All Chapters of 聖衣の召喚魔法剣士: Chapter 111 - Chapter 120

128 Chapters

109  騎士団との稽古

 小鳥のさえずりと共に、カーテンの隙間から柔らかな朝陽が差し込んでくる。カリナは微睡みの中で、包み込まれるような温かさを感じて目を覚ました。「ん……」 目を開けると、すぐ目の前にカグラの穏やかな寝顔があった。昨晩、不安に押しつぶされそうになっていた自分を抱きしめ、一晩中こうして温め続けてくれたのだ。その母性にも似た深い愛情に、カリナの胸が熱くなる。「……ありがとう、カグラ」 カリナはそっと体を起こすと、カグラの肩を優しく揺すった。「おはよう、カグラ。朝だぞ」「んん……。あら、おはようカリナちゃん」 カグラはゆっくりと目を開け、ふわりと微笑んだ。茶色のミディアムヘアが枕に広がり、朝日を浴びて輝いている。「今日も可愛いわね。……気分はどう?」「ああ。御陰で切り替えられたよ。ありがとう」 カリナが素直に礼を言うと、カグラは嬉しそうに目を細めた。二人はベッドから起き上がり、身支度を整える。   カリナはアイテムボックスから、ルナフレアが出発前に持たせてくれた衣装セットの一つを取り出した。「今日はこれにするか」 広げられたのは、繊細かつ豪華な冒険者風のドレスセットだ。   アウターは、リボンとフリルがふんだんにあしらわれた、淡い水色のタイトなロングコート。袖は長袖で、手首に向かって優雅に広がるフレアーなデザインになっており、裾や袖口のフリルが可憐さを演出している。   その下に着るのは、淡い紺色を基調としたミニスカートの冒険者風ドレス。高貴な青色のリボンが胸元を飾り、スカートの内側には純白とピンクの生地が重ねられ、動くたびにチラリと覗く可愛らしい仕様だ。   足元は、太ももまでの長さがある白に黒のデザインが入ったロングニーハイソックスを、ガーターベルトで吊るすスタイル。そして、紺色に黄色のデザインが施されたお洒落なブーツを合わせる。   仕上げに、紫の花を模した髪飾りを、特徴的なクセ毛のツインテールにあしらう。「あら、素敵なデザインね。ルナフレアは本当にいい仕事をするわ」 カグラが感心しながら、着替えを手伝ってくれる。背中のリボンを結び、襟元を整える手つきは、本当に姉が妹の世話を焼くようだ。「よし、完璧よ。お姫様騎士って感じね」「ありがとう、カグラ」 一方のカグラも着替えを済ませていた。彼女の衣装は、いつもの白い狩衣に、今日は高貴
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110  エデン襲撃

 カリナ達がアレキサンドで剣術大会に向けて牙を研いでいる頃。   南方、彼女達の拠点である『エデン』の上空には、不穏な暗雲が立ち込めようとしていた。 エデン城、アステリオンの執務室。カシュー専属執政官アステリオンの元に、カグラが組織する特務術士部隊から、緊急の連絡が入った。飛来した式神が、緊迫した情報を伝える。「……なんと」 アステリオンは即座に通信機を起動し、カシューへと繋いだ。「カシュー陛下、緊急事態です。南と南西の大地に、魔物の集団が押し寄せております」「報告せよ」 通信越しに、カシューの落ち着いた、しかし鋭い声が響く。「はっ。式神によれば、南の砦にはオークやゴブリン、コボルドを含む数百以上の混成大軍。そして南西の砦には、オーガの群れと……それを率いる『悪魔』の姿が確認されたとのことです」「悪魔、か……。ついに動き出したか」 カシューは一瞬の沈黙の後、即座に命を下した。「直ちにエクリア、サティア、王国副騎士団長ライアン、近衛騎士団長クラウス、そして各特記戦力の筆頭代行達を玉座の間に招集せよ。軍議を開く!」 ◆◆◆ 数分後、エデン城の玉座の間。緊急招集に応じ、エデンの防衛を担う主要メンバーが集結していた。 玉座に座るカシューの前に、聖女サティア、騎士団長ライアン、近衛騎士団長クラウス。そして、各筆頭が不在の間、実務を取り仕切る代行達。   魔法使い代行レミリア、相克術士代行ユズリハ、神聖術士代行ジュネ。さらに、行方不明のエヴリーヌに代わる弓術士代行、エリアス。黒髪のロングヘアをなびかせたエルフの男性で、軽装のライトメイルを身に纏っている。   そして、拳王グラザの代行を務める格闘術士代行、クリス。水色のロングヘアをツインテールにし、エデンの黄金の獅子が刺繍された中華風の道着を着崩している。   彼女は魔法使い代行のレミリアと同じく、魔人族と呼ばれる長寿の種族だ。普段の容姿は人間と変わらないが、戦闘時に魔力を完全開放したときには額に一本の角が生える特徴を持つ。   その末席には、今回が初陣となる召喚術士代行、リーサの姿もあった。 だが、そこには最も重要な戦力が一人、欠けていた。筆頭魔法使い、エクリアの姿がない。「……アステリオン。エクリアはどうした?」 カシューが低い声で問うと、アステリオンは申し訳なさそうに頭を下げた。
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111  代行出陣・リーサの決意

 エデン南方。   乾いた大地に轍を刻み、砂煙を巻き上げながら疾走する装甲輸送車。その重厚な扉が内側から弾かれたように開いた瞬間、エデンの守護を託された代行達が、戦場という名の修羅場へと飛び出した。 彼らの視界に飛び込んできたのは、地平線を埋め尽くさんばかりの絶望的な光景だった。   オークの咆哮、ゴブリンの奇声、コボルドの遠吠え。数百、いや千にも届こうかという魔物の混成大軍が、黒い津波となってエデンの防衛線に押し寄せていた。大地を揺らす足音は雷鳴の如く、巻き上がる砂塵が太陽を覆い隠す。   腐臭と獣臭が混じり合った風が鼻をつく中、代行達は一歩も引くことなく仁王立ちした。「各員、戦闘開始! これ以上、エデンの地を一歩たりとも踏ませるな!」 魔法使い代行、レミリアの凛とした号令が戦場に響き渡る。   その瞬間、彼女の全身から膨大な魔力が噴き出した。魔人族としての本性の解放。彼女の額が淡く発光し、白磁の肌を割って一本の鋭利な角が天を突くように生える。空間そのものが彼女の魔力に共鳴し、ビリビリと震えた。「――熱よ、形を成せ。我が前に地獄を顕せ」 レミリアが掌をかざすと、真紅の魔法陣が展開される。その複雑な幾何学模様は瞬く間に広がり、敵前衛部隊の足元を覆い尽くした。「『インフェルノ・ブラスト』!」 解き放たれたのは、極大の破壊魔法。   ドォォォォォォンッ!!   詠唱と共に地面が隆起し、地底のマグマをそのまま噴出させたかのような業火の柱が空へと突き抜けた。   灼熱の暴風が吹き荒れ、先頭集団を走っていたオーク達が悲鳴を上げる間もなく炭化し、消し飛ぶ。戦場に穿たれたのは、巨大な焼け焦げたクレーター。その圧倒的な火力が、魔物達の進軍を強制的に停止させた。「へっ、派手にやるじゃねえか! こっちも負けてらんねえな!」 熱波を切り裂き、弓術士代行エリアスが軽やかに宙を舞った。黒髪のロングヘアをなびかせ、エルフ特有の超人的な動体視力で戦場を俯瞰する。彼が手にするのは、身の丈ほどもある剛弓。矢筒から矢を抜く動作は神速。キリキリと引き絞られた弦が鳴り、魔力が矢に宿る。「喰らいな、『レイン・オブ・アローズ』!」 放たれた一本の矢が、空中で弾けるように分裂した。十、百、千――無数の光の矢が、スコールのように敵陣へと降り注ぐ。それは無差別な攻撃ではない。全
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112  災害と暴虐の激突

 南西の戦場。   そこは今、一人の超越者の憤怒によって、現世に出現した焦熱地獄へと変貌しようとしていた。 砂塵舞う荒野に、ヒールの音が鋭く響く。   戦場には不釣り合いなほど優雅に、しかし圧倒的な覇気を纏って歩を進めるのは、エデン筆頭魔法使い、エクリアだ。   彼女が纏う純白のタイトな魔導ローブの下には、真紅に輝くネックレス。派手なブレスレットにリング。セクシーなドレスを思わせる青いインナーが見え隠れする。白と黒の洗練されたデザインが、彼女の完璧なプロポーションを際立たせ、足元のストラップ付きの赤いハイヒールが瓦礫の山を蹂躙していく。   これら全ての装備は、単なる装飾ではない。すべてが「魔力の底上げ」と「自動回復」に極限まで特化された最高級の逸品だ。元々、カリナやカグラをも凌駕するエクリア自身の魔力回復速度に加え、これらの装備補正が乗算されることで、彼女の魔力量は事実上の「無尽蔵」となっている。 その無尽蔵のエネルギーが、今、行き場のない怒りと共に解き放たれようとしていた。「……あー、腹が立つ。本当に腹が立つぜ」 エクリアは金髪を乱暴にかき上げ、眼前に広がるオーガの群れを睨みつけた。「てめぇらが、俺のショッピングを邪魔したクソ野郎どもか?」 ライアン率いる王国騎士団は、既に後方への退避を完了していた。いや、させられていた。   彼らは震える瞳で、戦場の中心に立つ金色の背中を見つめることしかできない。聖女サティアもまた、メイデンロッドを強く握りしめたまま、息を呑んで戦況を見守っている。エクリアから放たれる魔力の密度があまりに高く、周囲の空気そのものがビリビリと震えているのを肌で感じていたからだ。 オーガ達が咆哮を上げ、一斉に襲い掛かる。丸太のような腕が、鋼鉄の棍棒が、エクリアを圧殺しようと迫る。だが、エクリアは鼻で笑った。「消えろ、雑魚共」 詠唱など不要。思考が即座に世界への命令となる。素手の掌を、無造作に突き出した。 放ったのは、魔法使いの基礎中の基礎、『ファイア・ボール』。   だが、彼女の掌から生み出されたのは、小石程度の火球ではない。圧縮された太陽の欠片とも呼べる、直径数十メートルの超高熱エネルギー球だった。   ドゴオオオオオンッ!!   放たれた火球は、着弾と同時に戦略級の爆発を引き起こした。
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113  新たな脅威

 南西の砦でのバルザ・グラウスとの激闘、そして南の砦での魔物連合軍との死闘。   二つの戦場で完全勝利を収めたエデン軍は、負傷者の応急処置を終え、凱旋の途についていた。荒野を走る戦車部隊の隊列。   先頭を行くガレオスの指揮車両。運転席にはガレオス、助手席には騎士団副団長のライアン。そして後部座席には、激戦を終えたエクリアとサティアが座っていた。車内の空気は、勝利の安堵と、未だ冷めやらぬ戦慄が入り混じっていた。   特にライアンは、ルームミラー越しに、後部座席で優雅にアイテムボックスから取り出した最高級品の紅茶を啜るエクリアを、畏怖の眼差しで見つめていた。 「……エクリア様。先ほどの魔法……あれはいったい……」   ライアンの問いに、エクリアはカップを置き、淑女の微笑みを浮かべる。 「あら、ただの『お仕置き』よ。少々、虫の居所が悪かったものですから」 「お、お仕置き……。あれで、ですか……」   ライアンは言葉を失った。地形ごと空間を削り取り、災禍六公ごとき怪物を塵一つ残さず消滅させたあの一撃。それが「お仕置き」の一言で片付けられるとは。隣でサティアが苦笑する。 「ふふ、ライアンさん。エクリアさんを怒らせてはいけませんよ? 特に、休日のショッピング中はね」 「サティア、人聞きが悪いわね。私はいつだって寛大よ? ……邪魔さえされなければ」   最後の一言に込められた低いドスに、ハンドルを握るガレオスの背筋が凍りついた。彼は冷や汗を流しながら、絶対にこの御方の機嫌だけは損ねてはならないと、心臓に深く刻み込んだ。   一方、後続の大型輸送車両には、南の戦場で暴れ回った代行達が乗車していた。こちらは打って変わって、勝利の興奮で賑やかだ。 「いやぁ、いい汗かいたねぇ! あいつら、数は多かったけど張り合いがなかったよ!」   クリスが道着の胸元をパタパタと仰ぎながら、豪快に笑う。その言葉に、向かいに座っていたエリアスが愛弓の手入れをしながらニヤリと応じた。 「まったくだ。俺の弓のサビにするにゃあ、少々物足りなかったぜ」 「ふん、当然です」   レミリアが腕を組み、冷徹に言い放つ。 「私達がエデンの留守を預かっているのです。この程度の敵に後れを取るようでは、筆頭魔法使いのエクリア様に顔向けできません」 「あらあら、レミリ
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114  意外な参加者

 エデンの悪魔撃退の報せから数日後。 騎士国アレキサンドの騎士団演習場。「はぁ……はぁ……ッ! そ、そこまでッ!!」 王国騎士団長ガレスの枯れたような叫び声が響き渡る。 その場にいた騎士団員達は、まるで糸が切れた操り人形のように次々と地面に膝をつき、あるいは大の字になって倒れ込んだ。 全員が肩で息をし、全身から湯気を立てている。 だが、その中心に立つカリナだけは違った。「ん? もう終わりか? まだいけるだろ」 額にうっすらと汗を浮かべてはいるものの、呼吸は整っており、涼しい顔で木剣を構えている。「い、いえ……これ以上は……我々の体が持ちません……」 「そうか、すまないな。毎日稽古とは言え付き合わせてしまって」 カリナは木剣を下ろすと、申し訳なさそうに頭を下げた。ガレスは荒い息を整えながら、敬服の眼差しを向ける。「とんでもない……。カリナ殿のような手練れと立ち会えることこそ、我々にとって得難い経験。……しかし、底なしのスタミナですな……」 「いや、これくらいやらないと実戦じゃ役に立たないからな。私は……、もっと強くならないといけない」 その言葉には、静かな焦燥と決意が滲んでいた。 演習場の高台にある見学席では、カグラとケット・シー隊員がその様子を眺めていた。「カリナちゃん、ちょっと根詰めすぎじゃないかしら。ここ数日、鬼気迫るものがあるわ」 「隊長、ちょっと頑張りすぎにゃ。心配にゃ……」 カグラは心配そうに眉を下げ、隊員も耳を伏せてオロオロしている。 カリナは一息つくと、タオルで汗を拭うこともなく演習場の外周を指さした。「よし、クールダウンにランニング行こう。軽く30周だ」 「「「えええええええッ!?」」」 騎士達の悲鳴が上がる。 だが、走り出したカリナの背中を見て、ガレスが奮起した。「弱音を吐くなッ! 英雄に遅れをとって、アレキサンドの騎士が務まるか! 総員、続けェッ!」 「「「うおおおおおおッ!!」」」 死に物狂いでカリナを追う騎士団。こうしてその日も鍛錬に稽古は終わった。 ◆◆◆ その日の演習を終え、カリナ達が城内のロビーへと戻ってきた時のことだ。 入口付近が何やら賑やかな様子だった。「おや? あれは……」 見覚えのある装備、見覚えのある顔ぶれ。  レオン王への謁見を終え、退出してきた二つの集団があった。 チェスタ
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116  剣術大会開幕

 剣術大会当日の朝。   窓から差し込む朝日が、ベッドの上の二人を照らしていた。「ん……」 カリナが目を覚ますと、目の前にはカグラの穏やかな笑顔があった。カグラは布団の中でカリナを愛おしそうに抱きしめたまま、優しく囁く。「おはよう、カリナちゃん。よく寝れた?」 その体温と柔らかい感触に、カリナは安心しきった表情で頷いた。「ああ……。カグラの温かさのおかげで、すごくよく寝れたよ。変な夢も見なかったし、気分もスッキリしてる。ありがとう」 何のてらいもなく、真っ直ぐな瞳で感謝を告げるカリナ。そのあまりにストレートな言葉に、カグラの白い頬がボッと赤く染まる。「もう……。こういう時は本当にストレートな言い方するのはずるいわよ……」 「?」 カグラが照れて顔を埋めるが、カリナはきょとんとして首を傾げるだけだ。相変わらずの鈍感さだった。 ベッドから出ると、身支度の時間だ。   カリナはアイテムボックスを開き、ルナフレアから渡された衣装セットの中から、今日という日に相応しい一着を選び出した。 それは、リボンとフリルがふんだんにあしらわれた、紫色のタイトなロングコート。その下には、カーキ色を基調としつつ、高貴な青色のリボンとフリルで飾られた冒険者風のドレス。内側の生地は純白とピンクで、動くたびに華やかに翻る。   足元は太ももまでの長さがある、リボン付きの白と黒のデザインのロングニーハイソックス。それをガーターベルトで留め、紺色に黄色のアクセントが入ったブーツを合わせる。   袖は長袖でフレアーなデザインになっており、優雅さを演出する一方で、裾や袖口のフリルが可愛らしさを添えている。最後に、燃えるような赤髪に黄色の花の髪飾りを留めて完成だ。 カグラが着付けを手伝いながら、眩しそうに目を細める。「うん、とっても素敵よカリナちゃん。凛々しくて、可愛くて……最高ね」 「そうか? 少し派手な気もするが……まあ、気分は引き締まるな」 カリナが鏡の前で自身の姿を確認する。一方のカグラも、今日は気合が入っていた。いつもの装束とは少し違う、儀式用の巫女のような白い上着に、短いピンクの袴。その上に鮮やかな赤い羽織をまとい、白のニーハイに赤い履物を合わせている。「私も一生懸命応援するわ。喉が枯れるくらい叫んじゃうかも」 「隊長の勇姿、しっかりとこの目に焼き付け
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117  一回戦開始

 闘技場を揺るがす銅鑼の音と共に、一回戦第一試合の幕が上がった。『さあ始まりました! 先手を取ったのは赤コーナー、ガジェル選手だぁぁっ!!』 マグダレナの実況が叫ぶのと同時、ガジェルの巨体が砲弾のように飛び出す。彼の手にあるのは、身の丈ほどもある巨大なバスタードソード。それを軽々と振りかぶり、初手から全力の一撃を叩き込んだ。「吹き飛びなぁっ!! グランド・クレイモアッ!!」 ドォォォォンッ!!   地面ごと叩き割るような重い一撃が、カーセルの大盾を直撃する。衝撃波が放射状に広がり、舞台の石畳が捲れ上がった。『速い! そして重い! いきなり大技を叩き込んでいくぅ!』 『うむ。迷いのない良い踏み込みだ。体重と魔力の乗せ方が手慣れている』 レオン王が冷静に分析する。凄まじい衝撃音に観客が息を呑むが、土煙が晴れたその先には、一歩も引かずに立つカーセルの姿があった。「ぐっ……! 重いな……!」 「へへっ、耐えるか聖騎士! ならこいつはどうだ!」 ガジェルは止まらない。大剣を風車のように振り回し、次なる技へと繋げる。「ヘヴィ・スラッシュ! オーバーヘッド・ブレイカーッ!!」 横薙ぎの重撃が防御を崩しにかかり、間髪入れずに頭上からの必殺の縦斬りが降り注ぐ。カーセルは歯を食いしばり、必死に大盾を操った。「シールド・バッシュ!」 盾を突き出し、攻撃のベクトルを逸らす。だが、ガジェルの膂力は予想以上だった。剣と盾が激突するたびに、カーセルのコーナーにある水晶にピキピキと小さな亀裂が走る。『おっと! カーセル選手の水晶にヒビが入りました! ダメージが転送されています! ガジェル選手の猛攻が止まらない!』 貴賓席で見守る仲間達が身を乗り出す。「くっ、押されてるぞカーセル!」「相手のパワーが桁違いです……! 盾の上から叩き潰す気です!」 カインが焦り、テレサも悲鳴のような声を上げる。しかし、カリナだけは冷静だった。「いや、カーセルはまだ本気を出していない。……それに、気づいていないだけだ」 「え?」 カインが怪訝そうに振り返る。「自分の力が、以前とは比べ物にならないほど上がっていることにな」 その言葉を証明するかのように、防戦一方に見えたカーセルの瞳に、鋭い光が宿り始めた。 おかしい。ガジェルの攻撃は確かに重い。だが、見えている。   
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118  アリアとカリナ

 闘技場が水を打ったように静まり返る中、真紅の『女神』アリアと、対戦相手の剣士が舞台の中央で対峙した。   陰陽国ヨルシカの剣士コテツ。逆立てた黒髪と、和風の侍装束が特徴的な若き天才剣士だ。腰には一振りの業物を帯び、その眼光は鋭くアリアを見据えている。対するアリアは、真紅のロングコートに身を包み、左腰の剣の柄に手を添えたまま、優雅に佇んでいる。『Dブロック一回戦第一試合! 謎の『女神』アリア選手! 対するは、陰陽国ヨルシカより参戦、疾風の抜刀術士、コテツ選手!』 マグダレナの実況と共に、二人は水晶に魔力を注ぐと光が灯る。だが、ここで会場にどよめきが走った コテツが鯉口を切り、姿勢を低くして臨戦態勢に入っているのに対し、アリアは剣を抜こうともせず、あろうことかその瞼を閉じていたのだ。『おっとぉ!? アリア選手、抜刀しません! しかも目を閉じているぅ! これはどういうことだぁ!? 相手を見ずして戦うというのでしょうか!?』 『ふむ……。舐めているわけではないようだが……。彼女には「何か」が見えているのかもしれんな』 レオン王が興味深そうに身を乗り出す。だが、対峙するコテツにとって、それは最大の侮辱に他ならなかった。額に青筋が浮かび、握る柄に力がこもる。「……ッ! 陰陽国の剣技を、随分と甘く見られたものだ……!」『始めッ!!』 開始の銅鑼が打ち鳴らされた瞬間、コテツの姿が霞んだ。 ヨルシカ剣術特有の、変幻自在の歩法だ。「まずは挨拶代わりだ! 霞斬!」 霞のように揺らぐ軌道で、コテツの刃がアリアの首筋へと迫る。観客が悲鳴を上げかけたその瞬間。アリアは目を開くことなく、風に揺れる柳のように優雅に首を傾けた。   ヒュンッ!   刃は空を切り、アリアの真紅の髪の毛一本すら傷つけられない。「なっ……!? 偶然か……!?」 コテツは即座に踏み込む。影が伸びるような素早い一歩。「影走りからの――風裂ッ!」 神速の横薙ぎ。そして風を裂く鋭い切り払い。だが、アリアはまるで舞踏を踊るかのように、最小限の動きでそれら全てを回避していく。上体をわずかに逸らし、半歩下がり、時には回転してスカートの裾を翻しながら、刃の切っ先をかわし続ける。 それは、彼女が持つ固有の神技によるものだった。   『神眼』――目を閉じることで視覚情報に惑わされること
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119  異次元の能力

 コロシアム上空に浮かぶ太陽が、白熱した午前の試合を終えた戦士達を労うように、柔らかくも力強い日差しを降り注いでいた。 一般席とは隔絶された、選手とその関係者のみが入ることを許された貴賓席。舞台が良く見えるそのスペースには、大会運営のスタッフによって豪華な食事が所狭しと並べられている。 張り詰めていた試合の空気はふっと緩み、シルバーウイングのギルドメンバーやルミナスアークナイツの面々、そしてケット・シー隊員達を交えた、和やかなランチタイムが既に和気あいあいと繰り広げられている。「いやあ、午前中の試合も見応えあったな! 特にカリナちゃん、初戦の相手を凄い動きで翻弄しちまうんだから、見ててスカッとしたぜ!」 口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら、シルバーウイングのロックが陽気な声を上げる。その隣では、巨漢のアベルが、自身の拳ほどの大きさはある特大おにぎりを手に取りながら深く頷いた。「ああ。俺達も観戦していて力が入った。あの細い体でよくあれだけの剣撃を繰り出せるものだ」 「ありがとう、アベル。ロックの応援はよく聞こえてたぞ」 カリナが口元を緩めて短く答えると、シルバーウイングの副団長、エリアが楽しげに笑い、隣にいるルミナスアークナイツの面々に話を振る。「そっちはどう? カーセル、次はカリナちゃんとでしょ?」 「う……エリアさん、食事中にその話題は胃が痛くなるから勘弁してくれないかな」 ルミナスアークナイツの団長であるカーセルが、眉をハの字にして苦笑いを浮かべる。彼は次の二回戦、初戦でカリナと当たることが決まっていた。その様子を見て、カインが背中をバシッと叩く。「しっかりしろよーカーセル。俺達の代表として戦ってるんだからな」 「そうよ。私とかテレサは術士だから、この大会には出られないし。その分、団長が頑張ってよね」 「プレッシャーかけないでくれよ、ユナ……」 陰陽術士の装束に身を包んだユナが元気よく笑い、カーセルが嘆く。カリナは、そんなギルド同士の垣根を超えた交流を、大会側が用意してくれた特製ランチを食べながら眺めていた。「……平和だな」 ふと、カリナが呟く。 命のやり取りにも似た激闘の合間に訪れる、この穏やかな時間。カグラが隣で優しく微笑み、カリナのカップに新しいお茶を注いでくれた。「そうね。でも、しっかり食べておかないと保たないわよ
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