Semua Bab 塩対応の国宝級アイドルは、私の手料理がないと生きていけないらしい: Bab 241 - Bab 250

254 Bab

249:ドーム公演の特別ゲスト

 夏の陽射しが、ペントハウスの広いリビングにたっぷりと降り注いでいる。 窓の外には抜けるような青空が広がっていた。 ダイニングテーブルの上には、分厚い企画書が広げられている。 完璧に着こなしたスーツ姿のセナさんが、タブレット端末を操作しながら口を開いた。「数週間後に迫った、Noixの全国ドームツアー最終公演。その総合演出家から、我々に一つの大きな提案が持ち込まれました」 セナさんは中指で眼鏡を押し上げると、私とレンくん、ハルくんを順番に見回した。「先日放送されたドラマの大ヒットにより、伊織と茉莉の人気は現在最高潮に達しています。そこで、最終日のアンコールにて、双子をシークレットゲストとしてステージに呼び込みたいとのことです。つまり、Noixと双子の親子共演パフォーマンスの企画です」「まじか! それ、最高じゃん!」 ハルくんが身を乗り出して目を輝かせた。「俺たちと伊織、茉莉が同じステージに立つなんて、ファンも絶対に喜ぶよ。話題性も抜群だし、何よりすっごく楽しそうだ」「ええ。事務所としても、このオファーを断る理由はありません。ですが最終的な判断は保護者であるレンと紬、そして何より本人たちの意思に委ねられます」 セナさんの視線を受けて、レンくんは腕を組んで目を閉じた。 数秒の沈黙の後、静かに目を開く。「俺は構わない。あいつらがやりたいと言うなら、ステージに上げるだけだ」「紬さんはどうですか。専属管理官として、双子のスケジュールや体力的な懸念はありますか」 尋ねられたので、手元のスケジュール帳をめくって確認する。「ドラマの撮影は全て終わっていますし、現在のところ大きな仕事は入れていません。体力的な問題はないと思います。ただ、ドームという場所は……」 私が言い淀んだちょうどその時、リビングのドアが開いた。「ママ、ただいまー!」「パパ、ハルお兄ちゃん、セナお兄ちゃん、こんにちは!」 幼稚園の制服を着た伊織と茉莉が、元気な声を上げて部屋に入って
Baca selengkapnya

250

「まつり、お歌うたうの大好き! パパと一緒にうたう!」「ぼくもやりたい! テレビのカメラの前でうたうの?」 無邪気に喜ぶ2人を見て、ハルくんが優しく苦笑した。「今回はテレビじゃないんだ。お客さんがたくさんいる、コンサートっていうとこ。場所はドームだね」「お客さん? ドラマのスタッフさんみたいに、いっぱいいるの?」 伊織の問いに、セナさんがタブレットを操作する。 リビングの壁掛け大型モニターの電源を入れた。「口で説明するよりも、実際に見た方が早いでしょう。以前のNoixのドーム公演の映像を流します。これが、あなたたちに出てもらう予定のステージです」 画面が切り替わり、ライブのオープニング映像が映し出された。 最初は暗闇だった。しかし次の瞬間、地鳴りのような重低音がスピーカーから響き渡った。『わああああああああっ!』 画面いっぱいに広がるのは、見渡す限りの光の海だ。何万本ものペンライトが、まるで巨大な生き物のように激しくうねる。割れんばかりの大歓声が会場全体を揺らしている。 ステージ上のNoixの3人に向けられる、5万5000人という想像を絶する数の観客。 その熱狂とエネルギーは、画面越しでも肌がヒリヒリするほど伝わってくる。「……っ」 伊織と茉莉の動きがピタリと止まった。 2人はモニターを見上げたまま、呆然と忘れて立ち尽くしている。 テレビ局のドラマ撮影スタジオは、数十人のスタッフが作業を進める閉鎖空間だった。 カメラの向こう側に何百万人の視聴者がいようと、現場自体はせいぜい数十人程度の人数。活気はあれどここまでの熱気ではない。 けれど生のライブステージは全く違う。 5万5000人という人間の放つ熱気と空気を揺るがす音響は、5歳の子供にとって見たことのない世界である。 今までの伊織と茉莉は小さすぎて、観客としてNoixのツアーに連れていけなかった。 そろそろ連れていける頃かと思ったら、モデルや子役の仕事を始め
Baca selengkapnya

251

「こわい……。こんなにいっぱい人がいたら、まつり、お歌うたえないかも」「ぼくも……。間違えちゃったら、あのみんないる人たちに怒られちゃうかもしれない……」 さっきまでの無邪気な喜びは完全に吹き飛んで、2人は目に見えて怯えてしまった。 5万5000人という観客の波が、子供の小さな心に重くのしかかっているのだろう。 レンくんがリモコンを操作し、モニターの電源を切った。 地鳴りのような歓声が消えて、リビングに静寂が戻る。 レンくんは再び床に座り込み、怯えている双子の小さな手を優しく包み込んだ。「怖いか」「……うん」「そうだな。パパも、初めてあのステージに立った時は、足がすくむくらい怖かった」 レンくんの言葉に、伊織が驚いたように顔を上げた。「パパでも、こわかったの?」「ああ。5万5000人の前で失敗したらどうしようって、心臓が口から飛び出そうだった。お前たちが怖いと思うのは、当たり前のことだ」 レンくんは伊織と茉莉の目を交互に見つめた。「だから、無理にとは言わない。怖いなら断ってもいい。パパたちは絶対にお前たちに無理はさせない。ドラマの撮影みたいに、大人にやらされるお仕事じゃないんだ。お前たち自身が、どうしたいかで決めていい」 突き放すのではなく、あくまで子供たちの意思を尊重する。それがレンくんの父親としての姿勢だった。 伊織と茉莉は繋いだ手をギュッと握り合って、顔を見合わせた。 ――怖い。5万5000人の視線と歓声は、とても怖い。 そう考えているのが伝わってくる。 けれど2人の視線は、レンくん、セナさん、ハルくんの顔を順番に辿っていった。「……パパと、ハルお兄ちゃんと、セナお兄ちゃんも、一緒にいる?」 伊織が恐る恐る口を開く。 セナさんが眼鏡の奥の目を優しく細め、しゃがみ込んだ。
Baca selengkapnya

252

 伊織は大きく息を吸い込んで、私の服の裾を掴んでいた手を離した。「……ぼく、でる」「伊織?」「こわいけど、パパたちと、一緒にうたいたい。みんなと一緒に、あのピカピカのステージに立ちたい」 伊織の言葉に、茉莉も大きく頷いた。「まつりも! パパとお兄ちゃんたちといっしょなら、こわくないもん! お歌うたう!」 5歳の子供らしい戸惑いを乗り越えて、彼らは自らの意思で出演を決意した。そこには家族に対する絶対の信頼があった。 レンくんは2人の頭を大きな手で撫で回し、ふっと柔らかい笑みをこぼした。「よく言った。俺の大事な子供たちだ。最高のステージにしてやる」 出演が決まれば、専属管理官である私の出番だ。 リハーサルと本番に向けたスタミナ作らなければ。 何より大舞台への縁起を担ぐため、私はキッチンに立ち、特製の「必勝カツカレー」の仕込みに取り掛かった。 まずは玉ねぎを細かいみじん切りにし、大きな鍋にバターを溶かして、飴色になるまでじっくりと炒める。 サクサクとリズミカルな音を立てて切った野菜を次々に投入した。 すりおろしたニンジンとリンゴ、ショウガ、ニンニクを加え、甘みとコクを引き出していく。 次に、数種類のスパイスを独自にブレンドしたカレー粉を投入する。クミン、コリアンダー、ターメリックの複雑な香りが熱せられ、キッチンからリビングへと広がっていく。 スパイスの香りは交感神経を刺激し、食欲を増進させる効果があるのだ。 そこにトマトピューレとブイヨンスープを注ぎ、ローリエの葉を入れて弱火でコトコトと煮込む。 5歳児にスパイスたっぷりのカレーは刺激が強いので、大人用と子供用で作り分けた。 子供用にはスパイスを減らし、ニンジンやリンゴを増やしてマイルドな味付けにする。「いい匂いがするよ」「カレーだ! まつり、カレー好き!」 伊織と茉莉がキッチンの入口から顔を出した。「もう少し待っていてね」 危ないので
Baca selengkapnya

253

 パチパチというリズミカルな音を立てて、豚肉が黄金色に揚がっていく。 豚肉には疲労回復に不可欠なビタミンB群が豊富に含まれており、大舞台を控えた彼らの体を芯から支えてくれるはずだ。 油を切ってサクッと包丁を入れると、中から熱々の肉汁がじゅわっとあふれ出した。 大きなお皿に炊きたてのご飯を盛った。 じっくり煮込んだコクのあるカレーをたっぷりとかけて、その上に揚げたてのトンカツを乗せる。 仕上げに彩りのパセリを散らせば完成だ。「夕食ができましたよ。特製、必勝カツカレーです」 私がダイニングテーブルに皿を並べると、スパイシーな香りに誘われて全員が席についた。「うわぁ、すっごくいい匂い!」「トンカツ、サクサクだー!」 伊織と茉莉は、子供用の甘口に調整したカレーを大きなスプーンですくい、口いっぱいに頬張った。 2人とも笑顔を見合わせている。「うまい。スパイスが効いていて、いくらでも食べられそうだ」 レンくんも満足げに頷いた。次々とカツを口に運んでいく。「豚肉のビタミンとスパイスの効果。本番前のスタミナ作りとして理にかなっていますね」「気分もアガるよ! よーし、これで俺もパワー満タンだ! ドームでも飛び回れるぜ!」 セナさんとハルくんも、勢いよく皿を空にしていった。 家族全員で食卓を囲み、温かい食事で英気を養う。幸せな時間だった。「カレーおかわりする!」「ぼくも!」 伊織と茉莉が同時に皿を差し出した。「はいはい、今盛り付けますからね」 どんな大きな壁が立ちはだかろうとも、こうして同じものを食べて笑い合えば、乗り越えられないものなどないのだ。 私は子供たちのお皿にご飯とカレーをよそいながら、次なる夢に思いを馳せた。 ◇  数週間後。 夏の青空の下、私たちはペントハウスの玄関に集まっていた。 今日はドームツアー最終公演のリハ
Baca selengkapnya

254:リハーサルと家族の絆

 ドーム会場の地下駐車場から、関係者専用の薄暗い通路を抜ける。 私たちはいよいよアリーナへと足を踏み入れた。 分厚い扉が開いた瞬間、目の前に広がったのは、これまで経験したことのない巨大な空間だ。 天井は遥か高く、すり鉢状に広がる観客席は何万という空の座席が規則正しく並んでいる。 アリーナの中央には、メインステージから延びる長い花道と、数十メートル四方のセンターステージが組まれていた。 見上げれば巨大なLEDビジョンが三面並ぶ。無数のムービングライトが鉄骨のトラスに吊り下げられていた。 舞台の下にはスモークマシンや特効用の装置が配置されている。 何十人ものスタッフが足早に行き交いながら機材の最終調整を行っていた。 それらの光景を前にして。 伊織と茉莉は私の両手を強く握ったまま、言葉を失った。 テレビ局のスタジオとはスケールが桁違いだ。 映像で事前に見ていたとはいえ、実際にこの空間に身を置くと、大人でさえその大きさに威圧感を覚える。「おはようございます。Noixの皆さん、到着しました!」 進行スタッフの声が響くと、周囲のスタッフたちが一斉に挨拶をした。「おはようございます」 レンくん、セナさん、ハルくんは慣れた様子で手を上げて応える。「広いね、伊織。お空が見えないくらい、天井が高いよ。あそこにある黒い箱、全部スピーカーなのかな」「うん。人がいっぱいいる。テレビのカメラも、すごく大きいね。レールの上に乗って動いてる」 2人の声は、広大な空間に吸い込まれるように小さかった。 音響スタッフが機材の調整を行い、巨大なスピーカーから重低音が響き渡った。 ドーム特有の反響音が、少し遅れて空間全体を包み込む。 床を這うような低い音の振動に、ビクッと双子の肩が跳ねた。「では、アンコールのゲスト登場シーンから音合わせを行います。伊織くん、茉莉ちゃん、ステージの下手側で待機してください」 舞台監督の指示に従い、私は2人を連れてステージの袖へと移動した。
Baca selengkapnya

255

「さあ、行って」 私が背中を軽く押すと、伊織と茉莉は階段を登り、ステージの上へと向かった。「うん……いってきます」 心なしか伊織の声が重い。 茉莉と手を握り合ってステージ上に姿を現す。 強烈なスポットライトが双子を照らし出す。 音楽が鳴り始めた。アンコール用の、明るくポップなテンポの曲だ。 2人は事前に練習した通り、ステージの中央へ向かって歩き、歌い始める手はずだった。 でも茉莉の足取りが重い。 いつもなら元気に飛び出していくはずが、マイクを両手で握りしめたまま、うつむき加減で歩いている。 イントロが終わり、茉莉の歌い出しのパートが来た。 茉莉はマイクを口元に当てたが、その声は全くスピーカーから聞こえてこなかった。 プロ仕様の大音量のバックトラックと、ドーム特有の音の反響に完全に飲まれ、声を出せなくなってしまったのだ。 それに引っ張られるように、隣を歩いていた伊織も立ち止まってしまった。 広すぎる空間のどこを見ていいのか分からず、視線が宙を泳いでいる。「ストップ、音を止めて」 ハルくんがマイクを通してスタッフに指示を出した。音楽がピタリと止まる。 ハルくんは茉莉の元へ駆け寄った。「茉莉、どうした? 音が大きくてびっくりしたかな」 ハルくんがしゃがみ込んで顔を覗き込むと、茉莉は泣きそうな顔でこくりと頷いた。「お歌、聞こえないの。まつりの声、どこかにいっちゃったみたい」「大丈夫だよ。この場所は特別に大きいから、音が少し遅れて聞こえるんだ。迷子になったわけじゃないよ」 ハルくんは茉莉の小さな手を握り、立ち上がった。「ほら、俺と手をつなごう。歌う前に、少しだけ体を動かしてみるか。パパとお家で練習したダンス、覚えてるだろ?」 ハルくんは、マイクを持たない方の手で茉莉の手を引いて、ゆっくりとステップを踏み始めた。「右、左、まわって、ポン。そう、上手だ」 ハ
Baca selengkapnya

256

 一方、立ち止まったままの伊織の元には、セナさんが歩み寄っていた。「伊織。どこを見ていいか、分からなくなりましたか」 セナさんが静かな声で問いかけると、伊織は不安そうに周囲を見回した。「広すぎて、迷子になっちゃいそう。前を見ても、椅子がいっぱいで、どこを向いたらいいか分からないの」「なるほど。空間の広さに視覚が処理しきれていないのですね。では、足元を見てください」 セナさんは、ステージの床に貼られた色のついたテープを指差した。「赤、青、黄色。いろいろな色のテープが貼ってありますね。これは『バミリ』というものです。私たちが立つ位置を示す印ですよ。周りが広くて迷いそうになったら、このバミリを見つけて、その上に立つゲームだと思ってください」「バミリ……。テープの上に立つゲーム?」「ええ。テレビのカメラと違って、ライブのカメラは遠くからあなたたちを狙っています。だから、目線が定まらないと、映像では落ち着きがないように見えてしまいます」 セナさんは言葉を区切り、客席の奥にある黒い機材の塊を指差した。「あそこに、赤いランプがついている大きなカメラがありますね。あれはクレーンカメラといって、一番良い角度から全体を撮るカメラです。迷ったら、あの赤いランプだけを見てください。あそこを見れば、一番魅力的なあなたの姿が画面に映ります。何万という座席を見る必要はありません。足元のテープと、あの赤いランプ。その二つだけを基準にすればいいのです」 具体的な目標を与えられたことで、伊織の顔から戸惑いが消えた。「足元のテープと、赤いランプだね。分かった」 伊織は自分の立ち位置である青いテープを見つけ、その上にしっかりと両足を乗せる。 そして、客席の奥にあるカメラの赤いランプへ視線を固定した。 セナさんは満足げに頷いて、眼鏡の位置を直した。「その調子です。あなたはとても賢いから、すぐに理解できると思っていましたよ」 ハルくんとセナさんによって、双子のプレッシャーが取り除かれた。 伊織と茉莉は
Baca selengkapnya

257

「お前たちの笑顔が一番の魔法だ。パパたちがついている。失敗したって、全部パパたちが必ずサポートに回る。だから、何も心配せずに、思い切り楽しんでこい」 レンくんの言葉が、伊織と茉莉の背中を力強く押した。 家族とNoixの仲間の絆が、どんな不安からも双子を守る盾となっている。 伊織と茉莉は、お互いの顔を見合わせ、大きく頷いた。「うん! パパ、ぼく、もう迷子にならないよ。バミリも覚えたし!」「まつりも、ハルお兄ちゃんと手をつないで歌う! 元気に大きな声出すよ!」 彼らの顔には、先ほどまでの怯えはもう残っていなかった。 自信に満ちた、小さな表現者の笑顔がそこにあった。「よし。それじゃあ、もう一回最初から音合わせを頼む」 レンくんが立ち上がり、スタッフに向かって合図を出した。 再びアンコールのポップな音楽が流れ始める。 今度は茉莉も伊織も立ち止まることはなかった。「いっくよー!」 茉莉はハルくんと手をつなぎながら、元気な声で歌い出しのパートを歌い切った。 ドーム特有の反響音にも負けない、明るく通る声だった。「ぼくだって!」 伊織も広大な空間に惑わされることなく、セナさんに教わった青いバミリの上に立つ。 カメラの赤いランプへ向かって堂々とポーズを決めた。 ステージ上の5人が一体となり、見事なフォーメーションでパフォーマンスを繰り広げる。「はい、カット! バッチリです!」 舞台監督の張りのある声がドームに響いた。「立ち位置も音程も問題ありません。双子ちゃん、すごく良くなりましたよ!」「頑張ったね!」 スタッフたちからも、拍手と称賛の声が送られる。 私はステージ袖でホッと息を吐き出した。(良かった。私は裏方だから、表舞台に立つことはできない。レンくんたちに助けてもらいながら、あの子たちは自分で立つしかない……) 西条リカさんの言葉が蘇る。 ――
Baca selengkapnya

258

(いいえ、巣立ちはまだ完全ではない。きちんと大人になるまでは、私たちが守ってあげなくちゃ。そうよね、レンくん?) 私は裏方で、レンくんやセナさん、ハルくんは表舞台で。  役割分担をしながら、双子の成長を見守っていく。  大変だけど楽しみでもあった。 伊織と茉莉は、レンくんたちとハイタッチをして喜び合っている。 これでリハーサルは無事に完了した。あとは、数時間後に迫った本番のステージへ向けて、体調を整えるだけだ。 控室へ戻るためステージから降りてきた双子に、私はタオルと水筒を差し出した。「お疲れ様。伊織、茉莉、すごく上手にできていたわよ。声もしっかり聞こえた」「ママ、見た? ぼく、赤いランプ見つけたよ!」「まつりね、ハルお兄ちゃんと一緒にダンスしたの! もう怖くなかったよ」 2人は興奮冷めやらぬ様子で、私の周りをぴょんぴょん飛び跳ねた。とてもかわいい。「ええ、見ていたわ。とてもかっこよかった。本番も、その調子でね」「うん!」 私たちは連れ立って、ドームの長い地下通路を歩きNoix専用の広い控室へと戻った。 室内には大型の鏡が壁一面に設置されて、スタイリストたちが本番用衣装の最終調整を行っている。  テーブルの上にはケータリングの温かい食事や、喉のケアのための蜂蜜レモン、各種スポーツドリンクが並べられていた。「さあ、本番まであと少しだ。しっかり休んで、水分を摂っておけよ」 レンくんがソファに腰を下ろし、双子に声をかける。 私は2人の汗をタオルで丁寧に拭いて、リハーサル用の服から本番前の楽屋着へと着替えさせた。  冷房で体を冷やさないよう、薄手のカーディガンを羽織らせる。「のどが渇いた人は、お水を少しずつ飲んでくださいね」 私がコップを渡すと、2人は両手でそれを受け取ってこくこくと水を飲んだ。  小さい体は大人よりもこまめな水分補給が必要になる。よく気をつけてあげなければ。 開演の時間が近づくにつれ、廊下を行き交うスタッフたちの足音が
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
212223242526
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status