All Chapters of 聖衣の召喚魔法剣士: Chapter 11 - Chapter 20

22 Chapters

10  ギルドへ

 ルナフレアに着替えを手伝ってもらい、カリナの準備は完了した。自室で彼女の準備を待つことにしたのだが、「すぐに行くので城の入口で待っていて下さい」と言うので、カリナは独り城の入口を出て待っていた。 晴れ晴れとした良い天気である。見張りの衛兵に挨拶をし、軽く会話を交わす。「カリナ様、今日はおめかしをされてどこかへお出かけですか?」「ああ、ちょっとギルドまでね。それと城下でショッピングとかもしてみたいと思って。どこか美味しい店とかあったら教えてくれないか?」「それでしたら、商業区にあるアンティークというお店がお洒落で人気がありますよ。普通の食事にデザートやお酒まで揃っています。ってカリナ様にはお酒はまだ早いか」 そう言って若い衛兵は笑った。確かにこの見た目ではアルコールを飲むのは止められそうである。中身は成人男性なのだが、アバターの見た目に周りの反応が引っ張られるのは仕方がないことだろう。「だとしたら、私は一生お酒が飲めないのでは……?」 PCは肉体の変化がない。カリナはずっと今の小柄な少女の見た目のままなのである。これにはさすがに肩を落とした。 元々リアルではスポーツ好きな健康な男である。酒も煙草もやらない。そう考えるとそこまで深刻な問題ではないのかもしれないが、大人数で宴会などがないとも言えない。そのときに独りだけちびちびとソフトドリンクを飲むのは何だかもの悲しいとは思った。「まあまあ、カリナ様もその内成長しますから。そのときにお酒を嗜んでみてはいかがですか?」 成長しないんだよなぁ……。カリナはそう思いながら衛兵の言葉に相槌を打っておいた。「今日はお一人ですか?」「いや、従者のルナフレアと約束している。今は彼女の準備を待っているんだよ」「ああ、あの綺麗な妖精族の。いいですよね、滅多に外では見ないけど我々の間では人気ですよ。あの神秘的な雰囲気がいいですよねー」 自分の知らないところでルナフレアが人気者になっている。まあ買い出しなどがあれば彼女も城下に出ることもあるし、城内を歩くこともあるだろう。カリナは自分の侍女が密かな人気があることに嬉しくなったが、変な虫がつかないようにも注意しなければならない、と勝手に思うのであった。 衛兵の青年と話していると、内側から城門が開いて、中からルナフレアが現れた。そしてカリナはその姿に目を奪われた。
last updateLast Updated : 2025-11-22
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11  ギルド模擬戦

 ステファンとアナマリアに連れられて、ギルドの裏手にある闘技場の様な場所に出た。正方形の舞台に、周囲には見物できる客席まである。冒険者同士が互いに切磋琢磨するためと、冒険者適性を見る目的で造られたものだろう。「私はここでカリナ様の勇士を見学させて頂きますね」「ああ、どうせすぐ終わる。気楽に見学しておいてくれ」 舞台に飛び乗って、ストレッチなどの準備運動をする。そこへ、ギルドの裏口から五人組の冒険者達が現れた。見るからに柄が悪そうである。「おい、ギルマスー! 来てやったぞ。ちっ、こんな小娘の相手をBランクの俺様がやらされるとは面倒臭くて仕方ねえ」 赤毛の坊主頭の男が悪態を吐いた。装備からして格闘家だろう。「まあまあ、イヴォー、所詮新人の適正テストみたいなもんでしょ? すぐ終わりますって」 黒髪の魔法使いのローブを着た青年がイヴォーという多分リーダー格の男にごまをする。「こんな勝負が見えている模擬戦なんて時間の無駄だ」 青髪で聖職者の法衣を纏った男も愚痴をこぼした。ああ、本当に感じが悪い連中だなとカリナは思った。「ま、私の実力なら誰が相手でも楽勝よ」 薄いピンクヘアの女性も軽口を叩く。身なりからして恐らく剣士だ。金属のプレートのライトメイルに腰にはレイピアを差している。「でもBランクを指名して来るくらいだから……。凄い相手だったらどうしよう……」 最後に白髪の青年が竪琴を持って現れた。音楽によるバフをかける役目だろう。しかし、この男だけは気弱そうである。 グレイトドラゴンズというギルド名のメンバーが集まったところで、ステファンが声を掛ける。「よく来てくれた。今日の模擬戦は今舞台にいる少女が相手だ。召喚士で魔法剣士でもある。まあ気を抜かない様にな」「はぁ? 召喚士だって? おいおい、ギルマス、冗談だろ? そんな絶滅危惧種が今いるのかよ?」「イヴォーよ、相手はカシュー国王陛下からの推薦のあった人物。そしてカーズ王国騎士団長の妹君でもある。油断すると死ぬかもしれんぞ」「へっ、そうかい。兄の七光りってやつかよ。舐めてんじゃねえぞ。俺様一人で十分だ。さっさとボロ雑巾にしてやるよ、小娘!」 はあ、と溜め息を吐いたカリナは、いきり立っているイヴォーという男を見てうんざりしたが、この程度の相手なら五人一気に相手に出来なければ話にならない。「いや
last updateLast Updated : 2025-11-22
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12  城下町デート

「ここが噂のお店かぁ。お客も多いし、人気あるのは本当なんだな」 ギルドから数分歩いた場所に、衛兵からお勧めされたアンティークというレストランはあった。 雰囲気ある木造の造りで、そこまで大きくはないが目立つ建物である。ルナフレアと二人で開放してある入口から中に入ると、元気いっぱいのウエイトレスから「いらっしゃいませ」の歓迎を受ける。「二人なんだけど、席空いてるかな?」「二名様ですね。今なら窓際のテーブル席が一つ空いていますよ。そこで構いませんか?」「うん、ありがとう」「ではご案内致しますねー」 現代のレストランの接客服の様な衣装を着たその女性に席まで案内される。その窓際の席からは通りがよく見えた。昼時だからか、人通りもそれなりに多い。そして店内は非常に活気があり、料理のいい匂いがした。カリナのお腹が鳴る。「ふふっ、お腹が空きましたか?」「そうだな。中途半端に運動もしたし、商業区までは結構な距離も歩いたからね」「こちらがメニューです。今日のお勧めはシェフの気まぐれパスタです。良ければどうぞ。ドリンクはどうなさいますか?」 メニューを開いて中身を見る。そこには様々な品が写真付きで紹介されていた。「私はとりあえずオレンジジュースで、ルナフレアはどうする?」「そうですね、このアップルオレというのをお願いします」「はい、注文承りました。メインが決まりましたらお近くのウエイトレスにお声かけ下さいねー」 はきはきとした口調で注文を取ると、その女性は奥へと行ってしまった。「元気があってよいですね。好感が持てる接客です」「そうだな、接客はその店の顔だ。その感じがいいとお店の雰囲気も良くなる」 現実世界でアルバイトをこなしてきた経験から来る言葉が口をついた。ゲーム世界ではルナフレアの世話になりっぱなしなので、それが彼女には可笑しく聞こえたのだろう。ルナフレアはくすりと笑った。「カリナ様はこういう所で働いた経験があるのですか?」 迂闊なことを喋ってしまった。しかし、リアルでは働いたことがあるので嘘は吐けない。「まあね、学生時代にだけど。こういうレストランというよりお酒をメインに扱っている様な居酒屋だったけど」「それは絶対に看板娘だったのでしょうね。こんな可憐なカリナ様が働いておられるなら、常連客はたくさんいたでしょう」「いや、まあ、どうなんだ
last updateLast Updated : 2025-11-22
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13  エデンの科学力

「さて、アステリオンが帰ってくる前に、お着替えタイムといこうか?」 カシューがまたベルを鳴らすと、リア達メイド部隊が部屋にやって来た。うわぁと露骨に嫌な顔をするカリナを尻目に、その場に簡易用の着替えスペースをカーテンを広げて作ると、そこに嫌がるカリナを連れ込んだ。「またかよー!」「さあさあ、今回の新作ですよー」 ぽいぽいと脱がされ、新しい衣装を着せられた。赤いフード付きのロングコートに下は水色のチュニック、白いヒラヒラの膝上までのスカート。水色のニーハイソックスにピンクのブーツである。「では次回も楽しみにして下さいねー」 へろへろになって更衣スペースから出て来るのと同時に、メイド隊は帰っていった。「ここに来る度にこれが待っているんじゃないだろうな?」「あはは、今回のもよく似合ってるよ。彼女達も創作意欲が湧いて楽しんでるんじゃないかな?」「私は着せ替え人形じゃないんだぞ」 ぶつぶつと文句を垂れながら、部屋に用意してあった姿見で自分の姿を見る。至る所にリボンがあしらわれていてまるで魔法少女である。まあ似合わないこともないかとカリナは思った。メイド達が楽しそうならそれはそれでいいのかもしれないと思い直すことにした。「どう? 気に入ったんじゃないの?」「まあ、自分でこんなのを選んだりはしないから新鮮ではあるかもな。それにメイド達がこれで楽しみができているのなら、そこまで邪険にすることもないだろうとは思ってる」「人間ができてるねえ」「いや、そこまでの結論にはならんやろ」 二人で会話をしていると、隣の部屋からエクリアが入って来た。いつもながら見た目だけは完璧な美人である。「よお、来てたのか。こっちは東の地の魔物掃討が大方終わったところだぜ、ってまた可愛らしい衣装を着せられたもんだなー」「うるさいぞ。こいつとメイドの趣味に付き合ってやってるだけだからな。自発的に要求してないから」「まあまあ、似合ってるんだからいいじゃんか。俺が着たら身長のせいもあってかなり痛々しいからな。可愛い衣装が着れるってのはそう考えるといいものだと思うぜ」 エクリアの身長は170以上ある。今のカリナが150㎝程度なので、並ぶと身長差が相当大きい。「さすが根っからのネカマは言うことが違う。だったらキャラメイクのときにもっと小柄にすれば良かっただろうに」「うーん、やっ
last updateLast Updated : 2025-11-22
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14  出発

 目が覚めると、キッチンからは良い匂いが既に漂って来ていた。カリナはベッドから出ると、洗顔などの朝の準備を済ませてからキッチンへと向かった。「おはよう、今日も早いな」「おはようございます、カリナ様。もうすぐ準備ができますのでテーブルに着いておいて下さい」 てきぱきと朝食の準備を終えると、テーブルにはトーストやベーコン、目玉焼きなどの料理が並べられた。「やはりルナフレアの料理は美味いなぁ」「まあ、こんな質素なお食事で喜んでもらえるなんて嬉しいです」 朝食を食べ終わると、カリナの着替えをルナフレアが手伝ってくれた。昨日着せられた衣装が装着される。更に昨日買った厚手の黒いコートを手渡された。「上空は寒いかもしれませんからね。これはアイテムボックスに入れていつでも着れるようにしておいて下さい。体調を崩されては大変ですから」「ありがとう、準備しておくよ」 ルナフレアの心遣いが身に染みる。昨日季節外れのコートを買ったのはこういう理由だったのだと理解できた。「それとお弁当です。休憩する時にでも食べて下さいね」 サンドイッチの包みを渡される。「ありがとう」と言ってそれもアイテムボックスの中にしまい込む。「じゃあ行ってくるよ。なるべく早く帰って来るようにするから」「はい、お待ちしています。と、その前に……」 ルナフレアがカリナの右手を取って、左手を重ね合わせる。二人の手が輝き、カリナの右手の甲にある紋章へと収束されていった。「加護の更新です。何があるかわかりませんから」「ありがとう。安心感が増した気がする。じゃあ行ってきます」 カリナはそう言って自室の扉を内側から開けて駆けていった。「どうか、何事も起こりませんように……」 ルナフレアはそう言って両手を組んで祈りながら、カリナの背を見送った。 城内を通り抜けて城門を開ける。そこにはカシューと側近のアステリオン、近衛騎士団隊長のクラウス、戦車隊隊長のガレウス、エクリアとその代行のレミリア、そして王国騎士団副団長のライアンがカリナが来るのを待っていた。「これは、こんな朝早くから私の見送りのために集まってくれたのか?」「そういうことだ、カリナよ。其方からの朗報を期待している」 国王のロールプレイで話しかけたカシューに思わず笑みがこぼれる。「私もサティアの安否は気になるから、よろしくねカリナ。
last updateLast Updated : 2025-11-22
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15  自己紹介

 エルフの女性に案内されて、辿り着いた鹿の角亭は多くの人で賑わっていた。「おや、エリア達じゃないか? 久しぶりだね。今日はお客を連れて来てくれたのかい?」 カウンターで宿の女将さんらしき人に声を掛けられる。なるほど、あのエルフの女性はエリアというのかと分かった。「うん、ちょっと色々ね。結構人数いるけど空いている席はあるかな? それと宿泊する子がいるから部屋は空いてる? そこ予約しておいてくれる?」「ああ、すぐに案内するよ」 給仕の女性が案内してくれて、カリナ達はテーブル席に座った。カリナの右隣にはヤコフが腰掛け、左側からエリアというエルフ、魔法使いの女性、スカウトの青年、重戦士の男が座った。「さて、落ち着いたところで自己紹介といこうかしら? 私はエリア、このシルバーウイングのギルドの副団長を務めているわ。一応剣士ね、よろしく」 エリアというエルフの女性が先に名乗った。黒髪でセンターで左右に分けたロングヘア、綺麗な翠眼をしている。身に付けている装備は軽装で、レザーアーマーに腰には長剣を帯びている。外は暗くなっていたのでそこまで特徴は掴めなかったが、明るい店内に来たので、カリナは彼らの外見的特徴をしっかりと把握できた。「俺はロックだ。見ての通りスカウトをやっている。罠解除やトラップ探知は俺の得意分野だ、よろしく」 頭にスカーフを巻き、短めの金髪をしている。見た感じ軽そうな雰囲気の青年だが、愛想よく挨拶をするその姿勢には好感が持てた。スカウトらしく身軽さを身上にするため、軽いジャケットと黒いズボン、腰には二本の短剣を装備している。「じゃあ次は俺だ。名前はアベル、見ての通りの力特化型の戦士だ。武器はこの背中のバトルアクス。よろしくな、お嬢ちゃん達」 赤茶色の短く揃えた髪をした、強面の屈強な男である。体には全身を覆うプレートメイル、武器は見た目通り威力がありそうな戦斧である。一見堅物そうだが、物腰は柔らかく、兄貴分といった印象だ。「最後は私ね。セリナ、魔法使いよ。それにしてもこんな美少女が冒険者をやっているなんて、はぁ、その綺麗な肌をつんつんしたい……」 何やら不穏な発言が聞えたが、敢えてスルーする。エメラルドグリーンの髪は肩までの長さで、青いローブを着ている。耳にはリングの形をした大きなピアスをしており、お洒落な印象だ。テーブルには長い杖が立てか
last updateLast Updated : 2025-11-22
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16  死者の迷宮へ

 宿の女将さんに教えてもらった防具屋に着く。まだそれなりに早い時間帯だが、その店は既に営業を開始していた。入り口の扉に「OPEN」と書かれた札が掛けられている。カリナがヤコフを連れて店に入ると、店の店主が声を掛けて来た。「おや、いらっしゃい。こいつは可愛らしいお客さんだ。もしかして冒険者なのかい?」 店主はどうやらドワーフのようで、恰幅の良い体格、言い換えればずんぐりとした小柄の体格に顔には立派な髭を蓄えていた。手先が器用な種族で鍛冶や生産などにその能力を発揮する。ゲームプレイヤーなら誰もがある程度は知っている知識である。 その店主は、まだ幼さが残る少女が小さな子供を連れて来たので驚いたのだろう。「おはよう。店主、済まないがこの子に合う防具を見繕ってくれないだろうか?」「まあ、客の要望だから応えさせてもらうが……。こんな子供を冒険にでも連れ出すつもりなのかい?」「少々訳ありでな。この子のことは私が守る約束だが、万が一に備えてね。どうかな?」「ふむ、客の事情には深入りはせん主義だ。子供でも着れる軽い装備を準備しよう」「話が早くて助かるよ」 店主はヤコフの身体をごつい手で掴み、素早く寸法を測り終えると、身体に合うサイズの軽いレザーアーマーを着せてくれた。頭にもなめし皮で作られた頑丈な皮の帽子の様な兜を被せた。さすがドワーフだけあって、皮の製品であっても硬く、防御性能は高そうである。この装備に依存する展開が来ないことが一番だが、念には念を入れてのことである。「これでどうだ? ウチでは一番小さいサイズだが、かなり硬くなめした皮で作っているから、多少の攻撃ではびくともしないはずだ」 鎧と帽子を身に付けたヤコフが鏡の前で自分の姿を見て確かめている。「すごいね、これ。硬いのに軽いから着ていても全然苦しくないよ」「そうか、ならそれにしよう。店主、値段は幾らだろうか?」「そうだな、本当は二つ合わせて8,000セリンだが、サイズが合う人間がいなくてな。もう売れないと思っていたから5,000に負けておくよ。それでどうだ?」「わかった、それで十分だよ。ありがとう」 カリナが代金を払うと、店主から「まいどあり」という言葉が返って来た。こういう店での定番のやり取りである。「良い買い物ができた。また機会があれば寄らせてもらうよ」「おう、気を付けて行ってきな」
last updateLast Updated : 2025-11-22
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17  死者の間

 迷宮の扉を開けて中へと入ると、地下へと続く広い通路に階段がある。そこを降って行くと迷路の様に広がる巨大な階層へと到達した。 VAOの頃からこの迷宮は地下7層まである。その下には地底湖が広がっていて調度良い休憩場所にもなっていた。そして7層にある死者の間には巨大な鏡があり、そこでは死者に会えるという設定があった。ゲームの頃にはただの設定だったが、今や現実となったこの世界では、本当に死者に会えるのかも知れない。カリナの目的の一つは、その鏡の前で過去に死に別れたある女性との再会が可能かどうかを確かめることだった。 一行が迷宮を進んで行くと、前方から魔物の気配が近づいて来た。「おいでなすったぜ、死者の迷宮の定番。グールにスケルトンだ」 ロックがそう言って二刀のナイフを抜く。他のメンバーも戦闘の準備に入り、襲い来る魔物達をなぎ倒していくのだが、カリナは後方でヤコフの側に白騎士を待機させて眺めていた。「張り切っているなあ。このままでは私の出番はないかもしれない」「カリナお姉ちゃんも戦いに参加したいの?」「うーん、あのぐじゅぐじゅしたアンデッドに関わりたくはないのが本音かな……。できれば触りたくない、臭い」 現実となった世界では、この死者の迷宮内部の腐臭は酷いものだった。鼻がひん曲がりそうである。アンデッドが湧き続ける限り、この悪臭が続くのかと思うと、気が遠くなりそうになった。それにこのまま素直に正攻法で攻略していては時間がかなりかかりそうである。ヤコフの両親の安否も気になるため、カリナは一気にこの迷宮の魔物を掃除することに決めた。 その場で両手を広げ、魔法陣を展開させて詠唱の祝詞を唱える。「遥かヴァルハラへと繋がる道を護る者よ、炎を纏う戦乙女よ、その姿を現せ!」 重ねた魔法陣が地面へと移動し、そこから白いロングスカートに全身鎧を身に纏った戦乙女、ワルキューレが姿を現した。「お久し振りでございます、主様。ワルキューレ、ヒルダ。ここに参上致しました」 戦闘を終えて戻って来たシルバーウイングの面々も初めて見る召喚魔法とその召喚体の美しさに目を奪われている。「ああ、久し振りだな。どうやら長い時間お前達を放置してしまったみたいだ。申し訳ない。いつの間にか時が流れていたみたいでな」「いえ、こうしてまた呼んで頂き光栄でございます。さて、此度の御用は如何なもの
last updateLast Updated : 2025-11-22
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18  地底湖にて

「あ、戻って来た。カリナちゃーん!」 死者の間の祭壇から帰還して来るカリナを見つけたエリアは、カリナの方へ向かって手を振った。「もう用事は済んだのか?」 ロックは口に何かを入れた状態で、手にはサンドイッチが乗せられている。「ああ、一応な。ってなんだ、食事中だったのか」 持ち込んだ食材をセリナとアベルが料理している。それをヤコフを含めた他の面々が食べているところだった。エリアもアイテムボックスから次の食材を取り出しているところだった。NPCであっても冒険者はアイテムボックスを使うことができるのかということをカリナは初めて知った。 確かにこの迷宮に挑むとき、彼らは大した荷物を持っていなかった。それはこういうことだったのかとカリナは得心した。「食事は簡単なものだが、一応拘ってやっているんだ。冒険中には腹が空くこともある。食べるってのは活力を回復させるのには一番だからな」「そういうこと。まあそんなに手の込んだ料理は作れないけどね」 アベルとセリナは起こした火の上で薄い肉や野菜を焼いて、それをパンに挟んでいる。最初にロックが手にしていたのはこれだったのかとカリナは知った。そう言えば、もう迷宮に入ってそれなりの時間が経つ。昼を回っている頃だ。カリナは自分も多少小腹が空いていることに気付かされた。「ほら、カリナ嬢ちゃんも食べな。飲み物はお茶を沸かしてある」「そうだな、お前達が食べているのを見ていたら小腹が空いて来た。じゃあ頂こうかな」 アベルからサンドイッチとお茶を受け取り、地べたに座り込む。簡単な食事だが、活力が湧いて来るのを感じる。現実の冒険であれば当然のことだが、途中で補給を行う必要がある。VAOがゲームのときにはなかった現実的な問題である。これも世界が変わった影響で、今後もこういった発見があると思うと、カリナは内心ワクワク感が湧き上がって来るのを感じた。「ヤコフ、ちゃんと食べているか?」「うん、さっき貰ったから食べたよ。美味しかった」「そうか、良かったな」 魔物をヒルダが一掃したので、辺りにはもう何の気配もない。時間が経てばリポップすることになるのだろうが、暫くは問題ないだろう。渡されたカップに注がれたお茶を啜りながらカリナはそう思った。 食事を終え、少し休憩した後、一同は地底湖のある階層に進むことに決めた。普段は何も出現しない、鍾乳洞
last updateLast Updated : 2025-11-22
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19  VS悪魔侯爵

 カリナの格闘術の一撃で怯んだ悪魔侯爵イペス・ヘッジナだったが、すぐさま体勢を立て直し、身体から黒い炎を撒き散らしながらカリナへと突進して来た。「おのれ、小娘がっ!」 振るった大鎌が空を斬る。カリナは大振りな悪魔の攻撃に意識を集中させ、瞬歩で即座に距離を取る。そこに生まれた一瞬の隙の間に懐に飛び込み、右拳での一撃をどてっ腹の中心部に撃ち込んだ。格闘術、烈衝拳。土属性の魔力を纏った、まるで鋼鉄の様に硬化された拳の一撃。悪魔の赤黒い鎧に僅かに亀裂が走る。 カリナは召喚術が実装されるまでは基本的に剣術と格闘術を中心に熟練度を上げていた。そこへ剣技の威力を上げるために魔法を習得した。魔法剣の習得は魔力の底上げとなった。それの副次効果で、魔力を帯びた特殊な格闘術の技能も全般的に威力を向上させることに成功したのである。「がはっ、何だ……? この威力は?!」「だから言っただろう。小突いただけだとな」「小癪なっ!」 力任せの大振りの鎌を瞬歩を使用して紙一重で躱す。そのまま一気に巨体の股の下を潜り抜けて後ろを取ると、背後から風の魔力を纏った左脚での回し蹴りを見舞った。格闘術、烈風脚。悪魔の背にある翼の付け根に繰り出した蹴りが撃ち込まれる。「がああっ!」 竜巻の如き強烈な蹴りに悪魔は仰け反るが、すぐさま持ち直し、黒炎を撒き散らしながら突進して来る。 イペスの攻撃は大振りで読み易いということを既にカリナは見抜いている。しかし、それでもその巨体から繰り出される攻撃は異常な破壊力を秘めており、一撃でもまともに喰らえばかなりのダメージを負うだろう。最悪骨の数本は持っていかれる。一撃も貰うわけにはいかない。スレスレで回避する度に神経が擦り減っていく。「があああっ!」 上段から大鎌を振り被った渾身の一撃を敢えて前方に踏み込み、懐に入るようにして躱す。そのまま空振りをした硬直状態の悪魔の身体を駆け上がり、眼前で左拳を振り被る。「格闘術、紅蓮爆炎拳!」 ドゴオオオオオオッ!!! 炎の魔力を纏った高熱の拳が炸裂すると同時に頭全体を巻き込んで爆発した。衝撃で痺れる拳の代わりに、悪魔は後方へと後退る。「ぐはあああああっ!」 それでもまだこの悪魔侯爵は倒れない。やはり高位の悪魔だけあって相当に打たれ強く頑強であ
last updateLast Updated : 2025-11-23
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