明乃は口元を押さえ、必死にこらえた。湊は横目で明乃を見た。「気分が悪いのか?」「少し……吐きそう……」明乃の声には力がなかった。湊は眉をきつく寄せ、ウィンカーを出して車を路肩に寄せた。「どうした?」湊はシートベルトを外し、明乃のほうへ身を乗り出した。明乃は湊を押しのけるようにしてドアを開け、車を飛び出すと、道端にしゃがみ込んでえずいた。けれど何も吐けなかった。ただ、苦しさだけが込み上げてくる。湊も車を降り、明乃の背をさすった。その顔は、ぞっとするほど険しかった。明乃が少し落ち着くのを待って、湊は彼女を支えて立たせた。「病院へ行こう」「大丈夫……」明乃は首を振った。「たぶん疲れてるだけよ。それか、さっき驚いたせい……」「いいから行くぞ」湊の口調に、反論の余地はなかった。湊は明乃を車に戻し、再びエンジンをかけると、そのまま病院へ向かった。……救急外来で、医師は明乃を診察した。「大きな異常はありません」医師は言った。「少し低血糖気味なのと、過労ですね。数日休めばよくなります」それでも、湊の眉間のしわは消えなかった。「さっき吐きそうになっていました」「吐き気ですか?」医師は眼鏡を押し上げた。「最近、食事は普段どおり取れていますか?何か悪いものを食べた心当たりは?」明乃は首を振った。「ありません」「生理は予定どおり来ていますか?」医師がさらに尋ねた。明乃は一瞬、固まった。生理?そういえば今月は……遅れている気がする。もともと周期が乱れがちだったから、気にしていなかった。医師は明乃の表情を見て、察したようだった。「血液検査をしましょう」医師は言った。「hCGの値を調べます」明乃の心臓が大きく跳ねた。hCG?それって……明乃は湊を見た。湊も動きを止めていた。二人は顔を見合わせた。「わかりました」先に口を開いたのは湊だった。声が少しかすれていた。「お願いします」採血を終え、結果を待った。時間が、ひどくゆっくり流れているように感じた。明乃は廊下の長椅子に座り、無意識に指を絡め合わせていた。湊は明乃のそばに立ち、何も言わず、ただ彼女の手を握っていた。その手のひらは温かかった。二人とも口を開かなかった。それでも空気の中には、張り詰めた
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