All Chapters of 大好きな幼馴染が手の届かない大人気アイドルになってしまった…: Chapter 101 - Chapter 110

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101話

全ての授業が終わった私は、スマホを確認しながら歩いていた。 「……連絡無いな。本当に拗ねちゃったのかな」 正門に向かいつつ、奏斗にもう1度連絡をしてみようと思い、スマホを操作しながら歩いていると、ふと影がかかった。 「──香月ちゃん、スマホ見ながら歩いてると危ないよ?」 「わ……っ、遠藤くん!?」 「驚かせてごめんね。だけど、人にぶつかったら危ないかな、と思って」 「ううん、むしろありがとう遠藤くん」 「香月ちゃんはもう今日の授業は全部終わり?」 「うん、そうだよ。だからこれから帰るつもり」 「そうなんだ……。俺はまだ午後も講義があってさ……」 遠藤くんと話しながら歩いていると、構内を出て正門近くまでやって来た。 もしかしたら、奏斗が予定通り迎えに来ているかもしれない──。 遠藤くんと一緒に居る所を見たら、奏斗が嫌な気持ちになるかもしれない。 そう考えた私は、途中で足を止めた。 「えっと……遠藤くん、何か用事があった?」 「あー……っと、ごめん。香月ちゃんと話すの楽しくて……ついついこんな所まで」 遠藤くんは気まずそうに頬をかくと、ちらりと私に視線を向ける。 そして、意を決したように私に向かって口を開いた。 「香月ちゃん、この後帰宅するだけだろう?もし良かったら、一緒に昼ごはんでも食べに行かない?」 まさか、お昼を誘われるとは思わなかった。 それを言いたくてずっと一緒に歩いて来たのだろう。 お昼のお誘いは嬉しいけど、私にはもう奏斗って言う付き合っている人が居る。 このお誘いが、遠藤くんだけじゃなくて美緒や、他の友人達も一緒であれば。 それに、この後奏斗と予定が無ければ。
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102話

遠藤くんに手を掴まれ、私はびっくりしてしまう。 だけど、私の手を掴んだ遠藤くんの方がとても驚いているように見えて。 「ごっ、ごめん急に……っ!」 遠藤くんは慌てて私から手を離すと、何もしないよと言うのを表すように両手を胸の前に上げた。 私はびっくりしたまま、遠藤くんに首を振って答える。 「う、ううん……大丈夫」 「その……、多分香月ちゃんも気付いていると思うんだけど……」 ちらり、と遠藤くんの視線が私に向けられる。 その瞳には僅かに熱が籠っているのが分かって。 ここはまだ大学内。 それに、お昼の時間だからか、周囲には学生達が沢山いる。 大学の正門近くで立ち止まり、気まずい雰囲気を醸し出している私たちは変に目立ってしまっているようで。 同じ大学に通う人達からちらちらと注目を浴びているような気がして、私はいたたまれなくなってきてしまった。 それに、遠藤くんは覚悟を決めたような顔つきをしていて。 あ、これは告白されてしまう──。 私がそう思ったのと、遠藤くんが口を開いたのは多分同時だった。 だけど、その時──。 「香月、迎えに来た、けど……お友達?」 ふわり、と私を包み込むような慣れ親しんだ香り。 それに、低い声が私の背後からした。 「かっ」 奏斗。私がそう呼ぼうとしたけど、こんな人が多い場所で奏斗の名前を呼ぶ事なんて出来ない。 そして、やっぱり奏斗は迎えに来てしまった。 奏斗は、私を背後から緩く抱きしめるような格好で。 まるで私を渡さない、と言うように奏斗の腕がきゅうっと私を引き寄せた。 「──なっ、なんっ」 突然現れた奏斗に、目の前の遠藤くんは驚いているようで。 私と、背後にいる奏斗を見開いた目で交互に見ている。 そして、奏斗の姿に見覚えがあったのだろう。 遠藤くんははっとした。 「おっ、お前……!この間居酒屋にも居た……っ!」 「ふーん。覚えてたんだ……」 奏斗は恐ろしく低い声でぼそり、と呟く。 そして奏斗が現れた事で、周囲の視線を益々集めてしまっていて。 それもそのはず。 奏斗の出で立ちは、どこからどう見てもパッと見不審者だ。 全身黒い服で身を覆い、帽子を目深に被ってマスクまでしている。 遠藤くんはまだ以前奏斗と私が話している所を見て、私が奏斗を知り合いだと言っているからいいけど。 何
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103話

「お、俺は別に……っ香月ちゃんに付き纏ってなんて──!」 遠藤くんが堪らずに言い返すけど、奏斗は鼻で笑い、言葉を返す。 「さっき見てたけど、お前は帰ろうとしてる香月の後をずっと追ってたじゃないか。それに、香月が大学を出ようとしているのに腕を掴んで引き止めていた。これを付き纏っていると言わないで、何を付き纏ってるって言うんだよ?」 「──そっ、それ、は」 遠藤くんは自分自身の行動を、冷静に告げられて言葉に詰まる。 「だけどっ、俺は香月ちゃんに話したい事があって──」 「あれ?香月と遠藤くんじゃーん!こんな所でどうしたの?」 遠藤くんが言い返そうとした時。 突然背後から美緒の声が聞こえて、私は声の聞こえる方向へ振り向いた。 美緒もお昼に行くつもりだったのだろう。 正門に向かって歩いて来ているのが見える。 奏斗が、帽子を深く被り直したのが見えた。 私が、美緒はnuageのファンで、Kanato推しだって事を以前奏斗に話した事を覚えているのだろう。 さっと顔が見えないようにした奏斗に、美緒は「あれ?」と声を出す。 「そこに居る人って、この間香月を大学まで送りに来た彼氏さんじゃない?迎えに来てくれるなんて、彼氏さん香月事大好きだね!」 きゃっきゃ、と興奮しながら美緒は私にがばりと抱きついた。 「ちょっ、ちょっと美緒……!」 「香月、彼氏さんと一緒に帰るの?今日は午前中だけだったんだ?」 「そ、そうなの……!迎えに来てもらったから、私帰るね!」 私は慌てて美緒を離し、奏斗の手を取る。 突然の美緒の登場で、遠藤くんが呆気に取られている今がチャンスだ。 奏斗の声を聞いたら、もしかしたら美緒が奏斗の正体に気付いてしまう可能性がある。 それに、美緒が近くに行き過ぎても、奏斗の正体に気付いてしまう可能性があるし、そんな危険性は排除しないと……! 奏斗も私と同じ考えだったのだろう。 奏斗は美緒に向かって軽く頭を下げた。 急いで立ち去ろうとしている私たちに向かって、美緒は再び口を開いた。 「香月の彼氏さん!もうすぐうちの大学の学祭があるから、もし良かったら来てくださいね〜!」 私たちの背中に向かって、美緒が声を上げる。 奏斗は私に手を引かれながら、ぽつりと呟いた。 「──
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104話

奏斗と一緒に脇道に停めてあるタクシーに乗り込んだ私たち。 タクシーに乗るなり、奏斗が「出してください」と告げると、タクシーが走り出した。 「もう、バレる心配は無いか……」 そう呟いて、奏斗は帽子を取る。 軽く頭を振って髪の毛を整えた奏斗は、私に顔を向けた。 「それで、香月。さっき友達が言ってた学祭って?」 「それより、奏斗!どうして迎えに来たの?私、来なくて大丈夫って連絡したよね?」 もし、大学で奏斗の正体がバレてしまったら。 大騒ぎになってしまうのに。 だからこそ、私は迎えに来なくていいよ、と奏斗に連絡をした。 それなのに、奏斗が迎えに来てしまうなんて──。 私の言葉に、奏斗はちょっとだけむっとしたようで、唇を尖らせつつ答えた。 「あんな連絡をもらったら、逆に心配だろ?それに、香月もあの男友達に付き纏われてて大変そうだったじゃんか……。俺が迎えに行って丁度良かっただろ?」 奏斗に遠藤くんの事を言われてしまい、私はぐっと言葉に詰まった。 確かに、奏斗の言う事は尤もだ。 今日の遠藤くんは、何故か中々引いてくれなかった。 奏斗がやって来てくれたお陰で、上手く遠藤くんから離れられた気がする。 「確かに、遠藤くんの事は少し困ってたけど……」 「でしょ?俺が行って丁度良かったじゃん?」 「だけど、美緒は──私の友達は、ファンなんだよ?奏斗の声を聞いてたら、バレてたかもしれないのに……!」 「たられば、を話してても仕方ない。今回もバレなかったから良かった。それでいいだろ?」 「──もう!」 奏斗の正体がバレてしまわないように、って私はずっと気を付けているのに。 肝心の奏斗本人があまり気にしていなくて、力が抜けてしまう。 「それに、もし正体がバレても、すぐに逃げれば問題無いよ。普段からそうしてる」 「見つかっちゃったらそうするしか無いけど……できるだけバレないようにしなくちゃでしょ?」 私の言葉に、奏斗はひょいと肩を竦めて窓の外に顔を向ける。 どうやら、言いすぎてしまったせいで奏斗は拗ねてしまったようだった。 暫くタクシーに乗り、奏斗の家に到着した私たち2人は、タクシーから降りると奏斗に手を引かれたまま奏斗の家に入る。 「香月が言ってたネットの投稿、俺もすぐに調べて確認したよ。社長とマネージャーにも一応連絡はしておいた
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105話

「RikOとの事を話すのは、事務所は了承してるの?」 私が奏斗に聞くと、奏斗はひょいと肩を竦めた。 その様子から、まだ事務所からOKは貰っていないのだろう。 「それなのに、勝手に行動しちゃっていいの?」 「いいよ。俺にだって人権はあるだろ?」 「確かにそうだけど……」 ソファに腰を下ろした私たち。 私がKanatoの事が書かれているSNSをスマホで開きっぱなしにしていたから、奏斗がひょいと私のスマホを覗き込んだ。 そして、SNSに書かれている文章を読んだ奏斗はおかしそうに笑う。 「すげえっ!この人殆ど正解じゃん!」 楽しそうに笑う奏斗。 そのSNSは、奏斗にはちゃんと本命の彼女がいて、その彼女を守るためにRikOの名前を出したんじゃないかって書かれている。 本命の彼女──。 確かに、RikOの事はストーカーから守るために仕方なく熱愛報道を認めただけ。 でも、その事を知ってるのは本人と、奏斗のグループのメンバー。それと、事務所の社長とマネージャー。それに私くらい。 「もし、この人が言っている事が本当だったって分かったら……ネットでは凄い大騒ぎになるだろうね」 「いいんだよ。大騒ぎになれば。むしろ、俺はそうなって欲しいって思ってる。それでRikOの悪行も世間に知られればいい」 ふん、と奏斗は鼻を鳴らして告げる。 奏斗はRikOにあんな事をされたんだし、そう思うのも頷けた。 「……私は、奏斗やnuageのメンバーが大変な事にならなければ良いよ……」 「あいつらも……?香月は俺だけを心配してくれればいいよ」 むっとした奏斗が私にずいっと体を寄せてくる。 ソファに座っていた私と奏斗の距離は、元々近い。 だけど奏斗が身を寄せて来たから、更に私たちの距離が今は近付いている。 「──ちょ、ちょっと近いよ奏斗。それに狭い……!」 「近くたっていいじゃん。香月とくっついていたいのは変?」 ストレートに、自分の気持ちを口にする奏斗。 だけど奏斗の唇は面白くなさそうにとんがっていて。 もしかして、と私はさっきの事を思い出す。 「もしかして奏斗……遠藤くんに嫉妬してるの?」 いくらなんでも、遠藤くんが私の事を憎からず思ってくれているのは分かった。 彼の態度はとても分かりやすくて。 私を迎えに来た奏斗は、その遠藤くんの態度に思
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106話

「が、学祭に来るつもり!?」 「うん。駄目?」 きょとり、と目を瞬かせて首を傾げる奏斗に、私はぶんぶんと首を横に振った。 「駄目に決まってるでしょう!?学祭だよ!若い女の子達が沢山いるんだよ!?奏斗が変装してたって、ばれちゃう可能性が高いから、駄目!!」 私の剣幕に、最初はびっくりして押されていた奏斗だったけど、すぐにむっと不機嫌そうに眉を寄せた。 「大丈夫だよ、意外とバレないって」 「駄目!奏斗の正体がバレる危険性があるのに、学祭なんて来させられない!正体がバレたらパニックになっちゃう!」 「──じゃあ、香月はあの遠藤ってやつと学祭回るのか?」 奏斗が低く、ぼそりと呟く。 遠藤くん──? いや、遠藤くんと回るつもりは無い。 その事をしっかり奏斗に伝えて、安心してもらおうと私は奏斗に向き直った。 「遠藤くんと回るつもりは無いよ。もし誘われても断るから安心して。美緒とか……女の子の友人達と一緒に回るから」 「……だけど、あの遠藤ってやつ、香月にしつこかった」 むすっとした表情で、そう続ける奏斗。 確かに……今日の遠藤くんは、私の手を掴もうとしていたし、奏斗から見たら遠藤くんの態度は凄く嫌なんだと思う。 私も、奏斗にしつこく言い寄る可愛いアイドルとかがいたら、確かに凄くもやもやするだろうし、嫌だなって感じると思う。 「自分で対処出来ずにごめん……。だけど、もしまた遠藤くんから誘われたら、キッパリと強く断るから……」 だから、機嫌を直してくれないかな……。 私はそう思いながら、奏斗の頬を指でつんつんとつつく。 そうしたら、奏斗がじとりとした目を私に向けて来た。 「香月は、そうやって誤魔化そうとする……」 「──えっ、あっ!」 恨めしそうに呟いた奏斗は、私の手を掴むと、そのまま強い力で私をソファに押し倒した。 「ちょ、ちょっと、奏斗……っ!」 「ほら。こうして掴まれたら女の子の香月は突き放せないだろ?どうすんの?遠藤くんにこんな風に押し倒されたら」 「そっ、そんな事にはならないよ……っ!」 まさか奏斗に押し倒されるなんて思わなかった私は、慌てて奏斗の胸を押し返そうとしたけど、奏斗はぴくりとも動かない。 私の上から退いてくれない奏斗。 「か、奏斗。遠藤くんとはこんな風に近い距離にならないように気をつけるし……。常に
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107話

「──ちょっ、奏斗……んっぅ……!」 私が慌てて声を出そうとした瞬間。 奏斗は、私の唇を塞いだ。 何度も何度も角度を変えてキスをされて。 私は息が苦しくなって来てしまう。 苦しくて奏斗の胸を叩こうとしても、私の手首は奏斗に強く握られたまま。 びくりとも動かないそれに、奏斗が「男性」なんだって事を、まざまざと感じる。 苦しくなって、私が嫌だ、と顔を横に振ると奏斗が少しだけ唇を離してくれた。 その隙に、私は顔を逸らして思いっきり息を吸い込んだ。 「──はぁっ、はっ、奏斗っ、苦しいっ」 「いつまでも慣れないな、香月は。まあそれが可愛いんだけど。……鼻で息をするんだよ」 「──へ!?あっ、ちょ……っ」 奏斗が甘ったるい声でそう告げるなり、逸らした私の顔を片手でぐいっと元に戻して再びキスをされてしまう。 その時、私は息を吸うために口を開けていた。 だから、その隙間から奏斗の舌がするり、と私の咥内に入り込んだ。 「──んっ!?」 びりびり、と背筋に何かが走る。 私の咥内で奏斗の舌が、逃げる私の舌を追いかけ、絡め取る。 いつの間にか私の手首を掴んでいた奏斗の手は私から離れていて。 奏斗の大きな手のひらは、私の耳を塞ぐように両手で耳を塞いでいた。 耳を塞がれると、どうなるか──。 舌を絡め合う水音が、ダイレクトに脳に響くように感じて。 私は小さく喘ぎ声を漏らしつつ、奏斗の胸を押して離れてもらうようにしたけど、力が入っていない私の手は、奏斗の胸元を縋るように掴んでいるだけになってしまう。 「──ぅっ」 「香月、香月。鼻で息して……」 そう言いながら、奏斗はキスをちっとも止めてくれない。 こんなに激しいキスを奏斗からされるのは初めてで。 奏斗は、私が降参するまでキスをやめてくれないつもりなのだろうか。 その考えに至った私は、気が遠くなってしまう。 こんなキスをされて、何だかさっきからゾクゾクとした、変な感覚が込み上げて来ている。 奏斗の手は、私の耳を塞ぐ事をやめて、後頭部にいつの間にか回っていて。 後頭部を強く引き寄せられているから、キスは深くなるばかり。 奏斗の力の強さから逃げる事が出来ないし、何だか段々頭もぼうっとしてきてしまう。 お腹の辺りもなんだか変な感じがしてきて──。 「──ぁっ!?」 ぼうっとしてい
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108話

──月、 ──……つき。 「──香月!」 「──へっ!?」 奏斗の大きな声が、頭に響いた。 その瞬間、私はバチッと目を開けて、その場に起き上がっ──。 「──いってぇ!」 「痛いっ!!」 起き上がろうとしたのだけど、私の上に居たままの奏斗と、思いっきりぶつかってしまい、私と奏斗は痛みに悶絶した。 チカチカ、と目の前に星が浮かんでいるような気がする。 痛みで私も、奏斗も暫くその場に蹲り、動けなかった。 「──うぅ……ご、ごめん奏斗……」 私の方が先に痛みが和らいできたのかもしれない。 私がむくり、と起き上がると、奏斗は目に涙を溜めつつ、私をじとりと見つめた。 「香月は……、昔っから石頭だな……」 「ご、ごめん奏斗。怪我は無い?」 「ああ、どうだろう……たんこぶになってない?」 奏斗が前髪をかきあげて私に見せてくる。 奏斗の額を見るために、私は前のめりになった。 「う、うん……大丈夫そう……良かった、傷とかついてなくて……」 「まあ……今は休暇中だし。多少怪我をしても大丈夫だよ」 「でも、nuageのKanatoに傷をつけたら大変な事になるよ!」 「はは、大丈夫だって香月」 さっきまでの少し色っぽい雰囲気は綺麗になくなっていて。 私たちは、普段通りの空気感になっていた。 だけど、私が近付いた事で奏斗との距離が縮まっている今。 奏斗ははっと何かを思いついたように目を輝かせると、私をそのまま正面から抱きしめた。 「──わっ、わぁ!奏斗、急に何を……!」 「さっきは有耶無耶になっちゃったけど、香月にちゃんと返事を聞いてなかったな、と思って」 「へ、返事?」 ひょい、と奏斗は軽々と私を抱き上げると、ソファに座り直して私を自分の膝の上に乗せたまま、下から見上げてくる。 「そう。香月の学祭。俺が一緒に行くから。香月がうんって言ってくれないなら、このまま進めるけど……」 「──ひゃっ、ちょ、ちょっと奏斗!」 奏斗は、背中に回していた腕を下げて、私の服の中にするりと手を潜り込ませた。 私を見上げる奏斗の目は、嘘を言っているような感じじゃないし、真剣だ。 このまま、奏斗の提案を拒み続けたら、本当にこのまま──。 私は自分の顔を真っ赤にすると、慌てて奏斗の手を掴んだ。 「わ、分かった……!分かったから奏斗……!」
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109話

それから。 奏斗は私が大学に行く時は必ず送り迎えをしてくれるようになった。 まだ、RikOの件に進捗はない、らしい──。 奏斗は何度か事務所に呼び出されたり、警察からの連絡に対応しているようだった。 せっかく、奏斗が休暇を取ったのに。 その休暇は殆ど今回の一件で潰れてしまった。 ある日の夕方。 私の部屋で、奏斗はベッドに背を預け、足を投げ出して疲れたように座っていた。 私の部屋にあった大きなくまのぬいぐるみを抱きしめている奏斗の目は、何だか虚ろだ。 奏斗はくまのお腹をもふもふとしつつ、ため息を吐き出した。 「マジで……本当に芸能界って酷い所だよ……」 「か、奏斗……?大丈夫?」 どこかやさぐれた様子の奏斗に、私は大学の課題に取り掛かっていたけど、ノートから視線を上げて奏斗に顔を向けた。 奏斗は、事務所に行って、帰ってくる度に疲労が蓄積していっているみたいに思える。 せっかくの休暇なのに、これじゃあ奏斗の心も体も休まる事がない。 「奏斗、今日はもう自分の部屋に戻ったらどう……?部屋でゆっくりした方が、疲れも取れるんじゃ……?」 「……香月と一緒に居る方が癒されるから、戻らない」 「そ、それは……私は嬉しいけど、奏斗は本当に平気なの?」 「うん。大丈夫。だから香月も早く課題終わらせてくれよ。思う存分イチャイチャしたい」 「ちょ、ちょっと奏斗……!」 まさか、大真面目に奏斗にそんな事を言われるとは思わなかった。 イチャイチャするために課題を急いで終わらせるなんて……。 そんな事をしたら、私も奏斗との触れ合いを楽しみにしているみたいで、恥ずかしくて嫌だ。 私が課題と奏斗の顔とを交互に見ていると、いつまで経っても課題に集中しない私に痺れを切らしたのだろう。 奏斗がむすっとして、抱きしめていたくまのぬいぐるみをぽいっとベッドに放ると、じりじりと私に近付いて来た。 「香月、その課題はあとどれくらい時間がかかる?」 「──落ち着いて、奏斗。まだかかるから、そんな風にじりじり近付いて来ないで……!怖い!」 じわじわ、と距離を詰めてくる奏斗に、私が思わず後ずさりすると、そこで奏斗のスマホがタイミング良く着信を知らせる。 ブブブ、とバイブ音が部屋に響き、奏斗は面倒くさそうに眉を寄せた。 スマホを持ち上げた奏斗が、画面を確認する
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110話

奏斗が見せてくれたスマホの画面には、奏斗の言う通り【社長】と表示されていた。 ため息をついた奏斗は、私をぐいっと引き寄せ、背後から抱きしめると電話に出た。 「──はい、もしもし」 〈Kanatoか?今大丈夫か?〉 「ええ、平気です」 奏斗は、私の髪の毛を自分の指に巻き付けたりして遊びつつ、社長と話す。 私は社長にバレてしまわないよう、身動ぎせずに口を閉じているのに、奏斗はお構い無しに私の髪の毛で遊んだり、ぎゅうっと抱きしめてきたり。 これじゃあ電話の向こうにいる社長にバレてしまうのに! 私がじろり、と背後の奏斗を睨むと、奏斗は苦笑いをして「降参」と言うように片手を胸の前に上げた。 「それで……何ですか?」 〈RikOの件、だ……。以前から少し話していただろう?〉 「ああ……示談の件ですね?」 奏斗の言葉に、私がぴくりと反応する。 そんな私に、奏斗は私の頭を優しく撫でてくれた。 「示談するにしても、こちらの条件を飲んでくれないと、示談なんて出来ませんよ。向こうは何て言ってるんですか?」 〈Kanatoの提示した条件は……全部飲む事は難しい、と……〉 「それじゃあ仕方ないですね。逮捕されてください」 〈まっ、待てKanato!それだと……事務所も、かなりの痛手を負う事に……!〉 「社長は、誰の味方なんですか?犯罪者の味方?それとも、被害者の味方?」 〈犯罪者、など──……!〉 「俺からしたら、RikOは犯罪者ですよ。社長はまさか、RikOは何の罪も犯していないって言うんですか?」 〈──Kanato〉 「このままじゃあ、平行線で埒が明かないですよね。ちゃんと話を纏めてから電話をして来てください」 〈Kanatoっ!〉 社長の呼び声にKanatoは反応せず、そのまま電話を切ってしまう。 はあ、とため息を吐き出した奏斗は、スマホをベッドの上に放り投げると、両手で私を抱きしめる。 「大丈夫、奏斗……?」 私は、背後にいる奏斗の頭をそっと撫でる。 話を聞く限り、社長はRikOを見捨てきれないのだろう。 だけど、RikOが起こした一連の事件は、到底看過できない。 被害に遭った奏斗より、加害者のRikOをどうにも守っているような気がして。 「……結局、俺は男だから……例え望まない性行為があったとしても、軽く見られがち
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