All Chapters of 塩対応の国宝級アイドルは、私の手料理がないと生きていけないらしい: Chapter 141 - Chapter 150

157 Chapters

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「お待たせしました」 私は湯気の立つ器をレンくんの前に置いた。参鶏湯(サムゲタン)風の薬膳粥だ。 トロトロに煮込まれたもち米と、スプーンで崩せるほど柔らかな鶏肉。余計な味付けはせず、塩だけで素材の旨味を引き出している。 レンくんは震える手でスプーンを握ろうとしたが、力が入らないようだった。カチャン、とスプーンが皿に当たる。「私がやります。任せて」 私はスプーンを取り、お粥をひとすくいした。フーフーと息を吹きかけて適温にする。「はい、あーん」 恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。今は緊急事態だ。 レンくんはすがるような目で私を見つめる。おそるおそる口を開けた。 スプーンが口の中に消えた。「…………」 彼がゆっくりと口を動かした。その瞬間、大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。「……味が、する」 噛み締めるような声が、静かな部屋に響く。「砂じゃない……。生きてる味がする……」 彼は私の手首を掴み、むさぼるように2口目を求めた。 止まっていた心臓が再び鼓動を打ち始めるように、彼の体に「生」が満ちていく。 3口、4口。涙を流しながら、彼はひたすらに命を飲み込んでいった。 完食して器が空になると、彼は力が抜けたように私の肩にもたれかかった。骨ばった背中が痛々しいけれど、そこには確かに温かい熱が戻っていた。「……もう二度と離さない」 私の背中に回された腕に、強く力が込められる。「離れないでくれ。お前がいないと、俺は息ができない。この何日かで思い知った」「はい。もう離れません。私も思い知りました。私にだって、レンくんがいないと駄目なんです」 私は彼を抱きしめ返す。その背中を優しく撫でた。「私がレンくんの命を守ります。もうどこにも行きません
last updateLast Updated : 2026-02-03
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147:逆転のシナリオ

「……はぁ? 何よこの台本。三流ドラマの脚本家だって、もう少しまともな本書くわよ」 ペントハウスのリビングに不機嫌な声が響いた。 西条リカさんが、テーブルの上に置かれた書類――事務所の社長から送りつけられた『謝罪会見の台本』を、汚いものでも見るようにつまみ上げ、放り投げた。 バサッ、と紙束が散らばる。 そこに書かれているのは、『女に騙された』『洗脳されていた』『彼女はストーカーまがいの行動を繰り返していた』という、私を徹底的に悪者に仕立て上げる筋書きだ。「こんな茶番、誰が信じるのよ。アンタのファンはそこまで馬鹿じゃないわ」 リカさんは腕を組み、呆れ果てたように吐き捨てた。 深夜のリビングでテーブルを囲むのは、Noixの3人とリカさん、そして私。 このメンバーで起死回生の作戦会議が開かれていた。「同感です。社長は保身に走るあまり、ファンの『真実を見抜く目』を甘く見ている」 葛城セナさんが、冷ややかな声で同意した。眼鏡の奥の瞳が、策士の色を帯びて光る。「この台本通りに演じれば、確かにNoixは被害者として生き残れるかもしれない。ですが紬さんは社会的に抹殺され、レンは一生『女を見る目のない愚か者』というレッテルを貼られます。……何より」 セナさんはレンくんを見た。「嘘をついて生き延びたとして、君は歌えますか?」「無理だ」 レンくんは即答した。顔色はだいぶ良くなったけれど、その瞳にはまだ迷いと恐怖の色が残っている。「紬を傷つけてまで守るNoixに、価値なんてない。そもそも紬が俺の隣にいなければ、生きている意味がない」「でしょうね。ならば、選択肢は一つです」 セナさんが立ち上がり、物陰からホワイトボードを引っ張り出してきた。マーカーで書き殴る。『真実の公開』。「台本は破り捨てましょう。我々にはもっと強力で、誰も反論できない『武器』があります」 セナさんはくるりと振り返り、レンくんを指差した。
last updateLast Updated : 2026-02-04
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「弱さを武器にする、か」 リカさんの言葉を聞いて、レンくんが自嘲気味に笑った。「俺の弱点を晒して、同情を買えってことか?」「生き残るためです。何よりも紬さんを守るための唯一の方法です」 セナさんが断言した。レンくんは口を閉ざして視線を落とした。◇ 休憩時間になる。レンくんは夜風に当たると言ってバルコニーへ出て行った。 私はキッチンでホットココアを2つ作り、彼の後を追った。 冬の夜風が冷たい。レンくんは手すりにもたれかかり、眼下に広がる東京の夜景をぼんやりと見下ろしている。 その背中は、世界中の孤独を背負っているように小さく見えた。「……レンくん」 声をかけると、彼はビクリと肩を跳ねさせた。「ココア、飲みますか?」「……ありがとう」 彼はマグカップを受け取ると、その温かさを確かめるように両手で包み込んだ。「怖いんだ」 湯気越しに彼がポツリと漏らす。「俺はずっと、『完璧な綺更津レン』を演じてきた。お前と出会うまでは、弱音なんて吐いたことはなかった。悩みなんてないフリをしてきた。……それが、全部崩れるのが怖い」 彼はカップを見つめたまま、言葉を紡ぐ。「『なんだ、ただの弱い男じゃん』って、みんな離れていくかもしれない。幻滅されるかもしれない」 アイドルの偶像としてのプライドと、等身大の自分との乖離。 その恐怖は、私には想像もできないほど深いのだろう。 私は自分のカップを置いて、彼の手をそっと包み込んだ。冷え切った指先を。「離れませんよ」 私はきっぱりと言った。「私が知っているレンくんは、弱くなんてありません。自分の弱さを認めて、助けてと言える強さを持っています」 雨の日のゴミ捨て場を思い出す。 あの日、彼はプライドを捨てて私に助けを求めた。 
last updateLast Updated : 2026-02-05
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 リビングに戻ったレンくんの顔つきは、先ほどとは別人のようだった。王者の風格が戻っている。「やるよ。俺の言葉で、本当のことを話す」 その宣言にリカさんがパンと手を叩いた。「上出来ね。なら、演出は私に任せて。記者の心を掴む『間』の取り方、目線の配り方、涙を流すタイミング。全部叩き込んであげるわ」「では私は、法的な裏付けとメディアへの根回しを完璧に仕上げましょう。社長が口を挟む隙間もないくらいに」 セナさんがタブレットを操作し始める。その指先は軽やかで、既に勝利を確信しているようだ。「俺はSNS部隊だね!」 ハルくんがスマホを掲げた。「裏垢とサクラを総動員して、流れが変わった瞬間に一気に拡散させる! トレンド独占間違いなし!」 チームNoixが動き出す。それぞれの得意分野で最強の布陣が敷かれていく。その光景は頼もしく、眩しかった。 こんなに頼もしい仲間が揃っているのに、逃げ出した私が馬鹿みたいだ。 でもいい。戻って来たのだから。もう一度頑張るんだ。「私は……」 私が問うと、レンくんが振り返った。「紬はここで待っていてくれ」「えっ? 一緒に行かないんですか?」「会見場は戦場だ。お前を矢面に立たせるわけにはいかない」 彼は私の肩に手を置き、真剣な眼差しで言った。「それにお前が見ていると思えば、俺は強くなれる。テレビの前で、一番近くで応援していてほしい」 守られている。これまでは私が彼を守る側だと思っていたけれど、ここ一番の勝負では彼はやっぱり男の子だ。「……分かりました。信じて、待ってます」 私は頷いた。ここで私ができる最大の仕事は、彼を信じて送り出すことだから。◇ 翌朝の天気は、雲ひとつない快晴。決戦の朝にふさわしい。 玄関ホールには、ダークスーツに身を包んだ3人の男たちが立っていた。普段のステージ衣装とは違う、シ
last updateLast Updated : 2026-02-06
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150:告白

 無数のカメラのレンズが、記者テーブルの前にずらりと並んでいた。 都内ホテルの記者会見用大会場は、詰めかけた数百人の報道陣が発する熱気と殺気で、室温が数度上がっているような錯覚を覚える。 Noixの3人は既にテーブルに着席しており、緊張した面持ちで前を見ていた。 最前列の席には、Noix(ノア)所属事務所の社長が腕を組んで座っていた。 その目は、壇上の3人の若者を睨みつけている。「台本通りにやれ。さもなくば、終わらせてやる」 無言の圧力が威圧するように漂っていた。。 バシャバシャバシャッ!! 雨あられと降り注ぐシャッター音が鳴り響く中。 ダークスーツに身を包んだNoixのメンバーたちが、一斉に深く頭を下げた。10秒、20秒。永遠にも感じる沈黙の後、彼らはゆっくりと顔を上げた。 中央に立つ綺更津レンが、マイクに手を伸ばす。その顔色は蒼白だったが、それでも瞳の力は失われていなかった。 彼はポケットから1枚のメモを取り出した。 社長が用意させた「悪い女性に騙されていた」と証言するための台本だ。 レンはそれをちらりと見ると、ふっと冷ややかな笑みを浮かべた。 クシャリ、と音を立ててその紙を握りつぶし、無造作にポケットへとねじ込んだ。 最前列の社長が目を見開いて身を乗り出す。 会場がざわめいた。何かが起きようとしている。そんな予感が、記者たちの脳裏を駆け巡る。「本日は、お集まりいただきありがとうございます」 レンのよく通る声が、静まり返った会場に響いた。「一部週刊誌で報道された件について、真実をお話しします」 彼は一度だけ言葉を切って、大きく息を吸い込んだ。そしてカメラのレンズを――その向こうにいるであろう、たった一人の女性を見据えて、はっきりと言った。「記事にある『女性に騙された』という内容は、事実ではありません」 どよめきが広がる。予想外の展開に、記者たちが顔を見合わせる。「俺が、彼女にすがったんです」 レンはマイクを
last updateLast Updated : 2026-02-07
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「喉が、体が拒絶するんです。飲み込もうとすれば、激しい吐き気が襲う。皆さんの前では笑顔で歌っていましたが、裏では点滴とサプリメントだけで、無理やり心臓を動かしている状態でした」 痛々しい告白に、会場はショックを受けて沈黙が落ちている。「腹は減っているのに、食べられない。体は枯れていくのに、どうすることもできない。それは、言葉にできないほど地獄のような日々でした」 レンは視線を落とし、自嘲気味に笑った。「誰にも言えませんでした。『完璧な綺更津レン』という偶像が崩れるのが怖くて……たった一人、誰にも助けを求められず、暗い部屋で心が壊れていくのをただ待つだけでした」 彼はつと視線を上げる。「そんな俺を救ってくれたのが……彼女の作った、一杯の雑炊でした」 今度こそ力を込めて、前を向いて話し始めた。「彼女はストーカーでも、俺をたぶらかした悪女でもありません。ゴミ捨て場で行き倒れていた俺を拾って、温かいご飯を食べさせてくれた……俺の命の恩人です」 会場の空気が変わった。攻撃的だった記者たちのペンが止まる。 スキャンダルを暴こうとする好奇の目が、一人の青年の壮絶な告白に、戸惑いの色へと変わっていく。「ちょっと待ってください!」 一人の記者が立ち上がった。「それは美談にしすぎではありませんか? 同棲の事実はどう説明するんですか!」「美談ではありません」 冷静な声が遮った。リーダーの葛城セナが、分厚いファイルを掲げて立ち上がったのだ。「これは、綺更津レンの過去3年間のカルテ、および体重の推移データです」 セナは事務的だが迫力ある声音で、データを提示した。「彼女と出会う前、彼の体重は危険域に達していました。しかし彼女が食事管理を始めてからの半年間で、数値は劇的に改善しています。これは医学的根拠のある事実です」 セナは眼鏡の位置を直し、記者たちを見回した。「彼女は同棲相手というよりも、彼の
last updateLast Updated : 2026-02-08
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『レンくん、そんなに苦しんでたの……?』『知らなかった。痩せすぎだと思ってたけど』『彼女さん、恩人じゃん』『ハルくん泣かないで』『社長サイテーだな、病気隠してたのかよ』『そんなひどい状態なのに、仕事やらせてたんでしょ? 事務所、ありえない』 風向きが変わった。批判の嵐が止み、同情と応援の声があふれ出す。 レンは紬を恋人だと明言したわけではない。命の恩人であると真実の一部を語り、いわば話をすり替えたのだ。 だがファンも馬鹿ではない。明言しなかっただけで、紬がレンの誰よりも大事な人だと理解した。 その上での応援なのだ。黙認と言ってもいいかもしれない。 レンは再びマイクを握った。その瞳に、絶対王者の強い光が戻る。「最後に、一つだけ」 彼は、最前列で顔を真っ赤にして震えている社長をもう見ようともしなかった。ただカメラの向こうにいる「彼女」だけを見ていた。「もし、これ以上彼女を傷つけるような記事が出るなら、俺は今ここでアイドルを辞めます」 きっぱりとした宣言。会場が凍りついたように静まり返る。「歌う場所がなくなっても構わない。地位も名誉もいらない。彼女がいない世界で生きるくらいなら、俺は全てを捨てます」 脅しではない。魂をかけた誓いだった。 彼の人生全てを天秤にかけても彼女を守り抜くという、愛の証明。 パシャッ。 誰かがシャッターを切った音を合図に、再びフラッシュの嵐が巻き起こった。 けれどそれは、スキャンダルを暴く眩しさではない。 苦しい中での愛を貫いた、一人の男の覚悟を称える光だった。◇ その頃、ペントハウスのリビングでは。テレビの前に正座していた紬が、両手で顔を覆って泣き崩れていた。「うっ……うう……っ」 画面の中の彼はボロボロになりながらも、誰よりも格好良かった。 自
last updateLast Updated : 2026-02-09
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153:新しい契約

 会見場の控え室は、けたたましい電子音が鳴りっぱなしだった。 事務所の社長が握りしめているスマホとデスクの上に置かれた社用携帯が、ひっきりなしに鳴り続けている。「……はい、はい! ええ、彼らを支えてやってくれと、そういうご意見ですね。ええ、承知しております」 社長の顔色は青を通り越して土気色になっていた。電話の主は主要スポンサーの役員や大株主たちだ。 怒りのクレームではない。「記者会見を見た。感動した」「Noix(ノア)の絆を見直した」「彼をクビにしたら許さない」といった感動の声や、「あのドラマは金になる」「新機軸として売り出すように」という冷静に商機を見る声。予想外の称賛と掌返しの嵐だった。「聞こえました? 社長」 腕を組んで壁に寄りかかっていた西条リカが、冷ややかに言う。「世間が見たがっているのは『スキャンダルで消えるアイドル』じゃないわ。『悲劇を乗り越え、絆を深めたNoix』よ。今、彼らを処分したら、御社と貴方こそが悪役になりますよ?」「損害賠償の話は白紙ですね」 葛城セナが、タブレットの画面を見せながら淡々と追撃する。「株価は会見直後から急上昇しています。Noixの復帰キャンペーンを行えば、当初の試算の倍以上の利益が見込めます。経営者として、賢明なご判断を」 逃げ道は完全に塞がれた。社長は苦虫を噛み潰したような顔で、深いため息をついた。「……分かった」 彼は忌々しそうに、スーツを着たレン、セナ、ハルの3人を見回した。「小日向紬の再雇用を認める。ただし! あくまで『スタッフ』としてだ。公私混同はするな。いいな!」 実質的な敗北宣言だった。 Noixの3人は顔を見合わせて、にやりと笑った。◇ 地下駐車場に戻る。解散する前にレンはスマホを取り出し、ビデオ通話を繋いだ。 画面の向こうには、ペントハウスで待機していた紬の顔が映る。『あ、繋がりました! レンくん、皆さん、お疲れ様でした!
last updateLast Updated : 2026-02-10
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『えっ? 私ですか?』「そうよ。前に作ってくれたみたいなやつ」 彼女は電話の向こうの紬の顔を指差して、早口で注文をつけた。「ヘルシーで美容にいい成分がたっぷりで、お腹いっぱい食べても太るのを気にしないで済むメニュー。……用意できるわよね?」 かつては無理難題に聞こえたその言葉が、今は何よりも嬉しい信頼の証に聞こえる。 紬は画面に向かって、満面の笑みで敬礼した。『はい、任せてください! 最高に美しくなれるフルコースを用意して待ってます!』「ふふ。期待してるわ」 リカは満足げに口角を上げると、颯爽と迎えの車に乗り込んでいった。 走り去るテールランプが、どこまでも誇り高く輝いていた。◇ 夜。ペントハウスの扉が開く。私はエプロン姿で、玄関ホールに立っていた。「……おかえりなさい」 たった一言。けれどその言葉を言えることが、奇跡のように思えた。「ただいまー!! 紬ちゃぁぁぁん!」 一番に飛び込んできたのはハルくんだ。「紬ちゃんがいないと俺、マジで干からびるとこだったー! カップ麺生活もう無理ー!」 彼は泣きながら私に抱きつこうと突進してきた。 ガシッ。 しかしその直前、レンくんの手がハルくんの首根っこを掴んで止めた。「触んな。紬は俺の専属だ」「ぐえっ!? レ、レンくん独占欲強すぎー!」 いつもの光景。 騒がしくて、温かくて、愛おしい日常が戻ってきた。 レンくんが私を見て、優しく目を細める。「……ただいま、紬」「はい。おかえりなさい、レンくん」◇ 一息ついた後、リビングで改めて今後についての話し合いが行われた。 セナさんが新しい書類をテーブルに置く。「これが、新しい雇用契約書です」
last updateLast Updated : 2026-02-11
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 手を握り合う私たちを横目に、セナさんが肩をすくめた。「いいですか、2人とも。公然の秘密であって見せつけるものではないですからね。そこは気を付けるように」「はいはい。セナは細かい」 明るい笑い声が弾ける。 私も別に、ファンの人たちを刺激したり傷つけたりしたいわけじゃない。 だって私は今でも綺更津レンのファンだもの。同担拒否はしない。 だから、私たちの仲をそっと許してくれるなら、十分過ぎるほどだった。◇ 深夜。私はレンくんに誘われて、2人でバルコニーに出ていた。 眼下には東京の夜景が宝石箱のように煌めいている。「……ごめんな」 夜風の中で、レンくんがぽつりと言った。「あんなに大見得切っておいて、『恋人です』って、胸を張って言えなくて」 彼の表情には少しの悔しさが滲んでいた。私は首を横に振った。「ううん。言葉なんていりません」 私は彼の手すりに置かれた手に、自分の手を重ねた。「レンくんが私のために、全てを捨てようとしてくれたこと……一生忘れませんから。それに、今のままで十分幸せです」 レンくんは私の手を取り、指を絡めた。 私の手首に視線を落とす。そこにはまだ何も着けられていないけれど、彼の左手首には、あのボロボロのミサンガが巻かれている。 彼はそのミサンガにそっと口づけをした。それから顔を上げて、私の唇に優しくキスを落とした。「……愛してる」 甘く、熱い吐息が触れる。「これから一生、俺の『毒見役』をしてくれよ?」 それは、どんなプロポーズよりも彼らしくて、私にとって最高の言葉だった。「ふふっ。毒なんて入れませんよ。だってあなたのごはんは、私が作るんですから。……でも」 私は笑って、彼の首に腕を回した。「……はい
last updateLast Updated : 2026-02-12
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