春休み最後の夜。 窓の外では、桜の花びらが風に舞って、街灯の光に白く浮かんでいた。 明日から俺たちは六年になる。 そんな当たり前のことが、もう当たり前じゃなくなってしまった。俺の名前は蓮(レン)。 瀬尾小学校五年生、明日からは六年生。 身長は135センチで、クラスで一番低い。 でも成績だけは学年トップ。 先生には「頭が良すぎて浮いてる」と言われるけど、別に構わない。 だって、颯音(ハヤト)がそばにいてくれるから。颯音は、同じクラスの男の子。 身長は140センチで、俺よりちょっとだけ高い。 髪は少し長めで、肩にかかるくらい。 声も低くなくて、笑うとえくぼができる。 誰かが「女の子みたいだね」って言うと、颯音は恥ずかしそうに俯く。 その仕草が、俺はすごく好きだった。好き。 そう思うだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。 まだ11歳だから、恋なんて早すぎるってわかってる。 でも、どうしようもなく颯音のことばかり考えてしまう。今日も、夜の8時過ぎにLINEした。蓮「ねえ、颯音。明日の朝、いつもの公園で会おうよ。進級祝いに、コンビニの新作プリン奢ってあげる」いつもなら、すぐに「いいよ!」って返事が来るのに。 今日は既読がついても、返事が来ない。5分経って、ようやく。颯音「……ごめん、蓮。今日はもう寝るね」蓮「え、珍しいな。いつももっと遅くまで話してるのに」颯音「うん……なんか、疲れちゃって」そのとき、俺はまだ気づかなかった。 颯音の文字の端々に、涙の跡が滲んでいるような気がしたのは、気のせいじゃなかった。9時15分。 リビングで突然、母さんの叫び声がした。母「もう無理! 離婚するって決めたから!」俺は自分の部屋で、スマホを握りしめたまま固まった。 父さ
Last Updated : 2025-12-01 Read more