女性アーティストの、バラード調の伴奏が流れる。 マイクを持った奏斗の横顔を見て、私は自分の鼻をつい抑えた。 あ、これ無理。絶対に無理。 しっとりとした曲調に、奏斗の低くて甘い歌声がこの曲にマッチしていて。 この曲を、nuageがカバーする、と発表された時とても話題になったのだ。 女性アーティストのヒット曲を、男性アイドルがカバーすると言う挑戦にも話題になったし、女性曲のキーの高さをどうアレンジするのかにも注目が集まった。 そして、nuageが歌番組でこのカバー曲を初めて披露したその動画は、バズった。 歌番組の公式チャンネルから出された、ショートバージョンの動画は億再生され、大きな話題になったのだ。 キラキラとしたアイドルが、しっとりとした大人なバラードを歌い上げる。 それまでは、ポップでダンスナンバーが多かったnuageだったけど、この曲のカバーでバラードもとても良い、と周知されて、バラード曲がアルバム収録曲に多く使われるようになったのだ。 奏斗は、元々歌が上手かった。 それは、幼馴染の私が一番知ってる。 だけど、nuageがカバーしたこの曲を、奏斗が歌うのはもう、本当に反則なのに! しかも、奏斗は時折私に視線を向けて愛おしそうに目を細めるのだ。 そんな目を向けられて、このバラード曲を歌い上げられてしまうこちらは、たまったものじゃない。 曲が終わり、奏斗がマイクを置いて愉しげに口元を笑みの形に変えた。 「どうした、香月?顔真っ赤だけど?」 奏斗は嬉しそうに私の頬を指で突つく。 私が照れているのも、感動しているのも、nuageのファンとしてKanatoのこの曲を独り占めしている感激も、全部分かってるはずなのに。 「もっ、もう!飲み物取ってくる!奏斗もいるでしょ?」 私は耐えられなくなって、ソファから立ち上がる。 このままここにいたら奏斗にまだまだ揶揄われてしまいそう。 だから、私は逃げるように部屋から出た。 扉が閉まる寸前、奏斗の笑い声が漏れ聞こえてきて、戻ったら覚えてなさいよ、と考えつつ私はドリンクバーに向かった。 奏斗と自分の分のドリンクをよそい、私が振り返った時。 そこには、男性四人のグループが立って待っていた。 やばい、待たせてた。 そう考えた私は、軽く男性達にぺこりと頭を下げてから横を通り過ぎようとす
最終更新日 : 2026-01-06 続きを読む