Todos os capítulos de 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした: Capítulo 1001 - Capítulo 1010

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第1001話

玉希はスマホで、候補にしていたゴールドビーズをいくつか凛に見せた。「このへんがいいかなと思ってるの。あとで実物を何点か持ってきてもらえる?それを見て決めたいわ。全部で千点くらいになると思う」「分かりました。このあたりでしたら、どれも在庫があります」注文の確認が済むと、玉希はまた琴子のことに触れた。「母って、私たちが誰を選んでも気に入らないのよ。自分で見つけてきた見合い相手だって、結局は気に入らないんだから。兄もつい最近結婚したけど、昔、母に結婚を反対されてなかったら、今頃は子供が三人くらいいたかもしれないわね」玉希はそこで、少し遠い目をした。佐原家のきょうだいは、そろって目を引く顔立ちだった。玉希も映画女優を思わせる華やかな美人で、くっきりした目鼻立ちに、大きなウェーブのかかった髪がよく似合っていた。本人から聞いていなければ、三十五歳にはとても見えなかった。凛がコーヒーをひと口飲むと、玉希は少し真面目な顔になった。「こんなこと、私が言う筋合いじゃないのは分かってる。でも、蓮の姉としては、あの子には幸せでいてほしいの。母にも問題があるのは分かってる。あなたにだけああいう態度を取ってるわけじゃないのよ。あの人自身、そういうところがあるから」玉希は少し声を落とした。「うちのことも、あまり聞いてないでしょう?母は私と兄にとっては継母で、蓮にとっては実の母親なの。実の息子だからか、蓮には昔から特に厳しかったのよ」凛はわずかに目を見開いた。蓮からそんな話を聞いたことはなかったし、琴子から聞かされたこともなかった。玉希は小さく息をついた。「私があなたの立場でも、母とは距離を置いてたと思う。あの人が付き合いづらいのは、私もよく分かってるし、距離を置きたくなる気持ちも分かる。でも、私は蓮の姉だから、あの子のことは放っておけなくてね」凛は少し黙ってから尋ねた。「この二年、蓮は……どうしてたんですか?」「うーん……順調だった、とは言い切れないかな。起業なんて大変で当たり前だし、そのへんはあなたも分かると思うけど」玉希の表情が少し曇った。「お酒で何度か胃出血を起こして病院に運ばれたり、仕事の付き合いが続いて体を壊したりしてね。急性心筋炎で、半年以上入院してた時期もあったの」それから、少し困ったように笑った。
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第1002話

これまで凛は、琴子がしてきたことを蓮も全部知っていて、それでも黙っていたのだと思っていた。けれど、玉希の話を聞くうちに、蓮が本当はどこまで知っていたのか分からなくなってきた。凛はラテをもう一口飲んだ。それでも心臓はまだ速く打っていて、カップを持つ手もかすかに震えていた。アメリカーノをそのまま飲んでいたなら、この動悸もコーヒーのせいにできたのに。玉希がまた口を開いた。「そういえば、S2って名前、どうしてつけたか知ってる?」凛は視線を落としたまま、小さく頷いた。付き合い始めた頃、二人で将来の話をしていて、いつか会社を作るなら名前は「S2」にしようと決めたことがあった。だから後になって、本当にS2という会社を立ち上げたと知った時も、凛はそれほど深く考えなかった。新しい名前を考えるのが面倒で、昔二人で決めたものをそのまま使ったのだと思っていた。蓮は昔から、新しい名前を考えるのを面倒がるほうだった。ネットで使っていた名前も、中学生の頃につけたものをずっと変えずに使っていた。S2も、昔二人で決めた名前をそのまま使っただけだと思っていた。けれど今、玉希から改めてその名前を出され、凛は黙り込んだ。玉希もそれ以上は触れなかった。「蓮が今どう思ってるのかは、私にも分からない。今日こうしてあなたと話してるって知ったら、何て言うかも分からないし。でもね、二人にはもう、これ以上すれ違ってほしくないの」けれど凛は、二人の間に残っていたのは「すれ違い」などではないと思っていた。もうとっくに終わって、過去になったことだった。いつか蓮のそばにも別の誰かが現れ、結婚して家庭を持つのだと思っていた。その頃には、凛も残っていた気持ちに区切りをつけ、二年前までのことを思い出に変えられるはずだった。そうすれば、いつかは新しい恋にも踏み出せる――そう思っていた。玉希と連絡先を交換し、今後の注文についても確認を済ませて店を出ると、少し先に蓮の姿があった。黒いTシャツ姿で車にもたれ、スマホを見ていた。「蓮?なんでここに?」「迎えに来た」玉希は凛をちらりと見て、ふっと笑った。蓮が玉希の送り迎えをすることなど、普段はなかった。それなのに今日はわざわざここまで来ている。誰を迎えに来たのかは、聞くまでもなかった。玉希は凛
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第1003話

玉希は、蓮に聞かせるつもりでわざとその話を出していた。今のままでは、蓮がどれだけ凛のことを思っていても、その気持ちは伝わりそうになかった。何をしても何も言わず、肝心なことほど口にしなかった。そんな蓮を見ていると、玉希はもどかしくて仕方なかった。凛は思わず蓮に目を向けた。蓮はハンドルを握り、まっすぐ前を見ていた。長い睫毛が目元に影を落とし、横顔は相変わらず整っていた。凛は少し眉を寄せた。「『ドルフィン2』のために作ったの?あのチップ」「ああ」「じゃあ、もしうちがS2に声をかけなかったら?」蓮は小さく笑った。「相沢グループなら、新しいチップが出れば当然チェックするだろ。俺のも、そのうち目に入ると思ってた。もし見つけてもらえなくても、こっちから知らせる方法はいくらでもあったしな」蓮が開発したチップは、最初から「ドルフィン2」に合わせて作られたものだった。市場にもっと性能のいいものがあったとしても、「ドルフィン2」との相性まで含めれば、簡単に代わりが見つかるものではなかった。凛は思わず蓮を見た。そこまでしていたとは、知らなかった。「もし、もっといいものが見つかったら?S2とは組まなかったかもしれないでしょ」「それはない」蓮は迷いなく言った。「そっちがこれまで出した家事ロボットは全部調べた。データも何晩もかけて一つずつ見比べた。性能だけなら上はあるかもしれない。でも、そっちの製品にここまで合うチップはない」あまりにも当然のように言われて、凛は返す言葉を失った。「……どうして今まで言わなかったの?」蓮はちらりと凛を見たあと、また前を向いた。「言ったところで、嫌がると思った。仕事にまで俺とのことを持ち込まれるの、好きじゃなかっただろ」蓮もそれは分かっていた。それでも、何かきっかけを作らなければ、凛ともう一度関わることさえできなかった。隣で運転する蓮は、以前よりずいぶん痩せていた。頬も少しこけ、横顔の線まで前より鋭く見えた。それ以上見ていられず、凛は窓の外へ顔を向けた。目の奥が熱くなり、にじんだ涙を指先でそっと拭った。少し掠れた声で、凛は口を開いた。「二年前、あなたのお母さんが私のところに来たの。私には悪いものがついてるとか、前世からの因縁があるとか言って、お祓いまで受けさせ
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第1004話

凛が話したことは、蓮も玉希もまったく知らなかった。琴子も家では、その話を一度もしていなかった。口にしていたのは、凛は気が強くてわがままだとか、我が強すぎて結婚には向かないとか、蓮とは合わないとか、そんな話ばかりだった。何度も聞かされるうちに、蓮もすっかり聞き飽きていた。最初の頃はそのたびに言い返し、凛はそんな人じゃないと何度も言った。それでも琴子は受け入れず、家事を蓮のほうが多くやっていたのも気に入らなかった。今では蓮がほとんど家に帰らなくなり、琴子はますます腹を立てていた。凛が東都を離れていた二年間、夜が更けると、どうしてあんなに簡単に離れていけたのかと、凛を責めたくなることが何度もあった。蓮には、二人が別れるほどのことがあったとは思えなかった。琴子と凛がぶつかった時も、蓮はいつも凛の側に立っていた。琴子をかばったのは一度だけだった。琴子が体調を崩して退院したばかりだったため、その時くらいは凛に少し譲ってもらえればと思ったにすぎなかった。それなのに、凛は振り返りもせず去っていった。二年以上一緒にいた時間まで、凛にとっては簡単に捨てられるものだったのか。蓮は何度もそう考えた。アメリカまで会いに行った時も、凛を諦めきれない一方で、どうしてここまで冷たくできるのかと、腹が立つこともあった。帰国してからずいぶん経っても、凛のほうから会いに来ることは一度もなく、蓮にはそれが余計に冷たく感じられた。けれど今、凛の口から初めて事情を聞かされ、蓮の瞳がわずかに揺れた。その反応を見て、凛は頬に残った涙を拭った。この話をしたくなかったのは、文太や恭子のことまで話さなければならなかったからでもあった。二人のことで、凛はこれまで何度も恥ずかしい思いをしてきた。琴子と最後に会った時、凛は初めて、文太が金を受け取っていたことを知らされた。しかもその代わりに、凛と蓮をきっぱり別れさせると文太が約束したことまで聞かされた。あまりにも信じられず、凛は家に戻るとすぐ文太を問い詰めた。ところが文太は少しも悪びれず、佐原家からの結納金だと思えばいいと答え、まともに取り合おうともしなかった。それでも何度も問い詰めて、ようやく金の行き先が分かった。文太は、その金を穆の事業に回していた。穆にはまだ立て直す見込みがあると考え、そのた
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第1005話

「このお金、ずっと返せないままだったの。琴子さんに返しておいて」凛は小切手を差し出した。「返すのはこれだけ。もしそのあとも父にお金を渡してたなら、それはもう琴子さんと父の間の話だから。そこまでは知らない」この一枚だけは、どうしても返しておきたかった。琴子に、凛と蓮の手切れ金だと言われた金だった。そんなものとして受け入れるつもりはなかった。差し出された小切手を、蓮は受け取ろうとしなかった。玉希がその小切手に目を落とし、凛を見た。「さっき言ってた、母に『縁起が悪い』って言われた話……あれ、どういうこと?」「前に一度、琴子さんに誕生日を聞かれたんです。何時ごろ生まれたのかまで聞かれて、それから二日後くらいに、有名な人に見てもらったって言われました。蓮とは相性が悪いって。それに、前世からよくないものを背負ってるから、結婚したら蓮まで不幸になるって」凛はかすかに苦笑した。「そんなの信じられないって断ったんです。そしたら次に会った時、『お祓いだから』って、いきなり動物の血を頭からかけられて……」血をかけたあと、琴子は手を叩きながら声を上げて笑った。周りにいた女性たちまで一緒になって笑い、凛を見る目にも露骨な蔑みが浮かんでいた。あの日、どうやって家まで帰ったのかは、ほとんど覚えていなかった。ただ、体に染みついた生臭い匂いがなかなか取れず、何度も体を洗ったことだけは覚えていた。それで終わったわけでもなかった。後日、琴子から電話があり、凛がきちんと協力しなかったせいでお祓いがうまくいかなかったから、もう一度やり直すと言われた。話を聞き終える頃には、玉希は目を見開いたまま何も言えず、蓮も黙り込んでいた。これだけのことがあったのに、凛は蓮に一つも話していなかった。蓮の手が、かすかに震えていた。「どうして……俺に何も言わなかったんだ?」「お母さんが、あなたは全部知ってるって言ったの。あなたに黙って、こんなことをするわけがないって」凛は小さく息を吐いた。「そこまで言われたら、もうあなたに聞こうとも思わなかった。本当に疲れてたの。もう何もかも嫌になってた。あの頃は、もしかしたらお母さんの言う通り、私たちは合わなかったのかもしれないって。結婚しても、きっとうまくいかないんだって思ってた」凛が望んでいた
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第1006話

凛は、驚くほど落ち着いていた。表情にも声にもほとんど変化はなく、その静けさがかえって蓮にはつらかった。胸の奥が締めつけられ、息をするのも苦しくなった。凛はそのまま続けた。「私もちゃんと考えたの。二年前、何も言わずに離れたことは悪かったと思ってる。でも、この二年どうだったかは、あなたも分かってるでしょ。これから先、あなたに合う人が現れたら、その人と幸せになって。もう、そっとしておいて。私、疲れたの」」声は落ち着いていたが、暗い車内で凛の肩はかすかに震えていた。遥たちにさえ話したことのないことを、ここまで口にするだけで精いっぱいだった。蓮は何か言おうとしたが、しばらく声が出なかった。「凛……本当に、もうやり直せないのか?」「振り返っても、思い出すのはつらかったことばかり。もう戻りたくないの」蓮はしばらく目を閉じたまま動かなかった。凛もそれ以上は何も言わず、静かにドアへ手を伸ばした。「小切手、琴子さんに渡しておいてくれる?真理が迎えに来てるから、二人もそろそろ帰ってね」そう言って車を降りると、向かい側でハザードランプを点けていた車へ足早に向かった。立ち止まれば振り返ってしまいそうだったし、少しでも歩みを緩めれば、こぼれそうな涙まで蓮に見られそうだった。凛はそのまま足早に歩き続けた。けれど涙は堪えきれず、頬を伝って雨に紛れ、路面へ落ちていった。車に乗り込むと、凛はそのまま目を閉じた。「どこでもいい。とにかく早く出して」真理は何も聞かなかった。向かいの車に蓮が乗っていることにも気づいていたし、二人の間に何かあったことくらいは察していた。そのまま車を出し、すぐにその場を離れた。「うち来る?」真理は、このまま凛を一人で帰すつもりはなさそうだった。「大丈夫。美月のこともあるでしょ?次の交差点で降ろして。家まで歩くから」そこから凛の家までは、歩いて帰れる距離だった。「こんな雨の中、歩いて帰るつもり?うち来なよ。美月と少し遊んでたら、気も紛れるかもしれないし」美月のふっくらした頬を思い浮かべると、凛の表情が少しだけ和らいだ。凛はその言葉に甘えることにして、シートに身を預けた。バックミラー越しの凛の顔は、まだ少し疲れて見えた。「今日、蓮さんのところに行ってたの?」「
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第1007話

蓮が家に顔を見せるのは、ずいぶん久しぶりだった。リビングにいた琴子は、入ってきた蓮を見るなり勢いよく立ち上がった。「蓮、やっと帰ってきたのね!もうお母さんのことなんて忘れたのかと思ったわよ!」琴子はこれまで、これといって苦労をしたことがなかった。蓮も以前は、母は少し世間知らずで、何でもいいほうに考える人なのだと思っていた。だから、まさか凛にあそこまでしていたとは思いもしなかった。琴子が手を伸ばしてきたが、蓮はさりげなく身を引いた。ちょうどそこへ、書斎から浩介と宗介が出てきた。宗介はリビングにいる蓮を見るなり、眉をひそめた。「やっと帰ってきたか。まったく、いつまで家を空けるつもりだったんだ。外のほうがそんなに居心地いいのか?」浩介は蓮を一瞥すると、すぐに玉希へ目をやった。何があった、と問いかけるような視線に、玉希は小さく首を振った。先日の食事では、蓮はもう家には戻らないと言い切っていた。それが突然帰ってきたのだから、何かあったと思うのも無理はなかった。玉希も気が気ではなかった。二階へ上がってしまおうかとも思ったが、このまま離れるのも心配で、結局その場に残った。蓮はそんな二人には構わず、琴子へ向き直った。「母さん。何年か前、凛の家族に金を渡したこと、あるよな?」琴子の表情が一瞬だけこわばったが、すぐに口元を歪めた。「文太さんが何度もうちに来たのよ。来るたびに、結婚はいつだ、式はいつだって、そればっかり。しまいには結納金の話まで持ち出してきたの。まだ何も決まってないうちからお金の話なんて、普通じゃないでしょう?あの家、みんなお金のことしか頭にないのよ。あなたとは合わないわ」「凛が家族とうまくいってないの、知ってただろ。それなのに、なんであの人に金を渡した?金を渡しただけならまだしも、そのことを持ち出して凛まで傷つける必要があったのか?」琴子は鼻で笑った。「あなたには分からないでしょうけど、あの子がどこまで本気なのか見ておきたかっただけよ。だいたい、実の親とあそこまでこじれるなんて、普通じゃないでしょう。向こうにだけ問題があるとも思えないし。そんな状態で結婚したって、うちとうまくやっていけるとは思えなかったのよ」蓮は疲れ切った顔で琴子を見た。「じゃあ、なんで凛にあんなものまで浴びせた
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第1008話

蓮がここへ戻ってきたのは、確かめたいことがあったからかもしれない。この二年、どこで間違えたのか。それを知りたかった。宗介も、今回のことをすべて知っていたわけではなかった。琴子が人に頼んで、凛と蓮の相性を見てもらったことは知っていた。ただ、それ自体は別におかしいとは思っていなかった。佐原家では昔から、そういう縁起や日取りを気にしていた。結婚のような大事なことはもちろん、仕事でも契約の日を選ぶことがあるくらいだった。琴子から聞かされていたのは、凛と蓮はあまり相性がよくなく、一緒になれば苦労するかもしれないという話だけだった。それに、二人が一緒になれば、蓮のほうが我慢することが多くなるとも言われたらしい。琴子は、それが気に入らなかった。息子ばかりが気を遣うような関係など、母親として納得できるはずもない。できることなら、蓮のほうが大事にされてほしいと思っていた。そのことで琴子が家で何度も不満をこぼしていても、宗介は特に口を出さなかった。もともと、息子の恋愛にまで細かく口を挟むほうではなかった。蓮は昔から明るく、多少好き勝手にするところはあったが、家族を困らせるようなことはほとんどなかった。この二年は琴子とぶつかっていたものの、仕事は順調だった。宗介も会食の席で蓮の会社を褒められることが増え、息子がうまくやっていることを内心では喜んでいた。琴子とのことも、宗介が何度か電話をかけて様子を聞いた程度だった。そのたびに蓮は、放っておいてくれ、ちゃんと分かっているからと答え、宗介がなおも話を続けようとすると電話を切った。夫婦が、いざとなれば金を止めればいいと思い始めた頃には、蓮はもう親に頼らずやっていけるようになっていた。仮に困ることがあっても、蓮には湊という頼れる相手もいた。今となっては、金のことで蓮に言うことを聞かせるのも無理だった。宗介は眉をひそめた。「何があったにしても、もう少し落ち着いて話せないのか。母さんだって、お前のためを思ってやったことだろう。少しくらい家族の気持ちも考えてやれ」目を赤くした蓮は、宗介をまっすぐ見た。「無理だよ。あんなことまでしておいて、それでも母さんの気持ちを分かれって言われても、俺には納得できない。俺は今でも凛が好きだ。凛に好きになってもらうまで、あれだけ時間がかか
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第1009話

琴子はしばらく呆然としたまま、蓮が出ていった方を見つめていた。やがて涙があふれ、声も次第に震えていった。「あの子、いったいどういうつもりなの……?あの女のことで、実の母親にあそこまで言うなんて……私はずっと蓮のことを考えて、あの子のためにやってきたのよ。それが全部間違ってたっていうの?」「浩介と玉希は私が産んだ子じゃないけど、だからって二人をないがしろにしたことなんて一度もないわ。蓮は実の息子なんだから、それ以上に大事にしてきたつもりよ。それなのに、あんなことを言うなんて……」結婚のことになると口を出すところはあったが、普段の琴子は浩介や玉希にもよくしていた。三人きょうだいも昔から仲がよく、母親が違うことを意識するようなことはほとんどなかった。宗介は泣き続ける琴子を抱き寄せて宥め、落ち着いたところで部屋へ戻した。それから浩介と玉希を書斎へ呼んだ。「いったい何があったんだ?」浩介と玉希は顔を見合わせた。玉希が、今日あったことを順を追って話した。玉希が話し終えると、三人ともしばらく黙っていた。やがて宗介が、手にしていたグラスを机に強く置いた。「それでも、あんな言い方をしていいわけじゃないだろう。母親なんだぞ」浩介が口を開いた。「父さん。もし昔、母さんと結婚する前に、おばあちゃんが母さんに同じことしてたら?」「うちの母親は、そんなことする人じゃない」そこまで言って、宗介は口をつぐんだ。もし本当に同じことをされていたら、宗介だって黙ってはいられなかったはずだった。琴子も、到底我慢できなかっただろう。少しして、宗介は言った。「でも、凛さんと母さんは違うだろ。母さんは昔から何不自由なく育ってきたから、少し気が強いところがあるだけで……」玉希がすぐに言い返した。「凛ちゃんだって、そんなふうに見下されるような人じゃないでしょ。九条のおじいさまだって、前は凛ちゃんを九条家の嫁に迎えたいと思ってたくらいなんだから。今の『アンサンブル』を見れば、父さんだって分かるでしょ?」だからといって、凛ばかりが我慢する筋合いはなかった。琴子にだけ言いたいことを言わせて、周りが黙って合わせる必要もなかった。宗介はグラスに口をつけると、少し声を落とした。「だからって、蓮が母さんにあんな態度を取っていい
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第1010話

玉希は、その言葉を待っていた。「じゃあ、父さんはもう口出ししなくていいじゃない。蓮と母さんは親子なんだし、父さんは母さんの子じゃないんだから。ね?」宗介は呆れたように眉をひそめた。ここまで話しても、蓮も琴子も簡単に考えを変えそうにはなかった。どちらか一方だけを責める気にもなれず、宗介はしばらく黙ったあと、深いため息をついた。「母さんには俺から話しておく。蓮も、いつまでもあの調子じゃ駄目だ。凛さんとちゃんと話がついたら、一度家に戻って、母さんにも一言謝ればいい」玉希は、まだ納得していない様子だった。昔なら、宗介がひと言いえば、子どもたちもそれに従っていた。だが、今ではみんな大人になり、それぞれ自分の仕事も持っていた。宗介が何を言っても、素直に聞く者はほとんどいなかった。蓮がこれだけ長く家に帰ってこなくても、宗介には無理に連れ戻すこともできなかった。話が終わると、浩介と玉希はそれぞれ部屋へ戻った。宗介も寝室へ戻った。琴子はもう目を覚ましていて、ベッドにもたれながらアルバムをめくっていた。そこには、子どもたちの小さい頃からの写真が何枚も収められていた。宗介はそばまで行くと、少し呆れたように声をかけた。「ちゃんと休んでろって言っただろ。もう起きて大丈夫なのか?」「だって、考えても分からないのよ。私はずっとこの家のためにやってきたのに、どうして誰も私の気持ちを分かってくれないの?」琴子はアルバムを抱えたまま、また涙をこぼした。「浩介と玉希ならまだ分かるわ。でも、蓮まであんなふうに私に逆らうなんて……」琴子は涙を拭いながら、吐き捨てるように続けた。「私、やっぱり凛のことが嫌い。あの子と関わるようになってから、蓮まで変わってしまったもの。おとなしくていい子そうに見えるけど、裏では何を考えてるか分からない子なのよ。あの子のお父さんが家のことを話しに来なかったら、私だって何も知らなかったわ。実の親ともうまくやれない子が、蓮とうまくやっていけると思う?」宗介はうんざりしたように息を吐いた。「それで、どうするつもりだ。お前が反対したくらいで、蓮が諦めると思うか?」「だって、私が選んだ子たちのほうがずっといいじゃない!家柄だって釣り合ってるし、親を大事にする子ばかりよ。なのに蓮は、凛のことに
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