All Chapters of 聖衣の召喚魔法剣士: Chapter 51 - Chapter 60

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50  王城からの招待

 教会の自室でサティアは目を覚ました。少し酒気が残ってはいるものの、自分の殻を破った高揚感で心は満たされている。彼女はベッドから起き上がると身だしなみを整え、いつもの聖女のローブを身に纏った。「帰国する前にこの部屋は片付けないとね……」 散らかった室内を見渡し、サティアは溜息を吐く。物臭な自分の性格が恨めしい。普段は清廉な聖女として振舞っているが、素の彼女はカリナ達と同年代のVAOを楽しんでいた一プレイヤーに過ぎないのだ。「まあ、いざとなったらアイテムボックスに突っ込めばいいかな」 サティアは半ば諦めるように気持ちを切り替え、部屋を後にした。昨夜は遅くまで祝勝会だったため、今日は遅めの起床である。聖堂に着くと、既に参拝客達が女神像に祈りを捧げており、シスターや神父達が業務をこなしていた。「おはようございます、サティア様。今日は遅かったですね」「ええ、昨日は夜更かしをしてしまったから。ごめんなさいね」 挨拶をしてきたシスターに答え、他の人々にも声を掛けてから、近くの神父に尋ねる。「マシュー神父長はどこかしら?」「えー、そうですね、今は書類関係の業務で事務室にいらっしゃるかと」「そう、ありがとう。行ってみます」 居住区とは逆に位置する、礼拝堂の裏手にある事務室へ向かう。ドアをノックすると、中から老神父の威厳ある声が返ってきた。「サティアです。入りますね」 入室するとマシューは事務仕事の手を止め、立ち上がってサティアを迎えた。「おはようございます、サティア様。さすがに今朝はゆっくりでしたな」「ごめんなさい。それとお礼を言いに来ました。昨日はありがとう、マシュー。あなたの御陰で、私は大切な友人を失わずに済みました。あなたの厳しい言葉がなければ、私はきっとまた後悔していたでしょう」「さてさて、何のことでしょうかな? 私は少し背中を押しただけです。立ち上がったのはサティア様ご自身の意志。それに遺跡の悪魔も討伐された。結果的に良ければそれで良いのですよ」「あなたはあんなに幼かったのに、これほどまでに成長していたのですね。私はずっと自分の時を止めていたのでしょうね……」「ふふ、私にとっては今でも貴女は実の母のような存在です。それはこれからも変わらないでしょう」「母と呼ぶのは止めて下さいね。姿が変わらないとはいえ、私はまだ若いつもりですから」
last updateLast Updated : 2025-12-24
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51  聖光国国王ジラルド・ルミナス

 視界を白く染め上げた光の奔流が収まると、カリナは数度瞬きをして、ようやくその空間の全貌を認識した。 そこは、『玉座の間』というよりは、巨大な神殿の内部と呼ぶにふさわしかった。天井は遥か高く、見上げるほどのドーム状になっており、そこに描かれた無数の天使や聖人たちのフレスコ画が、魔法の加護を受けて自ら発光するように煌めいている。 壁も床も、これまでの回廊と同じ白大理石だが、その純度は桁違いだ。磨き抜かれた床面は鏡のように全てを反射し、どこが床でどこが壁なのか、空間の境目が曖昧になるほどの浮遊感を覚える。 そして、深紅の絨毯が導く遥か彼方。数十段の階段の上に設けられた祭壇のような場所に、その『玉座』はあった。 背後に嵌め込まれた巨大な円形のステンドグラスから差し込む太陽光を一身に浴び、黄金と水晶で形作られた玉座は、直視できないほどの輝きを放っている。 その光の中心に、一人の男が座していた。 ルミナス聖光国国王、ジラルド・ルミナス。   齢は五十代半ばほどか。白髪の混じる金髪をオールバックに撫で付け、刻まれた皺の一本一本が、彼が背負ってきた国の歴史と責任の重さを物語っている。   豪奢な王衣の下からでも分かる屈強な肉体と、鷲のように鋭い眼光。彼はただそこに座っているだけで、周囲の空気を支配するほどの圧倒的な覇気を纏っていた。 あまりに神聖なその光景に、隣を歩くルミナスアークナイツの面々が息を呑む音が聞こえた。カリナは随分と場違いな場所に来てしまったことを後悔しながらも、かつてのメインキャラ、聖騎士カーズの英雄としての仮面が剥がれぬよう、腹に力を入れてジラルドを見据えた。 赤い絨毯の上を進む。左右にはこの国の重臣達や、高位の貴族とおぼしき人々が並んでいた。彼らの視線を全身に浴びながら歩く。「あれが悪魔を討伐した少女か? まだ幼いのに大したものだ」「いや、しかし何とも美しい少女だ」「今回は聖女様も参加されたのか?」「ほう、あれがルミナスアークナイツか。さすが我が国の名をギルド名に刻むだけのことはある」 ひそひそと交わされる会話が耳に届くが、今はまず謁見である。王の手前の絨毯に引かれた黒いラインまで進み、そこで全員が跪く。すると、王の傍らに控えていた宰相らしき年配の男が、厳かに告げた。「陛下。この度の悪魔討伐の功労者、カリナ殿に聖女サティア様、そ
last updateLast Updated : 2025-12-25
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52  ドレスアップ

 仕切られていたカーテンが一斉に開かれ、着替えを終えた女性陣が姿を現した。「じゃーん! どうかな? 似合う?」 一番に声を上げたのはユナだ。彼女が纏うのは、晴れ渡る正午の空のような鮮やかな青のドレス。ふんわりとしたスカートが彼女の元気さを引き立てつつも、透明感のある生地が少女から大人への過渡期にあるあどけない色気を醸し出している。彼女がくるりと回ると、裾が花びらのように舞った。「あの……陽の下だと少し肌が出すぎている気がしますが、変ではないでしょうか……」 対照的に、恥ずかしそうに身体を小さくして出てきたのはテレサだ。彼女のドレスはシックな漆黒。だが地味ではない。身体のラインに沿ったマーメイドラインが、神聖術士として後衛で鍛えたしなやかな肢体を強調し、黒い生地が彼女の透き通るような白い肌を際立たせている。明るい日差しの中で見る黒のドレスは、彼女の清楚な魅力をより一層引き締めて見せた。「ふふ、二人ともとても素敵ですよ。まるで物語のお姫様のよう」 最後に現れたサティアは、二人とは一線を画す落ち着きを放っていた。選ばれたのは深みのある上品なカーキ色のドレス。一見落ち着いた色味だが、光沢のあるシルク素材が窓から入る陽光を受けるたびに黄金の輝きを帯びる。露出は控えめながら、聖女としての気品と、大人の女性の包容力を感じさせる洗練された装いだ。「サティア様こそ、凄く綺麗ですよ」「ええ、やはり聖女様は何を着ても絵になりますね」 互いに褒め合い、少し浮き足立つ三人。だが、その視線が最後にゆっくりと歩み出てきたカリナに注がれると、その場の空気が一瞬止まった。「……お待たせ。変じゃないか?」 照れ隠しにぶっきらぼうに言いながら、カリナが姿を見せる。燃えるような真紅のスリットドレス。あえてドレスと同系色で合わせた赤髪のツインテールが、歩くたびにふわりと揺れる。その特徴的な金色の毛先が、昼下がりの陽光を反射して砂金のような輝きを放ち、彼女の周囲に光の粒子を纏わせているようだった。 大胆に開いた背中と、スリットから覗く健康的な太腿。ただ立っているだけで視線を釘付けにするその姿は、可憐な少女というよりは、社交界の華、あるいは国を傾ける傾国の美女そのものだった。 だが、その優雅な立ち姿とは裏腹に、カリナの内面は悲鳴を上げていた。  足元には黒いストラップ付きのピンヒール
last updateLast Updated : 2025-12-26
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53  パーティと国交

 天真爛漫な王女、セラフィナの号令(?)により、パーティは堅苦しい挨拶抜きで賑やかに始まった。「うっわー! すごっ! ねえ見てテレサ、このお肉の山! 輝いてるよ!」 ビュッフェ台の前で歓声を上げているのは、青いドレス姿のユナだ。彼女の手元の皿には、ローストビーフ、鶏の香草焼き、ミートパイが、絶妙なバランス感覚でタワーのように積み上げられている。ドレスアップしても中身はわんぱくなままだ。隣にいる黒ドレスのテレサが、信じられないものを見る目で頭を抱えていた。「ユナ……少しは自重してください。ここは王城ですよ? 周りの貴族の方々が引いています」「えー、だって『遠慮なく』って王様が言ってたもん! ほらテレサも、このキッシュ美味しいよ!」 ユナに無理やり口に運ばれ、テレサは「んぐっ」と声を漏らしながらも、その味に目を見開いた。「……! お、美味しい……。悔しいですが、普段の質素な食事とはレベルが違います……」「でしょー? カーセルも食べてる?」 純白の燕尾服をバシッと着こなしているカーセルだが、彼は緊張でガチガチになりながら、フォークでちまちまとサラダをつついていた。「あ、ああ……。凄いご馳走だね。喉を通るか心配だったけど、食べ始めると止まらないよ」「お前らなあ、もう少し優雅に楽しめよ。見てみろ、俺のこのスマートな……おっと」 カインは片手にワイングラスを持ち、キザなポーズで通りがかりの貴族令嬢にウインクを飛ばそうとしたが、慣れない革靴で軽く躓き、危うくグラスの中身をぶちまけるところだった。あわれなりイケメン。 あいつらは完全に修学旅行気分だなと、遠巻きに仲間達のドタバタ劇を眺めながら、カリナは小さく嘆息した。英雄一行という肩書きがなければ、間違いなくつまみ出されているレベルだ。だが、不思議と嫌な気はしない。命懸けの戦いを終えたのだ、これくらいの羽目外しは許されるべきだろう。 カリナ自身も、目の前に並ぶ豪勢な料理には興味があった。特にあのベリーのタルト。朝食は食べたはずなのに、今の身体は無性に糖分を欲している。   意を決して手を伸ばそうと一歩踏み出すが、カツン、と足元がおぼつかない。慣れない高いヒールのサンダルは、ただ立っているだけでもバランスを取るのが精一杯だ。常に爪先立ちを強いられているようなもので、油断すると足首をグキリ
last updateLast Updated : 2025-12-27
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54  一時の別れ

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、瞼を焼く。カリナは重い瞼を擦りながら、ゆっくりと身体を起こした。「ふあ……。よく寝たな……」 大きく伸びをすると、ふくらはぎと足首に鈍い痛みが走った。昨日のパーティでの無理が祟ったらしい。あの殺人的な高さのピンヒールで数時間、セラフィナに連れ回された代償は大きかった。王城で一緒に寝ることまでせがまれたが、何とか逃げ出して、宿に戻ったのだ。 脳裏に浮かぶのは、煌びやかな王城の光景と、美味しいスイーツ、そして「妹」と呼んで離さなかった天真爛漫な王女の笑顔。なんだか夢のような、それでいて嵐のような一日だった。悪魔との死闘よりも、昨日のパーティの方がよほど精神力と体幹を使った気がする。「おはようにゃ、隊長。もう朝だにゃ」 ベッドの隣では、ケット・シー隊員が既に起きて毛繕いならぬ身支度を整えていた。「おはよう、隊員。昨日はお前も疲れただろう」「うーんにゃ。おいらは執事さん達に美味しい魚料理をたくさん貰って、静かな部屋で食べてたから快適だったにゃ。隊長の方が大変そうだったにゃ」「……見てたのか?」「セラフィナに人形みたいに抱っこされてたにゃ」 隊員はニヤニヤと笑っている。どうやら昨日の自分の奮闘ぶりは、しっかりと隊員に見られていたらしい。カリナはバツが悪そうに頭を掻くと、ベッドから降りた。 今日はエデンへの帰還日だ。いつものフリフリの衣装に着替え、愛刀を腰に差す。やはりこの格好が一番落ち着く。ドレスも悪くはなかったが、あれはあくまで戦場用の装備だ。 身支度を済ませ、荷物をアイテムボックスに放り込むと、二人は部屋を出て一階の食堂へと降りた。 朝の『金砂の舞踏亭』は、出発前の冒険者や商人達で適度な賑わいを見せている。香ばしいパンとスープの匂いが胃袋を刺激した。「おや、おはようカリナちゃん! 昨日はお疲れ様だったねえ」 カウンターの奥から、若女将のルーシーが元気な声を掛けてくる。彼女は手際よく湯気の立つカップを二つ用意してくれた。「おはよう、ルーシー。ああ、本当に疲れたよ。王城のパーティってのは、戦場より気を使うな」「ははは、そりゃあね。でも、あんたなら堂々としてたんじゃないかい? 街じゃ『悪魔討伐の英雄は、深紅のドレスを纏った絶世の美少女だった』って噂で持ちきりだよ」「……勘弁してくれ。誰だそん
last updateLast Updated : 2025-12-28
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55  再会

 これから西の空が茜色に染まり始め、街の輪郭が美しい夕闇に縁取られようとしている時刻。エデンへの帰路にあるカリナは、行きしなにも立ち寄ったカリンズの街へと足を運び入れた。 目的は、この街のギルド組合長ジュリアへの報告と、休息のためだ。夕食の支度をする煙が立ち上る大通りを歩くと、家路を急ぐ人々や店じまいを始めた商人達が次々に足を止め、カリナを振り返る。「おい、見ろよ。あの子……!」 「ああ、間違いない。この間の悪魔騒ぎから街を救ってくれた召喚士様だ!」 「無事に戻って来たんだな……!」 数日前にこの街を悪魔の脅威から救った、可憐な英雄。その噂は既に街中に浸透していた。尊敬と感謝、そしてその愛らしい容姿への憧憬が入り混じった熱い視線を浴びながら、カリナは少し居心地悪そうになる。 以前も訪れたこじんまりとした組合の建物の前に立つ。扉を開けて中に入ると、入口から見て右奥にある冒険者用のカウンター周辺は、夕刻時ということもあり、依頼を終えた冒険者達で賑わっていた。 だが、カリナが奥へ足を踏み入れた瞬間、喧騒が波が引くように静まり返る。そして次の瞬間、爆発したような歓声が上がった。「カリナちゃんよ!」 「おお! 英雄のお帰りだ!」 「カリナさん! 先日は本当にありがとうございました! おかげさまで俺達もすっかり元気になりました!」 地下迷宮で助けられた冒険者達が、満面の笑みで駆け寄ってくる。以前のボロボロだった姿とは打って変わり、傷も癒えて活気に満ち溢れていた。もみくちゃにされそうになるカリナを見て、右奥のカウンターの中にいた受付の女性が慌てて身を乗り出した。「ちょっと皆さん、そこで固まらないでくださ……って、ええっ!?」 人垣の中心にいる人物に気付いた彼女は、目を見開いて声を上げた。「カリナさんじゃないですか!?」 彼女は以前対応してくれた事務員だった。カリナの無事な姿を確認すると、安堵と喜びで瞳を潤ませ、すぐさまカウンターから飛び出してきた。「皆さん、カリナさんがお困りです! 道を開けてください! ギルドマスターへの報告があるんですよ!」 彼女の凛とした声に、冒険者たちが「おっと、そうだったな」「悪い悪い、つい嬉しくて」「ごめんねー」と道を開ける。その間を縫ってカリナの元へ駆け寄った事務員は、弾むような声で言った。「お久しぶりです! 聖光国でも
last updateLast Updated : 2025-12-29
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56  エデン帰還

 黄金とも白光ともつかぬ双眸が開かれた瞬間、空間そのものが威圧に押し潰され、見る者の本能に「抗うな、ひれ伏せ」と告げる。 やがてアジーンは大きく首をもたげ、胸奥に極光を集束させる。 次の瞬間―― 白と金が混じり合った極光の龍の息吹が空に向かって放たれ、雷鳴と共に一直線に雲を散らし、世界を貫いた。   それは炎でも雷でもない。天災そのものの光だった。 アジーンは静かに翼を畳み、召喚者カリナの眼前に降り立つ。   その姿は無言で語っていた。 ――この龍が在る限り、カリナの前に立つ敵は、すべて滅びる、と。 巨大な顔をカリナに近づけ、親愛の情を示すかのように鼻先を擦り寄せる。そして重厚な声を発した。「お久し振りでございます、母上。100年もの間何をしていらしたのですか?」 カリナは擦り寄って来る巨体に押され、たたらを踏みながら答えた。「すまないな、アジーン。私にも何が何だかわかっていない。気が付けばいつの間にかそんな時間が経っていたんだ」 龍の頂点に立つカイザードラゴン。このアジーンを使役するためにカリナはゲーム時代、東のルミナス聖光国と北の陰陽国ヨルシカの間にある『龍の谷』へと赴き、その長と死闘を繰り広げた。何度も負け、リスポーンを繰り返しながら、最後には漸く屈服させることができたのだ。 その時託された『アジーン』と名付けられた卵。カリナはその状態から根気強く育成し、ここまでの存在に成長させた。そのため、彼はカリナを『母』と呼んで慕っている。   現実世界となった今、召喚体との会話は非常にスムーズに進む。しかし、あまりの巨体にカリナは押し潰されそうになる。「すまん、その巨体で擦り寄られると潰されそうだ。小さくなれたりはしないのか?」「これは失礼しました。ではこれでどうでしょうか?」 アジーンの身体が眩い光に包まれる。それが次第に収束し、人型となった。   輝く銀髪に浅黒い肌、金色に輝く瞳。その姿は途轍もなく整った美形で長身の青年。ギリシャ神話に出て来る神のような白い衣装、キトンと呼ばれるチュニックと、上着として羽織るヒマティオンやクラミュスといった布を優雅に纏っている。「これでいかがでしょう、母上」 人型に姿を変えたアジーンの声は爽やかで、その巨体だったときのような空気が震えるような威圧感を感じない。これなら話
last updateLast Updated : 2025-12-30
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57  プレイヤー達の憩い

 ルナフレアに正座でこってり絞られた後、解放されたカリナは少し疲れた足取りでカシューの執務室に向かった。一応ノックして反応を見る。「カリナだ、帰還したぞ」「開いてるよー」「お、来た来た」 中から気の抜けた返事が返ってくる。ドアを開けて中に入ると、カシューだけでなくエクリアもいた。カリナはエクリアの向かいのソファーに深く腰掛ける。カシューは事務仕事を切り上げて、エクリアの隣に腰掛けた。「おかえり、色々と大変だったねー。ドラゴンの件はもう収拾がついたから気にしなくてもいいよ」「いいなー、俺もそういうド派手な冒険してみたいぜ。ドラゴンで帰還とかロマンの塊じゃん」「ああ、ただいま……。まあ今回は、別の意味でも結構大変だったよ」 ルナフレアの説教を思い出しながら苦笑する。だが、付き合いの長いリアルのフレンド同士の顔合わせは、やはり気を使わなくて楽だ。   テーブルに置いてあるポットから紅茶をカップに注いで一口飲む。香りが鼻腔をくすぐり、心が落ち着く。「あー、やっぱフレンドと話すのは気が楽だな」「だよね、気を使わなくて済むから」「だな、NPCの前だと多少演技しないといけないからなあ。俺なんて『完璧な美女』って設定守るの必死だぜ」 エクリアもソファーに沈み込んで足を組み、リラックスしている。その姿は絶世の美女だが、中身は気心の知れた男友達だ。「で、何か情報は掴めたか?」「悪魔についてはまだアステリオンに調べさせてるけど、これと言って進展はないね。それにしても深淵公ネグラトゥス・ヴォイドロードが率いる悪魔の軍勢に、災禍伯メリグッシュ・ロバスが率いる『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』という組織かー。何処かに組織の本拠地はあるんだろうけど、そう簡単には見つからないだろうね」「公爵以上の存在となると、俺でも苦労しそうだな。エデンの特記戦力が集まってのレイド戦くらいしないとキツイかもだぜ」「悪魔の本拠地は南西の大陸らしい。元々PCの国があったらしいけど、壊滅したんだろうな。今じゃ魔大陸なんて呼ばれてるらしいぞ」「あー、あそこね。確かチェトレっていう女性PCが創った国があったね。一応フレンドだったし、PvPもしたことあるから覚えてるよ。でも一度もインしてない。PCがいなかったときに攻められちゃったんだろうね。それで、周辺の町や村も滅んだんだろう。10
last updateLast Updated : 2025-12-31
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57  氷晶女王

 風呂から上がり、またリア達メイド隊に新しい衣装を着せられたカリナはエクリアと一緒にカシューの部屋に戻った。「お、おかえり。さっぱりしたかい? もうすぐ夕飯だけどどうする?」「俺はここで食っていくぜ。カシューの国王専用の飯は美味いからな」「そうか、もうそんな時間か。なら私はルナフレアが待ってるから戻るよ。じゃあ明日の正午に騎士団の演習場でいいか?」「側付を大事にしてるんだなー。まあいいことだ。じゃあ明日な」「わかった、その時間は空けておくよ。演習場も多分空いてるだろうし。多分大勢見に行くと思うよ」「うへー、見世物みたいになるのは嫌だな。それで負けたら情けないしな。まあ大丈夫か。じゃあ、明日」 執務室を出て自室へ向かう。その途中でアステリオンに出会った。「これはカリナ様、おかえりなさい」「ああ、ただいま。調査は上手くいってるか?」「色々と文献を漁っているのですが、中々難しいですね。ですがカリナ様が色々と情報収集をしてくれましたので、今後は其方の調査に時間を割きます」「そうか、カシューの執政官は大変だな。あ、道中で手に入れた悪魔図鑑てのをカシューに渡したから貰っておいてくれ。それじゃ」「ええ、お疲れ様です」 アステリオンは少々疲れた顔をしていた。まあ当てもない情報を調べているのだから仕方ないのかもしれない。歩きながらそんなことを考えた。そして自室の前に着く。 カードキーで扉を開けると、ルナフレアは笑顔で迎えてくれた。もう怒ってはいないらしい。「早かったですね。もう夕食は済ませましたか? ってまた違う衣装? 今回のは青と黒のデザインで纏められていて綺麗ですね」「ああ、エクリアに無理矢理風呂に連行されてな。後から着替えを持って来たメイド隊に着替えさせられた。夕食も誘われたけど、帰った日はルナフレアの料理が食べたいから断って来たよ」「まあ、それは嬉しいです。そろそろ出来上がるのでしっかり食べて下さいね」「ああ、ありがとう」 その後キッチンでテーブルに並べられたご馳走を食べ、旅の話などをしてから、その日はまたルナフレアと一緒のベッドで眠った。彼女はカリナの帰還を心から喜んでくれた。カリナはここに戻って来れたことを嬉しく思った。 ◆◆◆ 翌日、早目の昼食を食べてからカリナは城外の騎士団演習場に向かった。ルナフレアも一緒である。   召
last updateLast Updated : 2026-01-01
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58  召喚士のプライド

 聖衣が解除され、フロストリアが光の粒子となって消えた後もしばらくの間、騎士団演習場は静寂に包まれていた。   誰もが言葉を失っていたのだ。精霊の女王という伝説的な存在を、力と格でねじ伏せた事実。そして最後に放たれた、戦車の砲撃すら耐えうる「白銀鉱」の的すら粉砕する一撃。 パチパチパチ…… 最初に拍手を送ったのは、観客席から降りてきたカシューだった。それを合図に、堰を切ったように割れんばかりの歓声と拍手が演習場に響き渡った。「見事だったよ、カリナ。まさかあの精霊女王をこうもあっさりと従えるとはね」 カシューが歩み寄り、友としての顔で笑いかける。「あっさりじゃないさ。魔力も体力もかなり削られた。あいつの氷の領域は反則級だ」 カリナが肩をすくめると、隣にいたエクリアが、艶やかな女性らしい所作で口元を扇子で隠しながら口を開いた。「あら、それを『魔封剣』で無効化してしまう貴女の方が規格外ですわ。それに最後の『ダイヤモンドダスト・レイ』……私の最上級氷魔法より威力が高いのではなくて? 本当に、恐ろしい方ですこと」 エクリアは周囲の騎士達の手前、「完璧美女」を演じているが、その瞳の奥には友の強化に対する純粋な驚きと称賛が宿っていた。「あの聖衣を纏った状態だと、氷属性の威力が跳ね上がるみたいだ。それに物理的な打撃力も加わるからな」「物理と魔法の複合攻撃……。えげつないですわね。味方で良かったですわ」 エクリアが優雅に微笑むと、背後から控えていた騎士団長達が、興奮を抑えきれない様子で進み出てきた。「カリナ様! 素晴らしいものを見せて頂きました!」 近衛騎士団長のクラウスが、感極まったように声を上げる。「特にあの剣技……『テンペスト・イグニション・バースト』でしたか。三つの属性を剣に纏わせ、相反する力を制御しながら放つなど、神業としか思えません。今の我々騎士にとって、あれは到達不能な頂を見せつけられた気分です」「全くだ。あの速度、あの威力。どれをとっても今の我ら王国騎士団の及ぶところではありません」 王国騎士団副団長のライアンも深く頷く。彼らの目は、カリナの可憐な容姿ではなく、その身に秘めた武人としての技量に向けられていた。「それに、あの『魔封剣』……。相手の魔法を吸収し、己の力として撃ち返すなど、とんでもないですわ」 
last updateLast Updated : 2026-01-02
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