低く、冷たく研ぎ澄まされた声が、かすかな呆れをにじませながら路地の入口から響いた。全員が、声のした方を振り返る。いつの間に――湊がそこに立っていた。すらりとした体に、仕立ての良い黒のロングコートを纏い、その肩には粉雪がうっすらと降りかかっている。背後には黒いスーツを着たボディーガードが数名控えており、狭い路地の出入口はあっという間に塞がれた。湊の視線がまず、素早く明乃へと走る。無事であることを確かめると、あの深い瞳の奥に張り詰めていたものが、ようやくふっと緩んだ。それから、ボロボロの陸と、地面に転がる正たちに目を移した。最後に、彼はまた陸を見た。わずかに眉をつり上げ、唇の端に笑っているのかいないのか分からない弧を描きながら、奥歯を噛み締めるようにして、一語一句、区切って言った。「あ・り・が・と・う・な」その声には、計画を台無しにされた苛立ちと呆れが、これでもかというほど滲んでいた。「……」陸は黙り込んでしまった。ここまで来れば、いくら鈍い陸でも察しがつく……――罠の中の罠。つまり自分は、余計なお世話をしたということだ……陸は唇をきゅっと引き結び、意地を張るように首を突っ張った。「ありがとうじゃねぇだろ!俺が来なかったら、このバカ、骨の髄までしゃぶられてたぞ!」明乃のことだ。「……」明乃は俯いたままだった。湊はもう陸とは取り合わなかった。大きく歩を進めると、地面でぐったりと伸びている正と、ガタガタ震えるチンピラどもに視線を落とす。その目が、すっと冷たくなった。連れてきたボディーガードたちが音もなく散開し、瞬く間に現場を制圧した。湊は明乃の前まで来ると、静かに目を伏せ、風に乱れた頬のひと筋の髪をそっと指先で払った。その仕草はひどく優しく、今この瞬間に全身から放っている冷厳な空気とはまるで別人のようだった。「怖かったか?」低く問いかけるその声は、わずかにかすれている。明乃は首を横に振り、まっすぐ湊を見上げた。その瞳は澄み切っていて、怯えた様子など微塵もない。「あなたを待ってたのよ」湊がほんの一瞬、目を見開いた。すぐに得心がいったように、その瞳の奥にかすかな笑みと感心が過ぎる。――この子は、思っていたよりもずっと賢い。そして、ずっと度胸がある。地べたに這いつくばっている正は、その
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