地下での激闘と事後処理を終え、夕闇と霧に包まれた『樹霧の庵亭』に戻ってきた頃には、カリナの体は心地よい疲労感に包まれていた。暖簾をくぐると、パタパタという小気味よい足音が響いてくる。「おかえりなさい、カリナちゃん! それに隊員ちゃんも! 大変だったらしいね、無事でよかったぁ!」 若女将のチェルシーが、涙目のまま満面の笑みで出迎えてくれた。その屈託のない笑顔を見ると、先ほどまでの陰惨な光景が嘘のように思えてくる。やはり、守るべきはこの日常だ。「お風呂、沸いてますよ! それとも先にご飯にしますか?」「ご飯で頼むよ。……腹が減った」「了解です! 今日は特製の『霧隠れ鍋』ですよー! 食堂へどうぞ!」 元気よく厨房へ戻っていくチェルシーを見送り、カリナは足元の隊員を見下ろした。隊員は「晩飯抜き」の宣告に怯え、耳をペタンと伏せて上目遣いで見つめてくる。「……はぁ。今回だけだぞ。よく働いたからな」「!! さすが隊長、大好きにゃ! 一生ついていくにゃ!」 現金な相棒に苦笑しながら、カリナは食堂へと足を運んだ。 ◆◆◆ 食堂の個室で、湯気が立ち上る土鍋を囲み、カリナと隊員は箸を進めた。 『霧隠れ鍋』とは、大根おろしをたっぷりと入れた雪見鍋のようなもので、地元の地鶏と森のキノコ、そして手作り豆腐が煮込まれている。出汁の優しい味わいが、戦いで荒んだ心に染み渡る。 追加で頼んだ川魚の塩焼きを、隊員は幸せそうに骨までしゃぶり尽くしていた。「ぷはぁ、生き返ったにゃ……お出汁が五臓六腑に染みるにゃ……」「ああ、美味いな」 満腹になり、一息ついたところで、カリナはタオルを持って立ち上がった。「さて、汗を流してくるとするか」 脱衣所へ向かい、服を脱いで広々とした大浴場へと足を踏み入れる。岩造りの湯船には乳白色の湯が満たされ、ガラス戸の向こうにはライトアップされた庭園が霧に煙っている。 湯船には数人の先客がいた。カリナが体を洗い、湯に浸かろうとしたその時――。「ああっ! カリナさんだ!」 驚きの声を上げたのは、昼間の作戦に参加していた女性冒険者のグループだった。魔法使い風の女性や、軽戦士風の女性達が、目を輝かせて近寄ってくる。「お疲れ様です! 昼間は凄かったですね! 私達、遠巻きに見てましたけど、あの強さには痺れました!」 「そうそう! でも、こ
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