All Chapters of お嬢様、あなたの『推し巫女(ヒーロー)』、私なんですが: Chapter 101 - Chapter 110

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7-2【眩しき宝物】

 どのような悲劇を目の当たりにしようとも、正体を隠している以上普段の生活を疎かにはできない。 長年使用人を務めているメリナの仕事ぶりは、友人の死を目の当たりにしたにもかかわらず、周囲からは違和感のないしっかりしたものだった。 しかし、同じく長年彼女を見ている者からは、わずかな違和感に気付かれることもある。「メリナさん、ちょっとやつれてない?」「え? そうかな……」 廊下で鉢合わせたラヴィニアに顔を覗かれ、作り笑いを見せるメリナ。 だがその笑顔には、自分でも分かるほどに力がこもっていなかった。「あまり無理しないで、困ったことがあったらちゃんと言ってね」 メリナに「またあとでね」と告げて、ラヴィニアは足早にその場を立ち去る。 彼女は現在、名目上休みをもらっているアデーレに代わりエスティラの世話係を務めている。 エスティラの意向でアデーレが世話係に割り当てられているが、本来はラヴィニアのようなベテランが就くものだ。 自らに次いで長くバルダート家で働くラヴィニアならば、安心してエスティラの世話を任せられる。 そんなことを思いつつ彼女の後ろ姿を見送るメリナだったが、その胸中は穏やかではない。 喪失感や孤独、後悔。 あらゆる思いがせめぎ合い、メリナの心を蝕む。 自らの右手首に左手を添える。 長袖の下には狼の腕輪が隠されており、金属の感触が布越しに伝わってくる。(何やってるんだろう、私) 心ここにあらず。 長年の経験がそれを覆い隠しているだけであり、今の彼女はあまりにも危うい。 ラヴィニアの気遣いも、ベルシビュラというもう一つの姿を隠している以上頼ることは出来ない。 昨日の出来事を全て受け止めるには、メリナの精神は未熟過ぎた。『私、メリナさんのことを信じていますから』 今際の際に告げられた、アデーレの願い。 敵対し、傷つけあった相手に告げるにはあまりにも温かい言葉。 それはメリナにとってあまりにも重い十字架であり、そして今の彼女を突き動かす唯一の原動力となっていた。 ラヴィニアの背中が曲がり角の向こうに消えるまで見送った後、メリナは進むべき方へ向き直り歩き始める。 その足取りは重く、辺りには誰もいないため表情も暗い。「……仕事。仕事しないと」 今の彼女には、唯一務めを果たすことだけが精神を保ち続ける手段となっていた。 
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7-3【裏切り者の罠】

 エスティラに招かれ、屋敷の中へと通されたダニエレとサウダーテ夫妻。 今もなお呆けたままのダニエレに対し、平民である夫妻は二度目となる屋敷への立ち入りに相当緊張している様子だった。 特に一度目は魔獣襲撃の際の避難だったこともあり、主人が主に生活する二階への立ち入りは許されていなかった。「ほ、本当に私たちが来ても良かったのですか?」「ええ。是非お二人にお会いしたいとお嬢様が申されておりましたので」 三人を案内する役割を命じられたメリナと執事のロベルト。 ロベルトが先頭を歩き、三人を挟んで最後尾をメリナが続くという形だ。 夫妻の応対をするロベルトの落ち着いた姿は、使用人としては長く務めているメリナであっても感心するものだった。 そもそも二十二歳のメリナでは、数十年バルダート家に仕えるロベルトとは比較にならないだろう。 そんなやり取りをしているうちに、食堂隣の応接室前へと辿り着く一行。 ロベルトが白いドアをノックすると、中からエスティラの声が聞こえてくる。「入りなさい」 主人の声を受け、静かにドアを開け入室するロベルト。 それに続いてダニエレ、夫妻が入室し、最後に入室したメリナがドアを音を立てぬようゆっくりと閉める。 姿勢を正した後、エスティラに対し一礼するメリナ。 その様子を見ていたサウダーテ夫妻も慌てた様子で頭を下げるが、ダニエレのみ変わらず上の空といった様子だ。
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7-4【バルダート家の長女として】

 ロベルトがダニエレを連れて屋敷を出てしばらく経った頃。「なるほどなるほど。エスティラ様は彼の言葉をそのように解釈したと」「ええ。おかしな魔獣も増えていたし、その可能性は高いと思わない?」 応接室に集まった数名の衛兵たち。 彼らの中心に立つ馴染みの指揮官が、エスティラの言葉に対し肯定しつつうなずく。 その様子を、並んで立つメリナとラヴィニア、そしてサウダーテ夫妻が静かに見守っている。「結晶の体を持つ魔獣は水に弱い。故にこの島から出ることは出来ないと」 それは、ダニエレが独り言のようにつぶやいていた言葉からの推測だった。 プルトの言葉を加味すれば、その考えは結果的に正しいものである。 つまるところ、生物を侵食する結晶から逃れるには、船を使い島を離れるのが確実なのだ。 エスティラが指揮官に対して語ったのも、民間人を島外へ脱出させるための提案だった。 彼女の提案は、人命尊重という考えの上では間違いないものだ。 しかし、エスティラの提案に指揮官は渋い表情を見せる。 それは彼女の提案に嫌悪を示しているわけではなく、困惑の表れである。「なるほど。しかし千五百を超える島民全てを避難させるとなると……」 そう。周辺地域の中でも、ロントゥーサ島の人口は決して少なくはないのだ。 首都を有するシシリューア島に及ばないとはいえ、ロマニア大陸にも比較的近いこの島は、船の中継地点としても優秀な立地を有している。 今後を考えれば、むしろ発展の余地がある有力な島なのだ。 近年は人口も増加傾向にあり、停泊する船はあれど島民全員を安全な場所に避難させるには数が足りていない。 この事実はエスティラも承知の上だろう。 それでも島民の人命優先という態度を示すことは、島の有力者として大事なことだ。 それが実際に活動する者達の指標にもなるし、共通意識を持つことで迅速な行動が可能となる。「例えば停泊中の貨物船から漁船まで、全てを使って近くの島へみんなを避難させるのはどうかしら?」「確かに可能性はありますが、今度はそこまでの誘導の人員が足りるかどうか。我々の船を動かすにも人手はいりますからな」「人手……さすがに屋敷の使用人に手伝わせるのも無理があるわね」 単純な思い付きでは、そう簡単に話が進まないものだ。 だがどれほどの猶予が残されているかも分からない現状、何か
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7-5【悪夢は近くに潜んでいる】

 一人になりたいというエスティラを部屋へ送った後、メリナは一人仕事場である貯蔵室へと戻っていた。 仕事に戻るように命じられてはいるものの、状況を鑑みれば補充のために外出する余裕はないだろう。 何より、小さな異変はすでに起きているのだ。 メリナ自身いくつかの葛藤はあるものの、ただ傍観していることは許されない。 メリナは自らの右腕の袖をめくり、手首に嵌めた狼の腕輪……プルトを睨む。 今もなお彼女が抱くプルトへの怒りは変わらず、それでもベルシビュラとしての力を得るには頼るしかない。 だがそこに選択の余地はなく、メリナには果たさなければならない勤めがあるのだ。「本当なら、私が守護者だなんて、もうそんな資格はないことくらい分かってる」「メリナ、そんなっ」 メリナが見せる拒絶の意思に対し、明らかにうろたえた様子を見せるプルト。 しかしその言葉とは裏腹に、メリナの左手は銀の腕輪を自分の体の一部のようにしっかりと握りしめている。「でも、私には約束がある。約束を果たすには、ベルシビュラとしての力が必要……」 怒りを滲ませる表情と、決して手放そうとしない左手。 彼女の体は小さく震え、歯と歯が当たる小さな音が響く。 脳裏に浮かぶ、親友の死という最悪の記憶。 メリナがそこから目を背けることは、決して許されない。 命を落としたアデーレの為。そして何より、自らの罪に向き合うメリナ自身
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7-6【銀のムトゥラ(前編)】

 ベルシビュラ……メリナにとっての憎悪の対象。 それはメインマスト中ほどの見張り台に立ち、台の手すりに腰を下ろしながら人々を見下ろしていた。「エヴァ……貴様ァ!」 目を血走らせ、ダニエレが叫ぶ。 対して、かつての上司の形相に、結晶の怪物と化したエヴァ・アソニティスは余裕の笑みを返す。 その体は結晶の侵食が進んでおり、背中からは結晶で構築された触手が四本生えている。 また落石に潰され腕としての機能を失った左腕に代わり、結晶で構築された新たな左腕が肩から伸びている。 元々の左腕は、既に結晶に飲まれたその一部が名残として残るのみだ。 結晶によって構築された左半身に対し、今もなお人の形を保つ右半身。 その歪な姿が、逆に人間としてのエヴァが失われていることを示しているようにも思えた。「教授、あなたには感謝していますよ。私のような移民が大学の古い資料に触れられたのは、あなたの権威のおかげなのですから」「なっ……貴様、その為に私を利用したのかァ!?」「ええ。ええ、そうですとも。教授はもっと暗黒大陸の人間が世間に紛れていることを警戒すべきだったのですよ」 青白い瞳を宝石のように輝かせ、温厚な笑みを浮かべるエヴァ。 目を細める彼女の様子は、まるで本心からダニエレに感謝しているようにも見えた。 しかしそれは彼の神経を逆撫でする行為でしかなく、その怒りを加速させる。「祖母から聞
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7-7【銀のムトゥラ(後編)】

 氷の戦士と、結晶に身をやつした元人間同士のにらみ合い。 ロントゥーサ島の寒風が、二人の間を流れる強烈な冷気によりその冷たさを増す。 メリナの肩にかかる細長い紺色のマントが、音を立てながらなびく。 互いの間に短い静寂が流れる。 それを遮ったのは、余裕の笑みを浮かべるエヴァの含み笑いだった。「本当ならば、あなたとヴェスティリアには共倒れになっていただく予定だったんですよ」 何を思ったのか、急に話を始めるエヴァ。 結晶によって作られた細長い人差し指で、メリナの被る狼の仮面をゆらりと指差す。 だが決して隙を見せているわけではない。鋭い先端を持つ触手は常にメリナを狙っている。「ですが結果は予想外。まさか地下の大結晶をヴェスティリアに破壊されるとは思いもしませんでしたよ」「……彼女の全力を侮った。それだけのことじゃないか」 メリナを貶されているように聞こえたからだろうか。 いつもは調子のいいプルトの声も、今はエヴァの語りに対する不満に満ち溢れていた。 それが可笑しかったのか、エヴァはそっと右手を口元に寄せ、くすくすと笑い出す。 しかしその様子が、メリナの目にはあまりにも不気味に映る。 あらゆる策謀を巡らしていたであろうエヴァだが、その計画は予想以上の力を持つヴェスティリアの前に瓦解した。 自らの体を変質させることはできたが、最も固執していたはずであるキーザの大結晶を失ったことは相当の痛手だったはずだ。 しかし今の彼女が見せる態度は、計画が破綻した者の姿には思えない余裕に満ちていた。 二重三重の策を巡らせていたとしても、大結晶を失ったことを大きな損失とは全く考えていない様子だ。 むしろ、これまで語ってみせた計画が、全て偽りのものであったのではないかとすら思えてくる。 目を細め、優美に笑うエヴァの姿は妖艶であり、そして誰の目にも気味悪く映るものだった。「そうですね。ですが最終的にはヴェスティリアは葬られ、残すはあなただけ」 エヴァの青白い瞳が怪しく輝く。 すぐさまメリナはグラギデンドを構え、エヴァの進撃に備える。 しかしその直後、彼女の予想に反して、船の方から多数の人が移動する物音が聞こえ始める。「ああそうでした。あなた達に面白い雑学を聞かせてあげましょう」 メリナが横目で船を警戒する中、余裕の様子を見せるエヴァが言葉を続ける
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7-8【孤狼の遠吼え】

 それは元来の性格なのか。それとも結晶の力を得たことによる変貌なのか。 エヴァが仕向けた結晶魔獣による襲撃は、ロントゥーサ島に大きな混乱をもたらそうとしていた。 曇天の下で荒ぶるのは、灯台のように天へ向け延びる二本の巨大な触手。 これらの根元を構築するのは、周囲の瓦礫を取り込むことで肥大化した無数の結晶片だ。 結晶片と岩で構築された本体は甲虫のような姿をしており、無数の節足が地面の瓦礫を押し退けながら丘を下ろうと移動を始める。 背中から触手を生やした巨大結晶魔獣の足元には、先ほどまで崩落現場を調査していた人々が逃げ惑っている。「あ、ああぁぁっ!」 本体と合わせて小高い山のような巨体は、鈍足でありながらも一回の移動による歩幅が大きい。 その為走って逃げるのにも限界があり、出遅れている者のすぐそばまで巨大な脚が迫っている。 間近に死が迫ることで、鬼気迫る恐怖の表情を浮かべる人々。 彼らが魔獣に対抗する術はなく、万に一つの活路を求めて走り続ける。 しかし運命は無情だ。巨大魔獣が大きく脚を上げ、その下には逃げ遅れた男が一人。 もたげた脚の影が男を包み、彼の恐怖は頂点へと達する。 そして、無情にも魔獣の足裏が男の頭上に迫り――。「えっ……?」 脚が地面を押しつぶしたその時、男の体は遥か後方へと移動させられていた。 彼の体は何か大きなものに背中を掴まれ、そのまま安全な位置まで空中を移動していた。 背中を掴むものから解放され、男は尻から地面に落ちる。 何が起きたのかと首をかしげ、男は頭上を見上げる。「ひっ!?」 男の頭上にいたのは赤銅色の大フクロウ。 そして、その上に立つ狼の仮面を被る戦士だった。 逃げ遅れた男を救い、巨大な結晶魔獣と対峙するメリナ。「早くここから離れて」「え……あ、はい。ありがとうございますっ」 異形に怯えていた男だったが、助けられたことに気付くと礼を述べてその場から逃げ出す。 逃げ遅れた人々は彼女の手で移動されており、残されたのは巨大魔獣とメリナのみだ。 憤怒の形相を見せる狼が、魔獣を見上げ睨む。 対する魔獣もメリナの殺気に気づいたのか、背中に生える二本の触手がまるで蛇の威嚇の如く掲げられる。 しかし、彼女が恐れおののく様子を見せることはない。 胸中に浮かぶ情景が、彼女の決意と怒りを沸き立たせる。
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7-9【愛しき日々よ、永遠に】

 メリィの独白。 孤児院に入った私が最初にもらったのは、メリィという名前だった。 ずっと名無しの私だったが、いつしか先生や他の子たちがそう呼ぶようになってから、自然と私の名前になった。 メリィという名前にどんな意味があるとか、どうして呼ばれるようになったかは分からない。 ただ、名前がなくとも困らない生活を送ってきた私からすれば、名前で呼ばれるというのはこそばゆく感じるものだった。          ◇ 世間一般から見れば、個人で経営する孤児院の生活というのは恵まれたものではないだろう。 それでも、日々の食事と仲間たちからの思いやりを受けられるだけで、ごみ溜めの中にいた私には天国のような暮らしといえる。 でもそんなささやかな生活すら、支えるためには誰かが犠牲にならなければならないのだ。「先生、もうご飯食べないの?」 ある日の夕食の終わり。 数切れのパンだけの食事を終えた先生に対し、私は日々抱いていた疑問を彼女に尋ねた。 先生……あの日、私をこの場所に受け入れてくれた命の恩人。 温かいスープとパンを与えられる私たちに対し、彼女の食事はいつも質素なものだった。「先生は大丈夫。大人なんだから」 まるで答えになっていない言葉を返しつつ、先生は私の頭をカサカサになった手で撫でる。 その笑顔は優しくて、私に対し精一杯の思いやりを向けてくれて。 でも、これまでの生活のせいだろうか。 私はその笑顔の裏に、自らの苦しみを必死に隠す先生の姿を思い描いてしまっていた。 共同運営者である資産家の旦那さんが亡くなったことで、元々閉鎖されるはずだったこの孤児院。 今は寄付と先生の内職だけで運営しているが、困窮していることは子供ながらに気付いていた。 その頃の私は十二歳で、気付けば年下の子にとって姉代わりのような存在だ。 先生がいない間は子供たちの世話を任され、食事や洗濯なんて仕事も受け持つようになった。 でも、私が家事を手伝ったところで孤児院が恵まれるわけではない。 七人の子供を抱える先生の経済的負担は大きく、それは健康という代償を支払ってどうにか保たれている。 出会った頃に比べどこかやつれたように見える先生の姿が、その証左というわけだ。          ◇ 人並みの生活を与えてくれた先生に、これ以上命を削るような真似はさせられない。 
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7-10【弱き魂と、冥府の誓い(前編)】

 また一つ、彼女の後ろで防壁が突破される。 魔獣の群れは砕かれた壁の穴を抜け、確実に港町へと侵攻を続ける。「させるか……させるものかッ」 群がる魔獣に向け、メリナが槍を構え跳びかかる。 そんな彼女をあざ笑うかのように、今度は巨大な結晶の触手が行く手を阻む。 槍の穂先が触手の固い表面に突き刺さり、彼女の進む力に耐えきれず柄が折れてしまう。 しかしその柄を彼女は両手で構える。 直後、折れた断面から刃が出現し、細身の長剣として姿を変える。「邪魔を、するなッ!!」 まるでヴェスティリアを思わせる力強さで剣を振り下ろし、ついに巨大魔獣の触手を中央から両断する。 切り落とされた巨大な触手はその下にいた魔獣たちを押しつぶし、砕けた防壁の穴を埋める。 しかし巻き起こる暴風にメリナの体は大きく煽られ、防壁の外側へと飛ばされる。 メリナはすぐにフクロウの意匠を持つ鍵を出現させ、それを用いてアイギスを召喚。 これ以上戦場から飛ばされぬよう、風圧に逆らうよう羽ばたくアイギスの脚を掴む。 だが、空中で動きを止めたこの隙を狙い、残されたもう一本の触手がアイギス目掛けて振り回される。 本来ならば回避できる攻撃ではあったが、メリナは完全にそのチャンスを逃してしまう。「アイギス!」 回避不能と悟ったメリナの指示を受け、アイギスは彼女の体を包み込むように翼をたたむ。 羽ばたくことをやめたことで体は落下を始めるも、巨大な触手は容赦なく迫り来る。 豪速で薙ぎ払う触手が防御体制のアイギスを捕らえ、まるで棒で打たれたボールのように弾き飛ぶ。 内部で耐えるメリナにもその衝撃は襲い掛かり、大きな振動が消耗した体を揺さぶる。 それでもアイギスから離れず、彼女は歯を食いしばり衝撃に耐える。 やがて弾き飛ばされたアイギスが地面に叩き付けられ、しばらく跳ねた後に地面を転がる。 動きを止めたところでアイギスが翼を広げ、地面に対し仰向けに倒れる。 解放されたメリナは、ふらつく頭を押さえながら自分の居場所を確認するためよろめきつつ立ち上がる。 続く連戦で呼吸は荒くなり、吐息は自身の放つ冷気と相まって煙のように吐き出される。 周囲の風景が目に入ったところで、彼女は強く舌打ちをした。「町中って、一体どこまで飛ばしてくれたんだか」 愚痴をこぼすプルト。 彼女達が立っていたの
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7-11【弱き魂と、冥府の誓い(後編)】

「メリナ……あなたなんでしょう?」 メリナが目を見開き、驚いた様子のエスティラを見る。 胸元を手で押さえ、小さな唇は小刻みに震えている。「どうして? あなた、どうしてそんな姿になってるのよ? ねえ!?」 感情に流され口走ってしまった言葉が、エスティラに確信を与えてしまった。 掴みかかるように前へと進んだ彼女が、今度はメリナの両肩を強く掴む。 真実を話すまで逃がさないと言わんばかりに力が入るエスティラの両手。 メリナの顔から眼を放そうとせず、彼女が目を逸らすことを決して許さない気迫を向ける。 真実を看破されうろたえるメリナは、完全に冷静さを失い目を泳がせる。 しかしどれほど視線を逸らそうとも、どこを見ようともエスティラの顔が目についてしまう。 口をつぐんだところで、もはや逃れる術はない。 例えこの場を振り切ったとしても、そんなことをすれば二度と屋敷に戻ることができなくなる。 いや、結局は真実を告げることで、築いてきた居場所を失うことに変わりはない。(これが、私に課せられた罰なんだ) あらゆる偽りを重ね、取り返しのつかない悲劇を生み出した。 これまで成してきたことの全てが無意味となり、残されたのは絶望と後悔のみだった。 そのことに気付いた瞬間、メリナの体から不思議と力が抜けていく。 力ない様子でゆっくりと顔を上げ、藍色に染まり始める空を見上げる。 押し寄せる後悔は、まるで明けることのない夜を告げているかのようで。 それなのに、まるで肩の荷が下りたかのような清々しさすら覚えてしまう。 そんな不思議な感覚に身をゆだね、メリナは大きく深呼吸をする。「……全て、私が弱かったのが悪いんです」 まるで懺悔のように言葉を続けるメリナ。 プルトは口をつぐみ、エスティラはじっと彼女の顔を見つめる。「お嬢様は知ってます? 冥府の印が人の魂を喰らう話」「えっ?」「印を独り占めにしようとした男が、印によって命を落とした話ですよ」 ダニエレからその話を聞いていたエスティラが、ゆっくりとうなずく。 しかし、それとメリナにどのような関係があるのか。 確かに彼女の扱う能力は冥府に関わる冷気の力だ。 しかしそれを扱うメリナは、昔話の男のように人の物を盗むような人物ではない。 到底繋がりの見出せない話だが、これはベルシビュラという戦士にとって
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