All Chapters of あなた、この結婚を終わらせましょう: Chapter 181 - Chapter 190

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第181話

昨夜から瑛司が泊まっているが、朝になっても雨は一向に止む気配がなかった。それほど激しい降りではないものの、彼もなかなか帰ろうとはしない。自室で一人座っていた絵理奈は、美咲から送られてきた招待状の写真を見ていた。「どうしよう……今夜、明日香の結婚式じゃない」絵理奈はこめかみを押さえて呟いた。「招待状にはペアでって書いてある。つまり、瑛司を連れて行かなきゃいけないのね」下唇を噛み、指先で顎をトントンと叩く。瑛司は忙しいはず。どうやって『友達の結婚式に付き合って』と頼めばいいのだろう。「みんな、きっと旦那さんを連れてくるわよね……」絵理奈は唇を尖らせた。小さく息を吐き、意を決して頷く。「よし、瑛司に話してみよう。きっと聞いてくれるはずよ」と自分に言い聞かせる。絵理奈は立ち上がり、足早に一階へ降りて彼を探した。リビングへ向かうと、瑛司がソファに座り、膝にノートパソコンを広げて仕事をしているのが見えた。「瑛司」近づきながら、小さな声で呼ぶ。彼は素早く顔を上げ、傍らに立つ妻を見て眉を上げた。「どうした、絵理?座って」瑛司は自分の隣の空いたスペースをポンポンと叩いた。絵理奈は素直に彼の隣に腰を下ろした。妻が何か重要なことを話したがっているのを察し、瑛司はノートパソコンを閉じて彼女に向き直った。「何か言いたいことあるのか?」絵理奈は素早く頷いた。「ええ。あの……今夜、職場の友達の結婚式があって、私にも招待状が来ているの。他の友達もみんな旦那さんを連れてくるから、あなたにも一緒に来てほしくて」絵理奈はうつむき、情けない顔で頼み込んだ。その理由を聞いた瑛司は、小さく咳払いをして、わざといじわるな視線を絵理奈に向けた。「それで?」「私のために、一度だけでいいから結婚式に付き合ってくれない?お願い」期待を込めた眼差しで尋ねる。瑛司はうつむき、額を軽く掻くふりをした。「うーん……どうしようかな」「だめ?忙しいの?」絵理奈が食い下がる。「ああ、ものすごく忙しい」と瑛司は絵理奈を見つめたまま答えた。彼は内心でくすりと笑った。あからさまに落胆する妻の姿が可愛くてたまらず、つい意地悪をしてからかいたくなったのだ。「だが、もっと甘く可愛くお願いしてくれたら、考え直してもい
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第182話

結婚式がお開きとなり、招待客たちは次々と会場を後にし始めた。瑛司と絵理奈も帰路につくため、ホテルの廊下を歩いて正面玄関へと向かっていた。瑛司は、後ろを歩く絵理奈を振り返った。「どうしてそんなに歩くのが遅いんだ、絵理?」彼は立ち止まって尋ねた。「このヒール、足が痛くなるの」絵理奈はそう答えながら、瑛司に頼まれるまま、持っていた小さなバッグを彼に渡した。「いっそ脱いでしまえばいい。足が痛くなるよりマシだ。ほら、脱ぎなさい。車まで俺が抱き抱えていってやるから」と瑛司は提案した。絵理奈は彼の提案を受け入れるべきか少し迷っているようだった。しかし、絵理奈がヒールを脱ごうとしたまさにその時、足音が近づき、一人の美しい女性が彼女と瑛司の方へ歩いてきた。「あら……瑛司!?」瑛司が振り返ると、その女性が声を上げた。絵理奈はヒールを脱ぐのをやめ、目の前に現れた赤いミニドレスの美女を顔を上げて見つめた。その女性は瑛司に近づくや否や、全く遠慮する素振りもなく、満面の笑みで彼に抱きついたのだ。瑛司もまた、彼女に抱きつかれて笑顔を見せ、笑い声さえ漏らした。「元気だったか、純子?ずいぶん久しぶりだな!」瑛司は嬉しそうに言った。「ええ、すごく元気よ!まさかB市であなたに会えるなんて思わなかったわ!」と雨宮純子(あまみや じゅんこ)は弾んだ声で答えた。彼女は、瑛司の背後に立っている絵理奈に気づき、不思議そうな、しかし冷ややかな視線を向けた。見知らぬ美女が自分の目の前で堂々と夫に抱きつくのを見せつけられ、絵理奈はわけが分からないと同時に、胸の奥からふつふつと得体の知れない怒りが湧き上がってきた。純子は絵理奈を見た後、再び瑛司に向き直った。「瑛司、彼女は——」「ああ、紹介するよ。俺の妻の絵理奈だ……どうだ?綺麗だろう?」瑛司は絵理奈の肩を抱き寄せ、純子の目の前で彼女の髪にキスをした。純子は頷いて大きく微笑むと、絵理奈に近づいて手を差し出した。「初めまして、純子よ。お会いできて嬉しいわ、絵理奈さん」絵理奈は作り笑いを浮かべてその手を握り返した。「こちらこそ、お会いできて嬉しいわ、純子さん」握手を終えると、純子は再び瑛司を見た。「二人はこれからどこへ行くの?もしよかったら、上の階のレストランで
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第183話

夜、瑛司は絵理奈の家に泊まることになった。熱を出して「パパと一緒に寝たい」とぐずる琴音を置いて帰るわけにはいかなかったからだ。時計の針が深夜一時を指した頃、琴音が目を覚ました。体を起こし、隣で眠る瑛司、翔、そして絵理奈を見る。「ママ……」琴音は絵理奈の方へ這っていった。「ママ、頭が痛いよ、ママ。気持ち悪い!」絵理奈と瑛司は同時に跳ね起きた。二人の視線が一瞬交差し、すぐに瑛司が琴音の小さな体を抱き寄せた。「頭が痛いのか?」瑛司は彼女を抱き上げた。絵理奈も急いでベッドから降り、瑛司に抱かれている琴音に近づく。「熱はまだ下がっていないの?」絵理奈が尋ねた。「まだだ。大丈夫だから……お前は翔と一緒に寝ていなさい。琴音の面倒は俺が見る」瑛司は彼女を見つめながら言い、サイドテーブルの上にあった琴音の哺乳瓶を手に取った。「だめよ、瑛司。あなたは明日会社に行かなきゃいけないんだから、休まないと」絵理奈は反論した。「俺に抱かれていれば、この子も落ち着くさ。早く寝なさい、明日お前まで倒れたら困る」瑛司は絵理奈の左頬をそっと撫で、優しく微笑みかけた。瑛司は部屋を出ようと歩き出したが、絵理奈はやはり彼について行った。部屋を出た後、琴音はキョロキョロと周りを見回し、キッチンの方を指差した。「ママ、ミルク作って……」「パパと一緒に待っていようか?ママには休んでもらおう。な?」瑛司が提案した。だが、絵理奈が先に近づき、彼の手から哺乳瓶を受け取った。「私が作るわ。あなたはここで琴音を見ていて」絵理奈はそう言って、瑛司に抱かれている娘を見た。「ちょっと待っててね、琴音……」「うん、ママ。早く早くね、ママ」と琴音は頼んだ。絵理奈は頷いて微笑み、キッチンの奥へと歩いていった。瑛司は琴音を抱きしめてあやしながら、絵理奈の家のガラス窓の前に立ち、白いカーテンを開けた。少し曇った夜の景色が広がり、庭の木の葉から雨の雫が落ちるのが見えた。「頭、すごく痛いかい?」瑛司は琴音の額を撫でながら尋ねた。「痛くないよ、パパ。でも、ずっと抱っこしてて」琴音は彼を見上げて答えた。その答えに瑛司はくすくす笑った。「もちろんだとも。明日の朝まで、パパがずっと抱っこしててやるからな!」その
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第184話

瑛司が望んだ通り、あっという間に夕方になり、彼は急いで会社を後にした。絵理奈と家で夕食を共にする約束をしているため、一刻も早く帰宅したくてうずうずしていた。しかしその前に、瑛司は真理の花屋に立ち寄り、絵理奈のために花を買うことにした。いつものように、彼の来店は温かく歓迎された。「まあ、瑛司……ここ数日見かけなかったけれど、どこに行っていたの?」店に入ってきた瑛司に、真理が尋ねた。「絵理や子供たちと一緒に家にいたんです。どこへも出かけていませんでしたよ」瑛司は答えた。「あら、それは琴音ちゃんも大喜びだったでしょう?あの子、ここに来るたびにあなたの話ばかりしているのよ」と真理は言った。それを聞いた瑛司は微笑みながら、絵理奈に贈る花を引き続き選び始めた。瑛司が花選びに没頭していると、突然真理が近づいてきて、彼が探していた大きな芍薬の花を差し出した。「瑛司、絵理奈との結婚指輪、まだ外していないのね?」真理は彼の指にある指輪を見て尋ねた。それは昔、二人が結婚式を挙げた際に購入したものだった。瑛司は自分の薬指を見つめた。「はい。絵理と結婚して以来、この指輪を外したことは一度もありません」と彼は答えた。真理は優しく微笑んだ後、少し悲しそうな顔つきになった。「絵理奈の指輪がなくなってしまったのは、本当に残念だったわね」と真理は言った。「事故の時、彼女が身につけていたアクセサリーはすべて外されてしまったから」瑛司も当時のことを思い出した。医師から返却された絵理奈の遺品の中には、無残に傷つき、暗い記憶に塗れたあの指輪も含まれていたのだ。「でも大丈夫よ。あなたが今でも絵理奈との指輪を大切にしてくれているのを見て、おばさん嬉しいわ。それはあなたがずっと、絵理奈のことを心の中に留め続けていた証拠だもの」真理はそう言い添え、瑛司が選んだ花を受け取った。「お花はこれで全部かしら?」半分物思いに沈んでいた瑛司は、ハッとして素早く頷いた。「はい」花屋を出て数分後、瑛司は車に戻り、助手席にその花束を置いた。瑛司はゆっくり車を走らせ、時折指輪に目をやりながら考えを巡らせた。「指輪か……ずっと絵理はつけていなかった。それに、あの最悪な過去の記憶が染み付いた古い指輪を、もう一度彼女に渡すわけにはいかな
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第185話

数日前、瑛司は絵理奈に「サプライズを贈る」と約束していた。その日の昼下がり、瑛司はオフィスで愛する妻と子供たちとのデートの準備に追われ、家族でロマンチックなひとときを過ごすため細部まで調整していた。瑛司は目の前に立つ側近を見つめた。「神谷、この辺りでデートに最適な、最高に眺めのいい場所を知らないか?」瑛司は尋ねた。神谷は頷いた。「いくつか心当たりがございます、社長。屋外をご希望ですか、それとも屋内でしょうか?」と神谷は問い返す。「屋外だ……夜に開催して、最高にロマンチックな夜景を演出したいんだ!」瑛司は熱っぽく指示を出した。神谷から小さな笑い声が漏れ、静かに頷いた。「承知いたしました、社長。すべて手配いたします」「明日の夜だから、急いでくれ。芍薬の花束、最高のディナー、そして子供たちへのプレゼントもすべて準備しておいてくれ!分かったな、神谷?」「かしこまりました、社長。ご安心ください」神谷も熱意を込めて答えた。瑛司は全く気づいていなかったが、少し開いたドアのすぐ外に、絵理奈が立っていたのだ。今朝、瑛司が忘れていった弁当の入った紙袋を手に、絵理奈は訪ねてきた。夫がひどく忙しそうにしているのが聞こえてくる。絵理奈は静かに社長室のドアをノックした。室内にいた二人の男は驚いて彼女を見た。神谷はすぐさま会釈をし、部屋から退出していった。「絵理……」瑛司はすぐに立ち上がり、妻のもとへ歩み寄った。「誰と一緒に来たんだ?子供たちに何かあったのか?」絵理奈は小さく首を横に振った。「ううん、瑛司。今朝忘れていったお弁当を届けに来ただけよ」と、美しい彼女は微笑んだ。「ああ、なんてことだ……どうして忘れてしまったんだ。今朝はバタバタしていてな、わざわざこんな所まで来させてしまってすまない」瑛司は絵理奈の頭を撫でた。絵理奈の薄い唇に甘い笑みが浮かぶ。「いいのよ、瑛司。うーん……あなたはすごく忙しそうだから、私はもうブティックに戻るわね——」「待ってくれ、絵理!」瑛司はすかさず彼女の腕を掴んだ。絵理奈は彼を見つめたあと、温かく力強い手に握られた自分の手へ視線を落とした。瑛司はひときわ優しい眼差しで、彼女の手を自分の方へそっと引いた。「ここにいてくれ。少しだけ残りの仕事を片付け
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第186話

買い物を済ませ、瑛司は絵理奈を家まで送り届けた。二人を迎えた翔と琴音は、不満そうな顔をしていた。帰りが遅くなり、自分たちを置いて出かけたことへの抗議らしい。「ママとパパ、どうしてこんなに遅かったの?」琴音は絵理奈の首に抱きつきながら尋ねた。「ママはちょっと用事があったのよ。琴音はお兄ちゃんとお留守番してたでしょ」絵理奈は彼女のこめかみにキスをして答えた。「うん、でもママすっごく遅かった!」琴音は絵理奈の首筋に顔をうずめて不満を漏らした。一方の翔も瑛司に文句を言っていた。リビングでは、瑛司が翔の荷物を片付け、帰る準備をしている。それが翔の怒りに火をつけた。彼はまだ帰りたくなかったし、もっと琴音と遊びたかったのだ。「パパはつまんない!来たと思ったらすぐ帰るなんて!僕はここでママと一緒にいたいんだよ!」翔は瑛司の手の甲を叩きながら叫んだ。「翔くん……今日はもう帰らなきゃ。お勉強の時間はちゃんと守るって、ママと約束したでしょ」絵理奈は翔に近づき、彼の背中を撫でた。翔は唇を尖らせ、瑛司からリュックサックを受け取った。「パパの言った通りだろ?勉強する時は怒っちゃだめだ。家庭教師の先生が家でもう待っているはずだぞ」瑛司は翔の肩を抱いた。翔はリュックを背負い、泣きながら怒りを堪えていた。「もういいのよ。また明日、琴音ちゃんと遊ぼうね……琴音はもう寝る時間だからね」絵理奈は翔の頬を撫でてなだめた。「全部パパのせいだ!パパがママを一緒に連れて帰ってくれないから!」翔は瑛司を睨みつけた。「パパのバカ!もしパパがママを連れて帰ってくれたら、僕は怒ったりしないのに!」翔は足音を立てて、家の前に停めてある瑛司の車へと歩いていった。瑛司は遠くから翔を見つめた。絵理奈もまた、この事態に罪悪感を抱いていた。「翔くん……」突然瑛司が絵理奈の肩に触れ、言葉を遮った。絵理奈は振り返り、彼を見つめた。「あいつの怒りは気にするな、ただすねているだけだから。深く考えなくていい」瑛司は首を横に振りながら、絵理奈に微笑んだ。絵理奈が翔のことで悩んでいるのを察し、瑛司はその頬を撫でた。「絵理……」瑛司は絵理奈の顔を覗き込んだ。絵理奈の手が、頬に添えられた瑛司の手に重なる。「私は大丈夫よ、瑛司。早
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第187話

翌日、絵理奈は瑛司と出かける支度を整え、彼が買ってくれたドレスを身にまとっていた。腰まで届く髪を下ろし、メイクを施してネックレスとイヤリングをつけた絵理奈は、鏡の前に立っていた。「わあ……ママ、すっごく綺麗」翔は鏡の前に立つ絵理奈を見上げて、拍手をした。絵理奈は彼を振り返り、くすくすと笑った。「ありがとう、翔くん……」翔はすぐに絵理奈に抱きついた。昼過ぎには神谷に送られ、絵理奈のブティックへ来ていたのだ。夕方、絵理奈は琴音と翔の着替えを済ませ、瑛司と出かける準備を整えていた。「琴音だって可愛いもん、お兄ちゃん!」ソファに座っていた琴音が、翔を睨みつけながら言った。翔はすぐに振り返り、笑った。「うん、琴音ちゃんも可愛いよ」翔は琴音に近づき、頬にキスをした。「すごく可愛いよ。ほっぺが肉まんみたいにふっくらしてる。噛じってもいい?」「たたくよ!」琴音は握りこぶしを振り上げ、翔の頭に狙いを定めた。絵理奈はすぐに二人を振り返った。「もう……お兄ちゃんにそんないたずらしちゃだめよ」絵理奈は琴音を窘めた。絵理奈は琴音に近づき、ブーツを履かせた。その時、テーブルの上で絵理奈の携帯電話が鳴った。彼女はすぐさまそれを手に取った。画面に表示された瑛司の名前を見て、絵理奈の唇に笑みが浮かんだ。すぐに電話に出る。「もしもし、瑛司?」「もしもし、お前たちだけで出かける必要はないぞ。もう少ししたら迎えに行く。今、会社を出たところだ」電話の向こうで瑛司が言った。「分かったわ!」絵理奈は答えた。「えっと……後であなたに話したいことがあるの、瑛司」瑛司の笑い声が聞こえた。「何を話したいんだい、愛しい人?」瑛司のその呼び方に、絵理奈は顔を赤らめた。「もちろん秘密よ。二人きりになった時に教えるわ。いいわね?」「分かった。今すぐそっちへ行くよ」と瑛司は言った。「ええ。気をつけてね、瑛司。外で待ってるわ……」「ああ。また後で」瑛司は言った。絵理奈は電話を切ると、ソファで遊ぶ二人を振り返った。「さあ、外でパパを待ちましょう」絵理奈は二人に声をかけた。「うんママ、準備オッケー!」琴音が叫んだ。琴音が駆け出し、その後を翔が追った。その後、絵理奈は外へ
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第188話

絵理奈は琴音と翔を抱きしめていた手を離し、道路の真ん中でへたり込んだ。そこへ美咲と希美が駆け寄った。絵理奈は立ち上がって車へ駆け寄り、血を流して車から運び出される瑛司を見て悲鳴を上げた。「瑛司……!」絵理奈は叫び、すぐに瑛司の体に抱きついた。「瑛司、起きて!瑛司……目を開けて!嫌、嫌!私を置いていかないで、瑛司起きて、お願い!」絵理奈の泣き声が街中に響き渡る。事故の光景が、あのときの恐怖を呼び起こした。怖い。瑛司を失うのが怖い。その思いだけが、頭の中を駆け巡っていた。「絵理奈、もうやめて……瑛司さんは病院へ運ばれるから。落ち着いて!」明日香が絵理奈を抱きしめた。絵理奈は涙を止めることができなかった。首を横に振り、明日香の腕から抜け出そうともがく。「瑛司が……あああ、瑛司!」到着したばかりの救急車に瑛司が運び込まれるのを見て、絵理奈は手を伸ばして泣き叫んだ。絵理奈は明日香の腕を振り解き、救急車に飛び乗って瑛司に付き添った。琴音と翔は、美咲と希美と明日香に預けた。救急車の中で、絵理奈は瑛司の右手を握りしめ、泣き続けた。「持ちこたえて、お願い……私を置いていかないで、瑛司!行かないで」絵理奈の泣き声は止まることを知らなかった。病院へ向かう道中、絵理奈はただ泣き続け、瑛司が助かるようにと祈り続けることしかできなかった。数分後、瑛司と絵理奈は病院に到着した。絵理奈は、医師たちが瑛司を運んでいく後を追い続けた。手術室の前で立ち止まると、看護師が絵理奈を制止した。「奥様、ここで少しお待ちください。すぐに患者の処置をしなければなりません」と看護師は言った。絵理奈は頷き、涙をこらえてうつむいた。瑛司がいる部屋の前の待合席に座り込んだ。両手を胸の前で握りしめた。今は祈ることしかできない。「お願いします、瑛司を助けてください……何があっても彼を助けてください!」絵理奈は両手で顔を覆い、恐怖に苛まれていた。足音が聞こえ、絵理奈は顔を上げた。慌てた城田がこちらへ走ってくるのが見えた。「奥様……!」城田は絵理奈の泣き顔と、血のついたドレスを見てショックを受けた。「城田、どうしよう?」絵理奈は涙ながらに城田を見上げた。城田は、泣きじゃくる絵理奈を自分に寄りかからせたまま、黙
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第189話

二時間近くもの間、絵理奈と城田は部屋の中で瑛司の処置を行っている医師を待っていた。ついに部屋のドアが開き、中から医師が現れた。絵理奈は足早に医師に駆け寄った。「先生、瑛司の容態はどうですか?」取り乱した表情で、絵理奈は尋ねた。「ご主人はまだ意識が戻っていません。さらに詳しい検査が必要です。ご家族に入院手続きを済ませていただいたら、患者は病室へ移します」絵理奈は頷いた。「手続きはすべて済ませました、先生」と絵理奈は答えた。「分かりました。では、看護師について行ってください」「ありがとうございます、先生」と絵理奈は言った。「どういたしまして」その後、三人の看護師が瑛司の横たわるストレッチャーを押しながら部屋から出てきた。「瑛司」絵理奈は呟き、すぐに看護師の後を追った。絵理奈は涙を拭いながら、瑛司の手を握って歩き、顔や額、頭に巻かれた包帯を見つめた。瑛司の目は閉じたままだった。後悔が絵理奈を泣かせていた。私のせいで、あなたがこんな目に……早く目を覚ますように、祈り続けるわ。瑛司は別の病室に移され、看護師は絵理奈に付き添うよう頼んだ。「奥様、患者の意識が戻りましたら、前の部屋にいる私たちを呼んでください」と看護師は言った。絵理奈は頷いた。「はい」二人の看護師はすぐに病室を出て行き、絵理奈は瑛司と二人きりになった。絵理奈は瑛司のそばに座り、手を握りしめて自分の頬に当てた。「私のために命を犠牲にするなんて……あなたがいなくて、私が平気でいられると思ったの、瑛司……私の声が聞こえているわよね?泣いている私を見て。怖いよ、瑛司……あなたを失うのが怖い」絵理奈は泣きながら、瑛司の手の甲にキスをした。絵理奈はしゃくりあげ、背中を震わせた。悲しみと自責が入り混じり、自分の身勝手さを憎んだ。「早く目を覚まさなきゃだめよ。私に指輪をはめてほしいの。長く眠っちゃだめ、瑛司……早く目を覚まして……」絵理奈は泣きながら瑛司の胸に頭を乗せ、彼を抱きしめた。「ごめんなさい、私のせいであなたがこんなことになって」絵理奈は瑛司の手の横に頭を置き、その手を握りしめた。「気づいたの、今になってやっと気づいた……あなたを失うのが怖い。何があってもあなたを失いたくないの!私と琴音と翔のために持ちこた
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第190話

まる一日と一晩が過ぎても、瑛司の意識は戻らなかった。絵理奈はそばに座り、眠気に耐えながら彼の手を握り続けていた。彼女は目を閉じ、瑛司の手のひらを自分の頬に当てた。握られている瑛司の指が動き、絵理奈の頬を撫でた。これはただの幻覚よ、瑛司……あなたが私の頬を包み込んでくれる夢を見るなんて。瑛司が一向に目を覚まさない。その事実が、絵理奈の胸を締めつけていた。しかし突然、絵理奈は目を開けた。幻覚ではなかった。瑛司の指が、自分の頬を撫でていたのだ。「え、瑛司!?」絵理奈はすぐに席から立ち上がって叫んだ。瑛司の目が開き、今どこにいるのか分からないかのように周囲を見回した。やがて彼の視線は、傍らに立つ絵理奈を捉えた。「絵理……」瑛司は呟き、絵理奈に向かって微笑もうと口角を引き上げた。絵理奈は片手で口を覆った。目の縁に溢れる涙は、もう抑えきれなかった。絵理奈は瑛司に抱きつき、泣き崩れながら首筋に顔をうずめた。「瑛司……やっと目を覚ましたのね」絵理奈は泣きながら呟いた。泣きながら抱きついてきた絵理奈に、瑛司は驚いた。「絵理、俺は大丈夫だ」瑛司はそう言ったが、まだ話すだけでも体がこわばっていた。瑛司も腕を回し、絵理奈を抱きしめ返した。「昨日からずっと意識が戻らなかったのに、どうして大丈夫なんて言えるの?」絵理奈は瑛司を見つめて泣いた。瑛司は微笑み、涙で濡れた絵理奈の頬を拭った。絵理奈は瑛司の手を握りしめた。彼の手に、彼女の恐怖の震えが伝わってきた。「もうこんなことはしないで、瑛司。こんなあなたを見たくない、怖い……」絵理奈は瑛司の顔を見つめた。「私や琴音や翔を置いていかないで。嫌よ、あなたを失いたくない、瑛司……私を置いていかないで!」絵理奈の泣き声に、瑛司は驚きを隠せなかった。悲しみと感動が胸の内で入り混じるなか、彼はなおも妻を抱きしめていた。瑛司は絵理奈を再び腕の中に引き寄せた。「しーっ……俺は大丈夫だ、絵理。もう泣かないで」瑛司は絵理奈の頭を撫でながら言った。「どうして昨日みたいに私を助けたりしたの……どうして、瑛司?」絵理奈は瑛司を抱きしめながら呟いた。瑛司は微笑んだ。「お前や琴音や翔が俺と同じ目に遭うくらいなら、俺が死んだ方がましだ。それ
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