All Chapters of お嬢様、あなたの『推し巫女(ヒーロー)』、私なんですが: Chapter 41 - Chapter 50

54 Chapters

6-2【声なき慟哭に導かれて】

 自身が弱者と蔑む者からの暴言と、決して屈しないという反逆の言葉。 思い通りにならないエスティラの態度を前に、イェキュブの口元であろう場所から歯ぎしりのような音が響く。 背後で起きている想定外の状況に気づくこともなく、エスティラの顔を踏むその足により一層の力を込めてくる。「ヴェスティリア……ヴェスティリア、ヴェスティリア、ヴェスティリア……ッ!」 その名を呪詛のようにつぶやき続けるイェキュブ。 エスティラの新たな心の支えとなった彼女の存在は、魔女にとって最も邪魔な存在であったのだろう。 強大な力で魔獣を打倒し、人々の命を救う存在。 弱い人間を相手にすればよいだけだったイェキュブにとって、これほど厄介な相手はいないはずだ。「ああ……ああそうかい。奴がアンタの心の支えってことかい」 押しつぶさんばかりの力を足にかけるイェキュブ。 苦悶の表情を浮かべるエスティラのこめかみに向け、右手に持った杖の末端を突きつける。「ならば、もういいよ。アンタの中身は虫の餌さね」 そうつぶやくと、杖を持つ右手の各所から人間を内から食い尽くす虫が湧き出す。 無数に現れたそれは骨の杖を伝い降り、苦悶の表情を浮かべるエスティラの頭上を目指す。「アンタのママ代わりと同じように、痛みと恐怖で泣き叫ぶがいいさぁ!」 アメリアが受けた残虐な行いが、自分自身に迫ろうとしている。 それでも、エスティラの顔には恐怖も落胆もなかった。 苦しみながらも決意の表情を崩さず、拘束を抜けようとあがき始める。 巨大なサイクロプスの手から逃れることなど、普通の人間には叶わないことだ。 それでもエスティラは諦めない。 死ぬわけにはいかないと、彼女も分かっているのだ。 自分の死によってもたらされる、大いなる災いを許したくはないから。 しかし異形は、人知の及ばぬ力でそれらを蹂躙し、世界を我が物顔で闊歩する。 悪意ある力を振りかざす者達によって、ささやかな平和が失われていく。 きっとまた、どこかで命が無残に奪われていく。 ――だが、ヒーローとは蔓延る邪悪を挫き、払う存在。 そして目の当たりにした人々の支えになれる、心強い存在。 だからこそ、彼らは英雄の名を与えられるに相応しい。 それが、佐伯 良太が画面の向こうで見た、英雄の姿だ。 突如、
last updateLast Updated : 2026-01-13
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6-3【紅蓮のメイドが舞うとき(前編)】

 右手で持つフラムディウスを中段に構え、燃え盛る刃に左手を添える。 その姿勢のままアデーレは静かに息を整え、目の前に立つ魔獣たちを睨む。「……行くよ、アンロックン」 その言葉に応えるように、刃の炎がアデーレの左手へと燃え移り、そのまま左腕全体を炎で包む。 だがアデーレの身体には熱さもなければ、火傷をすることもない。 これは邪悪を焼き尽くす神竜の聖火。 守るべき存在に対しては、強力な守護の力となるものだ。 故に使用者であるアデーレの体は焼かれず、純粋な力となって彼女を支える。 右手に持ったフラムディウスを肩に担ぎ、燃え盛る左腕を魔獣たちの前へ。 左脚を前方に出し、後ろに引く右脚にありったけの力を込める。 火花を散らす右脚。だが踏みしめる芝生は無事だ。「ああ。行こう!」 景気の良いアンロックンの声が、アデーレの心を勇気づける。 アデーレは確信しているのだ。今この瞬間に、二つの心を通わせていると。 エスティラの声援。アンロックン……ヴェスタとの共感。 もはやアデーレに、前進するのをためらう気持ちなど一片も存在しない。 込めた力の全てを解放するように、両の脚で地面を蹴る。 その瞬間、アデーレの身体は常人の目では追いつけないほどのスピードで、魔獣の群れの前へと急接近した。 それは魔獣の側にとっても同様であり、見事な縮地を決めたアデーレに反応することが出来なかった。 しかしアデーレの突撃は止まらない。 すぐさま左腕を突き出し、目の前にいた牛頭魔獣の首を掴む。 人には燃え移らぬ炎も、敵と定めた魔獣相手ならば容赦なく引火する。 アデーレに掴まれた魔獣の身体は一瞬で燃え上がり、言葉にならぬ絶叫を上げる。 左手に力を込め、アデーレが雄々しく叫ぶ。 右手にフラムディウス、左手に燃える魔獣を構えたアデーレ。 それらを大きく振り回しながら前進し、炎を飛散させながら魔獣の群れへと突っ込む。 多数の魔獣に炎が引火し、襲い来るフラムディウスの刃によって強靭な体は容易く切り裂かれる。 これこそ炎が持つ真の恐怖。触れるものを焼き尽くす業火の力。 文字通り、全力の聖火を操るアデーレには、魔獣の数など問題にはならないのだ。 アデーレが跳躍し、左手に掴んだ魔獣を群れの奥へと投げつける。 魔獣の全身を包む炎に他の魔獣たちは恐怖し、慌てて火の
last updateLast Updated : 2026-01-14
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6-4【紅蓮のメイドが舞うとき(後編)】

 滞空するアデーレの全身を介して、鍵の力によって発生した電気が空気中へと放電される。「この程度で、痺れてなんてッ!!」 震える体に気合を入れるように、顔をしかめたアデーレが叫ぶ。 すると、フラムディウスが再び燃え上がり、アデーレに帯電する大量の電気がフラムディウスの方へと流れ込む。 更に電気と炎を纏うフラムディウスの刃から炎が噴き出し、浮遊するアデーレの身体を前方に向け加速させる。 しかしその加速度は、これまでの戦闘で見せたものを遥かに超えるものだった。 吹き出す炎も先ほどまでの赤色ではない。まるで細かな粒子が吹き上がるような紫色だ。 直進するアデーレの速度はもはや常人からは紫色に輝く一筋の閃光。 屋敷の上空を、光の筋が縦横無尽に駆け巡っているようにしか見えなかった。「チィッ、小娘がちょこまかと!」 人知を超えた速度に、イェキュブが引きつった声を上げてしまう。 アデーレは、雷神の力が持つ強大な電力を、炎と合わせることで超加速に利用することを思いついたのだ。 電気を意識的に制御できるかは試したことがなかったため、成功する保証は一切なかった。 しかし、テレビやネットで見ただけの知識を無理やりこねくり合わせた一世一代の大勝負は、文字通り電光石火の超加速という形で実を結んだ。 だが、その制御は極めて難しい。もはや不可能といっても過言ではない。 ヴェスティリアの力であっても、超加速状態のフラムディウスを振るうことはできない。 更に全身のしびれも続いており、現状これを利用した攻撃方法はただ一つ。 右手で柄を、左手で刃を支えながら前方に剣を突き出し、そのまま魔獣へと突撃する……完全なイノシシ戦法だ。「――――ッ!!!」 声を出すこともできないアデーレは、歯を食いしばりながら必死に進む方向を制御していく。 周囲の光景は見たこともない速度で過ぎていき、超高速のために容易く屋敷の敷地外、果ては島の端まで飛び出してしまう。 しかし、神速の突撃は確実に攻撃に役立っていた。 地面に降り注ぐ昆虫型の魔獣を次から次へと貫いていく。 力と速度の合わさった突きの破壊力はすさまじく、切っ先に触れた魔獣の身体は、それだけで粉砕される。 やがてアデーレの制御が安定してきたか。 紫電が巨大ムカデの周囲を飛び回り、最小限の動きで降り注ぐ小型魔獣の落下を食い止め
last updateLast Updated : 2026-01-15
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6-5【止まらぬ悪意】

 魔獣の群れが倒された後、異様な静寂が中庭を包み込んでいた。 そんな中、ヴェスティリアの展開した結界の中にいるエスティラ。 気を失っているメリナの肩を抱きながら、彼女は破壊された屋敷の壁を静かに見つめていた。 元凶である魔女は今もなお屋根の上に鎮座しているが、今のところエスティラたちに手を出す気配はない。 ヴェスティリアの結界が、それほどまでに強力であることの証だろう。 瓦礫や魔獣の死体が邪魔となり、穴の先を見通すことはできない。 それでもエスティラはヴェスティリアの帰還を、そして人々の無事を信じて待ち続ける。「……おじょう、さま?」「っ! メリナッ!」 かすれるようなメリナの声に対し、跳ねるように反応したエスティラが彼女の方へと顔を寄せる。 目を覚ましたばかりの虚ろな表情を浮かべるメリナ。 それでも自分がエスティラに抱えられていることに気づいたのか、自力で立ち上がろうと芝生に手を付く。 だがそんな彼女の手に対し、エスティラは自身の手を添えることで制止する。「こんな時に無茶するんじゃないわよ! いいから黙って私に頼りなさいッ」「で、ですが……」「いいから!!」 困り果てた様子のメリナに対し、今にも噛みつかんばかりの勢いでまくし立てるエスティラ。 しかしその必死な表情から、今の彼女がわがままを押し通すような子供などではなく、心からメリナを心配していることは明らかだ。「今はヴェスティリアが戦ってくれている。だから私たちはここで待つの」 その名を聞かされ、メリナは納得した様子で静かにうなずく。 彼女の一挙手一投足は弱々しく、結局は身動きも取れない様子でエスティラの体に寄りかかる。 そんなメリナの体を、エスティラは改めて強く抱きしめた。「もう、誰かがいなくなるのは嫌なのよ……」 寄りかかってきたメリナの頭に、エスティラが顔を寄せる。 メリナを抱く彼女の手はわずかに震えており、気丈に振る舞おうと無理をしていることは誰の目にも明らかだ。 力ある者による数々の悪意に晒されるには、エスティラはあまりにも幼い。 どれだけ強気でいようとも、既に彼女の精神は限界を超えているのだ。 そのことを悟ったのだろうか、それ以上メリナは異議を申し立てるようなことはせず、エスティラに自身の体をゆだねる。 一際大きな轟音が、破壊された壁の向こうから
last updateLast Updated : 2026-01-16
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6-6【挫けぬ勇気】

 イェキュブと二体の魔獣による三位一体の連携攻撃が襲い来る。 それでもアデーレはひるむ様子を見せず、至って冷静だった。 背後のドラゴンを一瞥すると、アデーレはフラムディウスを大きく薙いで猛禽の身体を引き離す。 氷の刃を左腕で防ぎつつ、フラムディウスの推進力を利用しながら背後のドラゴンの方を向く。 ドラゴンの大口は、アデーレの身体を飲み込まんとするところまで来ている。 対するアデーレは、フラムディウスの鎬に右のつま先を当て、切っ先に向かって滑らせる。 その動きはまるで、自らの脚をマッチに見立て、点火するようだ。 フラムディウスの炎は脚に移り、今度は右脚の膝から下で燃え盛る。「行けるッ!!」 炎を巡らせた右脚を、自分の頭よりも高く上げるアデーレ。 既にドラゴンの口にアデーレの左脚が入っており、このまま顎を閉じられれば左脚を食いちぎられるだろう。 だが、当然そんなことにはならない。 大きく上げた右脚を、全力で振り下ろす。 強烈なかかと落としがドラゴンの鼻先を突き、上あごの骨を完全に粉砕する。 顎を閉じる力を失ったドラゴンは、そのまま真下へ落下する。 その勢いのままに、アデーレは左腕を大きく振るい姿勢を正し、氷の刃を受け流しつつイェキュブの方へと一気に間合いを詰める。「やってくれるじゃぁないか!」「そりゃどうもっ!!」 その刹那、フラムディウスと骨の杖が火花を散らしながらぶつかり合う。 急接近したアデーレに対しイェキュブは氷の召喚を止めるも、背中から生える腕が持つ呪物は今もなお光を放つ。 呪物の動きに対しアデーレは警戒しつつも、右手に持ったフラムディウスと燃え盛る左腕を使い攻撃の連鎖を繰り返す。 アデーレが左腕を振るえば、イェキュブの背中から延びる腕が氷の壁を生み出し相殺。 イェキュブが氷の穂先を杖に生み出せば、突き出されたそれをアデーレがフラムディウスにより砕く。 双方防御の度に後退しつつ、攻撃の際には一気に踏み出す。 文字通り一進一退の攻防が、目で追えぬほどの目まぐるしい勢いで繰り広げられていた。 二人の動きが、屋敷の屋根に葺かれた赤いテラコッタの瓦を砕き、吹き飛ばす。 多数の破片が二人の間を飛び交い、それを切り払いながらフラムディウスの刃がイェキュブに迫る。「ふんっ、鬱陶しいッ」
last updateLast Updated : 2026-01-17
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6-7【凍てつくほどに恐ろしく】

 アデーレの手を離れた猛禽の魔獣が地面を跳ね、塀に体を叩きつけながら芝生の上に倒れる。 二対ある異形の翼は片側が異常な角度で曲がっており、折れた骨が皮膚や羽毛を破って外へと剥き出しになっていた。 傷口からは大量の赤い血液が溢れており、もはや猛禽が飛行する能力を失っていることは明白だ。 猛禽から距離を取ったところで、上空にいたアデーレが遅れて着地する。 左腕に燃え盛る炎が揺らめき、再び竜の腕の形へと変化していく。「三対一はさすがに面倒だ。こいつはここで片付けよう」「うん」 アンロックンの言葉に対しうなずきながら、剣を構え中腰の姿勢を取るアデーレ。 そのままの姿勢で芝生を蹴り、右手で剣を振り上げながら猛禽との間合いを一気に詰めていく。 傷ついた猛禽は迫り来るアデーレに反応しつつ、立ち上がりながらくちばしの先端を彼女に向ける。 飛行能力を失った猛禽の魔獣ならば、地上で戦うことに長けたアデーレの方が圧倒的に有利である。 しかし猛禽は迫るアデーレに怯む様子を見せず、まるで無機物のような黄色い目で彼女を見据えるのみ。 果たして、猛禽はくちばしだけでアデーレの剣と渡り合おうというのか。 互いの間合いが目前へ迫ろうとした、そのとき……。「まずいっ、避けるんだ!」 アンロックンが叫んだその刹那、猛禽の顔面に異様な裂け目が現れる。 そして裂け目に沿って猛禽の顔は裂け、まるで花びらのような形状に開かれた。 開かれた顔面の中央には食道だろうか、奥の見えない赤黒い穴が覗く。 その穴の底から、一瞬の閃光が放たれる。「くそっ!!」 光を見た直後、アデーレは脚を芝生に押し付け急停止し、その場からすぐに飛び退く。 次の瞬間、開かれた猛禽の顔面から光線が放たれ、先程までアデーレのいた位置を正確に貫いた。「何なのあれ!?」「多分圧縮した魔力だっ。あれを受けたらさすがにひとたまりもないよ!」「じゃあ魔力のレーザーか何かってことか……」 文字通り奥の手を繰り出してきた猛禽に対し、アデーレが舌打ちをする。 その間にも魔力の光線はその勢いを衰えさせることなく、猛禽の首の動きに合わせてアデーレに迫る。 一直線に伸びる光線は奥に建つ屋敷の壁を焼くものの、貫通し反対側に被害をもたらすほどの威力はないようだ。 だが縦横無尽に振り回される光線が周囲に被害をもたらす
last updateLast Updated : 2026-01-18
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6-8【浅はかで、陳腐で】

 魔獣の群れから遠ざけるよう、植木が集まる庭園周辺へと集められた避難者たち。 追い迫る魔獣を指揮官を始めとした兵士たちが銃や銃剣で足止めし、自分達の後ろにいる避難民を守り続けている。 塀を超えた向こうではサイクロプスを始めとした巨大な魔獣が、屋敷の敷地へ踏み込もうとゆっくりと歩み寄ってくる。 ――その刹那、海上の方から巨大な爆発音が轟く。 直後、近づいて来ていたサイクロプスのうち一体の体で爆炎が巻き起こり、衝撃により巨大な右腕が肩から引きちぎられる。 腕を失ったサイクロプスはバランスを崩すようにしてその場に倒れ、その巨体は塀の向こうへ隠れてしまった。「よぉし、さすが我が国最新鋭の船だッ!」 ここからは見えない自らの船の性能に喜びを隠せない様子の指揮官。 彼は事前に指示を出し、人間では対処が困難な巨大な魔獣に向け艦砲射撃を指示していたようだ。 避難民を元いた場所から移動したのも、射線上に彼らが巻き込まれないようにするための配慮だろう。 魔獣を相手取っていた他の兵士たちも、雄叫びで喜びを表しながらその勢いをさらに増していく。 その時、一人の兵士が避難民達の傍に立つ指揮官の方へと駆け寄ってくる。「隊長、裏門からの避難ですが、現在向こうはヴェスティリア殿が巨大な魔獣と戦っており……」「なるほど、近づくのは不可能か。行方不明のエスティラ様とお付きの者達は?」「ヴェスティリア殿の動きから中庭にいることは間違いなさそうですが、屋敷が倒壊する危険もあって近づくことが難しいですね」 巨大な魔獣が暴れまわったことにより、バルダート家の別荘はその建物自体が限界を迎えようとしている。 いつ崩れてもおかしくない現状を考えると、比較的屋敷の近くにあるこの庭園に身を潜めるのも危険が伴う。 何より、裏庭で魔獣とヴェスティリアが戦っている状況では、回り込んで中庭へ向かうのも命懸けだ。 兵士たちにエスティラとメリナを救出するのは、相応の危険が伴う状況であると言わざるを得ない。 そのような状況で顎に手を当て思案を巡らせる様子の指揮官。 その時、彼らの脇を縫って二人の人物が屋敷の方へ駆け出そうとする。 指揮官と兵士はすぐさま二人の前に立ちふさがり、この場を離れようとする彼らを腕で制止する。「お願いします、娘を探しに行かせてください!!」 指揮官の腕の中で叫ぶ、
last updateLast Updated : 2026-01-19
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6-9【その心、その志、その雄姿】

   テレビの中で語られる正義など、所詮は陳腐で子供だましの代物だ。  相応の情緒が育ってきた一般人ならば、そういった考えを特撮番組に抱くことはごく普通のことだろう。  高校生となった良太もまた、初めて触れたヒーローの物語へそんな冷ややかな眼差しを向けることもあった。  何より彼の生い立ちに同情し、手を差し伸べてくれる者はほとんどいなかった。  身寄りのない自分を引き取ってくれた祖父母の存在も、その頃の彼では容易く受け入れることのできないものだった。  悪意に踏みにじられようとする人々を、特別な力を与えられたヒーローが容易く救ってみせる。  そんなものは存在しないと幼少の頃から刷り込まれていた良太にとって、本来ヒーローという存在は相容れないものであるはずだった。  ……だが、彼らは苦悩していた。良太が想像していたよりもはるかに、正義としての在り方に悩み、向き合おうとしていた。  その結果がご都合主義で、安っぽく見えても、物語の中でヒーローは苦悩していたのだ。  良太が心を打たれたのは、そんな彼らの苦難と挫折、そして立ち上がる姿だった。  そして、立ち向かう彼らの姿を前に、良太は一つの気付きを得たのだ。  彼らが見せてくれた姿は、ただ素直に受け入れるべきものではない。  それは、彼らが示してくれた生き方の【見本】なのだ、と。           ◇  良太の中で刻まれたヒーローたちの姿は、アデーレの中にも確かに宿っている。
last updateLast Updated : 2026-01-20
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6-10【紅蓮のメイドは夢を抱く】

   多くの人によって育まれたアデーレの正義。  それは確かな力へと昇華され、悪意ある魔女を打倒さんと燃え上がる。 「世間知らずのクソガキめぇ!」 「そうやって見下すばかりが、お前の限界なんだッ!!」  イェキュブの魔法が、ドラゴンの黒炎が、間合いを詰めようと空を駆けるアデーレに迫る。  それに立ち向かうアデーレの周囲は、彼女が放つ熱でより一層温度が高まっていく。  砕かれた氷の粒は一瞬で雨へと変わり、最後には空中で蒸発する。  拳の風圧と合わせて巻き起こる強烈な気流は、ドラゴンの放つ黒炎を一切寄せ付けない。  滞空していたドラゴンが大きく翼を広げ、両腕を振り上げながらアデーレへと迫る。  彼女に向け巨大な爪が振り下ろされるも、アデーレはそこに真正面から拳を叩き込み、逆に巨大なドラゴンを押し返した。  アデーレが身を振るうたびに、周囲に輝く火の粉が舞い散る。 「お前が馬鹿にした正義があるから、今の私はここにいる……」  この場に存在する何者よりも猛りながら、アデーレは静かに言葉を続ける。 「私から言わせれば」  彼女の声に力がこもり、それに合わせるかのように周囲の熱がより一層その温度を上げていく。  揺らめく空気は周囲の空気を屈折させ、足場にした氷塊が一瞬で水へと溶ける。  ついにはドラゴンよりも高い位置まで飛び上がり、眼下のイ
last updateLast Updated : 2026-01-21
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7-1【その手が届く人達へ(前編)】

 半壊した屋敷。荒らされた芝生。 中庭に敷かれた石畳の道はその大半が砕け、東屋は屋根が半分崩れてしまった。 生垣や花々は折られ、散らされている。 しかし、どこにも焼けた跡がないのは、ヴェスティリアに宿る聖火の万能さを物語っている。 燃え散った魔獣たちの亡骸も、召喚者であるイェキュブが敗北したためか、すでにその場から消失していた。 修繕にどれほどの時間を要するだろうと、周囲を見渡しながら感慨深げに思うアデーレ。 彼女が中庭の中を進んでいると、やがて結界に守られたエスティラとメリナの姿が目に入る。 アデーレが戦っている最中にメリナは意識を取り戻したらしく、今はエスティラの肩を借りて立ち上がっているようだ。「あっ」 不安げな表情でメリナを支えるエスティラが、自分達に歩み寄ってくるヴェスティリアの姿を確認し、明るい表情を見せる。 二人の体には、結界を展開する以前の負傷以外に外傷は見当たらない。 結界は最後まで無事に役目を果たし、二人の安全を守り切ったようだ。 気づかれぬよう安堵のため息をついたアデーレは、その結界を解くために……。(あれって、どうやって解くの?)(ああ、うん。待ってて) 脳内での会話の後、アンロックンの力によって結界が解除される。 ちなみに、結界を張る際に剣を頭上で回したのは雰囲気でやっていただけであり、必要な動作ではない。 このような超常の力は、アンロックンに頼らなければ行使することができない。 ヴェスティリアという存在が神との協力によって成り立っていることを、アデーレは改めて痛感する。 そんなことを思いながら、アデーレはヴェスティリアの姿のまま、担いだ剣を下ろして二人の前に立つ。「傷だらけ……大丈夫なの?」「ええ、もう全ては片付いたから」「そう……」 不安げに尋ねてくるエスティラに対し、アデーレはうなずいて答える。 それを見たエスティラとメリナは、安堵ではなく複雑な表情を浮かべていた。 仕方のないことだ。 アデーレが倒したのは、二人にとって無二の存在であるアメリアを殺害した魔女。 屋敷を破壊するほどの激闘の末、志半ばで命を奪われた彼女の無念を晴らすことは出来ただろう。 だが生き残った者達には喪失感が残り、各々がそれと向き合っていかなければならない。 この悲劇に折り合いをつけるには、長い時間が必要
last updateLast Updated : 2026-01-22
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