All Chapters of 聖衣の召喚魔法剣士: Chapter 41 - Chapter 50

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40  前夜の宴

 ルミナスアークナイツの面々との食事会は盛り上がっていた。これまでの彼らの冒険話などは面白く、カリナも興味が湧いた。カリナのこれまで召喚体を使役するためにしてきた旅の話なども、彼らには面白い内容だったらしい。「その歳でそんな修羅場を潜ってきたなんてね。凄いよ、カリナちゃん」「そうね、どう見ても私達よりも幼いのに。世界中を旅してきたのね。私ももっと外の世界を知らないといけないわ」「そうですね、この討伐が終わったら私はエデンに行ってみたいです。カリナさんの故郷。きっと新たな発見がありそうです」「しかも可愛いしな。いやー、あと数年すればもっと美人になるだろうな」 カインだけはカリナの容姿についての感想を述べた。他の3人から「うわぁ……」という言葉が漏れる。こうやって女性達を自然に口説いてきたのかもしれない。カリナはおのれイケメンめと思った。「アンタねぇ、いくら絶世の美少女でも口に出すことじゃないでしょ。引くわー」「カイン、確かにカリナちゃんは可愛いが、そういうことは言うべきじゃないよ」「ロリコン……」 テレサのトドメの一言でカインはテーブルに突っ伏して撃沈した。「何だよー、本当のことを言っただけだろ」「こいつはいつもこうなのか?」 カリナは無自覚にイケメンムーブを撒き散らすカインに少し苦手意識を覚える。見た目は絶世の美少女アバターだが、中身は違う。そういう目で見られると寒気がする。「そうだね」「そうですね」「そうよ、爽やかな振りして女の子を振り回すから。カリナちゃん、気を付けなさいよ」 3人共同じ感想を述べた。まあ見た目もそうだが、嫌味がある訳ではない。実際モテるのだろう。「ああ、私はそういう目で見られると蕁麻疹が出る。カインには気を付けよう」「褒めたのにそりゃないぜ、カリナちゃん」 一同の笑い声が、客の入りが多くはない金砂の舞踏亭の食堂に響く。「そう言えばカリナちゃんはあの聖騎士カーズ様の妹なんだってね? 僕は彼を目標にしているんだ。どんな人物だったか教えてくれないかな?」 聖騎士クラスのカーセルにとっては、今やこの世界では伝説的な存在であるカリナのメインキャラの聖騎士カーズ。エデンでの立場などのために、一応そういうことにしているが、実際は謂わばもう一人の自分である。それについて話すのは少々抵抗がある。「あ、そうだったわね。
last updateLast Updated : 2025-12-14
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41  突入

 街外れの丘を越えると、風化して白く晒された石柱が立ち並ぶ遺跡が姿を現した。屋根はとうに崩落し、折れた柱が無言で青空を突き上げている。それはまるで、時という概念だけが支配する巨大な墓標のようだった。近づくほどに、静寂が重く沈殿していく。 遺跡へ足を踏み入れた瞬間、肌を撫でる空気がひんやりと冷えた。吹き抜ける風が砂と草の乾いた香りを運び、石の床をかすかに鳴らす。頭上には雲ひとつない蒼穹が広がり、柱の影が日時計のように長く伸びて、地面に古の文様を描いていた。 中央へ進むにつれ、大気の質が変わる。石壁に残る彫刻、苔むした階段、朽ちた装飾……。かつてここが盛大な儀式の場であったことを語り継ぐように、残骸は静かに、しかし確かな存在感を放っていた。 今のところ探知に反応はない。敵は気配を殺すことに長けているらしい。だが、肌を刺すような緊張感が警鐘を鳴らしている。間違いなく、ここにいる。「そろそろだ。全員、準備を」 カーセルの指示と共に、空気が張り詰めた。  カーセルは背の大剣を抜き放ち、盾を構える。カインはスピアの石突きで床を打ち、ユナは数枚の護符を扇状に展開し、テレサは強く杖を握り締めた。カリナもまた、いつでも抜刀できるよう鯉口に親指を添える。 神殿の最奥。半ば崩れた祭壇の上に、一尊の女神像が佇んでいた。白大理石に刻まれたその姿は流れるような衣をまとい、どこか悲しげな眼差しを前方へ向けている。長い歳月を経てもなお、その表情は聖なる光を帯びているかのように穏やかだった。 像の足元には澄んだ泉が湧き、崩れた石隙から溢れる水が宝石のように陽光を弾く。水面には女神像の影が揺らめき、まるで廃れた神殿を今も見守り続けているかのようだった。 ――瞬間、世界の色が変わった。 穏やかな廃墟の空気が、急激に凍りつく。風が止まり、泉のさざ波すらも畏怖に震えて静止したかのような錯覚。その元凶は、遺跡の最奥、女神像の前に座す「影」だった。 濃密な闇が凝り、黒い靄となって滲み出す。やがて影は人の形を結び、ゆっくりと輪郭を露わにした。やはり、気配を断っていたか。カリナの探知スキルが爆発的な魔力反応を捉える。こいつが、元凶だ。 影霊子爵ヴァル・ノクタリス。白磁のように冷たい肌。闇そのもので編まれた黒衣が、風もないのに不気味にはためく。深紅の瞳が、侵入者を値踏みするように細められた。そ
last updateLast Updated : 2025-12-15
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42  影虚竜シャドウ・ヴォイド・ドラゴン

「そろそろ彼らは遺跡の悪魔と遭遇した頃でしょうか?」 ルミナス聖光国教会。女神像の前で祈りを捧げる一人のシスターが、遠い戦場に想いを馳せて呟いた。「そうかもしれぬな。先程から街を包む空気が重く淀んでいる。……お迷いですか、サティア様」 問いかけに答えたのは、神父長のマシューだ。長い髭を蓄えた威厳ある老人だが、彼はまるで母に接するかのように、変わらぬ敬意を込めて「様」をつける。100年もの間、姿を変えずにこの街を見守り続けてきたPC、サティア。老いることのない奇跡の存在。この世界の住人には、彼女は生ける伝説として映っていた。「ええ……。カリナさんは強い人です。私などがいなくても、きっと悪魔を討伐してくれるでしょう……」 答えるサティアの表情は暗い。かつて共に旅をしたメインキャラ・カーズとしてもカリナの姿でも、彼女の強さは誰よりも理解している。数多の召喚体を使いこなし、魔法剣技に格闘術まで修めた彼女なら、並の悪魔に遅れを取ることはないはずだ。しかし、ここは「現実」となったVAOの世界。友人を死地へ送り出してしまったという事実は、棘のように彼女の心を苛んでいた。この世界での死は、還らぬ死かもしれないのだから。「それにしては、随分と悲痛な面持ちですな。カリナさんは、貴女の御友人なのでしょう?」「ええ……、とても大切な……友人です」 サティアは、カリナがカーズとしてプレイしていた頃、初心者の自分が幾度となく助けられた記憶を反芻する。クエストでの共闘、成長のための情報交換、そして幾度となくその盾で守られた日々。彼に追いつきたくて神聖術を極め、聖女の御技に至り、エデンの特記戦力として肩を並べるまでになったのだ。「本当は、助けに行きたいと思っているのではないですかな?」「そんなことは……。彼女は私などいなくても……」「もう御自身の心に嘘を吐くのは止めになさい」「私は嘘など……!」「私は幼い頃より貴女様を見て参りました。私はこうして老いてしまいましたが、貴女様はあの時の美しく気高い姿のままです。五大国襲撃事件で負った心の傷、それゆえにここで長きにわたり人々に尽くしてこられたことも存じております。……ですが、貴女様には戦う力がある。我々にはない、悪を制する聖女の力が」 少年時代から憧れ続けたマシューには、聖女の心の揺らぎが痛いほど伝わっていた。「私には…
last updateLast Updated : 2025-12-16
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43  影霊子爵ヴァル・ノクタリス

 カリナの指先から放たれた真紅の閃光は、邪竜の心臓を抉り取るように貫いた。ぽっかりと空いた大穴。自らの死すら理解できぬまま、影虚竜シャドウ・ヴォイド・ドラゴンは最後の咆哮を上げる。「――――!!?」 黄金の蠍に射抜かれた邪龍は、音もなく崩れ落ち、サラサラと灰になって風に溶けた。「どうだ、黄金の蠍の一刺しは効くだろう? ……まあ、もう聞こえてはいないか」 後方の仲間達は、自分たちでは足止めすら叶わなかったであろう影虚竜を一撃で沈めたカリナの姿に、言葉を失っていた。「何という威力なんだ……!? あの巨体を一撃で灰にしてしまうなんて」「ああ、何が何だかわからねーが、とんでもねえってことだけはわかるぜ。よっしゃ、これならあの悪魔にも勝てる!」「ええ、彼女がこれまでソロで悪魔を討伐してきた理由がわかりました。あれ程の力を秘めていたのですから……」「あれが『聖衣』……。なんて荘厳で美しい鎧なの。召喚術の真髄を見た気がするわ」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。ルミナスアークナイツの面々は、畏敬の念すら込めて感嘆の息を漏らす。「ふふん、さすが隊長にゃ。あの程度のトカゲにゃんて、『聖衣』を纏った隊長の敵じゃにゃいにゃ!」 まるで自分の手柄のように胸を張るケット・シー隊員。 誰もがその姿に目を奪われる中、カリナは玉座から立ち上がった影霊子爵ヴァル・ノクタリスへ向き直った。「もうお前の下僕共はいない。次はお前の番だ」 カリナは左耳のイヤホンに魔力を注ぎ、カシューに繋ぐ。「聞こえてるか?」「うん、聞こえてるよー」「これから悪魔との一戦だ。今回も情報収集頼んだ」「オッケー」 カシューとのやり取りを済ませると同時に悪魔が喋り始める。「ククク、カカカッ! 素晴らしいぞ。我が最強の配下をこうも容易く屠るとはな。小娘よ、貴様は最高の傀儡《くぐつ》になる。だがまずは名乗らせてもらおう。我が名は影霊子爵ヴァル・ノクタリス。魔界の権威ある貴族である」 胸に手を当て、仰々しく一礼をする悪魔。彼らにとって、これから殺す相手に名を刻み付けるのは貴族としての礼儀であり、矜持なのだ。「知っている。私は召喚術士のカリナ。そしてお前の命運は今日ここで尽きる」「ククク、大きく出たな小娘。ならばここまで辿り着いた礼だ。我自らが相手をしてやろう」 悪魔が
last updateLast Updated : 2025-12-17
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44  聖女覚醒

 外から干渉していたテレサの神聖術が弾け飛び、霧散した。だが、カリナはまだ諦めずに、鋭い視線を影霊子爵へと向けていた。「ククク、外からこの結界を破壊などできまい。さあ貴様の最期が近づいて来たな」 ヴァル・ノクタリスの勝ち誇ったニヤケ面に対し、カリナは血を吐くように言い放つ。「いいや、不可能などはない。それに、私はまだ諦めてなどいない……っ、はあああああああ!!!」 アビス・ハンドに掴まれ、宙に吊るされた状態で、カリナは残る闘気を振り絞る。魔力が封じられた今、頼れるのは鍛え上げた己の肉体のみ。気迫だけでアビス・ハンドの指をわずかに押し広げる。「無駄だ。この結界の中では我は無敵。見事な闘志だが、この拘束を破ることなどできん」 影霊子爵が掌に力を込めると、ミシミシと嫌な音を立てて拘束が強まる。それでも、カリナの瞳に宿る闘争心は萎えるどころか、さらに鋭く燃え上がっていた。「決めたぞ。まずその反抗的な眼球から抉り出してやろう」 悪魔が長く鋭い爪をカリナの瞳に近づけたその時、結界が大きく軋んだ。先程とは比較にならない、空間そのものを揺るがすほどの衝撃。外からの強烈な神聖術の干渉だ。「おのれ……、まだ足掻くか。ならば貴様らにも絶望というものを見せてやろう」 影霊子爵は苛立ちと共に、結界をさらに強固にすべく魔力を注ぎ込んだ。 ◆◆◆「あの中に、カリナさんが閉じ込められているのですね」「はい……。ですが私の結界術では、外からの干渉は不可能です。全員の魔力を注いだルーメン・サンクチュアリ・ライトでも、ヒビ一つ入れられませんでした……」 テレサの目や鼻からは、魔力過剰行使による鮮血が流れている。他のメンバーも疲労困憊で、立っているのがやっとの状態だ。サティアは静かに頷き、メイデンロッドを構えた。「この者達の傷を癒し、新たな活力を与え給え。ブレスド・メイデンズ・グレイス」 サティアが僅かに微笑んだだけで、巨大な癒しの波動が全員を包み込んだ。それは聖女だけが扱える神聖術の最上位互換。瞬時にテレサの出血が止まり、全員の身体に力が満ち溢れる。「なんていう威力の癒し……。これが、サティア様の聖女としての力……」「サティア様、カリナちゃんを助けてやってくれませんか? 僕達の力ではあの結界に傷一つつけられない」「ああ、ここまで自分の無力さを感じたことはねえよ」
last updateLast Updated : 2025-12-18
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45  死闘を終えて

 影霊子爵ヴァル・ノクタリスが闇の転移陣で姿を消すと同時に、遺跡の空を覆っていた不気味な夜の帳が解けた。後に残ったのは、突き抜けるような真昼の青空だけだった。「くそ、あと一撃だったのに……。むざむざ逃がす羽目になるとは」「そうですね……。ですが、あんな異常な使い手が現れたのは完全にイレギュラーでした。仕方ありません。今はここの悪魔を追い払ったことで良しとしましょう」「……ああ、そうだな。結果だけを見れば完封勝利だ」「それに、かなりの情報を聞き出せました。悪魔の根城、現在の最高責任者、そして精霊を狙う組織……。問題は山積みですが、収穫は大きいです」 勝利はしたが、更なる上位存在――深淵公『ネグラトゥス・ヴォイドロード』。そして、今回の影霊子爵以上の爵位を持つ災禍伯『メリグッシュ・ロバス』が率いる組織『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』。今後、旅を続けていれば必ず衝突する相手だ。カリナは肌でそう感じていた。「まあ、いつか出くわすことになるだろうさ。その時までに私も更に腕を上げる必要がある。一旦エデンには帰るが、情報をまとめたらまた出発だ」「はい。ですが、今は素直にこの勝利を祝いましょう。この街を悪魔の脅威から救えたのですから。これで人々も笑顔を取り戻せます」「そうだな、今はそれで十分だ。カシュー、聞こえていたか?」 左耳の通信機に話しかける。「うん、聞いてたよ。お疲れ様。それにしてもまたヤバいのが出てきちゃったなぁ。まあそれは後々考えよう。悪魔の根城や組織の調査も必要だしね。――ああ、それとサティア。どうやら吹っ切れたようだね。もう安心かな?」「カシューさん、ご迷惑をお掛けしました。ですがもう大丈夫です。この街での残務を済ませたらエデンに帰還します。私としても、帰るべき故郷が壊滅するのは避けたいですから」「ってことだ。サティアについてはもう大丈夫だろ。あ、そう言えばここの教会に渡す書簡を預かっていたんだった。まあもういいか。サティアも見つかったんだしな」「忘れてたの? 相変わらずがさつだなぁ。まあ結果オーライだし、もうそれは捨ててもいいよ。どうせ教会に『サティア捜索願い』を出す程度の内容だしね」「わかった。じゃあこれから一旦、ルミナス聖光国の街に帰還する。また何かあれば繋ごう。じゃあな」「はいはい、またね」 通信が切れる。情報
last updateLast Updated : 2025-12-19
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46  サティアとのひと時

 カリナがサティアに案内されたのは、街の中心部から少し離れた、喧騒から切り離された静かな通りに面した場所だった。 店の名は「Blanc Aile」。ルミナス聖光国の建物の主流である白大理石がふんだんに使われているが、重厚感よりも、軽やかで優美な印象が際立っていた。 外壁は磨き上げられた純白で、大きなアーチ型の窓には透明度の高いガラスが嵌め込まれている。窓枠は繊細な銀細工のような装飾が施され、その頂点には、左右対称に広がる羽根を模した意匠が埋め込まれていた。それはまるで白い翼を持った天使が今にも飛び立とうとしているかのような、優雅で神聖な佇まいだ。 入り口の扉は明るい木製で、上部には蔦の絡んだ小さなサインボードが揺れている。軒先には、手入れの行き届いた鮮やかな深紅の薔薇が幾重にも咲き誇り、純白の建物に荘厳なコントラストを与えていた。「ここです。お洒落なお店でしょう? ここのクレープは絶品なんですよ」 サティアが控えめにだが、その大きな胸を張って見せる。「そうだな。中から焼いたパンと甘い菓子の良い匂いがする。雰囲気も良さそうだ」「早く入るにゃ! 魚の匂いはまだしにゃいけど、早く美味しいものを食べるにゃ!」 扉を開けて一歩足を踏み入れると、外界の音が遮断され、一瞬、静謐な教会の回廊のような錯覚を覚えた。 店内は白と金を基調とした、息を呑むほど洗練された空間だ。天井は高く、中央には巨大な翼の形を模したシャンデリアが輝き、昼の光を反射して店全体を柔らかな金色に染め上げている。 床は光沢のある大理石で、壁は真っ白な漆喰に金のモールディングが施されていた。「いらっしゃいませ、ようこそブラン・エールへ……って、まあ! 聖女様じゃありませんか! 今日はここでお食事ですか? それと、あらーこれは何て可愛らしいお嬢さん! ……それに、猫が歩いてる?」 明るい茶髪のショートカットをした給仕の女性は、VAOの世界観の中世ファンタジーらしい、上品なメイド服を身に纏っていた。そんな彼女は聖女御一行とわかり、驚きと喜びを込めた声を上げた。「こんにちは。今日は遠方から来た友人とランチに来ました。賑わっているみたいですが、席は空いていますか?」「はい! 悪魔が討伐されたって噂で街中何処も浮かれたお客さんで混雑してるみたいですけど、大丈夫です
last updateLast Updated : 2025-12-20
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47  祝勝会開始

 食後の腹ごなしも兼ねて、ルミナス聖光国の街中を散歩してから、カリナとケット・シー隊員は宿泊先の金砂の舞踏亭に戻って来た。 扉を開けて中に入ると、すぐ入口の近くで掃除をしていた若女将のルーシーがカリナの姿を認め、いきなり飛びつくように抱き着いて来た。華奢な身体の骨がきしむほどの強い力で抱擁される。「おかえりー、カリナちゃん! 聞いたよ、悪魔を討伐したんだってね! いやー、本当にやっちまうなんて大した子だよ!」「う、うん。結局逃げられたんだけどね。でも、うぐぐ……っ」 更に強く抱き締めて来るルーシーの背中を、カリナは慌ててタップする。「おおっと、ごめんごめん! つい興奮しちゃってね!」 ようやく解放されたカリナは、ごほごほと咳き込んだ。「あ、ああ、大丈夫。でもかなりの致命的なダメージは与えたから、暫くは身動きできないだろうね。ここにも近づくことはないと思う。今後の標的は私だろうから」「そっかぁ。きっと凄い戦いをしてきたんだろうね。でも、今後狙われるって、大丈夫なのかい?」 心配そうな表情を浮かべるルーシーに、カリナは不敵な笑みを浮かべて答える。「まあ、狙ってくれる方が都合が良いよ。返り討ちにしてやればいいだけだからね。それに関係のない人達が巻き込まれるよりは、よっぽどマシだから」「はー、大した自信だねぇ。でも、その心意気は気に入ったよ。ちゃんと今日はテーブルを予約しておくね。来るのはユナ達だけかい?」「うーん、私とこの隊員と、ルミナスアークナイツの四人。それにサティアと、多分、組合長のローザが受付嬢のエイラも連れて来る可能性があるから、その人数がゆったり座れるテーブルがいいかな」「まあ、聖女様までいらっしゃるのかい?! それにローザさんまで!」「ああ、今回はサティアが来なかったら完全に負けていたくらい危なかった。だから主役はあいつだよ。ローザには組合に報告に行ったときに声を掛けておいた」「そっかそっか、こりゃ今夜は忙しくなりそうだね。今でも悪魔が討伐されたお祝いで客足がひっきりなしだからね。これもカリナちゃん達の御陰だよ」「そうか、街を歩いてみたけど、みんな明るい顔をしてたもんな。でも私は、するべきことをしただけだよ」「謙虚だねぇ。でも、そこがいい! さて、夜まで休んでいくかい? 死闘を演じて来たんだろう? さっと風呂にでも入って来
last updateLast Updated : 2025-12-21
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48  賑やかな夜

 豪快な乾杯の後、分厚い肉とエールが次々と胃に収まっていく。酒場は熱気と歓声に満ち、祝勝会のボルテージは一気に高まった。 カインは骨付き肉にかぶりつきながら、真っ先にカリナに声をかけた。彼の手にはエールで満たされたジョッキが握られている。「にしても隊長、やっぱすげえな、あの時着てた聖衣! 蠍の光の鎧、あれは本当に実在したのか!?」「ああ、あれはあの時召喚した精霊カルディアが持つ力だ。召喚体が契約者に力を貸してくれるとき、ああいう姿になるんだ。だが、誰にでも纏えるものじゃない。互いに信頼感がないとな」 カリナは山賊肉を切り分けながら答える。彼女の目の前には、ルーシーが特別に用意した、特製フルーツジュースが泡立つジョッキに入っている。ユナが、口元をぬぐいながら感心したように続けた。「光の精霊を纏う鎧だなんて、神話みたいね。カリナちゃんの魔力もすごかったけど、あの荘厳さ……私達も何回か攻撃を受けたけど、あの鎧にはかすり傷一つなかったもの」「あれがあったから私達も助けられました。本当に心強かったです」   テレサも感謝の言葉を口にした。「それに勿論サティア様もですよ!」   今度はカーセルがサティアにジョッキを向けた。「あの時駆けつけてくださった時の、あの神聖な光……! 悪魔の結界が一瞬で消え去るのを見たときは、本当に聖女様なんだと思いましたよ」 サティアは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、上質なフルーツワインを一口飲んだ。「お恥ずかしい限りです。あれは聖女の神聖術ですが、皆さんのお役に立てたなら何よりです。ただ、カリナさんの怪我があまりにも酷かったので、正直焦りましたけどね……」「いやいや、サティアのお陰で綺麗さっぱり治ったよ。改めて感謝する。お前の回復術は、本当に素晴らしいものだ」   カリナはジョッキに入ったジュースを一口飲むと、その爽やかな甘酸っぱさにほっと息をついた。「それにその悪魔が逃げる結果になったのは、サティア様の術が効いたからこそなのでしょうね」   ローザが優雅にフォークを置き、冷静に戦果を分析した。彼女の隣ではエイラが、緊張しながらも興奮した様子で肉を頬張っている。 会話は自然と、彼らが遭遇した悪魔の強大さへと移る。「あの影霊子爵ヴァル・ノクタリスとかいう奴、とんでもなかったわ。只の悪魔じゃない、何か上
last updateLast Updated : 2025-12-22
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49  〆のお風呂

 カリナの抵抗も虚しく、五人の女性に囲まれながら女湯の脱衣所へと足を踏み入れた。男湯からは既にカーセル達の賑やかな笑い声が聞こえてくる。 脱衣所は清潔だが、宿屋兼大衆食堂ゆえに飾り気はない。しかし、カリナにとってはその無機質さが、かえって地獄を際立たせた。自分も含めて六人もの女性が同時に脱ぎ始めるという状況に、心臓は警鐘を鳴らし続けている。 ユナとテレサは慣れた様子でテキパキと服を脱ぎ始めた。エイラは聖女や組合長と一緒という状況に興奮しているのか、やや緊張しつつも期待に満ちた表情で衣装を解く。ローザはさすがに落ち着いており、優雅な手つきで装束を外していった。 サティアは「仕方がない」と覚悟を決めたような表情を崩さず、静かに服を脱ぎ始める。彼女は着替えながらも、時折、怯えきった様子のカリナに視線を送り、無言で『平静を装い、早く済ませなさい』と促していた。 目のやり場がない。この世界でも屈指の美女たちが次々と服を脱いでいく状況。この肉体はただの美少女アバターという器なのだが、これほど酷く罪悪感と羞恥心に苛まれるとは。 カリナが動けずにいると、ユナが明るく声をかけた。「カリナちゃん、どうしたの? 早く脱がないと、お湯が逃げちゃうわよ!」「あ、ああ。わかってる……」 カリナはパニックになりながら背中を向け、可能な限り素早く服を脱いだ。幸いにも、彼女の見た目は幼い美少女だ。周囲の女性陣は、カリナの極端な行動を『幼い子の羞恥心』として受け止めており、特に気に留めなかった。この誤解が唯一の救いだった。 服を脱ぎ終え、戦場から逃げ出すように浴場へ足を踏み入れたカリナを待っていたのは、更なる試練だった。浴場には洗い場がいくつか並んでいるが、ユナは一番奥のシャワー席にカリナを座らせた。「さあ、カリナちゃん! 今日は疲れているでしょうから、私が特別に洗ってあげるわ!」「え、いや、自分でやれるから!」 カリナが辞退しようとする間もなく、ユナは桶に湯を汲み、背後からカリナの華奢な肩に熱い湯をかけ始めた。「ほらほら、遠慮しないでください。隊長なんだから、たまには甘えないといけませんよ」 すると隣に座ったテレサがボディソープを手に取った。悪ノリしているのか、彼女までカインの真似をして、隊員のような口調になる。「ユナ、私も手伝います。今日は全身を清めて、明日への活力
last updateLast Updated : 2025-12-23
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