翌日、1月9日。今日は、呼び方の練習だ。氷室様のことを、『蓮さん』と呼ぶ。「昨日お知らせした通り、今日は呼び方の練習をします」神崎さんが言った。「咲希さん、氷室様のことを『蓮さん』と呼んでください」「……っ」氷室様を見る。彼も、私を見ている。「さあ、どうぞ」「れ……」喉が、渇く。「れん……さん」小さな声。でも、確かに言えた。氷室様の目が、わずかに見開かれた。「……もう一度」低い声。「れん、さん」氷室様の目が、揺れた。「……いい」その声が、優しかった。「他人に呼ばれるのは不快だが、君の声で聞く俺の名前は……悪くない」「それでは、森川さん。色々な場面を想定して、練習しましょう」神崎さんに促され、私は氷室様の名前を、何度も何度も呼んだ。「蓮さん、コーヒーいかがですか?」「蓮さん、今日の予定は?」「蓮さん……」最初は恥ずかしかったけれど、だんだんと慣れてきた。その響きが、だんだん自然になっていく。「完璧です!」神崎さんが拍手した。◇「では次に、難しい質問の練習です」神崎さんが、真剣な顔になった。「難しい質問……ですか?」「はい。パーティーでは、意地悪な質問をする方もいらっしゃいます。『本当に愛し合っているんですか?』とか」その質問に、私は息を呑んだ。本当に、愛し合っているか。私は、本当に氷室様を愛している。だけど、氷室様は──。「そういう質問には、どう答えればいいんで
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