「いきんでください」医師の声に、私は力を込めた。「っ……!」痛い。それでも止まれない。「蓮さん……」「ここにいる」蓮さんの手が、私の手を握り返した。「もう一回、いきんで」また力を込める。全部、搾り出すように。「頑張れ、咲希」蓮さんの声が、耳元に届いた。「もう少しだ」「もう一回です、頑張って」医師の声。助産師さんの声。蓮さんの声。それだけを頼りに、私は続けた。「もう一回!」私は、全力でいきんだ。そして──。「おぎゃあ!」静まり返った分娩室に、力強い産声が響き渡った。「……っ」蓮さんが握る手に、力がこもる。「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」医師の声が、遠く聞こえた。◇看護師さんが、小さな体を私の胸に置いてくれた。温かかった。こんなに小さいのに、こんなに力強く泣いている。「陽……」声が、かすれた。「会いたかった」小さな手、小さな足。泣きながら動いている。確かに、ここにいる。「陽……来てくれたんだね。ありがとう」涙が、止まらなかった。泣いているのに、笑っていた。こんな気持ちは、初めてだった。お母さんが言っていた。産んだら全部吹き飛ぶ、と。世界が変わる、と。本当だった。◇蓮さんが、陽の顔を覗き込んだ。「陽」低く、静かな声だった。「これからよろしくな」蓮さんが、小さな手にそっと指を触れた。陽の手が、ぎゅっと蓮さんの指を握った。「……っ」蓮さんが、肩を震わせた。やがて、彼の目から涙がこぼれた。声は出なかった。
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