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第四十一話 孕む熱

 しかし、その想いは日が経つにつれて変わっていく。友ではなく、愛しい人へと変化していったのだ。それは頭塚で律の笑顔を願ってくれた時に決定的となった。 例えそれが自己満足から来るものだとしてもいい。優斗が好きで好きでたまらない。ひとつに繋がりたい。想いは募るばかりで、真っ当な恋愛などした事が無い律は強引に迫った。優斗は抵抗したが、体格はこちらが上。いとも容易く組み敷いた。だがそれは邪魔が入り未遂に終わる。それならば家でと楽しみにしていたのに。 深い溜息が漏れ、律の思考はまた巻き戻る。視線を移せば固く閉ざされた扉。すぐ近くにいるのに、触れる事さえできない。昼間は受け入れてくれた手も振りほどかれてしまった。その手をじっと見る。 ――暖かくて、小さくて、可愛い手だったな。 そして、手の甲、優斗が口付けた傷跡をなぞり、頬ずりする。優斗がくれた唯一のもの。自分の体だというのに愛しくてたまらない。 ――好き、好き。大好き。 なんと言われようと、律は優斗を離さないだろう。優斗と共切は一心同体。どちらが欠けても意味が無くなってしまう。どんな敵からも守ってみせる。盾になる事だって厭わない。優斗が生きていてくれる事が律の幸せだ。 しばらくは一緒にいる事は叶わない。明日も、仕事で早朝から出なければならなかった。でも、それもさっさと片付けて帰ってくるんだ。そして、ちゃんと好きだって伝えよう。何度も言えば分かってくれるはずだ。そうすれば繋がる事ができる。恋を知らない律にとって、それだけが愛情の全てだった。 ひとつ頷いて、心を強く持つ。時計を見れば十九時を回っていた。優斗を風呂に入れなければ。風呂もまた陰陽寮で働く者にとって貴重な時間だった。時に何日も化け物狩りに明け暮れ、風呂に入れず過ごす事は少なくない。とてとてと優斗の部屋へ足を運び、扉をノックする。すると返事が返った。「優斗、お風呂空いたよ~。いいお湯だったよ。汗もかいたから気持ち悪いでしょ? ︎︎さっぱりしておいでよ。今度は一緒に入ろうね」 務めて明るく振る舞う律の声に、しかし返ってきたのは短い返事。折れそうになる心を笑って誤魔化した。「タオルとかは
last updateПоследнее обновление : 2025-12-27
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第四十二話 静かな食卓

 翌日六時半。  優斗が起き出してきた時には、既に律は出かけた後だった。顔を合わせづらかった優斗は、少しの安堵と寂しさを感じる。 日差しを感じて窓の外を見れば、ベランダには洗濯物が干されていて、朝の短い時間でここまでやってくれたのかと驚いた。食卓に目を移せば、ラップのかけられた朝食がぽつんと用意されている。ワンプレートに目玉焼きとベーコン、付け合せのじゃがいも、コンロの上の鍋にはかぼちゃの味噌汁。以前は肉や揚げ物だけだった料理が進化していた。本当に優斗のために努力しているのだろう。嬉さと同時に、申し訳なさが込み上げる。 それらはまだほんのり温かく、律が出かけて程ない事が分かった。炊飯器の保温されたご飯を茶碗に盛り、席に座る。そこは初めての誰もいない食卓。正面に座るべき人も、今はいない。それを拒絶したのは優斗自身だ。 勘違いしていたとはいえ、律は大切な友人になっていた。守りたいと、大事にしたいと思えるような。だがそれは上から目線の、不遜なものだった。しかし、共切を手にしている間は律も自分を好いてくれる。父も陰陽寮の皆も。それだけが故郷を離れた優斗に残された道だ。今更帰る事もできない。 また滲んでくる涙を強引に拭い、優斗のために用意された青い箸を手に取る。これも律が選んでくれた物だ。昨夜礼を言うべきだったのに、自分の事で精一杯でそんな事すらできなかった。届く事は無いが手を合わせ、今はいない相棒に感謝の言葉を呟く。 朝食をしっかりと味わい、身支度を整える。歯磨き粉や歯ブラシまで今まで使っていた物と同じで驚いた。どこまで調べたのだろう。それを考えると自然と笑みが零れた。鏡に映った顔を見て嬉しく思う自分にも驚く。気恥しくなって顔が熱い。気を紛らわせるようにガシガシと歯を磨いて洗面所を出た。 部屋に戻ったらクローゼットを開き制服を取り出す。情報部に指定された服装は制服だ。学生が昼間から外を歩くにはそれなりの理由が必要になってくる。それも制服ならどうにでも言い訳できるだろう。男子の夏服など、どこもそう変わらない。特徴的な制服なら別だが、大体が白いシャツに黒いズボンだ。律のように転校でもしない限りは今までの制服で事足りた。 部屋着から制服へと着替えた優斗は
last updateПоследнее обновление : 2025-12-28
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第四十三話 試練の始まり

 陰陽寮に着くと、父に言われた通りエレベーターで三階に上がる。建物内は昨日と変わらず閑散としていた。本当に人が働いているのか不審に思ったが、皆自分の仕事に追われているのだろう。 エレベーターが開けば両側に部屋が並んでいる。扉の上には各部署の名前が刻まれていた。それを見ながら会議室を探す。しばらく道なりに進むとそれは見つかった。プレートには第五会議室の文字。ノックをしたが返事は無い。まだ教員が来ていないのだろうか。腕時計を見ると、八時前。指定された時間は八時半だ。確かにまだ時間に余裕があった。辺りを見回すが誰もいない。入っていいものか逡巡するが、父に言われた事だ。ここで間違いは無いだろう。そう考えてドアノブに手をかけた。鍵はかかっていないようで容易く回る。それを押し開けばそう広くない室内に十数個の机が並んでいた。やはり誰もいない。教習を受けるのは自分一人なのだろうか。この時間に誰もいなければその可能性が高かった。 それならば後ろに行っては話も聞きづらいだろうと、取り敢えず一番前の席に座る事にした。他に誰か来たとしても席は余っている。文句を言われる事は無いはずだ。教習がどんな内容なのかは分からないが、念の為用意してきたノートと筆記具をリュックから取り出す。 そして数十分、ぼーっとして考えるのは律の事だ。 ――今日の仕事ってどんなものなんだろう。無事に帰って来るのか……死んだりしないよな。あれだけ強いんだ、大丈夫。帰りは僕の方が早いかもしれないな。だったらまずはお風呂の準備をして、それからご飯……食材も買わないと。 そんな考えに浸っていると、静まり返った部屋の扉が乱暴に開かれた。優斗はその乱入者に驚いて思わず凝視してしまった。そこに立っていたのは白衣を来た女。三十前後だろうか。ワンレングスの黒髪をフェイスラインで切り揃え、細めの銀縁眼鏡をかけている。唇は白い肌に映える赤い口紅が引かれ、目元もキツい青が彩り、長いまつ毛が縁っていた。ともすればケバケバしくなるその化粧も、女の魅力を引き出すひとつの要素となっている。 その身を包むのは所謂ボディコンと呼ばれるピッチリとして露出度の高い服だ。その真っ赤なワンピースはグラマラスな体型によく似合っていた。大きく開いた胸元
last updateПоследнее обновление : 2025-12-29
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第四十四話 腐臭の巣

 女は腕を組むと居丈高に名乗る。腕に胸が乗って、更に強調された。「私は座学を担当する、研究部の長谷部幸乃だ。まず初めに言っておく。正義感だの使命だの、甘っちょろい考えは捨てる事だ。ここにあるのは血と、肉と、憎悪の腐臭だけ。貴様は人間の醜さを知る事になるだろう。だが、逃げる事は許されない。共切というこの世で最も恐ろしい化け物に気に入られたんだからな」 共切を化け物と言った長谷部は、赤い口元を歪ませ笑う。まるで虫を玩具にする子供のような、無邪気で残酷な笑み。 長谷部は更に続ける。「自分の運命を呪え。泣き喚くがいい。それでも貴様に残されているのは修羅の道だ。貴様の血肉は我らの叡智となる。化け物との戦いだけでは無い。人間も、貴様にとっては敵となるだろう。この後に待っているのは人体実験だ。貴様の血を抜き、肉を抉り、腹を裂いて共切の餌となる要因を調べる。先代は碌に役に立たなかったからな。あぁ、楽しみだ」 長谷部は恍惚とした表情で優斗を見下ろす。頬を染め、瞳を潤ませて身を捩る。それは情事を思わせる色気を纏ったもの。しかしそれ以上に狂気を孕んだ異様な目つきに、優斗の背は粟立った。 人体実験なんて聞いていない。律も父も、そんな事は言ってなかった。もしかして知らなかったのか。当たり前すぎて言わなかったのか。その辺りは優斗には判断がつかないが、今更文句を言っても始まらない。力に溺れた自分にも責任があるのだから。しかし、血液検査や細胞の提供くらいなら我慢できるが、腹を裂かれるなんて真っ平御免だ。優斗はダメ元で抵抗を試みる。「あの、腹を裂いたりしたら、仕事にも影響が出るんじゃないですか? ︎︎傷が治るまで仕事ができないんじゃ僕の……共切の意味が無くなります」 その言葉に、長谷部は眉を上げる。気に障ったか。優斗は怯んだが、それに反して長谷部は愉快そうに鼻を鳴らした。「ほう。言うじゃないか。それに自分の価値をよく分かっている。そう、貴様の価値は共切だ。それが無ければただのガキに過ぎない。まぁ、現代医学ではわざわざ腹を裂かなくとも、中身は見えるからな。なんともつまらん。脳も割って見たい所だが、使い物にな
last updateПоследнее обновление : 2025-12-30
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第四十五話 闇に棲むモノ

「序列の話は聞いたな? ︎︎この序列は使われた妖魔の力に準ずる。序列が上がるほど、強力な妖魔が使われたという事だ。そしてこれが示すのは、殺す事が可能なのは序列が下のものだけということに通じる。貴様の相棒である律が持つ御代月ならば、序列五位以下の妖魔しか殺せないという訳だ。それ以上の力を持つ妖魔は傷つける事はできても、殺せはしない」 それは律も言っていたな、と思い返す。だから家族の仇を打つためには共切が必要だと。長谷部は少しの溜息を混ぜながら更に続ける。「だが、強力な妖魔を捕らえるには、それに見合った力が必要になる。これが中々に難しい。捕縛の任務が与えられた時は覚悟しろ。鍛える刀鍛冶の力量もそうだ。妖魔を鍛刀に使うには、通常の刀を造るのとは温度も工程も全く違う。妖刀を鍛える事のできる刀鍛冶の数も減ってきている。そのせいで新造も覚束ず、妖刀の数は妖魔に対応するには決して多いとは言えない。折れる事も多々あるからな」 長谷部は溜息を吐きながら続ける。「現存する妖刀は百七十五振。序列は七十位まである。一番多い序列が五十位前後。それ以下の序列では現場で役に立たない。そして、その妖刀に認められた者だけが使い手となる。下位の妖刀であれば、ほぼ誰でもリスクなく抜けるが、上位ともなれば人を選ぶ。境界は序列三十位と言ったところか。そのクラスになれば班長を任される。まぁ、共切とは違って、妖魔を使った妖刀は誰にでも抜けるが、認められなければ……」 そこで口を閉ざし、首をなぞる。それは死を意味していた。優斗は息を呑む。それを満足気に見ると、蓋ふぁび口を開いた。「つまり、鬼を殺すには鬼を素材に使った妖刀を用いる必要があるという事だ。それを実現したのは共切ただ一振のみ。鬼は童子ともなれば数も少なく、捕らえるのは容易では無い。鬼と一口に言ってもレベルは様々だ。下は餓鬼から上は童子まで多種多様。しかし雑魚を使った所で弱くては本末転倒だ。共切もどうやって造られたのか分かっていないからな。かろうじて平安に造られただろうと予想されるくらいか……」 その声には、研究者らしい興奮と冷静さが内包されていた。「そして、共切は他の妖刀と違って一人にしか抜けない。これが大きな違いだ。選ば
last updateПоследнее обновление : 2025-12-31
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第四十六話 第一の試練

 長谷部に連れられてやってきたのは、一階の医療部だ。エントランスの自動ドアを潜ると、途端に騒がしくなった。病院独特の匂いが充満し、少しの緊張が走る。そこでは多くの人が行き交っていて、他の部署とは全然違う様子に優斗は唖然とした。そんな優斗を見て、長谷部は弾んだ声を上げる。「ここは陰陽寮で一番の修羅場だからな。妖魔との戦いで怪我人は絶えない。怪我の内容も様々だ。毒を喰らう者、腕を喰い千切られた者、目を抉り取られた者。血を抜き取られミイラ化した者もいたな。貴様も、その内世話になるだろう。その時は、生き残れるといいな」 そう言う長谷部の目は笑っていなかった。そこにあるのは実験体に対する興味だけ。生きるか死ぬか。それはただの過程に過ぎなかった。例え死んだとしても、利用価値はいくらでもある。大手を振って解剖できるのだから。それも全ては共切を次代へ繋ぐため。いや、それも詭弁か。ここにあるのは未知に対する飽くなき探究心。残酷なまでの知的好奇心。どんな手を使ってでも暴きたいという、自分本位な嗜虐心。それらが綯い交ぜになった吹き溜まりだ。己を過信した自分にはお似合いの場所だろう。優斗は自嘲すると、先を行く長谷部に続いた。 辿り着いたのはロッカールームだ。縦長の部屋には、無機質なロッカーがずらりと並んでいる。長谷部はその片隅に積まれた袋をひとつ取り出すと優斗に投げて寄越す。「それに着替えろ。下着も全部脱げ。さっさとしろよ」 それだけ言うと部屋を出ていってしまった。袋を開けて中を見れば、一揃えの検査衣。優斗は手近なロッカーを開け、持っていたリュックと共切を放り込むとシャツのボタンに手をかける。着替え自体はすぐに終わった。薄い水色の脇の開いた貫頭衣と半ズボンだ。しかし、下着も脱ぐよう言われたので下半身がスースーして落ち着かない。透けて見えないかも気になってしまい、部屋から出るのが躊躇われる。若干腰が引けながらロッカールームから出ると、長谷部が仁王立ちして待っていた。「遅い! ︎︎これが現場なら貴様の命は無いと思え。時間は財産だ。一分一秒が生死を分ける。覚えておけ」 厳しい叱責に身を縮める優斗を尻目に、長谷部は踵を返し次の部屋へと向かう。優
last updateПоследнее обновление : 2026-01-01
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第四十七話 羞恥

 真っ白い廊下を歩く事数分。長谷部が足を止めたのは小さな部屋だ。引き戸を開けると、一人の看護師が待っていた。モッサリとした前髪に目が隠れた猫背の青年は顔を上げ近寄ってくると、間延びした口調で話しかける。「長谷部さぁん、お待ちしておりましたぁ。彼が優斗くんですかぁ? ︎︎小さいですねぇ。かぁわいいぃ」 そう言いながら優斗を覗き込んできた。その言葉に優斗はムッとして睨み返す。確かに同年代と比べると小さいが、まだまだ成長期だ。律がデカいだけで、いつか追い抜くことも十分あり得る。 そんな優斗の葛藤には気付きもせず、大人達の会話は続く。「坂下。後は頼む。私は研究室に戻るよ。何かあったらすぐ知らせるように」 坂下と呼ばれた青年も、勝手知ったるといった様子で返事をする。「はいはぁい。了解ですぅ」 そして長谷部は優斗を残して去っていった。取り残された優斗の手を、坂下が握り上下させる。「初めましてぇ。僕は坂下亘だよぉ。よろしくねぇ。じゃぁ、優斗くん。こっち来てぇ。まずは身体測定からだよぉ」 手を引かれて部屋に入ると、学校でも見知った用具が並んでいる。身長や体重、体のサイズ測定から握力等の身体能力まで一通り計られた。普通の身体測定に優斗がほっとしていると、坂下が隣の部屋に通じる扉を開く。「はぁい、じゃあ次はこっちだよぉ。注射は大丈夫だよねぇ? ︎︎血液採取と尿検査、脳波測定に後はCTにMRI、心電図……ちょっと大変だけど頑張ってぇ」 その後は色々な部屋を巡り、ありとあらゆる検査を受けた。ひとつひとつの検査に時間がかかり、昼食も取らずに連れ回され、へとへとになった頃、やっと終わりが来る。 しかし、それは優斗の尊厳さえ踏み躙るもので。「んじゃ、最後ねぇ。試験管に精液出してきてぇ」 にこやかに渡されたのは、理科の実験でも馴染みの細長い透明な試験管。しかし、聞こえた単語に頭が真っ白になった。「え……? ︎︎今……なんて?」 聞き間違いを期待して尋ねるが返ってきたのは無情な言葉。「ん~?
last updateПоследнее обновление : 2026-01-02
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第四十八話 ひとりの夜

 息咳切って部屋まで帰るとドアノブを回す。しかし、それは期待を裏切り音を立てて止まった。数度繰り返すがガチャガチャと鳴るだけで開く事は無い。落胆に溜息を吐き、鍵を取り出す。扉を開いた先は静寂に支配されていた。誰もいない部屋は夏だというのに寒く、一人だという事を思い知らされる。自室で着替えて風呂の準備をした後、洗濯物を取り込んで夕食に取りかかった。 ――昨日は親子丼を作ってくれたから、そうだな……うん。今日は生姜焼きにしょう。味噌汁も朝の残りがあるから、それも一緒に。 作るのは勿論二人分だ。実家では母の手伝いもしていたから簡単な料理くらいは作れる。 米を研いで炊飯器に入れたらスイッチを押して炊飯開始。冷凍庫から豚肉を取り出しレンジで解凍して、その間に玉ねぎをスライスして調味料を用意する。フライパンを熱したら油を引いて豚肉を投入し、粗方火が通った所に玉ねぎも加えて炒め、焼き色がついたらしょうゆとみりん、おろし生姜を合わせた調味料を絡めて完成だ。 品数は少ないが食材が足りないので仕方が無い。明日にでも買い出しに行かなくては。その頃には律も帰ってきているかもしれない。そしたら一緒に行こう。そんな事を考えながら一口味見をした優斗は満足気に頷き、生姜焼きを皿に盛り付け食卓に運ぶ。ご飯は帰ってから盛り付けた方がいいだろう。律の箸を取り出して並べると少し気持ちが軽くなった。 時計を見ると十九時を回っている。玄関を窺うが律の気配は無かった。 ――遅くなるのか。連絡も……無い。 スマホを確認してまた落胆する。一人で食べる生姜焼きは味気なかった。 食事を済ませたら食器を片付け洗濯物を畳んで、掃除機をかけ一通りの家事を熟す。律の洗濯物をどうしようか悩んだが部屋に置いてくる事にした。ドアノブを回すと簡単に開く。鍵をかけないと言っていたのは本当だったのか。優斗は薄く笑った。ベッドの上に洗濯物を乗せると閑散とした部屋を見渡す。ここに朝までは律がいたのにその気配は既に無い。ベッドに腰掛け横になると微かに律の匂いがした。それはとても落ち着くもので優斗は切なくなる。 ――会いたい。 優斗は素直にそう思った。律の笑顔、笑い声。そして最後に見
last updateПоследнее обновление : 2026-01-03
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第四十九話 鳴らないチャイム

 風呂から上がって、ダイニングを覗いても食事は手付かずのままラップに包まれて食卓の上に乗っている。律はまだ帰っていないのだから当たり前の事なのに酷く辛い。時計を見ればもう二十一時だ。いつ帰って来るか分からない以上、こうして食卓に出していても暑さで痛むだけ。   生姜焼きを冷蔵庫にしまうと、それの代わりにメモ用紙にその旨を書いて律の席に置いた。優斗の部屋はダイニングの横だ。帰ってくればすぐに分かるだろう。 優斗は部屋に戻り机に向かうとノートを取り出して勉強を始める。いくら陰陽寮で働くと言っても最低限の教養は身につけるようにと課題を出されていたからだ。今日の科目は数学。それに合わせて問題集と参考書を渡されていた。  苦手な科目に嫌々ながらも生真面目な優斗はペラリとページを捲る。そこにあったのは既に習い見慣れた数式だったので安堵の息を吐き、ひとつひとつ解いていった。  しかし、その間にも時計の音がやけに大きく聞こえて気が逸れる。幾度となく時計を見ては溜息を吐いた。そのせいでページは遅々として進まない。 結局、指定された課題を終える頃には0時を過ぎ、それでも律は帰ってこなかった。 翌朝五時半。  スマホのアラームより先に目を覚ました優斗は、逸る気持ちを抑えダイニングに向かう。だが、そこにあったのは昨夜と変わらぬ風景。食卓の上にはメモ用紙だけが虚しくその存在を主張していた。  優斗は項垂れながら顔を洗い、洗濯機を回すとキッチンに向かい冷蔵庫の生姜焼きを取り出す。律のために用意した物だが残すのは勿体ないと朝食にした。レンジで温め直し、昨夜余った律の分のご飯を卵炒飯にする。さつまいもで味噌汁も作った。  一人の食卓に座り手を合わせると定食屋での事が嫌でも思い出される。それはほんの一昨日の事なのに遠い昔のようだ。誰もいない席を虚ろな目で眺める。 優斗に律の仕事の内容は知らされていなかった。今何処で何をしているかさえ分からない。無事なのだろうか。怪我はしていないだろうか。何度確認してもスマホに連絡は入っておらず、不安ばかりが増していく。
last updateПоследнее обновление : 2026-01-04
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第五十話 陰陽の徒

「それでは本日の教習を始める」 そう言って教壇に立つのは昨日と変わらず長谷部だ。今日は青いブラトップと白のホットパンツというまるでレースクィーンの様な格好でふんぞり返っている。白い腹と長い素足をこれでもかと見せつけるその格好は優斗の中で既に露出狂認定されたいた。耳元と臍にはピアスが輝いている。研究者にはとても見えない出で立ちだ。夏でもクーラーの効いた部屋では風邪をひきやしないかという格好で長谷部は声高に講義を始める。「本日の講義は陰陽寮について。陰陽寮は全国に支部がある。釧路、青森、東京、島根、愛媛、宮崎、沖縄。計八ヶ所。京都が本部となる。この中でも特に北海道や九州は激務だぞ。少ない人数で全てをカバーしなければならんからな。その分人員は多めに確保されてはいるが所詮焼け石に水。殉職率は年々増加の一途だ。昔はもっと各地方にも支部があって活気に満ち溢れていた。それが時代の移り変わりと共に減っていき、今ではたった九ヶ所のみだ」 長谷部はどこか遠い目をして昔を懐かしむように目を細める。それを断ち切るように頭を振ると解説に戻った。「次に各部署だ。まずは私の所属する研究部。ここでは日夜実体化した妖魔の解剖を行い、その謎を追い求めている。何を持って妖魔たらしめるのか? ︎︎その肉を血を骨を切り刻み闇の深淵を覗く。それが私達に与えられた快楽だ。妖魔のサンプルは貴重だからな。余す事無く細胞レベルで分解する。これが何故か人の細胞にそっくりなのだ。実に興味深い。血液型もあり形態や性格で違う。主にA種とB種に別れ人型を取るモノにはA種が多い。DNAの採取は手間取っていて……そうそう。一度だけだが生きたまま解剖した事があってな。面白かったぞ。結界で手術台に貼り付けて動けなくして、勿論麻酔なんぞしない。霊体のくせに一丁前に痛覚はあるから泣き叫ぶんだ。それをメスで嬲るように裂いて、内蔵をひとつずつ引きずり出してやった。あぁ、思い出しただけでゾクゾクする」 長谷部は愉悦に顔を歪め嗤う。それは一種の色香を伴い優斗の背は粟立つ。こんな狂った言動にも性的興奮を覚える自分も大概だ。自嘲しながらも疼く下腹部から気を逸らし講義に集中した。そんな優斗の心情などお構い無しに長谷部の演説は続く。「
last updateПоследнее обновление : 2026-01-05
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