「死にはしない」湊の声は相変わらず淡々としていた。「ちっ」陸は口元を歪めた。「悪人ほど長生きしやがる、か」明乃は二人のやり取りを聞きながら、さっきより少し和らいだ空気にほっと胸をなでおろした。彼女はサイドテーブルに置かれた洗い立てのリンゴを手に取り、うつむいて丁寧に皮をむき始めた。白い指でナイフを握り、慎重に動かす。湊の視線は彼女の伏せられた眉目に注がれた。その集中している様子を見て、瞳にかすかな柔らかさがよぎった。陸は壁に寄りかかり、視線は無意識のうちに明乃へと向かっていた。彼女は丁寧にむいていて、リンゴの皮が切れずに薄くつながって垂れ下がっている。窓からの光が彼女の横顔を縁取っていた。長く濃いまつ毛、ツンとした鼻先、それに唇……陸は急に視線をそらし、喉を一度動かした。胸の奥で得体の知れないイライラがまた膨らみ始め、まるではびこる雑草のようだった。「陸さん、リンゴをどうぞ……」その時、明乃がむき終わったリンゴを小さく切り、楊枝を刺して先に陸へ差し出した。陸は目を伏せたままそれを受け取った。続けて、明乃が湊の方へ向き直るのが見えた。「あなたも食べて……」湊は受け取らず、わずかに頭を下げると、明乃の手に持たれたリンゴをそのまま口に含んだ。明乃の指は細く白く、湊の唇は血の気が薄い。触れ合った瞬間、陸は自分の目が焼かれたような錯覚に陥った。さらに湊が手を上げ、リンゴを差し出していた明乃の手首を掴むのが見えた。指先で、手首の内側をそっとなでる。ごくわずかな、短い動作だった。一瞬のことで見間違いかと思うほどだった。だが、陸は見ていた。明乃は少し驚いたようで、頬を赤く染め、軽く手を引いた。振りほどけず、そのままに任せたが、困ったように彼を睨んだ。湊の口元がほんの少しだけ緩んだが、それもすぐに消えた。この光景は、真っ赤に焼けたダガーのように陸の心臓を貫き、むごたらしくかき回した。周囲の音がすべて遠ざかり、頭に血が上る轟音だけが響いた。無理やり抑え込んでいた卑劣な嫉妬が、この瞬間、溶岩のように溢れ出し、彼を灰にするほど熱く焦がした。彼は勢いよく立ち上がった。その拍子にベッドの足元にあった椅子が倒れ、耳障りな音が響いた。明乃と湊が同時に陸を見た。「急に思い出した……」陸の声はひどく
Read more