ざかざかと歩きながら、律は涙目だった。 神聖なる神社の境内で堂々とおっぱい大好き宣言をした輩に鉄拳制裁が下されたのだから無理もない。 「もー、本気で殴るなんて酷い! これタンコブできてない? 戦闘に影響したら君のせいだからね」 ぶつぶつ文句を言う律だが、それが本気でないことぐらいは付き合いが浅くとも分かった。 優斗も呆れつつ反論する。「お前が阿呆な事を口走るからだ。手塚はもうすぐそこだぞ。僕が祝詞を唱えて、化け物が出たらお前が相手をする。僕は手を出さない。それで良いんだな?」 もう一度念を込めて確認すると、ブンブンと首を縦に振った。「それで良いよー。優斗もしっかりね! 霊力が足りなきゃ封印はできないよ。暗記は大丈夫?」 霊力。 そう言われて優斗は首を傾げた。「霊力なんて僕には無いと思うけど? 幽霊を見た事も無ければ金縛りにあった事も無い。昨日、初めてあの化け物を見たくらいだ」 しかし、律はにんまりと笑う。「大丈夫! 君、虫が見えてたでしょ? あれは妖の蟲って書いて妖蟲。れっきとしたお化けだよ。あれが見えてたなら霊力があるって証拠。あとは封印できるかだけど……。共切が抜けたなら心配ないと俺は思ってるんだ〜」 そう言いながら優斗の背負う刀を見遣る。優斗もチラリと視線を向けると並んで歩く律に問いかけた。「なんでこれが抜けたら大丈夫なんだよ」 律はくるくる回りながらはしゃぎ、明るい声で答える。「共切はね、所持者の霊力を喰うんだよ。だから人並みの霊力じゃ抜けない。君は共切のお口にあったって訳だ」 優斗はその言葉に絶句した。 霊力を喰うとはいったいどういう事だ。 たっぷり時間をかけて反芻すると、震える声で叫ぶ。「……まさか、最後は喰いつくされて死ぬってオチじゃないよな!?」 律は顔面蒼白になる優斗を面白そうに眺めて、ゆったり口を開く。「それは無いよ。共切も長〜く味わいたいからね。先代の死因は殉職。歴代も共切に喰われて死んだ人はいないよ。そこは安心してね。まぁ、全員寿命を全うせず殉職してるんだけど」 全然安心できない内容に優斗は頭を抱えた。 人を守りたいと願って陰陽寮に入ろうかと思ったが、騙し討ちとも言える所業に腸が煮えくり返る。 そんな様に律は笑顔で語りかけた。
最終更新日 : 2025-12-08 続きを読む