「栗原さん、今回のプロジェクトのテスターになるということでよろしいでしょうか?念のため申し上げておきますが、このプロジェクトへの参加がもたらす結果はただ一つです。つまり、あなたはいずれかの時空へ転送され、この世界から姿を消すことになります。会社の上層部としましては、やはり慎重にお考えいただきたいと……」担当者の話が終わる前に、私は静かに口を挟んだ。「考える必要はありません。消えることこそが、私の一番望んでいる結果です」電話の向こうは明らかに驚いた気配を見せたが、それでもプロとして淡々と告げた。「もう一点、ご説明しなければならないことがあります。あなたが消えた後、この世界であなたを愛している人と憎んでいる人を除き、それ以外の人々はあなたのことを記憶しなくなります。それでもよろしいでしょうか?」この世界に、まだ私を愛してくれる人なんているのだろうか。憎む人なら……まあ、いるかもしれない。私は乾いた笑みを浮かべた。「構いません」「承知いたしました、栗原さん。プロジェクトは十日後に正式に始動いたします。当日はお待ちしております」電話が切れた直後、先方から生命免責同意書の電子版が送られてきた。転送中に不慮の事故で死んだとしても、会社は一切責任を負わない。家族も追及できない。すべては双方の合意のもと、そう記されている。一瞬ためらいがよぎったが、私は迷わず自分の名前を書き込んだ。プロジェクトが始動すれば、私は横山雅紀(よこやま まさのり)親子と二度と会わずに済む。それこそが、私の切実な願いだった。物思いに沈みながらベランダから寝室へ戻ると、雅紀に腰を抱き寄せられ、そのままベッドへ押し倒された。彼の瞳には濃い情欲が宿っており、これから何が始まるのか言うまでもない。胸の奥に吐き気が込み上げる。「疲れたから、早く寝たい」結婚して十年、私は一度として雅紀を拒んだことがなかった。だが今回は、彼の驚いたような表情を背に、そっぽを向いて横になった。「本当に怒ってる?悪かったよ。ちょっとした仕事くらいで、稔ちゃんとの映画を断るべきじゃなかった。お詫びにさ、明日、君の好きなブランドの新作バッグを届けさせるから。許してくれるだろ?」その声はどこまでも優しく、機嫌を取るようだった。私は気のない「ええ」とだけ返した。「稔
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