「ほかもいろいろ当たったんですけど、やっぱり今のところS2が一番なんです」凛は渡された資料をめくった。読み進めていくうちに、今のAI業界がどんな状況なのかもだんだん見えてきた。蓮のS2は、この二年で急速に伸びた新興企業だった。今では業界でもかなり名が知られ、各社がこぞって声をかけるのも分かる気がした。今の相沢グループにとっても、S2以上の相手はそう簡単には見つからなかった。しかも資料を見る限り、この案件はすでにかなり進んでいた。多額の資金を投じ、生産ラインまで整えてあった。残っていたのはチップだけだった。ここで計画が止まれば、かなりの損失は避けられず、最悪の場合、グループ全体の経営にも響きかねなかった。凛はページをめくる手を止め、眉を寄せた。責任者はそんな凛の顔を見て、慌てたように身を乗り出した。「相沢さん、この事業は、もともと数年前に相沢さんご自身が話を進めてくださった案件なんです。それからずっと、グループの利益にもかなり貢献してきました。こちらで何とかできるなら、わざわざお願いには来ませんよ」S2側から凛本人を指名されては、責任者もほかにどうしようもなかったのだろう。凛は資料を閉じ、小さく息を吐いた。「分かりました。一度、私から連絡してみます。でも、話がまとまるところまでは約束できません」「相沢さんが動いてくださるなら、きっとうまくいきます!」責任者は目に見えてほっとした。この二年、相沢グループから戻ってこないかと誘われたことは何度もあった。凛は大株主の一人でもあり、交渉ごとにも強かった。凛が自ら話をしに行けば、たいていの案件はうまくまとまっていた。それでも、凛はずっと断ってきた。「アンサンブル」を離れる気にはなれなかったからだ。最初から少しずつ育ててきたブランドで、凛にとってはほかの仕事とは比べられないほど思い入れがあった。今回も、蓮に連絡してみると答えただけで、責任者は何度も礼を言いながら帰っていった。凛がオフィスへ戻ると、ほどなく美鈴がコーヒーを持って入ってきた。「何その顔。朝からもう面倒なことでも押しつけられた?」「それくらいなら、まだマシだったんだけどね」凛がさっきの話を簡単にすると、美鈴はコーヒーを凛の前に置いた。「向こう、どうしても凛と話したいん
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