自分は迷ったり、葛藤しなかったわけではない。自分の青春と尊厳を賭けて、見ず知らずの男の情けにすがり、母の命をつなぐ機会と引き換えにする――そんな取引は、あまりにも汚らわしく、卑しいものだった。しかし、自分に選択の余地があっただろうか。もし母が病に倒れていなければ、もし手術がまだ始まっていなければ、自分も歯を食いしばって別の道を探せたかもしれない。たとえ高利貸しに手を出し、血を売り、腎臓を売ることになったとしても……だが今となっては、手術はもう半ばまで進んでしまっていた!病院から届く追加費用の督促状は、次々と閻魔の呼び出し状のようだった。投薬を止めれば、今までのすべての努力が水の泡となり、母は手術台から引きずり下ろされ、つまり……死だ。自分には、電話の向こうの女が与えたこの道以外、もはや選べる道はなかった。涙がまたしても込み上げてきたが、菜々はそれを必死に押し戻した。彼女は手を上げて、顔に伝う涙の跡を力強く拭い、触れた指先は、ひどく冷たかった。泣いてはいけない、泣いたところで何にもならない。この世界に、自分の涙を拭い、心を痛めてくれる者など、もうどこにもいないのだから。菜々は腰を下ろし、地面に散らばった本と、落ちた衝撃で歪んだ弁当箱を黙々と拾い上げた。中身は母のために作ったお粥だったが、今やその大半がこぼれてしまっている。彼女はその弁当箱をぎゅっと握りしめた。冷たさが掌を刺すように痛んだが、その痛みがかえって、混乱していた頭にわずかながらも奇妙な冴えをもたらした。明斗に近づかなければならない。どんな手を使ってでも。……一方、タクシーの中では、先ほどの一瞥も明斗の心に何ひとつ波紋を起こさなかった。彼は座席にもたれ、目を閉じて休んでいた。連日の結愛の厄介事の後始末に駆けずり回らされ、彼の気力はほとんど尽きていた。飛行機の中ですら、ずっと仮眠を取っていたほどだ。この時になってようやく、彼は本当に気を緩め、スマホの電源を入れることを思い出した。スマホの画面が点灯した瞬間、無数の未読メッセージと不在着信の通知が一気に押し寄せた。画面の上部には、いくつかのニュース速報の見出しが並んでおり、その内容は目を疑うほど衝撃的だった――【安藤グループ、100億円詐欺事件に巻き込まれ、安藤義男会長が転
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