気まずそうに、申し訳なさそうに、そして何よりも言いづらそうに口を開いた。「……利衣子のこと、ですけど……」「なんや」 鷲尾は目を伏せた。 「……あいつ、柊 蓮を……完全に騙しきれへんかったんですわ」「なんやと?」「追い出されてきました……柊のマンションから……」 黒澤の表情が一瞬で凍りついた。 沈黙が、獰猛な獣のように二人の間に降り立つ。「……お前……」 黒澤の声は、血が滲むほど低かった。 「ワシに“使える”言うたやろ……その利衣子とやらは」「せやけど、アイツも……その……仏心が湧いたみたいで……柊 蓮のことを、ちょっと……本気で好きになってもうたらしくて……」 黒澤の顔の血色が、スーッと失われていく。 耳の奥から沸き立つ怒気の音が、部屋中に溜まった。「……好き、やと?」 黒澤は椅子を、ガッと蹴り飛ばした。 背後の壁にぶつかり、ドスッという鈍い音が響く。 鷲尾は完全に口を閉ざした。「ふざけんなやオラァッ!!」 怒号が、部屋を突き破るように響いた。「利衣子が失敗した? 仏心やと? そんなモン、報告することちゃうわボケ!!」 黒澤の拳が机に叩きつけられ、分厚い木製の天板がミシッと悲鳴を上げた。「――天城さんがおっしゃっとるんや!!」 鷲尾が思わず顔を上げた。 黒澤の目は血走っていた。「“黎明の女を連れてこな、港湾ルートの利権で桐嶋のクソジジイを脅す材料がない”っちゅうてなァ!!」 その言葉は、この場にいる誰より重く、痛烈だった。 桐嶋のジジイ。 東の大物、桐島コンツェルンの会長、桐島宗一郎。 その老人を脅す――それはただの誘拐劇では済まない。 関東・関西・天城、すべての勢力を巻き込む火種だ。 鷲尾は、改めて事態の深刻さを理解し、背筋が冷たくなった。「……黒澤の兄貴……そ、それは――」「つべこべ言うなッ!!!」 黒澤の怒鳴り声が地鳴りのように響く。「女を攫ってこいっちゅうとんのや!! “黎明の女”――成瀬 玲をなぁ!!」 机の上にあった灰皿が、怒りで震える黒澤の拳で吹き飛んだ。「攫えるまで――オマエは関西に帰ってくるな!ボケェ!!」 その一言は死刑宣告のように重く落ちた。 鷲尾は、深く頭を垂れた。 「……了解しました……」 返す言葉はそれしかなかった。 黒澤は息を荒げ、怒
Last Updated : 2025-12-08 Read more