Главная / BL / 闇より出し者共よ / Глава 31 - Глава 40

Все главы 闇より出し者共よ: Глава 31 - Глава 40

72

第三十一話 特務部特別機動班

 一人で思案に耽ってしまった玲斗はブツブツと呟いている。昔から熱中すると周りが見えなくなる所はあったがこういう時でもそうなのかと優斗は呆れるばかりだ。以前の優斗なら仕事の事だからとそっとしていた。しかし、もう容赦はしない。力の限り横腹をドつくと、呻き声を上げ体がくの字に曲がった。「い、痛い! 優くん何するの!?」 それを冷めた目で見遣りながら顎で続きを促す。「うぅっ。なんか父さんの扱い酷くなってない?」 抗議の声に再度拳を振りあげれば慌てて手で制す。「ごめん! ごめんなさい! えぇっと、そう! 仕事の話だったね。普段なら様々な状況に対応するために戦力を組むんだけど、優くんの任務は激しめだからね。バディも五位のりっちゃんなんだ。歳も一緒だしやりやすいでしょ?」 こてんと首を傾げてにこやかに告げる父。四十のおっさんがしても可愛くない。白けた視線を送る優斗にもめげずに両手の人差し指を頬に当て、ニッコリ笑う。「今すぐ必要な情報はそれくらいかな。優くんには明日から教習を受けてもらうよ。先生は美人なお姉さん! あんまりキレイだからってよそ見ばっかりしちゃダメだからね」 頬から指を離すとそのまま優斗の鼻をちょこんと触る。ドつかれたばかりだというのに懲りない父に溜息を吐く。 そこに律の声が上がった。「先生って幸乃さんでしょ? 俺も久しぶりに会いたいな~。アレは健在なんだよね?」 ムフフといやらしい笑みを浮かべる律に、玲斗も応じる。「勿論だよ。アレは最早歩く凶器だね。あ、でも僕は奥さん一筋だから興味ないもーん」 コソコソする二人に訝しむ優斗の視線に玲斗は焦ったように言い繕う。終いには鳴らない口笛で誤魔化した。そして律に向き直る。「それからりっちゃんは別の仕事があるからね。教習の間は別行動だよ」 それに律は泣きそうな顔をしながら駄々を捏ねた。「え~。やだやだ! 優斗と一緒がいい! 俺も教習受けるから!」 しかし、玲斗は首を振る。
last updateПоследнее обновление : 2025-12-17
Читайте больше

第三十二話 名もなき感情

 待機室を出た優斗と律は無言で歩く。その手はきつく握られていた。律の震えは止まっていたが変わらず俯いたままで顔色が悪い。今まで短い期間ではあるが見た事のない律の様子に優斗は不安を募らせた。父の言葉も気にかかる。 お仕置。 確かにそう言っていた。それがどんな物なのか、優斗には想像もつかない。しかし、この律の様子から察するにそれは世間的に非難される様なものではないのか。考えれば考える程悪い方向に思考は巡る。 そんな非道を父がするとは思いたくは無い。だが、あの目を見た後ではそう考えるのも仕方のない事だった。「律……」 暗く沈む相棒に優斗はどう声をかければいいのか分からない。人を遠ざけてきた弊害がこんな形で出ようとは。 今までなら仲違いをして去っていく友人を追う様な事はしなかった。そうなってしまったのにはそれなりの理由があったし、それを覆してまで仲を取り戻そうとは思わなかったから。 親しくしていた友人とも関わりは薄い。たまに小説の話をしたりする程度で、昼食を一緒に食べたり、休日に遊びに出たり。凡そ一般的に友人と呼ばれるような行動をするという事も無かった。優斗は実家の手伝いをしているからどうしても付き合いは悪くなる。だからその方が都合が良かったし、気を使わないで済むのだ。 親友と呼べる者もいない。一人で過ごす事に支障は無かったし、団体行動は性に合わない。 警察官を目指すならそれも受け入れざるを得ないが、それはそれ。仕事と割り切る事ができる。 でも今は違う。律を失う事が酷く怖かった。 突然現れた転校生。共に過ごしたのは極短い一週間。それなのに、律の痛みが優斗を苛む。何がそうさせるのか。それも分からない。 共に戦ったから? 秘密を共有しているから? どれも違う気がする。 何故か律の存在が心を捉えて離さない。  笑みの消えた顔を見るのが辛かった。 笑ってほしい。  それが例え狂気に満ちたものでも。 声が聞きたい。  無邪気な声が。 ――なん
last updateПоследнее обновление : 2025-12-18
Читайте больше

第三十三話 小さな幸せ

 繋いだその手を唇に寄せ、傷跡にそっと押し付ける。それは口付けと呼べるほど上手いものではなかったが、優斗にとっては初めての行動だ。衝動的にやってしまった行為にたちまち頬が染まっていく。 不意を突かれた律の足が止まった。 しかし、しばらく経っても律は何も言わない。反応が気になってちらりと窺い見れば、律は驚きで目を見開いていた。繋いだ手と優斗の顔を交互に視線が行き交う。「優斗……なんで」 手放しで喜んでくれると思っていた優斗はその言葉に少し腹を立てた。そして、拗ねた様に口を尖らせ言い訳を口にする。「お前が、らしくもなく落ち込んでるから、少しは元気が出るかなって……。勘違いするなよ! ︎︎好きとかそんなんじゃ無いからな! ︎︎気まぐれ。そう! ︎︎ただの気まぐれだ! ︎︎お前が静かなのは、気持ち、悪いから……」 そう言う優斗の顔は熟れた林檎の様に赤い。照れからそっぽを向く優斗の態度が可愛くて律は微笑んだ。「ありがとう優斗。すごく嬉しい」 そう言って自身の傷跡に口付ける。  そしてニヤリと笑うと上目づかいで優斗を見つめた。「これで関節キスだね」 その言葉に優斗は更に赤くなる。「調子に乗るなよ!」 そう言って尻を蹴り上げれば笑い声が上がった。そして再開されるマシンガントーク。「そうそう! ︎︎この近くにね、唐揚げが美味しい定食屋さんがあるんだ! ︎︎衣は薄くて外はサクサク、中はジューシー! ︎︎俺、薄着の唐揚げって大好き! ︎︎サイズも大きくて大満足だしニンニクが効いてて美味しいの! ︎︎ご飯もツヤツヤでいくらでも入っちゃう。お味噌汁は赤出汁でね、蜆が入ってるんだ。しかもご飯とお味噌汁はおかわり自由! ︎︎それで税込七百八十円はお得だよね! ︎︎お財布にも優しくて美味しいなんて最高! ︎︎もうお昼も過ぎてるし食べに行こっか。俺お腹ペコペコ~」 ――う、薄着の子? 言っている事の意味はよく分からなかったが、そこにあるのはいつもの笑顔。いつもの明るい声。 優斗はそっと胸に手を添える。その奥はじ
last updateПоследнее обновление : 2025-12-19
Читайте больше

第三十四話 束の間の休息

 腹ごしらえも終えて、次に向かったのは宿舎だ。十五階建ての臙脂色のマンションが四つ並ぶ中、二番目の建物に足を踏み入れる。そこはだいぶ古びてはいたが、リノベーションされているのか住み心地は悪くなさそうだった。 薄暗いエントランスを進み、エレベーターを呼ぶ。優斗達の部屋は十二階だ。部屋は十階までの下層に単身向け、十一階から上層がファミリー向けに作られている。優斗達は二人なのでファミリー向けの部屋が割り振られていた。実際にはファミリー向けと言っても優斗達の様にバディ同士で入居している方が圧倒的に多い。動くのに都合がいい上、家賃も抑えられるからだ。他にも職場結婚して部屋を移る例もあるとか。 部屋の割合からいって単身者が多いのだろう。陰陽寮の仕事柄、家庭を持つのは難しいのかもしれない。玲斗の様に離れて暮らす例もあるようだがそれもごく一部だ。 十二階に到着すると、エレベーターを降り一番奥、一二〇七号室の前まで辿り着く。扉は白い鉄製だ。律が鍵を取り出し鍵穴に差し込めば、それは簡単に回りガチャリと音がした。 律はにっこり笑うと弾むように声を上げる。「ここが今日から俺達の愛の巣だよ~。さ、入って!」 開かれた扉の向こうには廊下が伸びている。少し埃っぽい匂いと、微かな律の匂い。どうやら先に律の荷物は運び込まれているようだった。 靴を脱いで室内に上がると、律がそれぞれの扉を開けながら案内する。 まず最初にあるのが律の部屋。玄関から入って左側だ。窓の無い八畳程の洋室にセミダブルベッドと勉強机、それからタンス。片隅にはクローゼットがある。意外に物が少ない。勝手に散らかっている部屋を想像していた優斗は拍子抜けしていた。 だが今日が初日だ。これから散らかる可能性は十分ある。 それに何を勘違いしたのか、律は照れながら優斗の顔を覗き込む。その目に要らない色気をたっぷり乗せて。「いつでも遊びに来ていいからね。鍵は開けとくから。ベッドも新調したんだ。シングルじゃ狭いからね。俺の隣は優斗の物だよ」 それに侮蔑の表情で返すが、律は何故か喜んだ。どんどん悪い方へ拗らせている気がしてきて、優斗の背を冷や汗
last updateПоследнее обновление : 2025-12-20
Читайте больше

第三十五話 存在意義

「どう? いい感じでしょ。俺、優斗が喜ぶように一生懸命選んだんだ~。ここに優斗が座って、その隣に俺。一緒にコーヒー飲んだりテレビ観たり。楽しみだな~」 それを優斗は無言で、しかし、柔らかい表情を浮かべて眺めていた。確かに悪くない。暖かい光に包まれて、過ごす日々。それは僅かな時間かもしれないが、手を伸ばせば掴める幸せだった。「んで、こっち」 また優斗の手を取るとリビングを抜け、ソファーの後ろにある扉の前で止まって律がにこやかに笑う。「ここが優斗の部屋だよ」 そう言って扉を開けると、白い日差しが目を焼いた。リビング同様、日当たりのいい部屋だ。八畳程の広さにシックな家具が揃えられている。それは優斗の好みに合うもので統一されていた。「いつの間に……」 優斗が陰陽寮に入所すると決めたのはほんの数日前だ。それなのに既に個室が整えられている。その早業に我が目を疑った。「えへへ~。実は優斗が共切を抜いたその日の内に連絡しといたんだ~。玲斗さんにも聞きながら優斗好みの部屋にしたって訳。俺、偉い?」 胸を張る律に優斗は戦慄を覚えた。共切を抜いた日といえばほぼ初日ではないか。そんな為人さえ碌に分からない内から用意していたのか。陰陽寮の事さえ知らなかった頃に。 それが優斗の逆鱗に触れた。 身勝手に巻き込み、更には優斗の人権を無視して住居まで用意している。それは許し難い行為だった。 優斗は自分の意思で陰陽寮に入る事を決めた。  しかしそれはあくまで結果論なのだ。 先回りして周りが勝手に決めていい事では無い。「なんで……僕が陰陽寮に入る事を決めたのはつい先日だ! それを勝手に決めて準備していたっていうのか!? ふざけるな! 僕の意思はどうでもいいのか!?」 いきなり大声を上げる優斗に律は驚きを隠せずにいた。落ち着かせようと肩に手を置き笑顔を向ける。「優斗、落ち着いてよ。俺、優斗が喜ぶと思って頑張ったんだよ? 玲斗さんや情報部と連絡取り合って、準備したの。だって優斗は選ばれた人だもの。俺の特別な人。その人のためな
last updateПоследнее обновление : 2025-12-21
Читайте больше

第三十六話 光に忍ぶ闇

 乱暴にバッグと共切を投げだし、優斗はベッドにダイブする。枕に顔を押し付けて流れる涙を拭った。扉の外からは未だに悲痛な泣き声が聞こえる。 ――今更だ。 律が優斗に執着するのは共切が抜けるから。自分自身に興味がある訳じゃない。優斗に向けられる笑顔も、明るい声も、優斗をすり抜け共切を見ている。 父だって、共切が抜けなければ仕事の内容を知らせる事も無く、ただ玩具を与えるだけの上っ面な親子関係だっただろう。情はあるだろうが、愛があるのかは分からない。母との馴れ初めも聞いた事が無く、あの父と優しい母との接点はいくら考えても思い浮かばなかった。もしかしたら、共切の継承者の器を欲したのかもしれない。玲斗の妖刀は序列二位だと言っていた。その子供ならあるいは。玲斗が優斗を推薦したのもその可能性があったからではないのか。 東や小路もただの子供に興味を示すはずもない。共切が抜けたからこそ丁寧に対応してくれただけだ。 それなのに、優斗は突如訪れた非日常をまるで小説を見ているような気分で捉えていた。唯一無二の武器に選ばれ、秘匿された組織に勧誘される。それは何度も読み返した物語のようで、優斗は心の奥底で優越感に浸っていたのだ。 化け物との戦いも、初めは恐怖を感じていたが次第に興奮へと変わっていった。佐竹が喰われた時も、間近で感じた血と臓物の匂いと化け物に対する嫌悪感で嘔吐し、律を詰ったがそれと共に快感も覚えていた。現実味の無い空間。戦い。そのどれもが刺激的だった。 慎ましやかな日々を安穏と暮らし、その他大勢の中にあって、一人を選ぶ事で人とは違うと自尊心を満たしていたのだ。 そんな中で律と出会い、日常は一変し、やはり自分は人とは違うんだと感じた。警察官を目指したのも市民を守るという名目の元、他者を弱い者として扱う驕った考えが燻っていたから。 ヒーローなんてガラじゃない、なんてどの口が言うんだ。実際にはヒーローを気取って、ありもしない紛い物の正義を振りかざしていただけじゃないか。佐竹も、本当に助けたかったのか? 喰われる様を見て、自分より恵まれた奴が惨たらしく死ぬ事に愉悦を感じ
last updateПоследнее обновление : 2025-12-22
Читайте больше

第三十七話 闇に咲く光

 扉の外では、未だに律が蹲り泣いていた。優斗が何故怒ったのか理解できずに。 優斗は今までも度々怒りを顕にする事があった。しかし、今回はどこか違う。何が違うのか律には分からず泣きじゃくるしかできずにいる。「優斗……優斗ぉ」 何度も声をかけるが返事は無い。 何がいけなかったの? 俺が嫌いになった? こんなに、こんなに好きなのに。 自分の願いを叶えられる唯一の人。大事な大事な優斗。こんな気持ちは先代の共切所有者にも抱いた事は無かった。 一緒にいるだけで心が満たされて、脳内を覆う霞が晴れる。手を繋げば胸が高鳴って顔が綻ぶ。その時間は闇を歩いてきた律にとって掛け替えの無いものだった。 律が陰陽寮に来たのは八歳の時だ。家族が喰われ、身寄りの無かった律を玲斗が保護し、連れ帰った。それからは同じ境遇の孤児が集められた施設で過ごし、情報部の手伝いをしながら仕事について学んだ。剣術を身につけ始めたのもその頃だ。そこで戦いの才覚を現し、特務部に異動になった。まずは弱い妖刀から慣らして、主な相手は妖蟲。妖蟲と一口に言っても大小様々だ。数だけは多い妖蟲相手にも仲間達は見る間に減っていく。妖蟲が喰らうのは人の霊力だ。実体を持たない妖蟲だが霊力を喰い尽くされてしまえば死に至る。一緒に育った友人もこの時ほとんどが死んだ。しかし、そんな中で律は支部を転々としながら瞬く間に出世街道を駆け上り、いつしかその手には御代月が握られていた。 それはほんの十二歳の時だ。その時点で上位十傑の最年少。周りは大人だらけで、好奇の目で見られた。体にそぐわない大太刀を振るう姿は神秘的でもあり、中には性の対象として近づいてきた輩もいる。男も女も。あどけない少年が殺伐とした現場にいるのだ。それも無理からぬ事だと律は他人事の様になされるがまま、その身を委ねた。愛情が欲しかったのかもしれない。だが、体を重ねた大人達は事が済めば見向きもせず、都合のいい時だけ律を求める。その人達も殆どが死んだ。 現場でもそれは同じで、若い内から序列五位という強い力を持つ御代月に認められた律は凄惨な現場を多く体験してきている。いつ
last updateПоследнее обновление : 2025-12-23
Читайте больше

第三十八話 涙の跡

 静寂の中、控えめなノックの音が響き、優斗は目を覚ました。いつの間にか寝ていたようで、窓の外は既に暗い。のそりと起き上がり、目を擦る。泣きながら寝ていたせいか、頭がぼぅっとし、視界は滲みまだ涙が残っていた。 辺りを見回せば見慣れぬ景色。あぁ、そうか、と記憶が追いつく。自分は故郷を離れ、見知らぬ土地に来ていたんだったと。そこで父と再会し、己の立ち位置を思い知らされた。勘違いして有頂天になり、叩きおられた心。俯き拳を握ると、また涙が込み上げてくる。 そこに再度ノックが響いた。 その音に慌てて涙を拭うと、返事を返す。すると安堵の気配と共に、気遣う呼びかけが聞こえてきた。「優斗、あの、ご飯ができたよ。食べよ?」 そう言う律の声は掠れていて、あの後も泣き続けたのだろう事が窺い知れた。それを思うと罪悪感で胸が締め付けられる。 優斗を馬鹿にしてきた奴らとの殴り合いの喧嘩は何度も経験したが、友人と認識した人との喧嘩は初めてだ。それは優斗の勘違いであったが、傷付けたという思いは強く、顔を合わせるのが怖い。優斗は枕を握りしめ逡巡したが、意を決してベッドから降り、律の元に向かうと扉を挟んで立ち、ひとつ息を吐いて薄く開く。そこには目を腫らした律がいた。優斗の顔も酷いもので、しばしお互いを見つめあう。しかし、絡まった視線はいつしか彷徨い、口篭もった。気まずい空気が間を漂い、すぐ近くにいるというのに遠く感じる。 それを振り切るように口を開いたのは律だ。赤い目を細めてぎこちなく微笑み、優斗を誘う。「ご飯、食べよ。一緒に。お風呂も沸いてるよ」 そう言って優斗の手を取るが、その手はびくりと揺れて振りほどかれた。律は息を呑むと眉を垂れ、また泣き出しそうな顔をする。それから目を背けて律を押し退け、逃げる様にダイニングへ向かうと後ろを足音が追ってきた。 食卓に着くと、律がサッと回り込み椅子を引いて優斗を席に促す。一瞬、足を止めたが頭を振ると優斗はその席に座り、律も向かいの席に収まった。 黙ったまま向かい合わせに座って、ほかほかと湯気を立てる親子丼を前にする。その手前には青い箸が几帳面に並んでいた。「優
last updateПоследнее обновление : 2025-12-24
Читайте больше

第三十九話 すれ違う想い

 お互いに何を言えばいいのか分からない。律は昼間あれだけ無駄な話ばかりしていたというのに、今はもそもそと親子丼を口に運んでいるだけだ。それでもちらちらと優斗を気にしていた。 優斗も無言で箸を動かしている。食器の鳴る音だけが場を支配する中、律が躊躇いがちに口を開いた。「お、美味しい?」 それに「ああ」と言う短い返事が返る。それだけでも律は喜び頬を染めた。そして、勇気を振り絞って語りかける。「あの、優斗。ごめんね。俺、何かしちゃったんだよね。俺、馬鹿だから気づかなくて、優斗に嫌な思いさせちゃった。これからは気をつけるから、だから、嫌いにならないで」 潤む瞳で訴える律のその言葉に、優斗は苦い思いで首を振った。「いや、馬鹿だったのは僕の方だ。お前が寄せてくれる好意を勘違いしてた。でも、もう間違えない。それに部屋の事も。せっかく用意してくれたのに怒鳴って悪かった」 静かに頭を下げる優斗に違和感を覚えた律は戸惑い、喉の奥が痞て上手く言葉が出てこない。それでもどうにか気持ちを伝えようと力を込める。「勘違い? ︎︎なんで? ︎︎俺は優斗が好きだよ。何も間違ってない。君が謝る必要なんて無いよ。部屋も俺が勝手にしたのがいけないんだ。気に入らなかったよね。ごめんなさい。でも、怒られたって、何されたって優斗なら嬉しいの。殺されたって、嬲られたっていい。優斗が喜ぶなら何でもするよ。ご飯だって頑張るし、気持ちいい事も俺ならできるもの。何でも言ってよ。俺は優斗のためにいるんだから」 そう言ってみても、優斗は顔を上げない。そして、消え入りそうな声で囁く。それは震えていて、絞り出すような声だった。「違う……お前が好きなのは共切だ。僕じゃない……。僕の価値は共切だけ。大丈夫。もう分かってるから。教習もちゃんと受ける。安心しろ」 それでも律は追い縋る。まるで置いて行かれる子供のように。「どうして? 俺は優斗が……」 しかし、その声は激しく叩きつけられた拳に遮られた。律は驚き身を縮める。それにも構わず優斗は叫んだ。泣きながら、思いの丈をぶつける。
last updateПоследнее обновление : 2025-12-25
Читайте больше

第四十話 想いの行方

 律が風呂から上がると、ダイニングに優斗の姿は無かった。キッチンを覗けば流しの水滴も丁寧に拭かれ几帳面に片付けられている。それは優斗の性格を表していて、口は悪いが真っ直ぐで真摯なんだと律は思う。 視線の端に食卓が映り、足を向ける。優斗が座っていた席を一撫でして先刻の事を思い出す。共切だけが自分の価値だと泣いた優斗。律にはそれが理解できなかった。優斗が共切を抜いたのは間違いの無い事だ。それは覆しようのない事実。それだけではいけないのか。優斗が共切を抜けなければ、なんてタラレバは律にとって意味が無い。共切を抜いた時点で優斗は特別な存在だ。 ――唯一無二の、俺の大切な人。 今は無人の席を愛しげに見つめ吐息を漏らすと、それだけで体の奥が熱を持つ。だが、優斗はそんな気持ちを否定した。律が好きなのは自分では無く、共切だと言って。そこが律には分からない。優斗と共切は同一と言っていい。優斗がいなければ共切も無用の長物だ。ただ飾られるだけの骨董品。それを優斗が振るうからこそ価値がある。 律にとってはそれが一番重要な事だった。先代が死んで良かったとさえ思っている。 先代が死んだのは二年前。若くして亡くなった先代は享年十九歳で、律も幾度か会った事のある青年だが、なんの魅力も感じなかった。共切を手に戦ったのはたったの一年という短い期間。それから優斗が手にするまで共切は主人を選ばず、どれほど腕の立つ継承候補者にも抜けなかったのだ。律も御代月の使い手として念の為と試されたが、ビクともしなかった。 共切はとある血筋に強く惹かれると言われている。それは初代の末裔達。先代も分家の血筋だった。継承候補者達も、その一族から選ばれているという。本家の共咲家、分家の観咲家、獅咲家が筆頭御三家。小堺家も遠縁に当たるらしい。血は薄いが、優斗にも十分資格があった訳だ。 玲斗も例に漏れず、血を受け継いでいるため共切を試した。なにせ序列二位の満影の所有者だ。期待されていたようだが、それは果たされずに終わる。祖父の哉斗は婿養子で一族の血は引いていない。そこで唯一残されたのが優斗だった。 しかし、優斗は何も知らされていないただ
last updateПоследнее обновление : 2025-12-26
Читайте больше
Предыдущий
1234568
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status