All Chapters of 塩対応の国宝級アイドルは、私の手料理がないと生きていけないらしい: Chapter 251 - Chapter 254

254 Chapters

259:小さな星の輝き

 ライブ本編の終了を告げる劇的なアウトロが鳴り止み、ステージ上のまばゆい照明がふっと落とされた。  暗転した巨大なドーム空間に、数秒の静寂が落ちる。しかしそれは、さらなる熱狂への短い助走に過ぎなかった。『アンコール! アンコール! アンコール!』 地鳴りのような5万5000人の声が、波のようにうねりながら会場全体を揺るがし始めた。  客席で揺れる何万本ものペンライトの光が、暗闇の中で生き物のように明滅を繰り返している。 ステージの袖、無数の機材と黒いケーブルが這う暗がりに、私は立っていた。  すぐ隣には、本番用の煌びやかな衣装に着替えた伊織と茉莉がいる。 2人が身にまとっているのは、Noixのメンバーとお揃いの純白を基調としたジャケットとパンツスタイルだ。  襟元や袖口には銀色のスパンコールがふんだんにあしらわれており、暗いステージ袖のわずかな明かりを反射してキラキラと輝いている。「すごい音だね、ママ。みんな、すっごく大きな声でパパたちのこと呼んでる」「うん。あの光、星空みたいでとってもきれい 」 伊織と茉莉の顔に、数時間前のリハーサルで見せていた怯えは完全に残っていなかった。  2人の目は、5万5000人の熱気にあてられるどころか、そのエネルギーを吸収するかのように期待と興奮でキラキラと輝いている。  小さな両手で自分専用のワイヤレスマイクをしっかりと握りしめて、ステージへ上がる階段をじっと見つめていた。 その階段を駆け下りる、複数の激しい足音が聞こえた。「お疲れ様です! 水、水をお願いします!」「タオルここです!」 暗がりの中で待機していたスタッフたちが、一斉に動き出す。 ステージから降りてきたレンくん、セナさん、ハルくんの3人は、頭から水をかぶったように全身汗だくだった。  息を荒く切らせて、肩で大きく息をしている。「ははっ、今日のお客さん、最高に熱いね! 俺も汗で前が見えないや!」 ハルくんが、スタッフからスポーツドリンクのペットボトルを受け取る。一気に
Read more

260

「うん! セナお兄ちゃん、ぼくバミリの位置、ちゃんと覚えてるよ!」「まつりもお歌の練習、いっぱいしたよ!」 双子が元気よく返事を見上げる。  セナさんは眼鏡のブリッジを中指で押し上げて、ふっと柔らかい笑みをこぼした。「ええ、知っています。あなたたちなら完璧にこなせますよ」「パパ、汗びっしょりだね。お水、もっと飲む?」 伊織が背伸びをしてレンくんの顔を覗き込むと、レンくんは手にしたタオルを首にかけて、床に片膝をついた。  双子と同じ目の高さになって、大きな手で2人の小さな頭を力強く撫でる。「ああ、もう一口もらおうかな。パパも最高に楽しいんだ。……さあ、いよいよお前たちの出番だ。準備はいいか」「うん!」「ばっちりだよ!」 レンくんは右手の拳をスッと前に差し出した。 伊織と茉莉が、その大きな拳に自分たちの小さな拳をコツンと合わせる。  続いてハルくんとセナさんも拳を重ね、最後に私もその輪の中にそっと手を添えた。「いくぞ。俺たちの、最高のステージだ」 レンくんの低く力強い声が、暗闇の中で響いた。  全員が大きく頷いて、意思を1つにする。「Noixの皆さん、スタンバイお願いします!」 舞台監督の声が飛んだ。 レンくんたちは立ち上がり、ステージへと続く階段を足早に登っていく。 ステージ上に彼らの姿が現れた瞬間、ドーム全体を揺るがすような絶叫に近い大歓声が爆発した。  5万5000人の熱狂が、物理的な圧力となって耳を叩く。『みんな、アンコールありがとう! まだまだ声出せるか!』 ハルくんがマイクを通して煽ると、客席から『イエェェェェス!!』という凄まじいレスポンスが返ってくる。『今日は、ドームツアーの最終日だ。だから、特別なゲストを呼んでいる』 レンくんの声がスピーカーから響き渡った。  その言葉に、5万5000人の観客が「誰のこと?」とどよめき合う。『俺たちの、大切な家族
Read more

261

「キャアアアアアアッ!!」「嘘っ、伊織くんと茉莉ちゃん!?」「本物だ! やばい、天使すぎる!!」「ドラマ見てた! 可愛いー!!」 先日まで放送されていた大ヒットドラマにより、2人の顔と名前は日本中に知れ渡っている。  まさか国民的な人気を誇る双子の子役が、Noixのライブに登場するとは誰も予想していなかったのだ。 割れんばかりの歓声と、5万5000本のペンライトが狂ったように激しく揺れる。  ドームの空気が沸騰したかのような熱気だ。「よし、それじゃあ5人で歌うぞ! ミュージック、スタート!」 ハルくんの掛け声とともに、明るくポップなテンポのイントロがドーム内に鳴り響いた。  特製の火花がステージの前方で華やかに吹き上がり、パフォーマンスがスタートする。 伊織は、リハーサルの時のように立ち止まることはなかった。 広いステージの上を軽やかに歩き出す。  客席の熱気に臆することなく、セナさんに教わった青いテープの『バミリ』を正確に見つけ出してその上に立った。 さらに客席の遥か奥、クレーンカメラの赤いランプをしっかりと見据えた。  カメラのレンズに向かって、最高に愛らしい笑顔でウインクをする。小さな両手で客席に向かって大きく手を振った。 アイドル顔負けのファンサービスが巨大ビジョンに映し出されると、客席から「ギャアアアッ!」という悲鳴のような歓声が上がった。 一方の茉莉は、ハルくんとしっかりと手をつなぎながら、リズムに合わせてピョンピョンと飛び跳ねていた。  自分の歌のパートが来ると、マイクを両手で握りしめて大きく口を開けた。「♪みんなのえがおが、キラキラひかるよー!」 ドーム特有の反響音やプロ仕様の大音量スピーカーにも全く負けない、真っ直ぐで元気な声が会場全体に響き渡る。  リハーサルの時のように声が小さくなることは全くない。 むしろ5万5000人の歓声と熱気を自らのエネルギーに変換して、さらに大きなパワーとして放出しているかのようだった。
Read more

262

 そしてレンくんは、ステージの中央で圧倒的な歌唱力を披露しながら、時折振り返って双子の姿を確かめている。  父親としての優しく誇らしげな笑顔を見せていた。 5人が一体となったステージは、ただの「親子共演」という言葉では片付けられない、完璧なエンターテインメントとして成立していた。  5万5000人の観客は完全に魅了されて、ペンライトの波は音楽に合わせて1つの大きな生き物のように揺れ動いている。 私は暗いステージ袖の機材にもたれかかりながら、光り輝くステージの中央を見つめ続けた。(伊織、茉莉……) 彼らがここへ辿り着くまでには、様々な壁があった。 大人たちの身勝手な都合や、理不尽なプロデューサーからの悪意があった。  ライバルからのプレッシャーもあったし、最後には5万5000人という未知の空間に対する恐怖が襲ってきた。 5歳の子供にとっては、どれもが大きな障害の連続だったはずだ。 それでも彼らは、家族という強固な盾に守られ、仲間たちの絆に支えられ、自分たち自身の足でそれらの壁を1つ残らず乗り越えてきたのだ。 誰かの操り人形ではなく、自分たちの意思でステージに立ち、5万5000人を笑顔にする。  そんな彼らの無限の可能性と、眩しいほどの成長の軌跡を目の当たりにして、私の胸の奥が熱く締め付けられた。 視界が不意ににじんだ。 慌てて目元を指で拭うが、次から次へと温かい涙があふれて止まらなくなってしまった。  決して悲しいわけではない。ただただ、彼らが愛おしくて、誇らしくて、胸がいっぱいだった。「まいったな、これじゃああの子たちの姿が見えないじゃないの。……本当に、最高の家族ね」 私は誰に聞かせるわけでもなく、小さく呟く。  ステージ上では、曲のクライマックスを迎えていた。「最後はみんなで一緒に! ジャンプ!」 レンくんのシャウトに合わせて、伊織と茉莉、Noixの3人がタイミングを完璧に合わせて高く跳び上がった。 同時に、ステージの天井から何万枚もの銀テープが客席
Read more
PREV
1
...
212223242526
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status