『……はい』 押したチャイムに応じ、インターフォン越しに瀬田さんがワタシへ声を発してくれた。覗き見た時に聞いた、同僚の女性や生徒達に向ける声よりも随分と低い気がするのは、機械越しだからだろうか。「瀬田様ですよね、お届け物でーす」 そう言って、ワタシは花束をカメラと思しき部分に突き出した。開けてもらわなければ、出て来てもらえないと話にならない。これでダメなら、さぁどうしようか。『——今出ます』 本当に? 自分で呼んでおいて、ビックリした顔になってしまった。 ドアの奥で、瀬田さんが歩く音が微かに聞こえる。一歩、また一歩。段々と縮まる距離に心が弾む。何度も何度も、言おうと思っていた言葉を心の中で繰り返す。 下手はしないよう。警戒させずに、部屋の中へどうにかして入れてもらわねば。入ってさえしまえば、残った魔力を全振りして魅了の魔法でイチコロよ!そのせいで空っぽになろうが、結婚さえしてしまえば補充し放題なのだし。(んー完璧!ワタシすごい!) 冷静になって考えたら色々と穴だらけ—— いや、穴しかない欠陥だらけの計画なのに、初めての恋心で煮詰まって、すっかりポンコツと化したこの脳味噌はワタシから完全に冷静さを失わせてしまっている。もう行動の全てが正解のような気がしてならない。 玄関ドアが開き、瀬田さんが顔を出した。思っていたよりも背が高く、軽く見上げる感じになる。スーツの中に着ていたグレーのシャツにスーツのズボン姿で、髪が少しはねているから、もしかしたら今までソファーでうたた寝でもしていたのかもしれない。(コレが……間近で見る、瀬田浩二さん!) 真正面から、至近距離で見た彼の姿に頭の中が真っ白になる。段階を踏んで、とにかく中に侵入!と思っていた計画がすっ飛び、ワタシは今はまだ、一番言っちゃいけない一言を口にしてしまった。「好きです!結婚して下さい!」 彼の年齢と同じ数、二十八本の真っ赤な花束を瀬田さんの前に突き出し、しっかりと目を見詰める。でも咄嗟のことで、魅了の魔法を使うのをすっかり忘れていた。「——帰れ!」 即答され、勢いよくドアが閉まった。 顔や姿は見てくれていたはずなのに……何故?『いや、当然だよね?いきなり何言ってるの?』と普段の自分ならわかるだろうに、不思議と今は納得出来ない。大人受けする完璧な容姿と花束を持ってして
Última atualização : 2026-08-11 Ler mais