している感覚がある。 しかしステータスが見えないので数字上での確認は不可能。自分の身体を動かすことで状態を確かめるしかない。ゲームとしては不便である。自分のHPやMPが見えない上に身体能力の数値もわからない。クレーム待ったなし、いや大炎上するだろう。 だが現実世界にはそもそもそんな数値を示すものなどない。そう考えれば、今の自分が置かれている状況が現実なのだと実感させられる。一通り身体をぐいぐいと動かして調子を確認した後、アイテムボックスから衣装を取り出して身に付ける。今日もまたひらひらのフリルやリボンがたくさん付いた、まるで魔法少女のような衣装に身を包む。いい加減、こういった衣装にも慣れてきている自分がいる。姿見で着こなしを確認し、今の少女の姿の自分には似合っているのだから仕方ないかと考えることにした。 備え付きのトイレで用を足し、洗面台で顔を洗う。身だしなみが整ったところで、お腹が空いていることに気付く。階下に降りて朝食を頼むことにするかと思い、忘れ物がないかを確認してから部屋を出た。「本当、リアルに腹が減るよな……」 階段を降りながらそんな言葉が口をついた。一階にある食堂には宿泊客や朝食を食べに来ている客で既に賑わっていた。「おはよう、カリナちゃん。よく眠れたかい?」「ああ、おはよう女将さん。よく寝れたよ。朝食をお願いしたいんだけど」「はいよ、カウンターでいいかい?」「構わないよ」 テーブル席には集団客達が陣取っている。独りのカリナはカウンター席に腰掛ける。暫くすると、朝食がトレイに乗せられて運ばれて来た。「はいよ、お待ちどうさま。しっかり食べて行くんだよ」「ありがとう。いただきます」 今朝の朝食は和食だった。ライスに焼き魚、漬物や卵焼きなど、日本人にとって馴染み深いメニューが並んでいる。世界観は中世の洋風ファンタジー世界なのだが、食べられる料理は和洋折衷何でもある。こういうところはありがたい。 カリナ達同様に、この世界にはまだ出会っていないPC達がいるのだろう。彼らがこの100年の間、こういう文化を育てて来たのかもしれないと思いながら、出された料理を口
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

25  セリスの素性

 カリナがシルバーウイングのメンバー達と雑談をしながらセリスの到着を待つこと数刻。急いで戻って来たセリスが本部の二階に姿を現した。その姿を見つけたエリア達が声を掛ける。「あ、団長戻って来た。もうカリナちゃん来てますよ」「おはようございます。すみません、待たせてしまいましたか? 急な呼び出しがあったもので……」 少し息を弾ませているセリス。その銀髪がわずかに乱れているのが、彼女の急ぎ具合を物語っていた。「おはよう。いや、大した時間は待ってないよ。それに態々組合とかから使者が来るくらいなのだから、優先するのは当然だ。こっちはここのメンバーと雑談してたし、気にしなくてもいい」「そうですか、ですが申し訳ありません。では私の執務室に案内します。エリア、お茶を入れてくれるかな?」「はい、後でお持ちします」「カリナさん、此方へどうぞ」「ああ、態々ありがとう」 セリスに連れられ、三階へ続く階段を昇る。そこは部屋ごとに区切られているフロアだった。現代のビルの中のオフィスが並んだ通路とでも言うべき機能的な造りだ。その通路を一番奥まで進んだ先のドアを開けると、そこにはカシューの執務室を少々小さくし、より実用的にした感じの一部屋があった。「此方へ座って楽にして下さい」「ありがとう。しかし、立派な建物だな。造りも現代的だ」 勧められたソファーに腰掛けると、テーブルを挟んで向かい側にセリスが座った。改めて見ると銀髪が美しい、知性と品格を兼ね備えた大人の女性だ。落ち着いた雰囲気も、青年であるカリナの内面よりもずっと成熟しているように感じる。「それでは改めて、この度は色々とお世話になりました。ウチのメンバーにも良い経験になったでしょうし、悪魔から救って頂いたことも感謝しています」 深々と頭を下げるセリス。謙虚で非常に礼儀正しい。そこまで感謝されるとカリナは逆に申し訳なくなる。「いやいや、昨日も言ったように私が彼らを巻き込んだようなものだから。そこまで畏まらないで欲しい。何だか逆に悪い気持ちになるよ」 そんなカリナの様子をくすりと笑いながら見たセリスは、柔和な表情を崩さずに、少し声を落として話し始めた。「では、もう少しメタ的な話をしましょうか? ……この世界に来てどのくらい経ちますか?」 カリナはその質問にはっとなる。メタ的な話ということは、恐らくプレイヤー目線で
last updateLast Updated : 2025-11-29
Read more

26  未来の召喚士

 セリスに身バレしたものの、二人はその後もVAOの世界について色々と雑談した。そして彼女から、ヤコフの両親の意識が戻ったこと、この街の総合組合の組合長が、今回の悪魔襲撃から街を救ったカリナに会いたがっていることなどを聞いた。セリスが呼び出されていた用事はそのことだったのである。「そうか、丁度教会に様子を見に行こうとは思っていたところなんだ。この後両方とも顔を出してくるよ」「ええ、是非そうして下さい。それに組合からは何かしらの報酬が出るかもしれませんからね」 セリスとまたの再会を誓い、カリナはシルバーウイングの面々に挨拶を済ませると、ギルド本部を後にした。 教会も組合もここから近い場所にある。先に気になっていたヤコフの両親の様子を伺うために、まずは教会へと足を運んだ。 どの街にも西洋の大聖堂のような荘厳な造りの教会が必ずある。ゲーム時代からそこで治療を受けたり、死亡した際には最寄りの教会の女神像の前で復活するシステムになっていた。現実世界になってしまった以上、そこで復活はできない可能性が高い。そういう事態にならないように注意する必要がある。 教会の門を通過して、重い扉を開けて内部に入る。そこには女神像に祈りを捧げる熱心な信者達や、教会に務めている僧侶達が数人いた。人目を引くゴシック調の衣装を着た美少女カリナが姿を現すと、人々の目はすぐさまカリナに集まる。街を救った美少女は既に有名になっていたので、人々が次々に話しかけてくる。「すまないが、用事があるんだ。神父は何処にいるだろうか?」 人々の感謝や握手をやんわりと躱しながら用件を告げると、そこへ男性の僧侶が早足でやって来た。「カリナさんですね、お待ちしておりました。神父様なら奥の部屋でヤコフ君の両親の容態を確認しておられるところです。ご案内しますね」「ああ、よろしく」 男性に連れられ、教会の奥の通路を進む。そこには怪我や病気の人々のための静養室が並んでいる。カリナはヤコフの両親がいる部屋へ、僧侶の後に続いて入室した。部屋に入った瞬間、此方にすぐ気付いたヤコフがパッと顔を輝かせて駆け寄って来た。「カリナお姉ちゃん! おはよう。お父さん達の様子を見に来てくれたんだね?」「ああ、セリスから意識が戻ったと聞いてな」 カリナに会えたヤコフは嬉しそうにその手を引いて、部屋の奥へとカリナ
last updateLast Updated : 2025-11-30
Read more

27  ルミナス領カリンズ

 ヤコフを教会まで送り届ける。「もう行っちゃうの? カリナお姉ちゃん」「ああ、本来はルミナス聖光国にいく旅の途中だったんだ。ここに寄ったのは一晩宿に泊まる予定なだけだった。でもその偶然でお前に会えた。悪魔の情報も得ることができたし、収穫はあったかな」「そうなんだ、また会える?」「ああ、いつか一緒に冒険すると言っただろう。それにこの街のシルバーウイングのセリスとは色々とまた話したいことがある。その内また来るよ」「うん、でも寂しくなるね……」 そう言って目を潤ませたヤコフの頭を撫で、カリナは優しく言葉を紡いだ。「ヤコフ、両親を大切にして、言うことをしっかり聞くんだぞ。私にはもう両親はいない。だからお前が両親と触れ合うのを見て、それがどれだけ大切な事かわかったよ。早寝早起きをして健やかに過ごすんだぞ。決して無理をして両親を悲しませることがないようにな」「うん、わかったよ。でも絶対いつか一緒に冒険しようね!」「そうだな、それまでしっかり自分を鍛えるんだぞ」 涙を拭いて、ヤコフは笑顔になっていた。いつか一緒に冒険することと、再会を約束して、カリナはヤコフと別れた。 そろそろ正午になる。小腹が空いたカリナは広場にやって来て、屋台で焼きそばや唐揚げなどをテイクアウトし、ベンチに腰掛けて食べた。日本で縁日や花火大会へ、従妹の忍に強引に連れ出されたことを思い出す。まだこの世界に来て数日しか経っていないのに懐かしさを感じた。 カリナが屋台の食事を味わっている間も街の人々が次々に声を掛けて来た。街を救った美少女召喚士。誰もが振り返るその少女とは思えない美しさに目を奪われる。「まさかここまで目立つとはね……。アバターボックスまで使ったのはやり過ぎだったのかもな」 そう呟いたカリナだったが、それに加えて身に付けている衣装が珍しく、どう見ても目立つものだということまでは理解していない。黒いロングコートにはリボンが肩や袖にあしらわれており、裏地は真っ赤である。インナーには肩紐のない濃い水色に白いデザインが施されたタイトなペアワンピースで、スレンダーなボディラインを強調している。太ももまでの長さの白いニーハイソックスに黒いブーツ。どれもレースやリボンで飾られており、目立たないはずがない。エデンの魔法工学の粋を集めたカリナの衣装は、見栄えだけでなく防御性能も段違いである
last updateLast Updated : 2025-12-01
Read more

28  情報収集

 宿の大衆浴場で、本日も若い女性達に「可愛い」と絶賛世話を焼かれたカリナは、薄手の白いワンピースの寝間着に着替えてから部屋のベッドに寝転んだ。女性達からすれば幼く見え、絶世の美人であるカリナには何かとちょっかいをかけたくなるものなのであろう。「はぁ、これが今後も続くのはしんどいな……」 長い髪をタオルで乾かしながら、カリナは独り言ちた。まだ寝るには時間がある。長時間の飛行はそれなりに疲労感があったが、すぐに寝てしまう程のものではない。部屋に設置された本棚を物色する。するとそこに、「聖騎士カーズのエデン王国防衛戦記」という本を見つけた。「おいおい……、これは私のメインキャラのノベライズなのか?」 興味が湧いたのでそれを手に取って捲ってみる。そこにはエデンの防衛戦で大軍を相手に単独で立ち回り、大活躍する自分のメインキャラの姿が書かれている。その他にも邪龍を討ち取った話や、エデン建国までのカシューとの友情話。王国の特記戦力とのやり取りなどがかなり誇張して書かれていた。「いくらなんでも盛り過ぎじゃないだろうか……」 そう思いながらもその物語にのめり込み、夜更かしをしてしまった。明日本屋でこの手の本があるか探してみたくなったカリナは、自身の活躍を描いた英雄譚に興奮しながら眠りに就いた。 翌朝目覚めると、時計は既に10時を回っていた。さすがに夜更かしが過ぎたと思いながら、朝の支度を済ませて階下の食堂へと降りて行った。 カウンターに腰掛け、女将に朝食を頼む。「おはよう、カリナちゃん。随分とお寝坊さんだね」「うん、ちょっと読書に夢中になってしまってね。まさかあんな本が出回っているとは思わなくて」 サラダやトースト、目玉焼きにベーコンといった定番の朝食を出してくれた女将が、尋ねてくる。「へぇ、ウチにそんな面白い本があったのかい?」「ああ、エデンのカーズ騎士団長の本だった。誇張表現も多かったけど面白かったよ」「なるほどねぇ、彼は今や伝説の聖騎士様だから。行方不明と言われてるけど、何処かで元気にしてるんじゃないかね」「ははは、伝説なんて大袈裟だな。まあ今でも無茶な修行してそうだけど」「へぇ、詳しいんだね。カリナちゃんの憧れの人だったりするのかい?」「いや、実の兄なんだよ。今は私が代わりにエデンの任務をこなしてるところだけど」 勿論嘘であるが、こういう設
last updateLast Updated : 2025-12-02
Read more

29  カリンズ地下迷宮

 カリンズ地下迷宮の入口は街の北口を出たところにある。岩が重なり合ってできた小さな山の様なものが入口となっている。カリナが北門を通り過ぎたところで、門番の男達に声を掛けられる。「お嬢ちゃん、まさか地下迷宮に行くんじゃないのか?」「ああ、そうだけど」「やめとけ、今も数人の冒険者達が負傷して戻って来たんだ。何でも中の構造が変わって大変なことになっているらしい」「知っているよ。だからそれを解決しに行くんだ」「おいおい、お嬢ちゃんみたいな子供には無理だ。大人しく帰った方がいい」 カリナの前に立ち塞がって止めて来る門番達の気持はよくわかる。小柄な少女がまさかAランク冒険者で凄腕の召喚士などとは、外見からは想像がつかないのだろう。困ったカリナは首から下げているギルドカードを見せた。それを目にした男達の顔が驚きに変わる。「え、Aランク……。こんな子供が」「分かってくれたか? 急ぐので通してくれるとありがたい」「ああ、まさかこんな子供が……」「見た目に惑わされているようではまだまだだな。じゃあ、ここは通してもらうから」 道を開けた二人の間をカリナはスタスタと通り抜ける。そして目視で確認できる近くの地下迷宮の入口へと向けて走った。「すごいな、あんな子供が……」「ああ、無理矢理止めてもぶっ飛ばされたかもしれん」 走り去るカリナの背を見ながら、門番達はそんなことを口にした。 地下迷宮の入口の階段を降る。ここに来るのは初心者の頃以来である。さて、どのように変化しているのだろうかと思いながら、カリナは長い階段を降って行った。「確かにこれはかなり変わった造りになっているみたいだな」 本来迷宮とは名ばかりの大通りの一本道である。それが迷路の様に変化している。恐らく幻術なのだろうが、見た目は入り組んだ迷路である。取り敢えず進んでみるかと思い、適当な進路を選んだ。そのとき進行方向から助けを呼ぶ声が聞こえる。何事かと思い、急いでその方向へと走った。「た、助けてくれ……!」「くそ、こんな化け物が出て来るなんて聞いてないぞ」 どうやら魔物に迷い込んだ冒険者達が襲われているようである。そして彼らの前には巨大なミノタウロスが一体。牛の顔から涎を垂らし、鋼の様な頑丈な人間の身体をしたかなり上級の魔物である。恐らくここに潜む何者かが呼び出したのだろう。そして腰を抜かしてへた
last updateLast Updated : 2025-12-03
Read more
PREV
1234567
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status