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All Chapters of 闇より出し者共よ: Chapter 21 - Chapter 30

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第二十一話 見送り人

「行ってしまいましたね」 ぽつりと呟くのは母、佐江だ。  神社の鳥居の下で哉斗と並んで山を眺めている。その視線の先には息子の影を見ながら。 哉斗もじっと見据えたまま口を開く。「佐江さん。すまない。玲斗に続き優斗まで」 その言葉に佐江はゆっくりと首を振る。「いいえ。私も共咲に繋がる者です。玲斗さんと結婚した時から覚悟はしていましたから。お義父さんが気に病む必要はありませんよ」 気丈に振る舞う佐江の言葉に哉斗は自身の不甲斐なさを痛感する。 二人は律の訪れに関して玲斗から知らせを貰っていた。化け物退治についても同様に。それでも敢えて優斗には告げずにいたのだ。 己の目で見て、決めてほしかったから。 玲斗が寄越したあの律という少年から事情は聞いていたかもしれないが、優斗は自分達を責める事は無かった。 優しい子だ。 心配をかけたくなかったのかもしれない。  特に佐江には。 旅立つ際にもただ父の所に行くとだけ言い、理由は話そうとせずただ哉斗をじっと見つめていた。 悍ましい化け物との戦いに理不尽にも巻き込まれたというのに。幼さの残る孫が一人で立ち向かおうとするその姿は痛ましく、これから歩む道を思えば胸が苦しい。 でも。 その隣には初対面の時とは顔つきの違う少年が寄り添い、その眼差しに優斗を護るという強い意志が感じられた。 二人共にまだたった十五の少年だ。  遊びたい盛りだろうに、その背には幾億の命が背負われている。 だが、あの二人なら大丈夫。  お互いを支え合い生き抜くだろう。 そう思わせる何かがあった。 滲む涙を拭う佐江の肩を叩き、哉斗は孫の背中を見送った。
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第二十二話 変化

 黒塗りの車は少年達を乗せて、山道を走る。  カーオーディオから心地よいジャズが流れ、郷愁を誘った。 この町を離れる事に後悔はしていないが、不安は消せない。優斗は人ならざる道を歩もうとしているのだから。 窓から見る景色は、既に見知らぬ物に変わっていた。買い物は隣町のショッピングセンターに行っていたが、山を越えるのは中学校の修学旅行以来の事だ。初めは生い茂る森と曲がりくねった道を物珍しげに見ていたが、変わり映えしない風景に早くも飽きてきていた。新幹線の乗り入れる最寄りの町までは、まだ遠い。 優斗はちらりと視線を移す。 ハンドルを握るのは四十前半の男性、陰陽寮技術部の所属で律の父親役をやっていた人物だ。  名を東公太。  律には多少劣るが高い身長に白髪混じりの短髪と丸眼鏡が印象的で、祖父達に対する物腰は柔らかく、本当に律と同じ陰陽寮所属なのかと疑ってしまった。しかし、普段の口調は粗野で共切の話になると途端に目の色を変え、早口で捲し立てる様は狂気じみていて、やはりどこか浮世離れしている。 その隣に座る女性も同じ印象だ。  こちらは情報部所属の小路美津代。  母親役をやっていた女性で、長い髪をポニーテールにして背に流し、一重で切れ長の目はキツいが和風美女とも言える。東とは違い、無口で無駄口を叩かない事務的な喋り方をする人物だ。それでも似通った印象を持つのはやはり目つきのせいだろう。表情はにこやかでも目が笑っておらず胸の内を覗かれているようで落ち着かない。 そんな二人との出会いは表向きには何の問題もなく終わった。神社に迎えにきた三人が母と祖父に挨拶する間も特に何も。 優斗は少しだけ、母や祖父が何か言ってくれるのではないかと期待していた。優斗が父の元へ行くと言った時は黙って送り出してくれたが、孫を、息子を危険な目に巻き込んだのだ。文句のひとつも言ってくれるかと、そんな期待を。 しかし、そんな優斗の気持ちとは裏腹に母も、祖父もただ頭を下げるだけだった。 優斗だって、自分で決めて何も言わずに出てきたのだ。それなのに勝手な期待を持つのは筋違いだろうと、己を叱責する。車に乗り込む間際に母が抱きしめてくれた。それだけでも報われるというものだ。 優斗は小さく息を漏らすと、再び窓の外へ意識を向ける。す
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第二十三話 身近な危機

  それは、有り体に言ってしまえば貞操の危機。 優斗にその気は無い。至ってノーマルだ。しかし、律は性別など気にもかけないのか優斗に執着している。舐めるような目で見られて鳥肌が立つ時さえあった。きっと優斗が女でも同じように接するのだろう。その場合は更にやばい事になりそうだが。 それなのに同じ部屋だなんて。 寝室は別でも全然安心できなかった。「今からでも別の部屋にできないんですか!?」 それに応えたのは小路だ。「無理です。既に手続きは終わっていますし、部屋に空きもありません。宮前君は家事も一通りできますし、小堺君にも利はあるのではないでしょうか」 その言葉に気を良くした律が口を挟む。「そうだよ~。俺良いお嫁さんになるよ? 優斗になら全力で尽くしちゃう! 優斗は何が好きかな? お肉? お魚? 俺、優斗が喜んでくれるならどんな料理でも頑張るからね! 洗濯も掃除も任せてよ!」 そう言って胸を叩く律。 ずいと近付く顔に優斗は思いっきり引いた。「嫁ってなんだよ!? 僕は男だぞ! お前も男! そこの所を間違えるな!」    言いようの無い恐怖に引き攣りながら喚く優斗にも律は何処吹く風。にこやかに笑いながら爆弾を投下する。「ええ~。そんなの関係ないよ。今は多様性の時代なんだから。恋愛の形も自由! 俺は優斗の事大好きだよ? もう食べちゃいたいくらいに」 その顔は恍惚に浸っている。頬を染め瞳を潤ませて、律の手が優斗の太腿を撫でる。 優斗の背中がぞくりと粟立ち、息を呑んだ。狭い車内では逃げ場も無い。助けを求めるように声を張り上げた。「あ、東さん!」 その様子に東はやれやれと面倒臭いのを隠そうともせず、やる気がなさそうに律を諌める。「律。ここではやめてくれや。この車レンタルなんだしよ。汚したら追加料金取られるだろうが。そういう事は家でやれ。それにあんまりがっつくと嫌われちまうぞ? 焦らずじっくりと攻めるのが定石だ」 生々しい表現をする東にこいつもやっぱり同類かと優斗は危機感を募らせる。 そんな優斗を他所に昂る衝動を止められた律はブーたれて東に辛辣な言葉を投げかけた。「さすが片っ端から女の子にちょっかいかけて振られまくってる人の言葉は重みが違うね。でも俺はそんな失敗しないし。ね、優斗。俺達死ぬまで一緒
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第二十四話 友愛

 それから律は無理やり攻め寄る事は無くなった。 ただ、やたらと触れたがる。 時に腕に抱きつき、時に肩を組む。身長差がかなりあるから邪魔くさい事この上ない。新幹線に乗り換えた今も、指定席でピッタリと寄り添って手を握ったままだ。景色が良いからと窓際の席に座らされたが、逃がさないためと言われた方が納得できる。 優斗も襲われるよりはマシかと享受していた。 その間にも律はずっと喋り続けている。リビングの家具についてや、使っているシャンプーにボディソープ、果てには下着の事まで。律はとことん優斗に合わせるつもりの様だ。 それもおかしな方向に。「優斗はどんな下着が好み? 紐パンとかどうかな。色はやっぱり白? 今度買いに行かなきゃ」 鼻歌を歌いながら、上機嫌な律に優斗はげんなりとしていた。――どうかなってなんだよ。買いに行くって、自分で穿くつもりか? 僕にどうしろと……。 優斗だって、男性同士の恋愛がある事は知っている。それを非難する気も、差別する気も無い。しかし、それが自分に向けられるとしたら話は別だ。優斗は異性愛者であり、律相手にどうこうとは考えられない。まだ得体の知れない部分の方が多いが、友人と呼べる存在だとは思う。それ以上でも以下でもないのだ。 だが律はその気らしい。相手は自分より体格も、力も上の律なのだから抵抗するのは難しいだろう。現についさっき危機に陥ったのだ。あの場には小路がいたから難を逃れたが、宿舎で二人っきりになった場合、優斗は逃げ切る自信は無かった。 だからといって、黙ってやられるつもりも無い。いざとなったら共切にものを言わせてでも、操は守る気でいた。右肩に立て掛けたもう一つの相棒を握りしめる。 共切は意外な事に、何のお咎めも無しに車内へ持ち込めた。竹刀袋に入れているとはいえ真剣だ。優斗は内心ヒヤヒヤしながら周囲の視線を気にしつつも、平静を装い車窓を眺める。 あと約二時間で京都に着く。そこからはまた車に乗り換えての移動だ。ちらと横を見れば、未だに律があれこれと喋っている。その横顔は楽しそうで、仕事の事さえ無ければ何気ない日常なのに。
last updateLast Updated : 2025-12-10
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第二十五話 繋ぐ

 その後の二時間は何事も無く過ぎていく。ただ新幹線に揺られているだけなのだから当たり前ではあるが。 それでも律の口が閉じられる事は無く、一方的に喋り続けていた。優斗は小説を読みながらたまに相槌を打つくらいだ。 その間もずっと手は繋がれたままで、律が硬いと評判のアイスクリームと格闘している時でさえ離そうとしなかった。見かねた優斗が声をかける。「おい、このままじゃ食べにくいだろ。手ぇ離せよ。僕も本が読みにくい」 しかし、律は泣きそうな顔で駄々を捏ねた。「やだやだやだ! 繋いでるの! 離しちゃやだ!」 デカい図体をしてグズる律は子供そのもので。同じ十五歳だというのにあまりに幼い。かと思えば、性急に事に及ぼうとする。そのチグハグさが優斗には危なっかしく思えた。そこが律の魅力だと言われてしまえばそうなのだが、実際に襲われた身としてはたまったもんではない。 ――でも。 と、優斗は考える。  これは死が近いがための弊害なのではないかと。律自身、何度も死に目に遭ったと言っていた。いつ死ぬともしれない日々の中で、その一日を悔いなく終えるために欲に忠実に生きる。まるで壊れた心を繋ぎ止める、か細い糸。 そう、この手のように。 繋いだままの手をじっと見る。  優斗だってまだ子供だ。他人の心の内など分かるはずもない。それでも、この繋がれた手だけは離してはいけない気がした。 そう思えば自然と手に力が入りきつく握りしめる。それに律は不思議そうな顔をして首を傾げた。「優斗? どうしたの? やっぱりお母さん達と離れて寂しい?」 眉を垂れて覗き込んでくる律の鳶色の瞳を見つめ、優斗はゆっくりと首を振る。「いや、違うよ。寂しいのはお前の方だろ。安心しろ。この手は離さないから」 そう言って更に強く握れば、律はキョトンとした後みるみる内に表情が輝く。 そして優斗の頬に口付け、チュッとリップ音がなった。 今度は優斗が呆ける番だ。急な事に呆然と頬を撫でる。「優斗大好き」 律は
last updateLast Updated : 2025-12-11
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第二十六話 父の影

 京都駅に着いて一息吐く間もなく、今度は銀色のセダンに乗り込み、後部座席に律と並んで座る。この車は陰陽寮の所有物のようだ。ダッシュボードからメモ用紙の切れ端が覗いていたり、煙草の匂いが染み付いていてレンタルのような清潔さは無かった。ハンドルを握るのは小路。共切は例のごとくトランクの中に、御代月は長すぎて入らないので車内に持ち込んでいた。運転席側から後部座席まで縦断する形で横たわっている。助手席の東は技術部なだけあって愛着があるのだろう、丁寧に扱っていた。 車は街並みを抜け、洛北へと向かう。  目的地は陰陽寮の本拠地。そこで父、玲斗と落ち合う予定になっていた。 ――父さんと会うのは何年ぶりだろう。電話でのやり取りはしてたけど、直接会うのは久しぶりだ。 優斗はぼんやりと思う。玲斗が帰ってくるのは数年に一度、出向先が変わる変換期にしか実家に戻らなかった。それでも誕生日や祝い事には必ずプレゼントを送ってくれるし、少ない休みを惜しまず遊びにも連れ出してくれる。だからこそ、父との思い出を大事にしてきたのに。まさかこんな形で再会するとは思いもせず、苦い物が込み上げる。 玲斗は今年の五月で四十を迎えた。もう人生の折り返し地点で体力に衰えも出始める頃だが、律の話を聞く限り、戦闘能力は高いらしい。 陰陽寮特務部実働部隊三番隊一班班長。それが玲斗の肩書きだ。妖刀の号は満影。鋼の黒が特徴的な短刀だと言う。間合いで劣勢を強いられる事も多い短刀を手に戦う姿はカッコイイと、律が興奮気味に絶賛していた。彼にしてみれば命の恩人なのだ。多少美化されている可能性もあるだろう。 しかし、優斗の知る父は戦いとは無縁のぽやっとした人だ。決して体格がいい方でも無く、長身痩躯。表情も柔らかく、いつも細められている垂れ目は人を安心させる。闇など微塵も感じさせない、気のいい町のお巡りさん。そんな父が化け物と戦っている姿は想像もつかなかった。 知りえなかった父の真実を聞き、優斗は緊張していた。最後に会ってから数年が過ぎている。仕事場で働く父を見た事も無く、記憶にあるのは家でくつろぐ姿だけ。優斗は警察官なんだと疑いも持たずに過ごし
last updateLast Updated : 2025-12-12
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第二十七話 陰陽寮

 その言葉に、優斗は息を呑んだ。自分勝手な言動ばかりするくせに、こういう所は目敏い。それとも自分が分かりやすいのか。ひとつ深呼吸をすると律に向き合った。「どうだろうな。正直、実感が湧かない。僕が知っている父さんは、穏やかで争いを好まないんだ。それなのに化け物退治をやってるなんて聞かされても、イメージが重ならない。爺ちゃん達の様子を見てたら事実なんだろうけど……本当に、僕の父さんなんだよな?」 神妙に聞いていた律もしっかりと頷く。バックミラーに映る小路の表情も硬い。「うん。それは間違いないよ。ね、美津代さん」 話を振られた小路がハンドルを回しながら応える。「はい。漏れが無いよう情報部がしっかり調べ上げました。産院からお母様の履歴、戸籍謄本まで隅々と。お母様は共咲……陰陽寮に繋がる家系です。そして、小堺班長が嘘をつく利点もありません。いくら共切の継承者の親だとしても、手当がつく訳でも、特権が与えられる訳でも無いんですから」 それは、残酷な現実。 父が自分を売ったという、事実。 これがたまたま優斗に行き着いただけだったなら、これほど憤りを感じなかったかもしれない。しかし、実の親が我が子を死地に送り込んだのだ。優しい顔も偽りだったのか。気づいていなかっただけで、玲斗の心も壊れているのだろうか。 そんな父と結婚した母は?  そんな父を育てた祖父は? 考えても分からない。つい一週間前までは平穏な暮らしの中にいたのに。車に揺られ、陰陽寮に向かう今でさえ、夢を見ているかのようだ。 優斗の視線は流れる街並みをぼんやり眺める。見慣れぬ風景に、現実味が無い。 それでも否応無しに車は進むのだった。 それから数十分。  とうとう目的地に到着する。 京都駅から北東に位置するここは、京都の鬼門だ。もう少し山を登れば比叡山がある。仕事柄、この土地に建てられたのだろう。外観は一見普通のビルと変わりない。地上五階、地下二階の、何の変哲も無いオフィスビルだ。だが敷地は広く、故郷の中学校くらいはあるだろうか。奥に伸びるL字型の建造物で、その裏手に四棟のマンショ
last updateLast Updated : 2025-12-13
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第二十八話 遊び場

 ビルの玄関に回ると、市民会館のような両開きの大きなガラス扉が出迎えた。その先は薄暗く、無機質なホールが広がっている。しかしそこに人気は無い。皆部屋に篭っているのだろうか。 その扉を東が開き優斗を促した。脇をすり抜け廊下に入ると、ひんやりとした空気が肌を撫で、辺りを窺う優斗の手を律が握る。はしゃぎながら歩を進めた先には正面に古ぼけた三基のエレベーター。その右端に銀色の自動ドアがあり、そこにはHospitalの文字が刻まれていた。 律は優斗の手を引きながら、指差して説明を始める。「優斗! こっちだよ! 特務の部屋は地下なんだ~。道場もあるよ! あと、班ごとの待機室に作戦会議室でしょ。地下二階には技術部の作業部屋があって、一階は医療部の領分。あそこのドアの先ね。怪我した時はお世話になるよ。手術室やICUもあるから、ぐちゃぐちゃにならなければまぁ助かるかも? 手が千切れるくらいならくっつけてくれるよ。そうなる前に俺が助けるけどね! 二階は研究所。化け物や妖刀の事を調べてるみたい。三階と四階が情報部ね。事務所と司令室があるよ。図書室もあるから本が読みたい時は行ってみて。五階はお偉いさんの部屋。行った事ないからどんなかは知らな~い」 その声はまるで自慢の玩具を見せびらかす様に弾んでいた。実際、律にとっては遊び場なのだろう。いつからここにいるのか、優斗は知らないがその足取りに迷いは無い。 無人のホールを抜けてエレベーターの前まで辿り着くと小路が口を開く。「それでは私はここで失礼します。小堺君、私は三班担当なのでまた会う機会もあるでしょう。その時はきっと戦いの現場です。無理を言う事もあるとは思いますが、しっかりサポートさせて頂きますのでよろしくお願いします」 そう言って手を差し出し、優斗も黙ってその手を取る。緩く握手を交わして頭を下げ、小路はエレベーターに乗り込んだ。「んじゃ、オレ達も行こうかね」 東が呟いてボタンを押せば、程なくして地下への扉が開かれる。 エレベーターの中は男が三人乗っても余裕があるほど広い。静かな空間にワイヤーを伝う駆動音と律の鼻歌が響いていた。優斗の腕に
last updateLast Updated : 2025-12-14
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第二十九話 再会

 そして、辿り着いた扉の前。 その上には特務部三番隊待機室の文字が掲げられていた。この先に父がいる。ほんの一週間前までは会うのを楽しみにしていた父が。しかし、今では得体の知れない何かのようで足が竦む。 動かない優斗を気遣うように律が背中を撫でる。横を見れば心配そうな顔。 優斗は黙って見つめ返すと深呼吸して扉をノックした。 すると、間髪入れずにドタドタと騒がしい音が近づいてくる。そして壊れそうな勢いで開かれる扉。 そこには父が立っていた。少し白髪の混じった黒髪に泣きボクロのあるタレ目とひょろっとして痩せた体。優斗の記憶と寸分違わぬその姿にようやっと安堵する。しかし、当の父は驚いた表情から、次第に泣き出しそうな表情へ。限界まで垂れた眉の下の目が潤んでいく。「優くん……!」 感極まった父は力強く優斗を抱きしめた。強く強く抱きしめて涙を流す。「大きくなったね。元気にしてた? 剣の稽古もちゃんとしてたかな。共切も無事抜けたそうだね。父さん鼻が高いよ。自慢の息子だ」 しかし、その口から出るのは優斗を裏切るもので。 優斗は一瞬にして頭に血が上る。 そして、思いっきり腹パンを喰らわせた。 思いもよらぬ一撃に玲斗はよろめき、信じられないといった顔で優斗を見上げる。「自慢の息子? このクソ親父が。あんたのせいで酷い目にあったっていうのに呑気なもんだな」 冷めた目で睥睨する我が子に玲斗は蹲ったまま縋る。「ゆ、優くん? どうしたの。君はこんな事する子じゃないでしょ。父さん何かした? 共切に選ばれたの嬉しくないの? 凄い事なんだよ!?」 あくまで共切に選ばれた事を喜ぶ父に、優斗は薄ら寒い物を感じた。本当にこれが今まで見てきた父と同一人物なのだろうか。「何かした? じゃないよ。僕が死んでも良かったって言うのか? 共切に選ばれなければ、僕に価値は無いって!? あんたおかしいよ。本当に僕の父さんなのか? 優しかった父さんはどこに行ったんだ……」 俯き拳を握る優斗に、玲斗は|狼
last updateLast Updated : 2025-12-15
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第三十話 妖の序列

 優斗が部下としての態度を示した事で、玲斗も落ち着きを取り戻した。改めて優斗を歓迎し、部屋へと招き入れる。 部屋は十畳程の広さがあり、事務机が行儀よく並んでいた。向かい合わせで五席、計十席だ。壁際には書類棚が並び、その最奥に離れて一席。その机上には父の名が記されたプレートが乗っている。 その横に一人の男性が立っていた。二十代半ばだろうか。律と同じくらいの背丈だが、その厚みが違う。洋画のアクション俳優のような体格に短く刈った坊主頭、迷彩のツナギに身を包んでいる。太い眉に四角い顔。こんな怪しい組織より自衛隊にいた方がしっくりくるその人物は、見た目の通り言動も格式張っていた。足は肩幅に広げ、腕は背中で組む、所謂休めの姿勢だ。そのまま微動だにしない。 玲斗がその青年を紹介してくれた。「彼は僕の相棒で永都順一郎《じゅんいちろう》。順くん。この子が僕の息子の優斗だよ。仲良くしてあげてね」 優斗も頭を下げ挨拶をする。「小堺優斗です。父がお世話になってます。未熟者ですが、これからよろしくお願いします」 それに想像以上の声量が返ってきた。「自分は永都順一郎であります! 共切の使い手である優斗殿にお会いできて光栄の至り! 共に悪しき者共より民草を守りましょうぞ!」 怒鳴り声とも取れるその衝撃をまともに喰らった優斗を耳鳴りが襲う。目もチカチカしてふらついた。それを見た律が指差して大笑いする。「あはははは! 順一郎さんの声凄いよね! 俺も初めて会った時は驚いたな~。でもすぐ慣れるよ!」 そう言って背中を叩いた。 律や玲斗とはまた違う、浮世離れの仕方だ。一昔前の軍人じみた喋り方といい、陰陽寮には変人しかいないのか。もしかしたら、その仕事内容のせいではみ出し者が集まってくるのかもしれない。しかも優斗「殿」と来た。年上の先輩にそう言われるのは心苦しい。 優斗は控えめに後輩として扱うよう頼んでみる。上司の息子とはいえここでは若輩者なのだ。「あの、僕に敬語はいりません。どうか呼び捨てて下さい」 そう言うも。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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