「ハルが結婚とか言うから。……紬がどっかに行っちゃいそうで、怖い」「…………」「顔見せてくれるだけでいい。……充電させて」 震える声に、私の長年の「ファン心」と無駄にある「母性」が刺激されてしまった。こんな声を出されて無視できるわけがない。「……はぁ」 私は大きくため息をつき、ベッドから降りた。重たいソファをズズズと退かし、バリケードを解体してドアを開ける。 そこには、自分の枕を抱えたレンくんが立っていた。「どうぞ」 私が招き入れると、彼は無言で部屋に入ってベッドに腰掛けた。そして隣に座った私に、くたりともたれかかってきた。「……ん」 押し倒されるのかと身構えたが、違う。彼は私の膝に頭を乗せる。私の腰に腕を回して、大きく深呼吸をしただけだった。「紬の匂いがする」 別に夜這いをしに来たわけではないらしい。ただ私に体を預けて、体温を確認するように目を閉じた。「俺、お前がいないと本当にダメみたいだ」 その言葉は愛の告白というよりは、生存本能に近い切実さを持っている。 私が彼のさらさらとした髪をそっと撫でると、彼は心地よさそうに吐息を漏らし、数分もしないうちに安らかな寝息を立て始めた。 安らかな横顔は彫刻のように整っているようで、どこか幼さを感じさせる。彼が安心しきっているのが分かった。「レンくん?」 返事はない。完全に寝落ちている。 結局、私は重たいトップアイドルの頭を膝に乗せたまま、朝まで身動きが取れなくなった。◇ 翌朝。すっかり充電完了してスッキリした顔のレンくんが、私の部屋から出ていった。ちょうど廊下を通りかかったセナさんと鉢合わせる。「…………」 セナさんは私の部屋
最終更新日 : 2026-01-10 続きを読む