――あれから1年の月日が流れた。 朝のペントハウスは戦場のように忙しい。 けれど忙しいばかりではない。しっかりと統制が取れている。「ハルくん、野菜スティック残さない! ビタミン不足で肌荒れしますよ!」「えー、朝から生野菜はキツイってー」「文句言わない。健康のためです」 ここで私はもう1人を振り返った。「セナさんはサプリ飲みました? 今日は雑誌の取材が続くので、鉄分多めにしてあります」「……相変わらず隙がないですね、管理栄養士殿は」 リビングを飛び回って指示を出しているのは、私、小日向紬だ。 この1年で私の肩書きは大きく変わった。 ただのスタッフから、Noix(ノア)専属栄養管理マネージャーへ。今や私は彼らの健康を握る司令塔として、事務所からも正式に認められた存在になっていた。 というか、彼らは目を離すとすぐに自堕落な生活をするから本当に困る。 1年半ほど前、私がこのマンションに来る前まではどうやって暮らしていたんだろうか。 マネージャーさんもいるわけだし、お金は十分以上にあるしで何とでもなるはずなんだが。 いい大人が揃いも揃って、まったく解せぬ。「レンくんは?」「準備できてる」 寝室から出てきたレンくんが、ジャケットの袖を通しながら答えた。 1年前よりも少し髪が伸びて、大人の色気が増している。国民的スターとしてのオーラは、さらに磨きがかかっていた。「朝ごはん、美味かった。……ごちそうさま」 彼はすれ違いざま、誰にも見えない角度で私の腰に手を回して耳元で囁いた。 とろけるような甘い声。テレビで見せるクールな表情とは違う、私だけの「夫」の顔だ。「はい。お粗末さまでした」 私が微笑むと、彼は名残惜しそうに指を離した。「よし、行くぞNoix! 遅刻厳禁!」「りょーかい!」 玄関へ向かう3人の背中は、眩しいほど輝いている
Last Updated : 2026-02-13 Read more