岳の胸が、ギュッと強く締めつけられた。「明乃……」彼の声は震えていた。自分でも抑えきれないほど、恐ろしかった。だが、岳が何か言うより先に、明乃の冷たい声が落ちる。「まだ何か言いたいの?」「あの日……あの日のことが、たとえ俺じゃなかったとしても……」掠れた声で、岳は呻くように言う。「君への気持ちは、本物だった!助けたのが嘘でも、想いだけは本物だ……!明乃、君は……」「本物?」明乃が口角を歪めた。その笑みには、容赦のない嘲りが滲んでいる。「人の命の恩を盗み取って、私を5年ものあいだバカみたいに騙し続けて。それが、あなたの『本物』なの?その嘘で何度も何度も私を縛りつけて、罪悪感で身動きが取れないようにして、それがあなたの『本物の気持ち』なの?」彼女は前に一歩踏み出す。岳もそれに合わせて後ずさった。「俺は……俺にも、事情が……」「あなたはいつもそうなの」明乃が遮った。その瞳は、氷のように冷たい。「いつも誰かに追い詰められて、仕方なかったって言うの。あなたはもう28歳でしょう?もう小学生じゃないのよ?全部あなたが自分で決めてきた道でしょ?」そこで彼女は言葉を切り、一字一句、刻みつけるように告げた。「だから、もう『本気だった』なんて言葉で、私を不快にさせないで」岳はその場に立ち尽くし、全身から力が抜けていく。明乃の目には、怒りも恨みもなかった。ただ、冷たい嫌悪だけがあった。心臓を見えない手で握りつぶされたかのような痛みが走り、岳はほとんど息ができなくなった。それは、どんな罰よりも残酷だった。もう恨まれてすらいない。責められてすらいない。彼女はただ……軽蔑しているだけなのだ。恨む価値もない相手として。「さっさと失せろ」湊が低く言った。声に怒鳴るような激しさはない。だからこそ、余計に冷たかった。「二度と明乃ちゃんの前に現れるな」岳は口を開いた。けれど、何も出てこなかった。肩が落ち、背中が丸まる。岳はふらつく足で廊下の奥へ歩いていった。足取りはおぼつかなく、後ろ姿はみじめだった。まるで逃げ出すように……明乃はその場に立ったまま、岳が消えていくのを見送った。胸の中は、驚くほど静かだった。怒りも、悲しみもない。5年間ずっと背負っていた重い荷物を、ようやく下ろせたような気がした。同時に、ひどくくだら
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