「お、お嬢様っ」「あらアデーレ。よく私がここにいるって分かったわね」 分かったわけではない。完全な偶然だ。 だがそんな事よりも、なぜここにエスティラがいるのかという疑問でアデーレの頭はいっぱいだった。 厨房を含めたこの辺りは、いわゆる屋敷における裏側だ。 家主やその家族は屋敷の表舞台でのみ生活し、全ての使用人は裏側を行き来して生活を支える。 万が一、主人が裏側に対し用がある場合、お付きの使用人であるアデーレが仲介するのが常だ。 なので本来、この場所に家の主がいることなどあり得ない。あってはならないのだ。 そうなると、使用人たちが困り果てた様子で仕事の手を止めてしまっている理由も分かる。 きっとジェシカも対応に苦悩した結果、アデーレをここに呼びたかったのだろう。「あのぉ、なぜお嬢様がキッチンに? 伝言でしたら私に申しつけてくだされば」「別にいいじゃない。実際の仕事場を見てみたって」 よくはない。働く側からすればエスティラの目があっては委縮してしまう。 全ての使用人が、アデーレやメリナのように慣れているわけではないのだ。「それに私、気まぐれでここに来たわけじゃないわよ。ちゃんとした用があるんだから」「ですから、そういう場合は私にお伝えしていただければ」「ダメよっ。これは私にとって大事なことなんだから!」 声を荒げるも怒るわけでもなく、なぜか胸を張って誇らしげな様子のエスティラ。 いつもとは違うその様子に、その場にいる使用人たちも困惑した様子を見せる。 このままでは色々とまずいことになる。 そう考え、身を正し気を取り直したアデーレが、やや早歩きでエスティラの傍に寄る。「お嬢様にお考えがあることは分かりました。ですがこのままですと昼食の用意が進みませんよ」「どうしてよ? 私のことは気にせず仕事を進めて――」 そこまで口にしたところで、エスティラが周囲の様子を見渡す。 彼女の視界には、きっと苦笑を浮かべた使用人たちの姿が映ったことだろう。 四六時中傍に仕えるアデーレとは違い、ここにいるジェシカ以外の使用人にはエスティラに会ったことすらない者もいる。 そういった使用人からしたら、主が傍にいることは恐怖にもつながりかねない。「あぁー……うん、そうね。一度席を外しましょうか」 珍しく愛想笑いを浮かべ、ドアの方へと向かうエステ
Last Updated : 2026-02-08 Read more