人々の悲鳴が町に響き渡る。 人を押しのけ、物を押しのけ逃げ惑う人々。 荷車に繋がれた馬は軛から解き放たれ、明後日の方向に走り去る。 文字通りの阿鼻叫喚。誰もが自らの命を守るため、必死なのだ。 そして人々が去った後には、一際大きな巨人が割れた石畳の上に佇んでいた。 仁王立ちするその巨人は、人々から魔獣と呼ばれ恐れられる怪物である。 身長は隣に建つ白壁の二階建て住居と同等。 浅黒く筋骨隆々の身体からは血管が浮き上がり、血走る単眼の中央では黄金の瞳がぎらつく。 それは衛兵達からサイクロプスと名付けられており、高頻度で人里に姿を現す魔獣だ。「お前、逃げなくていいのかァ?」 腐った血液の悪臭が混じる吐息が、地響きのような声と共にまき散らされる。 サイクロプスの眼下には壁際まで追い詰められた者が一人、壁に背を向け佇んでいた。 その人物の顔や服装は外套によって隠され、表情は伺えない。 だが、この状況下で恐れを知らぬ人間がいるだろうか。
Terakhir Diperbarui : 2025-12-08 Baca selengkapnya