All Chapters of 魔女に呪われた“淫魔”達だけど、愛されたい!: Chapter 61 - Chapter 70

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【第60話】華さんはボクのモノ・前編

 週が明け、彼らが出逢ってから三週目の月曜日になった。 今日からカシュが、華の職場でもある清明学園に学生として通学する事になる。彼女の部屋の中にある姿見用の大きな鏡の前に立ち、学校側が用意してくれた詰襟タイプの黒い制服を着込んだカシュが、クルッとその場で回った。「どうですか?華さん。似合ってます?」 嬉しそうに訊かれ、華が完全に保護者の心境になりながら目を細める。もし今一眼レフカメラが手元にあったら、運動会の父親達並みに撮影しまくっていたかもしれない。「うんうん、とっても似合っているわよ」 「ありがとうございます!」 元気に返事をされ、「じゃあ、そろそろ行きましょうか」と彼に声を掛けながら、華がカシュの背中をぽんっと叩く。そして再度しっかり制服姿の彼を見て、『ボクの嫁になって欲しいとか、ホント無理だわ』と改めて思った事を、華は胸の奥にそっと仕舞った。        ◇  朝のホームルームの時間。「——はい。じゃあ、今日は新しくウチのクラスに転入生が来るので紹介するわね」 華は担当しているクラスの教壇に立ち、生徒達に向かって声を掛けた。高校での転入生は珍しいからか「まじか!美人?美人かなぁ?」「えーどんな人だろう?カッコイイといいなぁ」「モテキャラは来るなー!モブでいい、モブで!」などと、生徒達が好奇心に満ちた言葉を次々と口にする。 普段ならそんなふうに騒いでいる生徒を前にすれば、『そう難易度を上げちゃダメよ、教室へ入って来るのが嫌になるから』と思う華なのだが、今回は『大いに騒ぎなさい!期待以上の子が来るから!』と内心少し自慢気だ。「さぁ入って」 廊下側の扉に向けて華が声を掛けると、間髪入れずにガラッと開き、カシュが颯爽とした足取りで教室内に入って来た。 正面に立ち、ピシッと背を正す。そして色艶の良い唇に笑みを浮かべ、カシュはゆっくり口を開いた。少しだけ生徒達に向かい魅了の魔法を使用したが、華にはわからない程度のものだ。「はじめまして、黒鳥カシュといい
last updateLast Updated : 2026-09-05
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【第61話】華さんはボクのモノ・後編

「何かしら?」 「ボク、まだ日本語を読むのに自信がないので、最前列の席に座らせてはもらえませんか?先生の側に座っていた方が、何かと便利だと思うので」(いやいやいや、貴方ペラペラでしょ。読み書きどっちも不自由無いくせに、何言ってるの!) 可愛い顔してサラッと嘘を言ったカシュに対し、『は?』と視線だけで華が文句を伝える。だがしかし、最前列に座っていた生徒達が黙々と一人分のスペースを勝手に開けて、カシュの席を用意し始めた。「え?まだ私は許可していないわよ⁉︎」 華は最前列の子達にそう言ったが、クラスのほぼ全員が、カシュが一番前の席に座る事に賛同している。「でも先生、黒鳥君の言い分はもっともですし。ね?」と、最前列の子が言う。すると他の子達まで「うん、うん」と口にした。「いや、まぁ確かにそうね……」 別に最後尾でなければならない理由もないので、文句も言えない。「これで黒鳥君が見やすいなら、俺達は別に一列ずつずれてもいいですよ」 生徒達が顔を見合って、「ねー」と笑顔で頷く。『前に座ってくれた方が、眼福そのものなカシュの姿が見易いから、むしろラッキー』的な『見やすい』である事は明らかだった。「ありがとうございます!嬉しいです、とっても」 金髪の美少年であるカシュの喜ぶ姿に、クラスメイトのみんなが崇めるような気持ちになりながら悶えている。『このクラスでよかったぁ!』と叫びたい気分になる者まで中にはいた。「……わかったわ。まぁ、みんながいいなら私は構わないわよ。座席表は作り直さないとだけど、まぁいいでしょう」 そう言って、華が仕方ないわねぇと息を吐く。そんな彼女に向かい、ニコッと一度笑みを浮かべると、カシュは華の胸元を軽く掴んで顔を引き寄せて頰にチュッと軽い口付けをした。「正面に座る許可をボクにくださり、ありがとうございます。これで、毎朝華先生のお美しい姿が特等席で見詰め続けられるんですね、最高です」 何が起きたの?とクラス中の皆が固まる。『キスをしたみたいに見えたけど、え?』と、疑問符でいっぱいだ。もちろん、された華自身も。
last updateLast Updated : 2026-09-07
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【第62話】理事長室への呼び出し・前編

「そのうち絶対に何かやるだろうなぁとは思っていたけど、まーさーか、転入初日の自己紹介時にやらかしてくれるとはね。思い付きで行動する私でも、流石にコレは想像出来なかったなぁ、あははは!」 相変わらず『此処は貴族の部屋か?』とツッコミを入れたくなる程に品のある豪奢な一室で、清明学園の理事長であるロイ・カミーリャが声をあげて笑っている。 そんな彼の座る席の正面に立ち、顔面を両手で押さえ、俯いたまま華が「すみません……」とか細い声で謝罪する。だがカシュは笑顔のまま「ボクは謝りませんよ。コレでボクがどんな行動をしようが、華さんは『日本の常識を知らない、距離感のバグっている外国人から一方的に迫られている被害者』って扱いになりますからね」と自信満々に言い切った。 そんな彼の腕に、もの凄い勢いをつけて華が力一杯肘打ちをする。 カシュはその衝撃と痛みにより、「あがっ!」と声をあげはしたが、心なしか表情は『ご褒美、ありがとうございます!』とでも言い出しそうな笑みを浮かべていた。「了解、そういった方向で情報を管理しておくよ。まぁ華先生側の態度が揺らぐ心配はそもそも無いしね。黒鳥君はどう足掻いたって“淫魔”の習性で好きな人を誘惑したくなるだろうから、最初っから隠さないという選択肢は、確かにありだね、うん」「ありがとうございます、カミーリャさん」 そう言って、カシュがカミーリャに向かい頭を下げる。 何の相談もせずに行動した事だけでも詫びようかと一瞬思ったが、彼ならば全て見通しているのではと思い、結局カシュは謝罪をしなかった。「いいんだよ、“人外”達との付き合いには慣れているつもりさ。こちらのルールばかりを押し付けるのは無理だともわかっているからね。この先も、こうやって何度も折り合いをつけていこうじゃないか」 「あ、あの……私の監督責任は問われるのでしょうか?その……頰ではありましたけれど、担任である私が、生徒達の前で、せ、せ……接吻をされて、しまったわけです、し」(何故に『接吻』?『キス』って言うのすら、恥ずかしかったとか?) と、カシュとカミーリャが同じ事を思う。 だがそんな彼女を同時
last updateLast Updated : 2026-09-08
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【第63話】理事長室への呼び出し・後編

「さて、話を最後までは聞いてくれなかったから、コレはもう、カフェまでちゃんとお迎えに行かないといけないねぇ」 ニヤニヤと楽しそうに笑うカミーリャに対し、ため息のみで華が答える。失礼な態度と知りながらも、何か言い返す気力はもうなかった。「まぁ冗談はさておきだ」と言い、カミーリャが机に頬杖をついて、華へ真顔を向けた。それにより、華が身を引き締めて背を正し、ここからは仕事の話なのだなと気持ちを切り替える。「華先生は確か、今は“文芸部”と“漫画研究会”の部活顧問を担当しているんだったよね?」 そう訊きながらカミーリャは手元にある部活関連の資料をぱらっとめくった。「はい。他にも“アニメ同好会”と“イラスト研究会”も受け持っています。もっとも……“文芸部”以外は名前を貸して、鍵の管理をしているだけですけども」(それにしても、何故に漫画とイラストで別々に活動するのかしら?一緒に活動してくれると、仲間も多くなって楽しいだろうに) 心の中で、華がそっとぼやく。 それにしたってどうして私のところにはこうもオタク文化系のお願いが多いのかと軽く首を傾げる。恋愛小説や漫画が愛読書である事は、秘密にしているつもりなので不思議でならない。「……多いね。まぁ生徒が好きに活動していて、華先生に負担が無いのならいいんだろうけど」 「そうですね。ですが、好きな活動をして学校生活を楽しみたい子供達の笑顔は見ていて楽しいので問題ありません」 「そっか、うんうん」 模範解答とも言える返事をする華に対し、眩しいモノでも見る様な目をカミーリャが向ける。本心からそう思っているのだろうなぁと思うと、理事長としては嬉しくもあった。「そんな華先生に追加で頼みたい部活があるんだけど……出来るだろうか?」「ものにもよりますが……。指導が必要なものですと、専門知識の問題がありますので」 「まぁそうだよね。だから、僕的にはもう華先生にしか頼めないなと思って呼んだんだ。元々は別の先生が引き受けてくれていたんだけどね、生徒と一緒に真面目に部活動に励んでいるうちに、『奥深い世界に興味が湧いたので、ちょっ
last updateLast Updated : 2026-09-09
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【第64話】カフェでの対面・前編

(……誰だ?あの男は) 図書館の側にあるカフェでアイスコーヒーでも買いつつ、店で働く嫁のウルカの様子を見に来た瀬田は、扉を開けた瞬間、険しい表情をしながらそんな事を思った。 店に入るなり、店内の一番隅にある席で、休憩中っぽいウルカが楽しそうに金色の髪をした青年とおしゃべりをしている姿が目に入ったからだ。 彼女の対面に座る男の姿は背中しか見えないが、ダークトーンのスーツを着ていて、百八十センチある瀬田と同じくらいの背格好のようだ。 男に向けるウルカの笑顔はとっても気さくなもので、二人はとても親しい関係みたいに感じられる。瀬田に対して向ける事の多い、機嫌を伺う様な眼差しをする気配はまるでなく、瀬田の眉間のシワが一層深くなった。「やぁ、どうも。今は休憩中かな?」 出来る限り顔に笑顔を貼り付け、瀬田がウルカに声を掛ける。店内に客はまばらで、居るのは自習中の生徒ばかりだ。だが、そんな生徒達が一同にちょっと驚いた顔になった。 何なんだ、あの無駄に眼福な空間は!——と。 カフェの店員である金髪の美少女と、同じく金髪の端正な顔をした青年の組み合わせに、モデル並みにスタイルと顔だけはズバ抜けて整っている瀬田が加わった。それにより、周囲の注意が三人の元へ一気に集まってしまったのは当然の結果と言えよう。「浩二さん!お疲れ様です、もうお仕事は終わったんですか?」 パッと明るい笑顔をし、ウルカが瀬田へ親しげな雰囲気で返事をする。ロリコン疑惑の付き纏う瀬田が相手だった事で、生徒達に『とうとう未成年者に手を出したんですか⁉︎——先生!』と、一気に緊張が走った。「いや、まだ仕事中だ。だが、作業の前にアイスコーヒーでも飲もうかと思ってな。……えっと、こちらの方は?」 そう答えながら男を一瞥すると、彼は探るような眼差しを瀬田へと向けた。値踏みする様な眼差しでもあり、ちょっと居心地が悪くなる。「彼はワタシの兄のカシュです。此処で待ち合わせをしているらしく、ちょっとお話をしていたんですよ」「あぁ、彼が——」 そこまで言って、『双子の兄さんか』という言葉はぐっと飲み
last updateLast Updated : 2026-09-10
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【第65話】カフェでの対面・後編

「あ、えっと、アイスコーヒーはお持ち帰りでよかったですか?」 高揚する気分をどうにか胸の奥に押し込み、ウルカが瀬田に問い掛ける。 気持ち的にはもうバックヤードにでも引きずり込んで押し倒したいくらいにテンションが上がっているのだが、サキュバスとしての本能よりも、今は互いの仕事を優先した。「あぁ、持ち帰りで頼む。職員室で飲みたいからな。でも今は休憩中なんだろう?いいのか?」 「はい。お客様の注文が無さそうな間だけ、ちょっと兄と話していてもいいよ程度の休憩だったので」 「まぁ、学生じゃ、この値段でも次々に追加で注文もしないだろうし、水のおかわりは個人で自由にしろって感じなら、それもありなのか」(随分と緩いバイトなんだな。“人外”を店で働かせるとなると、このくらいじゃないと扱いが面倒なのかもしれないな) ウルカのウエイトレス姿にちょっと顔を綻ばせながら、彼女の頭を優しく撫でる。 普段の幼女さながらな貧相な姿の方がもちろん断然格段に可愛いし好みのど真ん中なのだが、『本来はあの姿なのだ』と思うと、高校生くらいの見た目をしているこのバージョンでさえも今では愛おしく思えてきた。 ……だが、初めて会った時の淫猥な大人の姿だけは、思い出すだけでも吐き気がする。  アレとはとことん壊滅的に好みが合わないみたいだ。「ど、どうしました?浩二さん」 膝にのった猫でも撫でるみたいに黙々と頭を撫でられ、ウルカがちょっと照れ臭い気持ちになった。撫でてもらえるのはとても嬉しいが、カフェの中なので、店員でもある身としては人目がどうしても気になってしまう。「あ、すまん。可愛いなと思って、つい」(せ、瀬田先生がデレたぁぁぁぁぁ!) 店内に点在している生徒達の自習をする手が止まり、目が点になる。指導熱心で授業も丁寧ではあるものの、口が悪くて普段あまり優しくない先生のレアな姿を見てしまい、一同驚きを隠せないようだ。「あ、ありがとうございます」 もじもじとしながら、ウルカが礼を言う。こうやって素直に真っ直ぐ褒められる事に慣れておらず、とても嬉しかった。
last updateLast Updated : 2026-09-11
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【第66話】図書館に眠る魔女の遺産①(華・談)

 校内にある図書館近くのカフェで、カシュがコーヒーを飲みながら私が来るのを待っている丁度その頃。 小テストの採点や生徒達の相談、部活などの仕事を一通りサクッとこなし、理事長の指示通りに私は館長の待つ図書館へとやって来た。「お待ちしていましたよ」 そう言って、図書館館長である本多さんが和やかに微笑みを浮かべている。品のあるクラシカルなデザインのスーツを着こなし、綺麗な背筋は年齢を感じさせぬ程にしゃんとしており、眼鏡をかけた端正な顔立ちは美しく、とてもじゃないがご高齢な男性とは思えぬほど肌艶が綺麗だ。 『ロマンスグレー』といった表現がぴったりな本多さんを前にすると、いつもちょっと緊張してしまうのは、はっきり言って『彼が独身ならば是非とも嫁候補として立候補させて頂きたい!』と思ってしまうくらいに素敵な紳士だからだろう。「お待たせしてしまったでしょうか」「いいえ、私も今来た所ですから。では、行きましょうか」 そう言って、本を傷付けぬために着けている白い手袋をした手を、スッと当然のように差し出してくれる。(し、“紳士”だわ!) ——と心の中で叫びながら、ちょっと頬を染め、素直に手を取る。カシュがこの場に居たら大騒ぎされているのだろうなとは思ったが、ロマンスグレーな本多さんのこの手を払える女性など、この世にいるのだろうか? 答えは否だ!と、心の中だけで力強く即答する。「こちらですよ。足元に気を付けて下さいね」「は、はい」 照れ臭そうにしてしまう私の様子を見て、本多さんが穏やかに微笑みを浮かべている。 推定七十代か八十代であろう本多さんからしたら、私なんか孫でも見るような気分なのだろうなとは思うが、それでも“レディー”扱いをしてくれるこの紳士的な行動には、どうしても心がクラッとしてしまった。「えっと。理事長からは、『部活に役立つ資料がある』と伺ったのですが……」 ダンスホールにでも進むみたいに手を引かれながら、エレベーターのある方へ
last updateLast Updated : 2026-09-12
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【第67話】図書館に眠る魔女の遺産②(華・談)

 広いエレベーターにちょっと緊張しながら乗り込むと、本多さんが胸ポケットから一枚のカードキーを取り出し、私の方へとそれを差し出してきた。「こちらをどうぞ。貴女専用のカードキーです。無くしてしまうと少し面倒な事になるので、大事にして下さいね」 「あ、はい。ありがとうございます」(……私、“専用”?) 疑問を抱きつつも礼を言い、カードキーを受け取る。名刺サイズのそれには、いかにもこれは『“魔法陣”だな』としか思えない絵が描かれており、発光物質でも含まれているのか、全ての線が不思議とうっすら光っていた。「こちらのパネルに、そのカードを当ててみてもらえますか?」と言って、本多さんが階数や開閉の指示をする為のボタンの並ぶ位置にある、一番下のタッチパネルみたいなスペースを指さした。「ここにですか?」 「はい」 このエレベーターは随分と最新式なのね、と思いながら指示通りにカードキーを当ててみる。すると、まだボタンを押して階数を指定してもいないのにエレベーターが勝手に動き出した。体感的に下へ向かっているみたいだが、階数の表示されるべき箇所にはエラーの文字が書かれていて本当に下へ向かっているのか確信が持てない。「あの……向かっているのは、下の階なんですか?」 そういえば、下層へ行くのはこれが初めてだ。各所に貼ってある館内図も一階から三階までしか描かれていないので、他の階は職員専用なのだろう。「えぇそうですよ。かなり下まで行くので、少しかかるかもしれません」 「……え。この図書館って、一体下は何階まであるんですか?」 現時点ですら体育館並みに巨大なウチの図書館は常に増築工事を続けており、終わりが見えない。上や横には土地的にも限界があるが、『下ならば』と更に拡張をしていると噂には聞いてはいたが、どうやらただの与太話ではなかったみたいだ。「……秘密ですよ、ふふっ」 白い手袋をした指先を口元に当て、本多さんが片目を軽く閉じる。可愛らしい悪戯っ子みたいな顔をされてしまってはもう、これ以上何も訊けなかった。       ◇ エレベーターは一分間にだいたい三十から六十メートル進むと言われている。……そしてもう、かれこれ五分から七分は経過している気がするんだけど、気のせいかしら。本当に大丈夫、なの?と段々不安になってきた。「あ、あの……一体、どこまで降りて行くの
last updateLast Updated : 2026-09-14
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【第68話】図書館に眠る魔女の遺産③(華・談)

 室内へ二人で進んでいくと、カツンカツンと靴音がやけに響く。上を仰ぎ見ると思っていたよりも天井が高く、天球儀や巨大な恐竜の骨などが吊るした状態で飾られていて、より一層心が躍る。プラネタリウムの中に博物館と研究室を持ち込んできたみたいな空間へ一歩一歩ゆっくり進んで行きながら私は、『カシュも好きそうね、今度連れて来てあげられないかしら』と思った。「ところで、この部屋は?部活の資料になるだろうと聞いて来たのですが、生徒達を案内してもいいのでしょうか」 「いいえ。この部屋は貴女だけの物なので、他の者は立ち入れさせないで下さい。でもまぁ、私や、私の父は管理者なので入れますが、他の者は権利が無いので、そもそも降りても来られない仕様となっていますけどね」 隅で見付けた古いソファーに対面で座り、本多さんと共に一息つく。素晴らしい部屋なのに、他の者を連れて来られないと知り、心底がっかりした。「さて、お茶でも出して差し上げられれば良かったのですが、そういった設備は流石に無さそうですね」と、周囲をぐるりと見渡して本多さんが言う。色々な物が詰まった部屋ではあるが、置かれた物はどれを見ても何百年も前の品をその時の状態のまま持って来たみたいで、確かに『ちょっと一服しましょうか』といった時に欲しい物はこのソファーくらいなものだった。「仕方がありませんね。ではサクッと使用法や要点の説明にでも入りましょうか」 「は、はい」と答え、背を正す。パッと見だけでも貴重な物ばかりの空間の様なので、色々制約が多そうだ。「この部屋はですね、中世頃を生きていた、貴女のご先祖様の一人である、“ハンナ・アダムス”という女性の遺産なのです」 “アダムス”と聞き、私の心臓がバクンッと跳ねた。他人の口から先にその響きを聞いたのは何年ぶりだろうか。それと同時に、『やっぱり私のルーツは海外にあったのね』と納得する。こんな苗字なのだからそうだろうと予想は出来ていた。だが、ウチの親戚だって誰も知らない事だったのに、何故本多さんが知っているのだろうか。「ご先祖様の、遺産……ですか」 気になる事は多々あれど、一番気になった言葉に食いついてみた。「はい。“彼女”と“私の父
last updateLast Updated : 2026-09-15
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【第69話】図書館に眠る魔女の遺産④(華・談)

「おや、信じていませんね?まぁ……急に聞かされては当然でしょうけども」 「正直に言いますと、はい。……すみません」「いえいえ、いいのですよ。でも可笑しいですね、“淫魔”の存在は受け入れたのに、私達の事は疑うなんて」 本多さんが長い脚を優雅な所作で組み、手袋をした手で口元を押さえてクスクスと笑う。いつもならこんな貴重なワンシーンを見られた事に歓喜する所なのだが、それよりも今は、館長がカシュの正体を何故知っているのかの方が気になってしまった。「実はですね、私は、“本の精霊”と“人間”のハーフなのですよ。この学校に住み着いている“人外”の一人です。この図書館に居を構え、管理し、細々と消えゆく運命にある紙媒体の本達の収集と保管を延々とおこなっています」「……えっと、え?本多さんが、“人外”?」 鏡が無いのでなんとも言えないが、私は今絶対にカシュの存在を知った時以上にひどい顔をしている気がする。突然そんな話をされても、すぐには納得出来なかった。「はい、所詮は半分だけなのでもうそろそろ死にますけどね。でも、私の“父”は“死”という概念をあまり持たない古参の“精霊”なので、中世時期辺りを暗躍していた“魔女”達とも当然面識があり、懇意にも出来たというワケです。これで納得出来そうですか?」 ニコッと笑われても、『はい』と返事が出てこない。カシュの時の様に角や尻尾といった誤魔化しようの無い証拠を見せられたわけでは無いからだろうか。「証拠が欲しいといった顔ですね。んーでも困りました。私は父の様に色々出来る訳ではないですからねぇ。多少は魔法も使えますが、そのくらいで許して頂けますか?」「——あ、いえ!結構です、そんな……えっと、その、疑ってしまいすみません。ずっと前から面識のあった方が“人外”だと言われても急には、受け止め切れなくって。あ、その……もしかして、理事長もそうなのでは⁉︎」 人間だと言っていたかもしれないが、インキュバスなカシュ以上に魅惑的な容姿をした理事長の方が、よっぽど私からしたら一般人から色々と外れているので、つい思った事を口に出してしまった。「残念ながら彼は本物の人間ですよ。あぁ、でも、図書館の隣にあるカフェの店長は私達の仲間です。流石に正体までは他言出来ませんけどね」と言って、口元に指を立てる。この仕草は二度目だが、素敵なおじい様がやって下
last updateLast Updated : 2026-09-16
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