All Chapters of お嬢様、あなたの『推し巫女(ヒーロー)』、私なんですが: Chapter 21 - Chapter 30

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4-2【浮世離れ】

「姿勢は正しく。ふらふらしない。それでバルダート家のメイドが務まると思ってるの?」 エスティラの自室でのティータイム。 疲労困憊のアデーレに対し、エスティラの厳しい言葉が突き刺さる。 ティーポットを持つアデーレの手は、緊張のせいか小さく震えていた。 室内にはアデーレとエスティラの他、ドアの横で待機するロベルトの姿があった。 午前中共に行動していたアメリアは、食料品買い付けのために貯蔵庫のチェックをしているところだ。「とはいえ、淹れるお茶はそこそこなのよね。相変わらず」 目の前のカップに注がれる紅茶を眺めながら、エスティラがつぶやく。 それはエスティラなりの誉め言葉なのだろうか。「今後うちに仕えるんだったら、更に腕を磨いてもらわないとお話にならないけどっ」 ティーカップ片手に語るエスティラに対し、使用人を続けるつもりはないと胸中で愚痴をこぼすアデーレ。「まぁいいわ。それよりあなた」 彼女は何を思ったのか。 エスティラはアデーレに対し、テーブルを挟んだ向かいのソファを指差し、座るよう言葉なく命じてきた。「え? はぁ……失礼します」 逆らっても良いことはないため、命じられるがままに腰を下ろす。 柔らかく、深く沈み込む座面の感覚。
last updateLast Updated : 2025-12-24
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4-3【思わぬ再会】

 アデーレは焦っていた。 この場に使用人として控えている以上、今はエスティラの傍を離れることができない。 使用人が勝手な理由で主人の世話を放棄するなど言語道断である。 しかし、たった今どこかで魔獣が召喚され、今この瞬間にも島へ被害をもたらそうとしているのだ。 ポケットの中でも、先程からアンロックンがカタカタと急かすように揺れる。「え、なにっ! 外!?」 エスティラが立ち上がった拍子に、テーブルの上からティーカップが落ちる。 こぼれた紅茶がカーペットの染みを作るが、それを気にすることなくエスティラは窓の方へ歩み寄る。 彼女の背後からアデーレも外の様子を伺う。 この部屋の窓からは、港町の様子がよく見える。 どうやら港町の中心部で大きな土煙が立ち上っているようだ。「まさか、この間の化け物がまた現れたっていうの?」「おそらくは……」「私の島で、また……ッ」 窓に映るエスティラの顔に怒りが滲む。 だがアデーレの目には、彼女の表情の裏にまた別の雰囲気があるように感じられた。 とはいえ「私の島」というのは、少々語弊があるようにも感じられてしまう。 だが今はそんな些細な事を気にしている場合ではない。 亜デーは早く現場へ向かおうと、窓辺に立つエスティラに対し背を向ける。
last updateLast Updated : 2025-12-25
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4-4【ヴェスティリアの協力者】

 何食わぬ顔でアデーレと向き合う、身なりの良い少年。 落ち着き払ったその様子を前に、アデーレの顔には困惑の色が浮かんでいた。 当然ながら、この屋敷への関係者以外の立ち入りは厳禁だ。 さらにアデーレには、屋敷の関係者に子供を連れている者がいたという覚えがなかった。 そうなると、目の前にいる少年はどこかから無断で敷地に侵入し、ここまで来てしまったということになる。 侵入が発覚してしまえば、子供と言えども穏便に済まされるものではない。 特に彼自身ではなく、両親に厳しい罰が課せられるのは火を見るよりも明らかだ。「だ、ダメだよ君。何でこんなところに……」 少年の傍に慌てて駆け寄り、しゃがみ込んで目線を合わせるアデーレ。 このままアメリアなり先輩の使用人なりに報告するのはたやすい。 しかし悪意はないであろう少年が、厳しく叱られるのはさすがに忍びない。 だが当の少年は慌てるどころか、アデーレと出会ったことで満面の笑みを浮かべている。「あっ、空飛ぶお姉ちゃんっ」「空飛ぶ……それ人前で言わない約束でしょ?」 はっとした表情を見せた少年が、自分の口を両手で塞ぐ。 約束を覚えていたことに安堵しつつ、アデーレは小さく嘆息を漏らす。「それで、どうしてお屋敷の中に入ったの?」 ここで甘い顔をするわけにも行かないと、アデーレは表情をこわばらせ少年の顔をじっと見つめる。 しかし……。「あのね、今日はもう帰りなさいって、衛兵のおじさんに言われたから」 と、さも当然のように少年は言うのだった。 その顔や口調から、嘘をついているようには見えない。 つまり少年はバルダート家の別荘を自分の家と認識しているわけだ。 アデーレは開いた口が塞がらないという様子で困惑していた。 屋敷で少年と出会ったことはないし、バルダート家の関係者だとも思えないのだから。「ミハエルっ」 聞き慣れた声が背後から聞こえてくる。 声のした方に顔を向けると、仕立てのいい召し物に身を包んだ壮年の男性……ロベルトが駆け寄ってきたところだった。「ろ、ロベルトさん?」「あっ、パパ!」「パパ……パパッ!?」 思わぬ言葉にアデーレは声を上げ、そして慌てて口に手を寄せる。 少年……ミハエルが立ち上がり、ロベルトの方へと駆け寄っていく。 その光景を、アデーレはただ呆然と見つめていた。「
last updateLast Updated : 2025-12-26
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4-5【同情か、怒りか(前編)】

 シシリューア共和国は、かつて大陸を発祥とする大帝国から独立した、十数の小国の一つである。 建国時は国王の統治による君主制国家だったが、産業によって力を付けた貴族や商人の台頭で王家は求心力を失った。 変わって国政に躍り出た有力貴族たちの尽力により、現在の貴族議会による共和制国家となった。  これはアデーレもよく知る国の成り立ちであり、常識的なものだ。 「バルダート家は主に鉱山業で財を成し、現在の地位を確立していきました」  淡々と語るロベルトの言葉に、静かに耳を傾けるアデーレ。 「蒸気機関の誕生で、特産でもある溶鉄鉱の需要は増大し、最初はその特需に沸きましたが……」 「うまくはいかなかったんですか?」 「ええ。大陸各所で採掘が活発になると、シシリューア産の溶鉄鉱は輸出から国内消費が主になりました」  前に溶鉄鉱が竜の身体であると教わったことを思い出す。  世界中に竜の体が眠っているのかと、心の中で驚く。 「このままでは共和国自体が国際的な競争力を失うと考えた旦那様は、唯一無二の最新技術を開発することに注力する方針へと転換しました」 「技術……それはうまく行ったんですか?」  アデーレの問いに、ロベルトは力強くうなずく。 「熱を失った溶鉄鉱の再利用。廃棄以外の選択肢がなかったそれを特殊な技法により製錬し、素材として再利用する術を確立しました」  そこまで話したロベルトが、おもむろにポケットから何かを取り出す。
last updateLast Updated : 2025-12-27
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4-6【同情か、怒りか(後編)】

 もはや言葉もなかった。 あらゆる感情が、アデーレの頭を駆け巡る。 政争への嫌悪感や、故郷に魔獣が現れるきっかけを作ったエスティラへの複雑な思い。    エスティラに対し怒りを向ければいいのか。それとも同情すればいいのか。  アデーレには、答えを見出すことはできなかった。  ただ一つ。ロントゥーサ島に潜む暗黒大陸の魔女という存在だけは、どうにかしなければならない。  これだけは怒り心頭の中でも確信が持てる真実だ。 「だから、魔獣と戦う私が、旦那様と繋がっていると思ったんですね」 「はい。ですがご自身の意志で戦っているとは」 「故郷を守るのは、当然のことですから」  やや強めの口調で言い放つアデーレ。  それを聞いたロベルトも、アデーレの胸中を巡る怒りに気付いたのだろう。 「誠に、申し訳ございません」  ただ静かに、謝罪の言葉を続けるロベルト。  しかし、執事であるロベルトに謝罪を要求することに意味などない。  怒りを隠しきれていないことに気付き、アデーレは慌てる。 「あっ、えっと……すみません。私の方こそロベルトさんに」 「いえ。ロントゥーサ島に危険をもたらしたのは事実ですから」  俯くロベルトを、アデーレはただ申し訳なさそうに見つめることしかできなかった。  しかしそこで気付く。
last updateLast Updated : 2025-12-28
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4-7【故郷を思うのは誰なのか】

 皆が寝静まった頃、アデーレは一人で月を眺めていた。 屋敷の一番高い屋根の上に腰を下ろし、欠けた月をぼんやりと見上げる。 夏の夜風は心地よく、複雑な胸中を優しく慰めてくれているかのようだ。「人間というのは、悩み多き存在だよね」 傍らに置かれたアンロックンが、静かに語り掛けてくる。 今のアデーレが抱える苦悩も、お得意の神様の力でお見通しなのだろうか。 そんな何でも知っているという態度に対し、アデーレはわずかな腹立たしさを覚えていた。「ロベルトさんの話していたこと、知ってたの?」 横目で睨むようにアンロックンを見下ろし、不機嫌そうにアデーレが言い放つ。「魔女のことかい? 召喚者が島にいるとは思っていたけれど、国の事情が絡んでいるとは知らなかったよ」「神様のくせに?」「神様が何でもお見通しっていうのは、人間の勝手な想像だよ」 ケタケタと笑うように、金属音を響かせるアンロックン。 そんな気の抜ける様子に呆れ、アデーレが短いため息を漏らす。「僕らはね、依り代からしかこの世界を知ることができない。自分を祭る教会や礼拝堂、聖遺物。そしてこの錠前のようにね」「空の上から何でもお見通し……じゃないと?」 そういうことと、アンロックンが笑う。「だから、こっちが助けてほしい時に助けてくれない訳だ」
last updateLast Updated : 2025-12-29
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4-8【束の間の平穏】

 次の日の朝。 使用人室を訪れたアメリアの前に、アデーレとロベルトが並んで立つ。 アデーレはやや緊張した面持ちでアメリアの顔色をうかがうが、彼女の方は普段と変わらぬ鋭い表情を浮かべている。  対するロベルトは、アメリアとの付き合いも長いためか至って冷静な様子を見せていた。 「アデーレさんをあなたの補佐に、ですか」 「はい。現在は執事の補佐が不在で、人手が足りぬことも多いもので」  それは、ロベルト直々の頼みだった。  使用人というのは、受け持つ仕事によって上司が変化する。  屋敷の掃除や調度品の手入れを行う使用人なら、この屋敷であればラヴィニアが彼女たちの上司に当たる。  これと同じように、厨房の仕事を受け持つ使用人はコックに従い、子供の育児を担当する者は乳母に従う。  使用人の上下関係とは、基本的にこのような形態を取っているのが一般的だ。  現在のアデーレは、エスティラの命令により彼女の身の回りを世話する役割を与えられている。  そんな彼女の上司とは、侍女を兼任する家政婦のアメリアなのだ。  さて、ロベルトからアデーレの引き抜きを提案されたアメリアといえば、顎に軽く手を当てながらアデーレの方へと視線を流す。  彼女の鋭い眼差しを受け、アデーレの背筋がわずかにこわばる。 「そのご意見は最もですが……。しかし珍しいですね、あなたが急にこのような申し出をしてくるとは」 「申し訳ありません。急な相談になってしまい」
last updateLast Updated : 2025-12-30
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4-9【アデーレとエスティラ】

 屋敷の前庭には、広い芝生の他に観賞用の植物で彩られた庭園が存在する。  花壇や生垣、蔦を絡めた二メートル以上の高さがあるアーチ。  それらを眺めながら散歩することができる石畳の通路を、どこか憂鬱そうに歩くエスティラ。  そんな彼女の後姿を眺めつつ、付かず離れずの距離を保ちながらアデーレが付き添う。  アデーレはこの辺りに来たことがないため、この貴族のために用意された庭園を素直に美しいと感じていた。 「はぁ……」  対するエスティラの横顔は、案の定どこか浮かないものだった。  傍から見れば、とても気分転換ができているとは思えないだろう。  アデーレの認識として、エスティラからは嫌われているという印象が極めて強い。  指導と称した厳しい態度も、彼女のアデーレに対する憎たらしさから来ているものと見るのが普通だ。  その割には、不必要な時でもエスティラはアデーレを自分の向かう場所に連れ回したがる。  先のとおり自分をこき使いたいという理由はあるのだろうが、好かない相手を気分転換にまで連れて行くのは多少の違和感を覚える。  こんな表情を見せるくらいなら、嫌っている相手を連れてくる必要はないのではないか。  そんなことを思いながら、エスティラの後姿を見つめていた。 「ねぇ、アンタって今何歳よ?」  突然立ち止まり、振り返ったエスティラがアデーレを見上げながら尋ねてくる。  アデーレも距離を保っ
last updateLast Updated : 2025-12-31
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4-10【影】

 日も暮れ始め、エスティラが屋敷に戻った頃。 ひとしきり弄ばれ、疲れ果てた表情のアデーレがエスティラの部屋まで付き添う。 部屋の前ではロベルトが二人を出迎えている。「私はしばらく部屋で休むわ。夕食の準備が出来たら呼んで頂戴」「かしこまりました」 ロベルトに一通りの指示を出すと、エスティラは一人自室へと戻っていく。 扉が閉められたところで、アデーレは心労を紛らわすように小さくため息をついた。「お疲れ様です」 うなだれるアデーレに、ロベルトが労いの言葉をかける。「いえ、私も少しだけ胸のつかえが下りたので」 悩みを振り切った。そう言いたげな笑顔をアデーレは浮かべていた。 二人きりでのひと時は、エスティラとどう接すればいいか悩むアデーレにとって、それを解くきっかけとなった。 故郷に魔獣の危機を持ち込んだことに納得したわけではない。 だが、少なくともエスティラを守るという決意を固めることは出来た。 彼女が無事であることを、今のアデーレは強く望んでいるのだ。「そうですか……」 事情を知るロベルトは、長い間エスティラを不憫に思っていたのだろう。 そのためか、晴れやかな様子のアデーレを前に、わずかながら安堵の表情を浮かべていた。「それでは、私は書類仕事がありますので。アデーレさんは給仕の準備を進めておいてください」「分かりました。準備が出来たらロベルトさんに知らせればいいんですね」 「お願いいたします」と言い、ロベルトがうなずく。 合わせてアデーレは一礼すると、早歩きで食堂の方へと向かう。 夕食までは、残り一時間半といったところだろうか。 テーブルや席の準備や、食器類の用意。やることはたくさんある。 他の使用人が準備を始めているかもしれないが、それでも主人の食事というのはあらゆる面で時間がかかるものだ。「んっ?」 二階と三階の間の踊場に降りたアデーレ。 立ち止まった彼女の視線の先には、小柄な使用人が一人で立っていた。 ブラウンの髪を肩の上あたりで切りそろえた、エスティラよりも幼い容姿の少女だ。 十代に達したばかりの少女でも、このような屋敷で使用人を務めるのはよくあることである。 制服からして雑用の担当だろう。 しかし彼女の様子はどこかおかしく、焦点の合わないうつろな瞳で、踊り場の窓から中庭を眺めている。 窓の外が気に
last updateLast Updated : 2026-01-01
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4-11【あざ笑う者】

 しゃがれた魔女の声から漂わせる、ヴェスティリアに対する明らかな怒り。 当事者であるアデーレはその威圧的な空気に息を呑み、おぞましい触手が絡む腕に背筋を凍らせる。 魔獣を町に送り込むのではなく、魔女が直接人の前に姿を現したのはこれが初めてだ。 果たしてこの魔女がなぜ屋敷に現れ、何を考えて姿を現したのか。 その意図をアデーレが読み解くことはできなかった。  しかしこの場に現れたということは、何らかの形でターゲットであるエスティラに対し危害を加えようとしている。 王党派と結んだ契約を考えれば、それは間違いないのだ。「こちらは準備ができているというのに、本当忌々しい……忌々しい」 準備ができているという言葉に、アデーレの表情はより険しくなる。 こちらは魔女の意図が分からないのに、計画自体は既に危険なところまで進行しているというのだろうか。「巫女だけじゃなく、アンタみたいなのも邪魔をする……忌々しい。忌々しいよ」 アデーレに触れる手が、怒りを露にするかのように震えている。 使用人に対しての接触も、魔女の計画の一部なのだろうか。「ふぅん……怯えて口も利けないかぇ?」 闇の向こうにいるそれが、アデーレをあざ笑うかのようにつぶやく。「そんな表情しても分かるよ。ヒヒヒ」 魔女は、
last updateLast Updated : 2026-01-02
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