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Tous les chapitres de : Chapitre 81 - Chapitre 90

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第八十一話 特級の矜持

 菖蒲達は後堂の元を離れると、優斗に近付き向き合った。「……小堺。昨日はすまなかった。だが俺も負ける訳にはいかない。必ず追いつくからな」 そう言って真っ直ぐに優斗を見つめる。それに優斗も真剣に応えた。「ああ。僕だって譲る気は無い。それより一人足りないようだけど?」 その言葉に菖蒲の顔色が陰る。茉莉花も同様だ。「蓮は……死んだ。いきなり三位に手を出して呆気なく。俺達は本当に血に頼っていただけだったんだ。ここから地道に這い上がっていくさ」 優斗もさすがに口を噤んだ。  菖蒲は軽く頭を下げると、茉莉花と共に隊員達の輪に加わっていく。 その後ろ姿を見送ると、後堂が入れ違いにやってきた。「小堺君、君は今日も私が相手しよう。君は実に面白い。まだまだ荒削りだが伸びるぞ」 そう言って豪快に笑い背中を叩く。力強い励ましに、優斗も大きく返事をした。「はい。よろしくお願いします!」 深く礼をすると律が声援を送る。「優斗! ︎︎頑張って!」 あまりに場違いな明るい声に、周囲の目が集まり優斗は照れくさそうに手を振った。 緊張をほぐす様に大きく息を吐くと、改めて後堂に向き合い模擬刀を構える。教官自ら指導してもらえるのだ。これほど恵まれた経験はそうできないだろう。祖父も段持ちではあったが、後堂は更に実戦的だ。容赦なく拳や蹴りが飛んでくる。それは寸止めなど生易しい物では無い。気を抜けば目を潰される事さえ有り得た。 訓練は二十五分置きに五分の小休憩を挟みながら三時間行われる。三十分六セットだ。長時間集中力を維持するため、体力の分配を身に刻むために短い時間で息を整える。 昼食後すぐの訓練だ。中には激しい訓練についていけず、胃の中身をぶちまける者もいた。だが優斗は必死に耐える。律が作ってくれた物を吐くなんてできない。それに今はその律自身が見ているのだ。無様は晒したくない。頭に浮かぶのは、どんな時でも律の笑顔だった。 午後三時半。教官補佐から訓練終了の笛の音が鳴る。それと同時に皆が崩れ落ちた。立っているのは優斗だけ。それ
last updateDernière mise à jour : 2026-01-29
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第八十六話 想いのカタチ

「ちょっ、離れろ! ︎︎苦しい!」 しかし、キスについての文句は出てこない。調子に乗った律はとんでもない事を口走る。「ねぇねぇ優斗~。ご褒美ちょうだい」 意味が分からず、首を傾げる優斗に、律は自分の唇をちょんと指さす。「へ?」 間抜けな声を出す優斗に追い打ちをかける律。「ご褒美。キスちょうだい!」 たちまち紅潮していく優斗。「ばっ、馬鹿か!? ︎︎こんな人前で、できる訳ないだろ!」 それを律は都合のいい様に解釈した。「じゃあ、家ならいいんだね! ︎︎やった~、言質取ったり~」 ぐりぐりと頬を寄せてくる律に、優斗は真っ赤になって喚き散らす。「そ、そんなんじゃない! ︎︎ちょ、離せ! ︎︎皆が見てるだろ!?」 そんな優斗にも律は嬉しそうだ。前なら問答無用で引き剥がされていたのに、今は胸を叩きながらも、腕の中で頬を染めている。「優斗、かわいい。好き。大好き」 律も目を細め、幸せを噛み締めるように囁く。その声は艶を持ち、優斗の耳朶を擽る。低く掠れ、色気をたっぷり含んだ愛の囁きは、優斗の身体を熱くした。 ――あ、ヤバい。 反応しようとする身体に慌てた優斗は、律の脛を思いっきり蹴飛ばした。それは見事、弁慶の泣き所に直撃し、腕が解かれる。「いったぁ!」 あまりの痛さに蹲る律を見下ろし、照れ隠しに頭をぺしんと叩いた。「だから! ︎︎調子に乗るなって言ってるだろ!? ︎︎外でそういうのやめろよな!」 しかしそれはある意味、律を肯定する言葉だ。誰にも見られないならいいと言っているようなもの。周りもそう解釈した。 やっぱりそういう関係なのかという空気が充満する。 東などはずっとニヤニヤしていた。 律は今にも襲いかかりたい気持ちをぐっと押しとどめ、素直に頷く。「うん! ︎︎分かった。外では我慢する。でも手を繋ぐくらいならいいよね?」
last updateDernière mise à jour : 2026-01-30
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第八十二話 相棒

「さて、宮前君。せっかく来たんだ。ひとつ手合わせといこうじゃないか。君もうずうずしているんじゃないかね」 訓練も終わりかと思われたその時、後堂が不意に律に声をかけた。優斗がそちらを振り返ると、律が怒気の籠った眼差しで後堂を睨みつけているではないか。 どうしたのかと思っていると、律が前に出て挑発的に声を張る。「いいよ。やろうよ欣二さん。優斗を可愛がってくれたんだもの。お礼しなくちゃね」 そう言うと手近な模擬刀を手に取り、後堂と相対した。周囲は突然の出来事にザワついている。優斗もどうしていいか分からずオロオロとしていると、背後から肩を叩かれた。びくりとして振り返れば東がいて、そのまま肩にもたれかかってくる。「ま、見物といこーや」 軽い口調で無責任な発言をする東に、優斗は開いた口が塞がらなかった。いくら律が序列五位といっても相手は教官だ。そう簡単に勝てる訳が無い。「そんな、東さん。止めなきゃ……!」 律がやられる所なんて見たくはなかった。律の笑顔を守るためにした事が、逆に危険に晒す事になるなんて。慌てて止めようとする優斗を東が首に手を回して押しとどめ、もうひとつの手でガシガシと頭を撫でる。「大丈夫だって。相棒を信じてやんな」 煙草臭い息が鼻にかかり優斗が顔を顰めると、東はそれを面白がってわざと息を吹きかけた。優斗が押しのけようとするが、力仕事の技師だけあって力が強い。体格でも劣る優斗ではその腕から抜け出す事はできなかった。 しばらく揉み合っていると、律が非難の声を上げる。顔を上げるとこちらを指さし、地団駄を踏んでいた。「ちょっと! ︎︎公太さん! ︎︎優斗は俺のだって言ってるでしょ!? ︎︎馴れ馴れしくしないでよ! ︎︎触らないで!」 ぷんすかと怒る律に対して、へらっとした締りのない顔で東が手を振る。「ば~か。ここはかっこいい所を見せるいい機会じゃねぇか。ほれ、お前もなんか言ってやれよ」 そう言って優斗の背を押す。優斗は一瞬視線を彷徨わせたが、頬を染め小さく呟いた。「そ
last updateDernière mise à jour : 2026-01-30
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第八十三話 想うは君のことばかり

 後堂に対する律はいつもの笑顔をきりりと引き締め、闘気を纏う。それは鬼気迫るものだった。優斗の故郷で塚封じをした時とも違う、真剣な表情。 その横顔を見て優斗の胸はどくりと高鳴った。また違う一面を見られた喜び。自分を想ってくれている実感。殺気の籠った暗い瞳。その全てが優斗の身体を熱くする。 律の勇姿を前にしてうっとりと見つめる優斗の顔を覗き込み、東が顎をさすりながらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。「お? ︎︎律の片想いかと思ってたが、どうやらそうでもないらしい。今夜は赤飯か?」 ぐりぐりと頬を抓る東の言葉で、優斗の頬は紅潮する。いとも容易く看破された恋心。誤魔化そうにも東は確信を得ているようだ。 それならばいっそ、認めてしまえ。「……悪いですか。そうですよ。惚れてます。笑いたければ笑えばいい。あれだけ拒絶してたくせに絆されて馬鹿みたいだって。男同士だなんて……気持ち悪いって」 優斗の顔がくしゃりと歪む。否定されるのは怖い。だが東は笑わなかった。優斗の肩をぽんと叩き、同じ目線に屈み律を見る。「別にいんじゃね? ︎︎異性だろうが同性だろうが、好きって気持ちにゃ違いはねぇよ。好きなんだろ? ︎︎惚れたんだろ? ︎︎だったら命を賭けて守る。それだけだろうがよ。お前はその力を持ってるじゃねぇか」 意外な東の言葉に優斗がぱちりと瞬きする。東の事だからてっきり揶揄われるものと思っていたのに。「東さん、意外とまともなんですね」 思わず零れた本音にも東は余裕の態度だ。「この俺を誰だと思っていやがる。なんたって百戦錬磨のプレイボーイ、東公太様だぜ?」 気取って胸を張る東。だが優斗は覚めた視線を向ける。「でも、律は振られっぱなしって言ってましたよね」 鋭いツッコミにグッと唸ると、分かりやすく東は誤魔化した。「うるせっ! ︎︎あれは女共の見る目がねぇんだよ! ︎︎んな事よりほら! ︎︎始まるぞ……!」 東の掌が優斗の頭を挟み、無理矢理正面に向けた。視線の先には対
last updateDernière mise à jour : 2026-01-30
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第八十四話 輸攻墨守《しゅこうぼくしゅ》

 律は序列五位。ここにいる隊員はまずお目にかかれない大物だ。 菖蒲達も前線で戦う律には興味があるのか、真剣な表情で成り行きを見守っている。「勝負は一本先取。それでいいかな」 問う後堂に律は頷いてみせた。「おっけ~。んじゃ、初めよっか」 律は一言呟くと、大きく踏み切り間合いを詰める。 それは尋常なスピードでは無かった。 一瞬、消えたのかと錯覚すら覚える瞬歩。 周囲からどよめきが上がる。 優斗も息を呑んだが、後堂は臆せず迎え撃った。 下段からの斬撃を最小限の動きで躱すと、鋭い突きを胴に放つ。 律は空振った勢いで反転し、突きを受け流すと回し蹴りで顎を狙う。 それも躱されるが、律は更に上段から模擬刀を右肩めがけて打ち下ろした。 後堂は模擬刀で受けると、刀身を滑らせ律の体勢を崩し、顔面に膝蹴りを入れる。 しかし、律は空中で強引に回転し、回避すると着地と同時に身を屈め足元を払う。 後堂は飛んで空振りさせると、全体重を乗せ首を狙い打つ。 律は蛙のように四つん這いで後方に跳ね、斬撃が髪を掠めた。 一旦、距離を取った両者はにっと笑い合う。「いや、実に愉快だ。こんなに心躍るのは久方ぶりだよ。小堺君といい、君といい、良き人材が集まってくれた。陰陽寮も世代交代の時期かな」 後堂の言葉に、律は無邪気に返す。「そんな事言って~。引退する気無いくせに。そろそろいい歳なんだしさ、後続に道を譲ったら? ︎︎満重さんも、ずっと補佐じゃ可哀想でしょ」 視線でちらりと見る先には、教官補佐の杷木満重の姿があった。まだ歳若い青年は、急に名前を出されキョドっている。杷木は体格はいいが、背が低くずんぐりとした青年だ。いかにも体育会系な彼は、指導も厳しく、隊員から恐れられている。「杷木は欲が無いからね。私の元でまだ修練したいそうだよ。いや、力に貪欲なのかな?」 後堂の褒め言葉とも取れる評価に、杷木は表
last updateDernière mise à jour : 2026-01-30
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第八十五話 勝鬨

 試合再開。  先に動いたのは後堂だ。 すり足で滑らかに間合いを詰めると、予備動作の無い斬撃が放たれる。 律は完全に虚を突かれ反応が遅れた。 死角から迫る刃を間一髪、横に倒れ込む様にして躱すと、風を斬る音が耳を打つ。 律はその勢いで側宙し、背後を取り横に薙いだ。 しかし、後堂は右足を軸にして回転し、サラリと流す。 着地した隙を狙って突きを繰り出すも、律は蜻蛉返りの要領で更に飛ぶ。 一進一退の攻防に皆が惹き込まれた。  優斗も改めて律の強さを知る。 しなやかな身体、重力を感じさせない動き。そのひとつひとつを見逃すまいと、優斗は集中する。今後、共に戦う時に律の足でまといにならぬ様、自分もあのレベルまでいかなければならないのだから。 律が安心して背中を任せられる様に、のびのびと自由に戦える様に。 律の得物は大太刀だ。  塚封じの時は山中の開けた場所だったから良かったが、時には屋内での戦闘も有りうるだろう。そうなると、易々と振り回す事ができなくなる。それをカバーするのも優斗の役割だ。 玲斗は後ろにいればいいと言ったが、特級の名を冠して守られるだけでは自尊心が許さない。 共切は振るってこそ価値がある。望んで手にした力では無いが、律と共に肩を並べて戦う事が誇らしく思えた。 優斗がじっと見つめる先では、試合が続いている。模擬刀は大太刀ほどのリーチが無い。普段とは勝手が違うはずだが、律はその不利を微塵も感じさせなかった。 律は大きく息を吸うと、左足を引き、姿勢を低くした。 まるで闘気が立ち上るが如く、空気が揺らぐ。 その気配に後堂も気づいたのだろう、重心を低く落とし攻撃に備える。 一瞬の間。 律は鋭い呼気と共に斬り込んだ。 後堂が身構えるも、律は左にステップし視界から消える。 それを目で追った後堂に僅かな隙ができた。 律はその隙を見逃さず、猛攻を仕掛ける。 回転して遠心
last updateDernière mise à jour : 2026-01-31
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第八十六話 想い想われ

 陽が暮れ始めた空の下を、優斗と律は手を握り家路につく。まだ昼間の暑さが残り、汗ばむがその手が離される事は無い。 いつもは煩い律が、なんとなく落ち着いた様に感じられた。お喋りな所は変わらないが、口調が柔らかい。 優斗も静かにその声に耳を傾ける。 律の声は心地良い。少し高めだが、ハスキーで色気もあった。 その声が自分の名前を呼ぶと、幸福感に満たされる。こんなに穏やかな気持ちは感じた事が無い。 段々と近付いてくる我が家。  エレベーターに乗り込むと律が顔を寄せる。「ね、キスしていい?」 ワイヤーの音が低く響く狭い空間で、壁に追い込まれた優斗は頬を染め、そっと逞しい胸を押す。「も、もうすぐ部屋だろ。それくらい我慢しろよ」 上目遣いで律の様子を伺う様は扇情的だ。自分の胸に添えられた手を掴み、瞳を覗き込む。「ねぇ、優斗。それって……」 律が何事か言いかけた、その時。軽い電子音が鳴ってエレベーターの扉が開いた。 すると、律が優斗の手を引き、暗い廊下を足早に部屋へと向かう。半ば引きずられるようにして歩く優斗は、律の変化に戸惑った。 部屋に着くと、鍵を開ける時間も惜しむように、ガチャガチャと鳴らす。「お、おい。静かにしろよ。他の部屋に迷惑だろ」 声を潜めて優斗が注意しても、律は気にも止めない。そうして鍵が開くと、乱暴に扉を開き優斗を引きずり込む。 素早く鍵を閉め、そのまま優斗を壁に押し付けた。「律……?」 何が起こったのか、訳も分からず律を見上げる。その顔は苦しげに歪められていた。「ねぇ、優斗。優斗も俺の事好き? ︎︎そう思っていいの?」 思いがけない言葉に、優斗は息を呑んだ。やっと認める事ができた恋心だ。まだ伝える勇気などない。「そ、それは……まだ」 言い淀む優斗に律は更に迫る。「どうして? ︎︎好きだって言ってよ。優斗、今までとは違う目で俺の事見てるの気付いてる? ︎︎すごく色っぽいの。今日の試合でハッキリした。俺の事、好きでしょ?」 言い切る律に、優斗はたじろぐ。言うなら今だ。しかし、不安も大きい。意を決して口を開いた。「じゃあ聞くけど、お前はどうなの? ︎︎僕の事、好きだって言うけどさ、それってどういう意味でだよ? ︎︎共切じゃなくて、本当に僕が好きなのか?」 これは優斗にとって大きな意味を持つ。例え結ばれたとしても、
last updateDernière mise à jour : 2026-02-01
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第八十七話 睦言

 律は口付けを繰り返しながら、器用にボタンを外していく。全て外すと、前を開きタンクトップをたくしあげて、指を滑り込ませる。引き締まった滑らかな肌はしっとりと湿り、既に火照っていた。 優斗は初めての感覚に身を捩るが、足の間に律がいるため身動きができない。その足も大きく開かれて、猛りきった雄芯が丸わかりだ。 優斗の身体は羞恥で更に熱を帯びていく。 それを感じ取った律も、熱い吐息を零した。「優斗、気持ちいい……?」 執拗に腰元を撫でられ焦れったいが、律の慈しむような手つきは、大事にされているという実感を伴う。「……うん……りつ、もっと……」 潤む瞳が切なげに揺れる。 それは律の理性を吹き飛ばした。 優斗の首筋に顔を埋め、舌を這わせる。それと同時に手が胸元まで上がってきた。脇から頂きを掠め、周囲を攻める。「は、ぁっ」 思わず零れる嬌声に、優斗は口を両手で覆った。しかし、それは律によって解かれる。「ダメだよ優斗。ちゃんと感じてるの聞かせて。いやらしい声、もっとちょうだい?」 その言葉を合図にしたように、頂きをきゅうっと摘む。全身を駆ける甘い痺れに、優斗は首を仰け反らせた。「あっ、ぁ」 もうタンクトップは首元まで上げられ、薄桃色の果実は外気に晒されていた。律は頂きを口に含め、舌で転がす。刺激が加わる度に、優斗は鳴いた。「優斗、可愛い……好き、大好き」 そう繰り返しながら、胸元に赤い印をつけていく。そのまま下へと向かい、ベルトに手をかけた。なんの抵抗も無く、ズボンが引きずり下ろされ、ボクサーパンツに包まれた雄芯が顕になる。下着の上からでも分かるほどヒクヒクと動く雄芯は、まるで律を誘っているようだ。「ふふ、そんなに俺が欲しい? ︎︎もうパンツびしょ濡れじゃない。初めてなのに、感度いいね」 言葉で責められ、優斗は顔を隠す。「煩い。言うな、馬鹿」 口調をきつくして言ってみても、それすら律を煽る要素でしかない。優斗の白
last updateDernière mise à jour : 2026-02-02
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第八十八話 安らぎの朝

 翌日、午前五時。 優斗が目を覚ますと、隣に律の姿は無かった。起き上がると身体は綺麗に拭かれ、大きなTシャツを着せられている。辺りを見回しても、昨日の夜脱ぎ散らかした服は片付けられていた。 少し腰が痛いが、動けないほどでは無い。 ベッドから降り、廊下へ出るとキッチンから物音が聞こえる。トントンとリズミカルに鳴るそれの合間に、鼻歌が混じっていた。昨夜、あれだけ激しく乱れたのに、鼻歌は上機嫌だ。 その声に情事を思い出した優斗は紅潮する。 初めての経験。 初めての快感。 暴かれる羞恥心と、愛し愛される多幸感。 律とどんな顔で会えばいいのか分からない。でも、どうしようもなく会いたい。昨日の事が夢ではなかったという実感がほしかった。 おそるおそるリビングに続く扉を開けると、キッチンに律の背中が見える。逞しい首筋、Tシャツの上からでも分かる引き締まった背筋、筋張った腕。あれが昨日、自分の身体を犯したのだ。 ぽ〜っと見惚れていると、律がその視線に気が付いた。「優斗!」 途端に満開に咲く笑顔。 鍋の火を消して、トテトテと優斗の元へ近付くとするりと頬を撫で、額にキスを落とす。「おはよ。身体は大丈夫? ︎︎昨日は無理させちゃったから、ごめんね。俺、嬉しくって自制が効かなくて。こんな事初めてで、びっくり」 そう言って笑う顔は本当に幸せそうだ。しかし、優斗は少し悔しかった。自分は初めてだったのに、律は手馴れていたからだ。始終律に主導権を握られ、優斗は翻弄されっぱなしだった。 それが顔に出たのか、律が顔を覗き込んでくる。「優斗? ︎︎どうしたの。もしかして、ヤだった? ︎︎それとも痛かったとか……ちゃんと解したんだけど」 悲しそうに眉を垂れる律に、優斗は首を振って応えた。「違う、そうじゃない。その、僕も嬉しかった。でも僕は初めてだったのに、お前は随分手馴れてたから。僕の他にお前の身体を知ってる奴がいるのが気に食わない」 口を尖らせながら、律のエプロンを摘む。その
last updateDernière mise à jour : 2026-02-03
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第八十九話 可愛い嫉妬

「当たり前じゃない。もう押し倒したいくらいなのに、そんなに煽んないでよ」 優斗の耳元を擽る声には切ない吐息が混じる。苦笑いしながらも、優斗はひとつの疑問を口にした。「でもさ、お前自分の事お嫁さんって言ってなかったか? ︎︎それなら僕が抱く方だろう」 その一言に律は顔を輝かせる。「え! ︎︎優斗抱いてくれるの!?」 意外にも乗り気な律の勢いに面食らいながら、優斗は躊躇いがちに頷いた。「そりゃ、僕だって男だ。好きな人を抱きたいって思うのは自然な感情だろう?」 薄く頬を染めながら律を見上げると、感極まった様に鼻を啜っている。そして、優斗の肩に顔を埋めた。「ありがとう……俺、嬉しすぎて死にそう。じゃあ、今度は抱く方を教えてあげるね。俺、そっちも上手いんだよ」 その背を撫でながら、優斗も目の前の胸に頬を寄せる。「……やっぱりムカつく。お前にそういう事教えた奴ら、全員殺してやりたい。僕が初めてなら良かったのに……」 昨夜は可愛く鳴いていたのに、もういつもの口の悪さが出ている。「大丈夫だよ。もう皆死んじゃってるから」 クスクスと笑いながら言う律は、楽しそうで、しかし何処か憂いがあった。「……俺ね、色んな人と寝てきた。求められたらどんな人でも構わずに。でも、気持ちいいと思った事、一度も無いの。生理現象として反応はするけど、それだけ。どれだけ尽くされても、尽くしても、満たされる事は無かったんだ。男も女も、それは変わらない。優斗だけだよ。あんなに求めたのも、求められたのも。ありがとう。大好き」 囁きながら髪にキスを落とすと、優斗が顔を上げた。「じゃあ、僕が本当の意味では初めてだって思っていいのか?」 その瞳は期待に満ちている。それが可愛くて律は啄むように口付けた。「うん。優斗が俺の初恋。自分の意思で抱いたのも、優斗が初めてだよ」 律の答えを聞いて、優斗は花が綻ぶように微笑む。優斗にとっても、初めてのとびきりの笑顔だった。これほど心から笑
last updateDernière mise à jour : 2026-02-04
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