「Rei、何ぼーっとしてるの?早く来て!周作さんがすごいもの持ってきたよ!」入口のところで同僚が声を張り上げた。玲子は我に返り、スマホをバッグに放り込み、笑顔で外へ出た。中庭では、周作がジープの荷台からいくつもの箱を下ろしていた。中には焼きたてのパンがぎっしり詰まっている。生活物資が極端に乏しいこの土地では、新鮮なパンはまるで金以上も貴重なものだ。「うわっ!スイカだ!周作さん、どこで手に入れたの?」「信じられない!もう一年近くスイカなんて見てなかったよ!」みんなが歓声を上げる。周作はにこりと笑い、ナイフでスイカを真っ二つに割った。鮮やかな赤い果肉が顔をのぞかせる。「地元の友人がくれたんだ。みんなで分けよう、さあ食べて」玲子にも一切れ渡した。ひと口かじると、ひんやりと甘い果汁が口いっぱいに広がり、心の奥まで染み渡った。彼女は、たった一切れのスイカで満足そうに笑う仲間たちの顔を見渡し、少し離れたところで地元の子どもたちとじゃれ合う周作の姿を見つめた。その瞬間、ふいに――この人生って、案外悪くないのかもしれないと思った。そうだ。多くのものを失った。けれど、それ以上にたくさんのものを手に入れた。新しい友人、新しい仕事、そして新しい生活。何よりも大切なのは――誰かに頼らず、自分の足で立つ「新しい自分」を手に入れたこと。それだけで、もう十分だ。玲子は顔を上げ、戦火に染まって赤く霞むL国の空を見上げた。そして、久しぶりに、心の底からの笑みを浮かべた。今まで、ありがとう。これから、よろしく。五年後。ジュネーブ、パレ・デ・ナシオン。煌びやかに照らし出された授賞ホールは満席で、厳かな緊張と期待が空気に漲っていた。世界から集まった報道関係者、外交官、有名人たちが、今年の「世界平和ニュース賞」の発表を固唾を呑んで待ちわびている。「それでは、本年度の世界平和ニュース賞の受賞者をご紹介申し上げます」授賞者である国際報道界の重鎮が、わざと間を取りながら声を伸ばし、最後に力強く読み上げた。「――東国出身のフォトジャーナリスト、松島玲子さん!」その瞬間、ホール全体を嵐のような拍手が包んだ。スポットライトが一斉に客席を照らし出す。すると、ひとつの人影が、静かに浮かび上がった。彼女はシンプ
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