カリナがペガサスに乗り、ヨルシカからエデンへの帰路についている頃。 エデン王城、国王執務室。 豪奢な装飾が施された高い天井と、壁一面に並ぶ古書。その厳粛な空間に鎮座する重厚な執務机の前に、エデン国王カシューは座っていた。 彼は左耳から、普段使用している通信用の小型魔道具――イヤホン型の通信機を取り外すと、それをデスクの中央にコトリと置いた。指先から微量な魔力を流し込む。すると、無機質な黒いイヤホンが淡い青色の光を帯び、内蔵された術式が展開される。音声を増幅するスピーカーモードへの切り替えだ。 ここには映像を映し出す水晶板もなければ、相手の顔を見るための魔法の鏡もない。あるのは、遠く離れた地にいる二人の王の「声」のみだ。だが、それで十分だった。声のトーン、息遣い、そして沈黙の間。それらを聞き分けることこそが、為政者たる者に必要な資質でもあるのだから。「……通信状態は良好のようですね。お二人とも、聞こえていますか?」 カシューが穏やかに、しかしよく通る声で問いかける。 一瞬の静寂の後、デスクの上のイヤホンから、ノイズ混じりの、しかし力強い二つの声が響いた。「うむ。感度良好だ。エデン王よ」「ああ、こちらでもはっきりと聞こえている。エデンの魔道具か……声だけで遠方と繋がるとは、実に興味深い技術だ」 腹の底に響くような重厚で威厳のある声は、西の大国、ルミナス聖光国の王、ジラルド。若々しくも理知的で、張り詰めた糸のような鋭い響きを持つ声は、北東の陰陽国ヨルシカの若き王、ソウガだ。「では、形式的ですが紹介させていただきますね。こちらがルミナス聖光国のジラルド王。そしてこちらが、今回新たにこの同盟に加わってくれた、陰陽国ヨルシカのソウガ王です」 普段の飄々とした雰囲気の中に、一国の王としての芯の強さと、同盟の盟主としての責任感を滲ませるカシューの言葉。それを受け、ソウガの声が響く。「お初にお耳にかかる、ジラルド殿。ヨルシカ国王、ソウガ・ヨルシカだ。聖光国の武名は、遠く我が国にも轟いている。こうして言葉を交わせること、光栄に思う」 緊張を含みつつも、礼節を弁えた若き王の挨拶。対するジラルドも、声に好意的な色を滲ませて応じた。「うむ。噂に聞く若き賢王か。声を聞くだけで分かる、芯の通った良い男のようだな。……ヨルシカは長らく独自の文化を守り、
Last Updated : 2026-01-25 Read more