お湯を部屋に運び込むと、真理の顔は赤く火照っていたが、体温は平熱だった。酸素マスクを当てたおかげか、だいぶ楽になったようだ。誠は、自分の手の甲を真理の額にそっと当てていた。部屋には小さなナイトライトが一つだけ点いている。誠の顔には、隠しきれない深い心配の色が浮かんでいた。紗月は声を潜めて提案した。「誠さん、いっそ今夜はこの部屋で休んだらどうですか?私と藤堂さんで、隣の部屋をどうにか使いますから」真理の体調が優れない以上、誠も今夜は安心して眠れないだろう。彼は眉をひそめた。「それはさすがにマズいだろう」「何もマズいことなんてありませんよ。あっちの部屋もツインルームだし、ダブルベッドじゃないんですから」誠は少し躊躇い、真理を見つめて言葉を濁した。「とりあえず真理の様子を見て、良くなりそうなら自分の部屋に戻るよ」「分かりました。何かあればすぐに呼んでくださいね」紗月はドアを閉めて部屋を出た。朔はソファに座り、バックパッカーたちが書き残していった旅のノートをめくっていた。見ず知らずの人々がこの場所で集い、それぞれの痕跡を残していくというのは、なんとも不思議な感覚だ。ノートには、雑多なメッセージがびっしりと書き込まれていた。この小さな町で見つけた数少ない暇つぶしの情報や、どの店のラーメンが美味しいか、どの居酒屋のお酒が絶品か。中には、旅の仲間を募る書き込みまであった。彼らが残したメッセージを見ていると、そこには確かに時間が流れていたのだと実感させられる。紗月は彼の隣に座った。「真理さんの様子はどうだ?」「今は落ち着いてます。頭痛と胸の苦しさがあったみたいで、薬を飲んで眠りました。誠さんが心配して付き添っていますよ」ここでは、高山病に悩まされるのは珍しいことではない。朔は会社から送られてきたメッセージをいくつか処理した。紗月が不思議そうに尋ねた。「仕入れの仕事なら、どうして藤堂さんが一人で来られたんですか?会社から同行する人はいないんですか?」「ただの交渉だから、私一人で十分さ。海外で仕事をしていた時も、アシスタントをつけない主義でね。私の要求に応えられるレベルのアシスタントなら、相当厳しい選考を突破した優秀な人材だ。そんな能力のある人を私のそばに
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