二十分後。 黎明コーポレーションの地下駐車場。 薄暗い蛍光灯の下に、黒のSUVが静かに並んでいる。 その一角で、蓮はコートの襟を立てて立っていた。 足音が一つ、ゆっくりと近づいてくる。 「お呼びでしょうか、社長」 現れたのは一人の男。 神崎隼人(かんざき はやと)――二十八歳。 表向きは蓮の秘書だが、その実態は黎明の“影の右腕”。 蓮がまだ若手の頃から仕え、命を預け合った仲でもある。 背は高く、無駄のない動き。蓮が一番信頼している男だ。 スーツの袖口から覗く手首には、古傷が一筋。 その過去を誰も口にしないのは、彼がどれほどの修羅場を潜ってきたかを皆が知っているからだ。 「隼人、お前に頼みがある」 蓮の声には、いつになく硬い響きがあった。 隼人は真っすぐ蓮を見つめる。 その瞳には、主への絶対の忠誠と、言葉にしない理解が宿っていた。 「俺はこれから一ヶ月、関西に行く。その間、玲のことを頼みたい」 「桐嶋さんを、ですか」 「ああ。彼女の警護だ。いや……見張りと言った方が正確かもしれない」 蓮は自嘲するように笑った。 男として、愛する人を信じながらも、同時に監視を頼む――矛盾だ。 それでも、今の蓮にはそうするしかなかった。 「玲が働く『クリスタルローズ』。あそこには毎晩、様々な男が出入りする。 俺がいない間に、玲に近づく不届き者がいないか、しっかり目を光らせてくれ」 「承知しました。二十四時間体制で警護します」 短く答える隼人。 だがその胸の奥には、複雑な感情が渦巻いていた。 彼もまた、桐嶋玲という女性を知っている。 蓮の恋人としてではなく、一人の人間として、尊敬していた。 清らかで、誠実で、誰にでも優しい女性――それが玲だった。 だからこそ、蓮の“嫉妬”の影を感じ取ってしまうのが、辛かった。 彼の主は、誰よりも強く、誰よりも孤独な男だ。 玲と出会って初めて、人らしいぬくもりを取り戻した。 その彼が、再び「疑念」という闇に囚われようとしている。 隼人には、それが痛かった。 「ただし」 蓮は歩み寄り、隼人の肩に手を置いた。 「玲には絶対に気づかれるな。あくまで影からだ。彼女を不安にさせたくない。そして……」 言葉を切り、低く続けた。 「もし
Last Updated : 2025-11-25 Read more