様子のおかしい長谷部を見送った優斗は昼食を取るために部屋を出た。すると頭上が騒がしく、バタバタと足音が響いている。会議室は防音が施されていて今まで気付かなかった。何事かと思ったが自分にはなんの報告も無いのだから関係ないのだろう。そう捉えてエレベーターへ向かう。 しかし、上の騒動は昨夜の襲撃から帰還した隊員達への対応のために奔走する情報部だ。四階には司令部があり治療の済んだ隊員がそこに集められて事情聴取が行われていた。突如現れた伽陸と言う人物。そして蠱毒で生み出される妖魔について。その事情聴取には勿論律もいた。すぐそこに律がいる事も知らずに優斗は外へ出たのだった。 向かうのは律に教えて貰った定食屋「亭八」だ。美味しかったのも勿論あるが少しでも律の存在を感じたかった優斗の足は自然と亭八へと向いていた。暖簾を潜るとまだ昼時には少し早い時間なのもあり客はそう多くなく、優斗は以前律と座った席につく。 周りを見ればちらほらとスーツ姿の客も見受けられた。この中にも陰陽寮の所員はいるのだろうか。ここは陰陽寮から数分の場所だ。昼に出てくるには丁度良さげだが建物内の様子を考えると弁当派が多いのかもしれない。そんな事を考えていたら女将さんがお冷を持ってきてくれたので唐揚げ定食を頼んだ。この時間に学生が定食屋にいるのは少し不自然だが、女将さんは何も言わず注文を聞き厨房へと戻って行った。 食事が運ばれてくるしばしの時間、優斗は自分の手を見る。そこには肉刺が潰れて固くなった掌があった。優斗の努力の賜物だ。それを見ながら優斗は午後の講義に思いを馳せる。 午後からは武術訓練に参加する事になっていた。座学とは違い、他の特務部隊員と一緒だ。故郷では剣術の鍛錬は祖父と二人だけだったから手合わせするのが楽しみでもある。人の数だけその癖も変わるのだから実戦では経験がものを言う。優斗は実家の手伝いのために部活にも入っていなかった。 体育の授業で剣道はあったが優斗が嗜んでいたのは剣術だ。スポーツと実戦的な武術では勝手が違う。しかも素人が相手なのだ。実績には程遠い。それに陰陽寮では剣術だけではなく格闘術も学べると聞いていた。 妖魔を相手取るための、言い換えれば殺すための技。優斗の手は震えた。しかしそれは恐怖からでは無い。力を手にする事に歓喜し
Last Updated : 2026-01-16 Read more