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All Chapters of 闇より出し者共よ: Chapter 61 - Chapter 70

72 Chapters

第六一話 共に生きる場所

 様子のおかしい長谷部を見送った優斗は昼食を取るために部屋を出た。すると頭上が騒がしく、バタバタと足音が響いている。会議室は防音が施されていて今まで気付かなかった。何事かと思ったが自分にはなんの報告も無いのだから関係ないのだろう。そう捉えてエレベーターへ向かう。 しかし、上の騒動は昨夜の襲撃から帰還した隊員達への対応のために奔走する情報部だ。四階には司令部があり治療の済んだ隊員がそこに集められて事情聴取が行われていた。突如現れた伽陸と言う人物。そして蠱毒で生み出される妖魔について。その事情聴取には勿論律もいた。すぐそこに律がいる事も知らずに優斗は外へ出たのだった。 向かうのは律に教えて貰った定食屋「亭八」だ。美味しかったのも勿論あるが少しでも律の存在を感じたかった優斗の足は自然と亭八へと向いていた。暖簾を潜るとまだ昼時には少し早い時間なのもあり客はそう多くなく、優斗は以前律と座った席につく。 周りを見ればちらほらとスーツ姿の客も見受けられた。この中にも陰陽寮の所員はいるのだろうか。ここは陰陽寮から数分の場所だ。昼に出てくるには丁度良さげだが建物内の様子を考えると弁当派が多いのかもしれない。そんな事を考えていたら女将さんがお冷を持ってきてくれたので唐揚げ定食を頼んだ。この時間に学生が定食屋にいるのは少し不自然だが、女将さんは何も言わず注文を聞き厨房へと戻って行った。 食事が運ばれてくるしばしの時間、優斗は自分の手を見る。そこには肉刺が潰れて固くなった掌があった。優斗の努力の賜物だ。それを見ながら優斗は午後の講義に思いを馳せる。 午後からは武術訓練に参加する事になっていた。座学とは違い、他の特務部隊員と一緒だ。故郷では剣術の鍛錬は祖父と二人だけだったから手合わせするのが楽しみでもある。人の数だけその癖も変わるのだから実戦では経験がものを言う。優斗は実家の手伝いのために部活にも入っていなかった。 体育の授業で剣道はあったが優斗が嗜んでいたのは剣術だ。スポーツと実戦的な武術では勝手が違う。しかも素人が相手なのだ。実績には程遠い。それに陰陽寮では剣術だけではなく格闘術も学べると聞いていた。 妖魔を相手取るための、言い換えれば殺すための技。優斗の手は震えた。しかしそれは恐怖からでは無い。力を手にする事に歓喜し
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第六二話 共依存

人は誰しも特別に憧れる。物語のヒーローやヒロイン、一攫千金のアメリカンドリーム。そういった物にだ。だが実際その立場に立たされると怖気付いてしまう。それに相応しく在る事を求められるからだ。 ヒーローなら高潔さや公正さを。ヒロインなら清廉さやひたむきさを。一攫千金を夢見る者には強い野心か。だが優斗にはそんなものは無い。ただ流されるままに辿り着いた地で醜い虚栄心で身を固めているだけだ。 律や父を非難する資格など持ち合わせてはいない。共切という拠り所が無ければ陰陽寮に居場所など無いのだ。それならば誰にも文句を言わせないだけの力をつけよう。律もそれを望んでいる。これから自分は妖魔を殺す事だけを存在意義として生きていく。それが共切に選ばれるという事だ。 そうしていれば律は傍にいてくれる。今は離れている相棒を思えば勇気が湧いてくるようだった。優斗は拳を握り、新たな決意を固める。 求められるならば応えてみせよう。それが例え修羅の道でも。虚栄心と欺瞞に塗れた醜悪な欲に忠実に。己に与えられたのは鬼切りの枷。醜く汚らしい自分にはお似合いだ。 だがそれでも、律の笑顔が脳裏に浮かべば幸福感に満たされる。こんな自分でも幸せにできる人がいるのだ。一方的であってもいい。律にはいつでも笑顔でいてほしかった。心が壊れていようとも、自分を通り越して共切を見ていようとも、優斗にとって律は既に特別な存在になっていた。 それは一種の共依存。お互いがお互いを生きる支えとしている。どちらかが死ねば後を追いかけ兼ねない危険性を孕んだもの。優斗はそれでもいいと思ってしまう。死ぬ時は律と共に手を取り合って。その時まで死んでなるものか。例え手足が捥れようとも命ある限り律を守る。他の奴らなど知った事か。父も陰陽寮もどうでもいい。 ただ律が傍にいればそれで。 そう決心すれば心が軽くなった。 そのためにも共切を使い熟さなければ。運ばれてきた唐揚げ定食を前に優斗は鼻息も荒く自分を鼓舞した。山盛りの唐揚げを次々と頬張り味噌汁で飲み下す。体も育ち盛りだ。身長だってきっとまだまだ伸びる。律と並び戦う日はそう遠くない。 そのためにも残
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第六三話 洗礼

 特務部の道場は地下一階の一番奥まった場所にあった。待機室が並ぶ廊下を突き当たりまで進むとL字型に曲がる場所だ。扉を開けば広い道場に集まっていた隊員達の視線が一気に押し寄せた。皆の興味は肩にかけた共切に注がれている。 優斗は軽く息を呑むと靴を脱いで一歩足を踏み入れた。人波の中を堂々と行く優斗に道が開かれる。周りからは「小さい」だの「子供」だのといった言葉がそこかしこから聞こえてきた。それに歯噛みしながらも優斗は足を止めない。言いたいだけ言えばいい。今に見ていろと気を強く持って。 その最終地点には教官らしき壮年の男性が待っていた。角刈りに長身で筋肉質な恵まれた体格。精悍な顔には覇気が漲っている。しかし物腰は柔らかかった。強者の余裕か。「ようこそ。君が小堺優斗君かね。私は後堂欣二という。武術訓練の教官をしている。今日からよろしく頼む」 後堂は柔和に笑うと優斗に対して丁寧な対応をしてくれた。それだけでも信頼に足るというものだろう。少なくとも優斗はそう感じた。そして手近にいた隊員に更衣室に案内するよう指示する。「まずは着替えてきてくれたまえ。運動着は準備してきているね。訓練は十二時半から開始する。遅れないように」 腕時計を見れば十二時を少し過ぎたくらいだ。着替えるくらいなら十分な時間だろう。案内役の隊員の後について更衣室へと向かう。二十歳過ぎくらいだろうその隊員はチラチラと優斗を観察していた。その目は好奇心というより侮るような視線だ。ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。そして小声で囁いた。「お前美形だな。どうだ? この後……」 言い終わる前に共切を喉元に突きつける。竹刀袋に入ったままだが意図は十分に伝わるだろう。優斗は無言のまま睨みつける。背後で騒めきが起こったが意に介さずドスの効いた声を絞り出した。「煩いんだよクズが。臭い息を吐き出すな」 その行動に隊員は両手を上げ降参の意を表す。それと同時に非難の声も上げた。「お、おい。ジョークだって。それにオレは先輩で……」 だがそれも優斗にとってはどうでもよかった。何も知らない子供と侮られてたまるかと啖呵を切る。「は? 先輩だ? ここでは序列が物を言うって聞いたぞ。なら僕が一番のはずだ。僕に触りたいならせめて五位くらいまで登ってもらわないとな」 道場の隅々にまで聞こえる様
last updateLast Updated : 2026-01-18
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第六四話 乱入

 隊員達にもしっかりと頭を下げて挨拶をする。上に立つ者にはそれなりの礼節が求められるのだ。父の立ち居振る舞いはどうかと思うが、それでも班長としての仕事はしっかり熟している。優斗もこれから現場で先陣を切っていくのだ。舐められず、しかし嫌われない絶妙なラインを維持しなければならない。そのための礼儀だ。 隊員達も一様にほっと息を吐く気配が伝わってくる。優斗とて瀬下の様な態度を取られなければ普通に接するのだ。それを真っ先に見せた瀬下にはある意味感謝してもいいのかもしれない。 時間も迫り優斗も列に加わろうとした。 その時。 道場の扉を乱暴に開き、三人の若者が乱入してきた。 男が二人。女が一人。歳は優斗と変わらないくらいだろうか。 先頭の男はこの暑い中、半袖のワイシャツにきっちりネクタイを締めている。黒髪をオールバックに撫で付け見た目からも気難しい性格が窺えた。 後ろの男はネクタイも緩く着崩して髪を伸ばしたチャラそうな外見だ。その耳には無数のピアスが光っている。 女も制服姿だ。丸襟のシャツに赤いボーダーのリボンを結び、揃いのスカートとボブの髪が揺れていた。 皆容姿は整っているがどこか冷めた印象を受ける。 後堂の様子を見ると舌打ちをしていた。どうやら招かれざる客の様だ。隊員達も騒ついている。その列を割り後堂が前に出て乱入者に恫喝した。「何用ですかな。今日の訓練にあなた達は参加しないはずでは? 今から始める所ですので邪魔しないでいただきたい」 しかし、乱入者達は意に介した風もなく後堂を睨んでいる。そして先頭の男が口を開いた。「今日ここに共切を抜いたヤツが来ると聞いている。出してもらおうか。俺達にはそいつを見極める義務がある。後堂さん、貴方も分かっているだろう。何処の馬の骨とも分からないヤツに共切を渡す訳にはいかない。あれは我らの切り札だ。相応しくないと判断すれば容赦はしない」 そう言いながら周囲を見回す。優斗は自分から進んでその視線に身を晒した。それを後堂が止めるが男達の目が鋭く射抜く。「お前か。名を名乗れ」
last updateLast Updated : 2026-01-19
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第六五話 血の驕り

 道場の中央で睨み合う優斗と菖蒲は模擬刀を構え対峙する。周りは隊員達がギャラリーの如く囲み、後堂も諦めたのか審判を買ってでた。 試合とはいえ実戦だ。圧倒的に経験不足な優斗の不利と思われる。それでも引く訳にはいかない。これから妖魔と戦っていくのだ。こんないけ好かない男に負けてなるか。それに共切が菖蒲の手に渡れば律はどうするのか。優斗にとってはその方が重要だった。 優斗に対する様に菖蒲に迫るのか。想像すると胸が酷く痛む。律の想いを避けたくせに手放すのは惜しいなど、なんとも虫のいい話だ。我ながら身勝手が過ぎる。それでも縋らずにはいられないのだ。律の笑顔を胸に一歩足を下げ模擬刀を構えた。 それに倣い菖蒲も構えを取る。 お互いに正眼の構えだ。 正眼はどんな攻撃にも対応できる基点となる構え。まずは様子見か。 後堂が腕を掲げる。 しんと静まる道場で二人は睨み合う。 腕が振り下ろされ開始の声が上がった。 その瞬間。 菖蒲は大きく踏み込み首を一直線に狙ってきた。 それを模擬刀で受けた優斗の口元は弧を描く。試合だというのに首を落とす勢いで攻めてきた菖蒲に興奮した。そっちがその気ならこちらとて殺すつもりでやってやる。 模擬刀を競り合わせたまま、刀身を滑らせるようにして菖蒲の懐に潜り込むと鳩尾に肘鉄を叩き込む。不意打ちを食らった菖蒲は咳き込み数歩下がった。「お前……! 卑怯な!」 責めるような視線に優斗は肩を竦めてみせる。「力を見たいと言ったのはあんただ。お上品な試合で満足か? あんただって首を狙ってきたんだ。殺す気だったんだろう? なら存分にやり合おうじゃないか」 嗤う優斗の瞳は暗い光を纏っていた。それは律や父と同じ闇に足を踏み入れた者の証。菖蒲は息を呑むと立ち上がり構えを取った。「面白い。そこまで言うならやってるさ。死んでも文句を言うなよ」 その言葉を受けて優斗も構える。今度は刀身を下げ半身の構えだ。 そして一足飛びに菖蒲に肉薄すると胴
last updateLast Updated : 2026-01-21
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第六六話 血の滾り

肘打ちを食らった右足が痺れ上手く力が入らない。それに気付いているのだろう菖蒲が不敵に笑う。「今度はこちらから行くぞ」    面の横に刀を掲げる霞の構えで踏み込んでくると鋭い突きが優斗を襲う。喉、心臓、鳩尾。急所を的確に突いてくる攻撃を優斗は全て払い落とした。だが足に力が入らないのもあり追いつくのも必死だ。継承候補者と言うだけの事はある。 優斗も妖魔相手の経験こそ塚封じの時に対峙した三回だけだが喧嘩慣れしている。ガキ大将相手に幾度も取っ組み合いの喧嘩をしてきたのだ。例え刀が無くともそれなりに戦える。それはまだ喧嘩の域を出ないが妖魔との戦いを想定して鍛えてきたであろう菖蒲となんとか渡り合っていた。 菖蒲の猛攻はなおも続く。斬り、払い、時には殴られあちこちに青痣が増えていく。優斗も負けじと果敢に攻める。上下左右死角を狙いフェイントも絡め隙を突く。菖蒲からも徐々に余裕が消え真剣味を帯びていった。その目にぞくりと快感が走る。優斗は知らず笑っていた。 ――楽しい! 楽しい! 楽しい! 辺りは優斗と菖蒲の荒い息と模擬刀の打ち合う音だけが鳴り響いている。そこには二人だけの世界ができあがっていた。祖父との手合わせでは得られなかった高揚感に優斗の下腹部は疼く。 その時、菖蒲の足がもつれ一瞬気が逸れた。優斗は踏み込み眼球めがけて突きを放つ。間一髪避けた顬に一筋の血が舞った。その鮮やかさに優斗は目を奪われる。 ――ああ、綺麗だ。 優斗は恍惚に頬を染める。 だがそれが隙に繋がった。顔面めがけて振り下ろされた模擬刀を受けると鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。体格も小さく体力も削られている優斗にとっては圧倒的不利な状況だ。その機を逃さず菖蒲は足払いをかけた。敢え無く転倒し尻もちをついた優斗を菖蒲が睥睨する。「ふっ。これで……」 勝ちを確信するも勝負はまだ決まっていない。それは菖蒲の油断だった。 優斗は菖蒲の脛に足を絡め回転を利用して力技で床に叩きつける。強かに体を打ち付けた菖蒲は呻き声が漏れた。 優斗は素早く立ち上がり菖蒲の顔面を踏み潰そうと足を叩き
last updateLast Updated : 2026-01-22
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第六七話 終演

 何度も打ち合っていたのだ。握力も限界だったのだろう。 愕然とする菖蒲に、更に追い打ちをかけようと一歩踏み出すも、優斗の体力も尽きていた。ふらりとよろけると、その場にへたりむ。だが、その目はまだ闘争心でギラついている。その目に菖蒲は怖気付いた。今まで妖魔の存在さえ知らず、安穏と暮らしていたはずの子供がこんな目をするのか。 菖蒲は継承候補者と言っても実戦に出た事は無かった。ただ共切を継承するためにその時間の全てを注いできたのだ。隊員と手合わせした事もある。だがここまで勝ちに執着する者は初めてだった。 今思えば本家という肩書きに手を抜かれていたのかもしれない。それは菖蒲を侮辱するものだ。そんな事に気付きもせずに慢心していた自身にも腹が立った。 満身創痍でも戦意を失わない優斗をじっと見つめる。それが羨ましいと思った。自分に課せられた使命を全うするため共切に固執していたが力だけではダメなのか。共切が何故優斗を選んだのか少し分かった気がした。 菖蒲の体力も尽き膝をつく。二人は睨み合ったまま動けなくなってしまう。 結果は相打ち。 それに衝撃を受けたのは連れ立ってやってきた蓮と茉莉花だ。まさか相打ちなんて中途半端な終わり方をするとは思っていなかったのだろう。最初の態度を見ても余程自信があったようだがそれがぽっと出のチビにやられたのだ。信じられるはずも無い。菖蒲の元に駆け寄ると心配そうに声をかけている。「菖蒲! 大丈夫か? まさかこんな……てめぇ、調子に乗るなよ」 そう言って菖蒲の模擬刀を奪い取り蓮が向かってこようとした。優斗も身構えたが後堂が割って入る。「そこまで。もういいでしょう。小堺君の力は十分に分かったはずです。以前から申していましたが、あなた方は血筋に頼りすぎている。その驕り高ぶった根性を叩き直しなさい。共切に拘らず妖刀を手に現場を体験するべきです。そうしていれば結果も違っていたでしょう。これはそれをしなかったあな方の失態だ。この事は勿論本家にも報告させていただきます」 後堂の言い方で菖蒲達に実戦経験が無い事を悟った優斗は溜息を吐く。継承候補者と言うからには実
last updateLast Updated : 2026-01-23
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第六八話 帰還

 武術訓練は散々な結果に終わった。既に菖蒲と全力でぶつかった後だ。それでも後堂は手加減しなかった。何度も模擬刀で打たれ打撲だらけだ。その体を引きずって家路についた。エレベーターを呼び、待っているのも辛い。壁にもたれかかって待つ間、律の事を考える。スマホを見ても未だに連絡は入っていなかった。 せめて無事かどうかだけでも知りたいのに、誰も教えてくれない。情報部の小路も忙しいらしく捕まらなかった。父達も、別の仕事で留守にしている。他にあての無い優斗は、ただ待つ事しかできなかった。降りてきたエレベーターに乗り込むと、切れかかった電灯がちらつく。ワイヤーを登る音だけが鳴るエレベーター内は不気味だ。部屋のある十二階が、酷く遠くに感じられた。 やっと到着したエレベーターは、電子音と共に開くと暗い廊下が伸びている。優斗達の居室は一番奥だ。角部屋は日当たりが良いが、今の体では億劫で、誰にとも無く悪態をつく。 ――くそっ。遠いんだよ。誰だこの部屋を宛がった奴。 ぶつくさと文句を言いながら、辿り着いた居室の扉に鍵を差し込んだ。しかし、回しても手応えが無い。 ――開いてる……? そう思った時には勢いよく扉を開けていた。そこには電気が灯り人の気配がある。急いで靴を脱ぎ、リビングへ入ると律がキッチンに立っていた。呆然と佇む優斗に気付いた律が、振り返り満面の笑みを浮かべ腕を広げて走りよってきた。だがその勢いは優斗の一歩手前で止まり、気まずげに俯く。「優斗、あの、おかえりなさい。ご飯、食べるよね。今日はね、買い物もしてきたからご馳走だよ。ステーキとシチューでしょ。サラダもちゃんと作ったんだ。それからご飯もガーリックライスで……」 そう言う律の体は包帯だらけだ。痛ましいその姿に優斗の胸が締め付けられる。傷のひとつひとつが愛しくて、恋しくて、気が付けば律を抱きしめていた。「ごめん……ごめんな。僕がもっと強ければ、お前を傷付けたりしなかったのに。喧嘩別れしたまま会えなくて辛かった。こんなの初めてでどうしていいか分からなくて……僕はお前のためにもっと強くなって共切も使いこなすから、だから……頼む。傍にいさせてく
last updateLast Updated : 2026-01-24
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第六九話 温もりの距離

 二人はお互いの温もりを感じあい、抱きしめあう。それは至福の時だった。共に生き、共に死ぬ。言葉にせずとも伝わる不思議な感覚。 思わず抱きしめてしまった事に、今更羞恥を覚えた優斗は口を尖らせ、少しの非難を込める。「あ、それと! 連絡くらい寄越せよ。心配、したんだからな……」 頬を染めながらお強請りとも取れる事を言う。そんな優斗を可愛らしく思う律は頭を撫で頬を寄せる。「うん、ごめんね。俺、優斗みたいに大事な人、今までいなかったから気が回らなかった。今度からはちゃんと連絡するよ」 幸せな時間はゆったりと流れた。お互いの体温を求め合いひとつに重なる。 だが、そんな一時も腹に感じた違和感で優斗は現実に引き戻される。何やら硬い物が当たっていた。それを確認すると途端に青ざめる。「おい! お前何考えて……!」 離れようと踠くが律の力は強くて抜け出せない。そのまま顔が近づいてきた。「優斗……大好き」 優斗の脳内で警鐘が鳴り響きヤバいと思うも律は止まってくれない。自業自得とも取れるが優斗はあくまで友情として言ったつもりだったのに律に火をつけてしまった。そのまま壁に押し付けられ逃げ場を失う。「律! おい、まっ」 慌てふためくも功を成さず唇を塞がれてしまった。胸を叩いて抗議するが律は意に介さない。必死に抗いなんとか食いしばるも耳を触られ嬌声が漏れた。その隙に舌を捩じ込まれ絡められる。「ん……ふっ、ぅ」 キスなど初めての優斗は律に翻弄されるがままだ。息継ぎもままならず足に力が入らない。何度も舌を吸われ下腹部が熱を持つ。頭の中はグズグズに蕩け何も考えられない。だが、ベルトに手にがかかりカチャリと鳴る音に我に返った優斗は一層の危機を感じ思いっきり頭を殴りつけた。それでやっと解放され素早く距離を取ると唇を拭う。「お、お前なぁ、調子に乗るなよ! 友達だって言ってるだろうが! それを、な、なん……」 顔を真っ赤に染めて文句を言うが律はだらしなく笑っている。「えへへ~。キスしちゃった。は~幸せ。もっ
last updateLast Updated : 2026-01-24
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第七十話 込み上げる想い

 優斗が風呂から上がると食卓にはご馳走が並んでいた。分厚いステーキ、具沢山のシチュー、刺激的な香りがたまらないガーリックライス。そこに彩りを加えるサラダも添えられている。見るからに食欲を唆る料理に優斗の腹が盛大に鳴った。 そこにエプロン姿の律が水の入ったコップを両手に持ち現れる。そのエプロンに優斗はギョッとした。さっきまでしていなかったはずのそれはこれでもかとフリルがあしらわれた真っ白なエプロンだ。所謂若奥様の出で立ちは長身の律にはチグハグな印象を与えるが何故か似合っていた。律はコップを食卓に置くと裾を摘みにこりと笑う。「えへへ~。似合う? 可愛いでしょ。優斗のために買ったんだ~。裸エプロンも考えたんだけどさ、まだ早いかなって。でも下着も揃えたらお披露目するからね! 楽しみにしてて」 仲直りができてほっとしていたのも束の間、また律の暴走が始まってしまった。それもそうだろう。ついさっきキスまで許してしまったのだから。思い出すと顔が熱くなる。嫌じゃなかったのがまた困りものだ。エプロンも可愛いと思ってしまっている自分に頭痛がする。 眉間を抑え苦悶していると律が顔を覗き込んできた。「優斗、これ嫌い?」 悲しげに眉を垂れる姿に優斗の胸は軋んだ。自分でも驚く程に律の悲しい顔が痛い。「そんな事無い! その、可愛いと、思う……」 おずおずと呟けば、それを聞いた律は頬を染め蕩けるような笑みを浮かべる。「ホント!? 嬉しい! 俺、もっと喜んでもらえるように頑張るから」 それはあまりに無邪気で可憐な微笑みだった。優斗も思わず見とれはたと我に返る。「ん゛ん゛ッ。頑張らなくていいから! 普通でいいから! 裸エプロンとかやめてくれ!」 そう言ってみても律は聞いちゃいない。エプロンの裾を靡かせくるりと回る。その顔は楽しそうだ。優斗もついつられて笑ってしまう。 二人で食卓につくと手を合わせる。カトラリーも箸とお揃いの青い取っ手だ。チラリと見ると律の手にも揃いの黄色いスプーンが握られていた。これも律が用意したのかと優斗の胸はじんと熱くなる。
last updateLast Updated : 2026-01-25
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