All Chapters of 生神様になったらめっちゃ思い通りになるんですけど: Chapter 271 - Chapter 280

305 Chapters

第281話・ありがとう

 魔獣の気持ちが分かるようになったなら、魔獣に向けて拒絶の気持ちを送ることができるかも知れない。 よし。 来るな……来るなよ……。こっちには神獣がいるんだ……お前らの餌にはなれない……。お前らが無駄死にしたいって言うなら別だけど……。 魔獣が怯んだのが分かった。 よし……。そうだ、帰るんだ……。俺たちを狙っても、お前らにいいことはない……。いい子だから、な……? 魔獣の気配が遠ざかっていく。 飢えた魔獣の気配が一つ、一つ、消えていき、こっちに心残りを感じながら最後の気配が去って行った。 魔獣は……いなくなった。「やったじゃないか」「ぐるぅ!」 グライフが駆け寄って来て俺の背中に頭をぶつけた。「グライフ、シンゴ」「ヴェデーレの才能は本物だな」 シンゴが笑っていた。「魔獣を退ける獣使師なんて。万に一人もいないって言うのに、それをやってのけたんだぜ?」「え? そんなに少ないの? てか何時シンゴそれを知った?」「まあ、ちょっとばかり能力を使って」「能力って」「ヴェデーレの獣使師の才能と同じだよ。俺もちょっとした才能があって、必要な情報を好きな時に引き出せるんだ」「まだ能力持ってたの」「色々と」 でもヴェデーレの獣使師の才能に比べたら大したことないけどね、とシンゴは笑う。 いや、好きな時に正確な情報を引き出せる能力ってなんなんだ。クラス魔法剣士って言ってたけど、実は剣が得意な賢者とかじゃないだろうな。この盛り盛り男は一体何者なんだ。 シンゴの素性に改めて疑問を感じる。 でも、いっか。 シンゴに会えなかったらグライフに会えなかったし。グリフィンをブラッシングできる人間なんて、フェザーマン以外じゃシンゴと俺しかいないだろ。「じゃあ、【木壁】は解除するな」 すすすっと木の枝や根が絡み合って出来ていた壁が消える。 幌の上に登っていたトーノが首を傾げる。「なあ。何やってたんだ?」「何て」「魔獣、出なかったじゃん。シンゴもグライフもあれだけ警戒してたのに。シンゴとヴェデーレが喋っていただけで、結局何も出てこなかったじゃん」「ああ、魔獣が向こうから消えたみたいだな。余計な戦闘がなくてよかった」 シンゴはすらっと言った。 え? 
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第282話・勘

 旅の速度はさらに加速した。 一番襲撃回数の多い魔獣が、近寄って来なくなったんだから無理もない。 魔獣だけで来るパターンはほぼなくなり、魔物や魔族が従えた魔獣も何となく戦闘意欲がなかった。 ……俺が、魔獣に、戦うと無駄死にするよ、と言っているのが効いてるんだけど。 シンゴ調べによれば、獣使師の訓練とは、最初は犬や猫、牛や馬と言った人間に親しい動物と接触することから始まるそうだ。彼らの意図が確実に分かり、支配下に置けるようになったら、次は野生動物。と言っても小型のリスとか鳥とか、そう言うの。彼らが命令に従ってくれるようになると、シカやイノシシと言った草食や雑食の野生動物。 一流と呼ばれる獣使師が狼や熊と言った大型肉食獣を使役できるようになれる。 じゃあ、神獣や魔獣は? と聞くと、「そりゃあ……」と笑われた。 神獣は基本生み出した神と、その神に従うようにと言われた種族にしか従わないから接触機会もない。魔獣は死物と生物の中間にあるような存在で、生存本能と破滅本能が相まっている存在なので、人間が扱うのが難しい。 そんな獣と意思疎通ができるのは、世界でも五人はいないだろう、とか。 俺が果たしてそんな獣使師なのかは分からないけど、少なくとも魔獣の脅威からは逃れられている。 動物の気配にも鋭くなった。 魔獣だけじゃなく、近くの肉食動物の接近にも気付くようになった。 本気で目指してみるか、獣使師?「目指すんなら手伝うよ」 言ったのはシンゴだった。「魔獣を退けられるなんて、旅がずいぶん楽になるだろうし」 お世辞かも知れないけど嬉しかった。 そんなある日、上り坂を先頭切って歩くシンゴが立ち止まった。「どうしました、シンゴ先生?」「いや……何だろう」 シンゴは顎に手をやって考え込む。「何だろうこの気配。死物……も近いけど、生物……にも似て」「エンドが近いのでは?」「そう、なのかもしれないけど……う~ん……」 シンゴの言いたいことは、俺にも分かった。 街道の先……上り坂の向こうから感じる気配は。 獣……魔獣……? いや魔獣とは微妙に違う獣……。なんだろ……。「どうしたのヴェデーレ。君まで難しい顔して」「クーレ、警戒したほうがいいかもしれな
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第283話・一人足りない

「先生……」「頼んだよ」 シンゴはタッタッタっと上り坂を軽いステップで登って行った。「先生がそう言うなんて……一体何があると言うんだ」「地図によれば、この坂を登ればエンドのはずなんだけど」 う~んとクーレも唸る。「危険なのは覚悟の上だけど、シンゴさんがああいうことを言うとなると、僕たちの予想を上回る危険があるのかもしれない」「冗談じゃない、こんな重い荷物持ってはるばるきたのは金儲けのためだ。金が儲からなかったら意味ない。荷物も置いて行けるか!」「命あっての物種と言うではないか」トーノを𠮟りつけてから、グルートンは真剣な目で坂の向こうを見上げた。「シンゴ先生……頼みましたぞ……」 グライフがのっそりと前に出てきた。「どうしたグライフ様」「多分、シンゴが警戒してるんだ」 俺は渇いた唇を舐めた。舐めても舐めても渇く。「シンゴがグライフに合図したら、グライフが逃げる。俺たちもその後を追ってまっしぐらに逃げるんだ」「しかし、シンゴ先生は」「むしろ俺たちがいる方がヤバいんだ」 グライフがピリピリしているのが伝わってくる。緊張で唇が渇く。「シンゴ一人ならどうとでもできる。でも俺たちを守りながら戦うと手が回らないんだ。いざとなったら本気で逃げた方がいい」「本気かよヴェデーレ!」「本気だよ」 皆は知らないけど、俺は魔人レベルになりかねない魔族との戦いを知っている。あれだけ戦えるシンゴが、グライフが、そこまで緊張するってことは、……何かわからないけど、最悪の事態も考えた方がいい。「冗談じゃねぇぞ、全く、本気で」 ブツブツトーノは呟いている。 グライフのピリピリが、だんだん強くなって行っている。 なんだ……何が……グライフが緊張するほどの何かが……。 その時。 俺たちの先頭で坂を見上げていたグライフが振り向いた。 逃げろ! と、神獣が叫んでいる。「グルートン、撤退だ!」 俺は叫んだ。「グライフが逃げる! とにかくここから逃げないと!」「お、おう!」 グルートンが走り出す。 商人も、守護者希望も、研究者も、一斉にグライフの後を追う。「何があったんだ!」「分からない、分からないけど」 俺は走りながらグルートンに返す。「恐らくは戦いだ! 俺たちを守ってる余裕もない程の! 俺たちにできるのは、シンゴの足手まといに
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第284話・不吉な予感

「そら見ろ、何もないじゃないか」 逃走中に回れ右して戻ってきたトーノは、必死で逃げようとしている荷馬を蹴飛ばして、荷馬車の幌の中に入った。「ったく、シンゴも警戒しすぎなんだよ。……いや待てよ。そうやって俺たちの荷物を横取りするつもりだったとか? 冗談じゃねえ」 とりあえず荷馬車の中から、売れそうなものを適当に抱え込んで。 後ろに気配を感じた。 ハーフリングの自分と同じ位の背丈。ハーフノームのクーレだろう。「クーレ、来たか、この馬に【回復】かけてくれよ、泡拭いて」 振り向いて。 トーノの意識はそこで途切れた。     ◇     ◇     ◇「トーノは何処に行ったんだ!」 グルートンが目を皿のようにして探し回るけど、あの小さい姿は見当たらない。「まさか、戻ったんじゃ……」 クーレが真っ青な顔で呟く。「荷馬車には結構な値の商品が乗ってたんだ、それを置いて逃げるトーノじゃない……」「くそっ、あの金の亡者が!」「どうする、戻る?」 クーレの恐る恐るの提案に、俺は首を横に振る。「グライフが戻ろうとしない。つまり危険が去ったわけじゃないんだ。多分、この場所でもまだ危ないんだ。グライフがギリギリ安全だって判断しただけで」「グライフの言うことが分かるのか?」「分かる。何となくだけど」 グライフが鷲の前脚で地面を掻いている。本当は戻りたくて仕方ないんだ。シンゴが俺たちを守ってくれって頼んだから。「ぐる……ぐるる……」 焦れたように唸るグライフの言葉に応えたかのような、微かな悲鳴が俺の耳に届いた。「……トーノ?」 その声がトーノのものに思えて仕方がない。「グライフ」「ぐるる」 ダメだ、とグライフは俺を止めた。 今戻れば、死ぬと。「さっき、何か聞こえなかった?」「いや、トーノも勘が鋭いハーフリングだ、自分の身一つであれば自分で守れるはず……」 言いながらも俺は不吉な予感を断ち切れなかった。 トーノがあの荷物を残して一人で逃げ出すはずはない……。 シンゴ……。早く戻ってくれ……! いつでも逃げ出せるように準備をしながら、坂二つ逃げた先で未だ俺たちを庇うように身構えているグライフを見つめながら、俺は祈るしかなかった。 グライフがゆっくりと前に進み出したのは、それからまた数刻経った後だった。「大丈夫、なの
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第285話・落とされた首

 俺は低い声で、グライフの後を追う。「なんか、嫌な予感しかしない……」 ゆっくりゆっくりと前進して、上に登る坂道の途中で俺たちが置き去りにした荷馬車三台がいた。 俺は周りの気配を確認する。うん、少なくとも、魔獣の気配はない。あの時……ここで感じたなんとも形容しづらい感覚も、今はない。「!」 俺はぴたりと足を止めた。 獣の気配はしない……馬の気配すら。 俺は荷馬車につないだままだった馬を確認しに行く。「……な……」 馬には首がなかった。 三頭立て荷馬車を引いていた九頭の馬。そのどれにも首がない。血が流れた跡すらない。すっぱりと斜めに切り取られていた。「ヴェデーレ、どんな……」 回り込んできたクーレが絶句する。「グルートン!」 やってきたグルートンも、首なく死んでいる九頭の馬を見て絶句した。「どういう技量と刃物だ、一体……。こんな切り口は初めて見たぞ……」「まさか、シンゴじゃあ……」「いや、シンゴ先生ではない」 グルートンは即座に否定した。武器に精通したドワーフの血を引く彼はこういう時に正しい判断を導き出す。「シンゴ先生の得物は剣だ。ソードは叩き斬るもので、こんな鋭い切り口は出来ない。これは、恐らくは曲刀……しかも最高級の逸品じゃないと作れない。シンゴ先生の腕があればできるだろうが、得物が違う。大型の曲刀だ」「うわああああ!」 死物研究家を名乗っていたイスティの悲鳴が聞こえた。「どうした!」「あ、あれ、あれ」 腰を抜かしたイスティが幌馬車の中を指差している。「中?」 覗き込んで俺たちは絶句した。 トーノだ。 だけど、トーノなのか? 服も、体格も、小さい頃から見知ったトーノのもの。 なのに。 首がない。 倒れ伏したトーノには頭が失われている。周りには血すらない。 悲惨で凄惨な光景なのに、血の一滴も、匂いすらないと言うことで、ここまで非現実的な光景に見えるものなのか。 俺は、ゆっくり馬車に入って、その身体をひっくり返した。 クーレが作った魔法薬や、薬草を後生大事に抱えている。「取りに戻ったのか……売れそうなものを」「金の亡者が!」 グルートンが吐き捨てるように言う。「命あっての物種とあれだけ言っておいたのに!」「バカ……材料さえあればいく
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第286話・エンド

「済まない……」 シンゴは疲れ切った顔で謝った。「いや、シンゴ先生が悪いんじゃない」 グルートンが首を横に振る。「トーノの油断が生んだ結果だ、先生は何も悪くない」「ぐるるぅ」 心配そうにグライフがシンゴの所に行った。「ぐる……」「うん、グライフ、俺は大丈夫。……俺は」「それより、一体何があったんだ? ケガはないようだがそんなに疲れ切って」「見たいなら見てきてもいいよ……今は安全だから」 言われて、俺は坂を駆けのぼった。 最果ての地、エンド。 守護者と呼ばれる人間の猛者たちが、死物の侵入を阻む砦。 シンゴクラスの戦士がぞろぞろいて、死物と戦い続ける地。 そこに、何があった? シンゴのあの顔は、何かとんでもなく精神的ショックを受けた顔だ。 クーレが後から追ってくる。 息を切らせて、脚がよれよれになって、坂を登り切って。 俺は、言葉を失った。 北の果て、冷え切った砦に揺れる空気がある。むわっとした熱気が俺の顔を炙った。 もう一歩登って、全体が明らかになった。 赤い炎水が、あちこちに広がっている。 炎水、と分かったのは、グルートンのお袋さんが、無窮山脈には炎が水になった、ドワーフの宝物があるのよ、と教えてくれたからである。 炎の水、の実物は、真っ赤に煮えたぎって、何人もの人を飲み込んでいた。 それが守護者の躯であることは言われなくても分かっていた。 エンドにいるのは隊商でなければ生粋の戦士や魔法使い、戦闘スキルがないと生きていけないからだ。 鎧を着た躯、ローブを着た躯……たくさんの躯が転がってて、その中にはトーノと同じように首を失ったものもあった。「はは……こりゃ、僕の【回復】は効かないね……」 クーレが乾いた声で笑った。「炎水に首切……どんな魔人が現れたんだ……?」 グルートンも青ざめる。 ただ、邪悪な気配はしない。エンドが落ちたなら、魔獣がどんどん通り過ぎてもおかしくないのに。「すごい規模だ……」 クーレが感動したように呟いた。「何が」「エンド全部に、強力な【聖域】がかけられている……これはない、どんな使い手が、この砦に……」「一人しかいないだろ」 魔物を倒し、エンド全体に【聖域】にかけるなんて
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第287話・一緒に

 グルートンは、持てるだけの荷物を持って引き返すことにした。 このままここにいても俺たちに特はないし、エンドが墜ちたことを伝えなければいけない。 シンゴにグライフと一緒に先に行ってもらって……と思ったけど、「俺がいなくてみんな無事で帰れるの?」と言われ、誰も反論できなかった。 トーノは金に汚くて欲の皮が張っていたけど、それでも重要なムードメーカーだった。あいつ一人いないだけで、こんな葬式みたいな空気になるのか……。「モーメントは終わりだ……」 誰からともなく、そう言い始める。「エンドが墜ちたら……死物の侵入を誰が阻む……?」「だったらお前が残れよ……一人食ったら満足して帰るかも知れないぞ……」「本気か……?」「本気……には、なりたくないね……」 皆、よろよろと、歩く。 シンゴが荷馬車を改造して、何人かで引いて前へ進む引き車を、全員交代で引き、台の上で休みながら、昼も夜も進む。休んでいる暇はない。出来るだけ早く、諸国にエンド墜ちるの報告をしなければ。 シンゴは憔悴しきった様子で、でも必ず先頭を歩き、死物に警戒していた。 グライフもまた、時折エンドの方を振り返ることはあるものの、必ず一番後ろを歩いていた。 ここしばらく、グライフのブラッシングをしていない。 腹を向けて、ここを撫でろと言ってくれた神獣は、休みなき移動に薄汚れながらも、警護の任務に徹していた。 何度か、魔獣が追いすがることがあった。 その時、大抵俺かグライフが気付いた。グライフが先に気付いた時には、俺にしかわからない独特の鳴き声で警告して、俺は魔獣たちにここを襲うのは得策ではないと心の中で言い聞かせる。 疲れ切った生物の群れだ、となかなか魔獣は納得してくれなかったけど、無駄死にするよ、と言えば退いてくれた。 エンドの様子ではどう考えても圧倒的武力と魔力によって堕とされたようにしか見えないのに、追ってくるのは魔獣ばかり。 シンゴが張った死を跳ねのける結界、【聖域】が効いているんだろうな。 でも、シンゴもそうはもたないと言っていた。 クーレが教えてくれたんだけど、魔法の区分のひとつに、刹那魔法と持続魔法、永久魔法があるとか。 刹那とは文字通り一瞬。パッと発揮してパッと消える。 持続は、ある一定時間効果を発揮するけど、いずれは消える。 永久は
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第288話・決意

「ヴェデーレ?!」 グルートンとクーレが声をそろえる。「正気か!?」「正気だ」 今までだったら、悪友共に流されるままに流されていた。何処かへ行こうと言われれば、行きたくないけど行った。 だけど、今回は。今回だけは。「俺も、シンゴと一緒に西へ行く」「西は死物がいるのだろう?!」「東だってそのうち増える!」 俺は言い返す。「西は死物を撃退した! その手段を知りたい!」 そして、あんな顔をしたシンゴを残して行けない。「それならば、俺たちもついてゆく!」 グルートンが吠える。「そうだよ! ヴェデーレだけ行かせるもんか!」「ヴェデーレ」 シンゴがグライフの頭を撫でながら、こっちを見ずに行った。「俺のことを心配してくれるのは嬉しい。でも、危険だ」「ダメだ!」 俺はシンゴの腕を掴んだ。「確かにおれとシンゴは二ヶ月くらいの付き合いしかない! でも、そんな顔したお前を放っておけるか! 第一、俺に獣使師の才能があるって言ったのはお前だろ? この才能がお前の役に立つかもしれないんだろ?」「…………」 ケガ一つしていない。死物を倒す腕が鈍ったわけでもない。 なのに、ここまで疲れ果てた顔をして、目の下にクマを作って。 心配になるじゃないか。 あそこまで無敵なシンゴがここまで疲れ果てた顔をするなんて、放っておけないじゃないか。「友達になれたと思ったのは、俺だけだったのかよ……?!」 気付いたら、涙が落ちていた。「……俺とついてくると、お前もキツイ思いをすることになるぞ」「そんなの、やって見なきゃ分からないだろ?!」「シンゴ先生、ヴェデーレの言うとおりだ」 グルートンも口添えする。「ヴェデーレだけでも連れて行ってくれ。あそこまで強くて明るくて優しかった先生に、そんな顔をさせたくはない」「うん、ヴェデーレに獣使師の才能があるって言ったのはシンゴだろ? 才能を育てる責任があるんじゃないか?」 シンゴは渋い顔で俺たちを見ていた。「ヴェデーレを連れて行け、シンゴ先生」「きっと僕たちよりはシンゴの役に立つよ!」 そうだ。 俺はグライフに頼んだ。「グライフ、頼む」「ぐる?」「俺もついていきたい。お前は大丈夫か?」「ぐる」「グライフ」 シンゴが窘めるようにグライ
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第289話・別れ……え?

「これを持って行け」 グルートンは懐からナイフを取り出した。「それっ、お前のお袋さんが作ったって言う逸品だろ!」「お袋の作品はまだある。だけど、その中でお前の使えそうなのはこれしかないだろう?」「これも持ってって」 クーレが押しつけたのは、小さな光る石の付いた首飾りだった。「これ、お前が最近作るのに成功したって言う……」「【回復】の魔法が五回分入っている」 俺の手に押し付けて、クーレは涙のたまった目で見上げてきた。「なくなったら、シンゴに、かけてもらって。【回復】……」「うん……ありがとう……」 そして、俺は背を向けた。「……行ってくる!」 グライフに跨ったシンゴの、その前に座る。 グライフが大きく翼を広げて、飛びあがった。「元気でなー!」「こっちは心配しないでー!」 声があっと言う間に届かない高さまで来て。 そしてシンゴは急降下した。「シンゴ?」 まさか、ここに俺を置いてく気か? グライフは森の中に着地して、シンゴも降りる。「シンゴ?」「このまま西へ飛んだら、さすがにグライフも潰れるからな」 しっかり手綱を握ったまま、シンゴは目を閉じた。「【帰還】」 そう呟いた瞬間、クラっと視界が歪んで、景色がにじんで。 ゆっくりと景色が戻ってきた時、そこは森の中ではなかった。 神殿……の礼拝堂?「ついた」 シンゴは呟くと、軽くグライフの頭を撫でた。「ついたって……ここは何処……」「大陸中央、『原初の神殿』」 聞いたことがある。 大陸のど真ん中に、世界を救済すると言う生神に捧げられた神殿があると。 ちょっと待て。 北東の端っこにいたのに、大陸中央まで一瞬?「何、が、一体」「お帰りなさいませ、シンゴ様!」 礼拝堂が開けられて、入って来たのは、ゾクッとするほどの美女だった。 神官服を着ているということは、この神殿の守り手?「一応報告はしたけど」「話し合いの前に、まずお風呂に入ってきてくださいな」 心配そうな顔に無理やり笑みを浮かべた美女は、白いタオルをシンゴに押し付けた。「こういう時はお風呂に入るべきです。そう教えて下さったのは、シンゴ様でしょう?」「……そうだったな」 クスッとシンゴが、……やっと笑った。「じゃあ、風呂に入ってくるよ。グライフは任せてい
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第290話・オフロの中で正体を

 オフロ、なるものは、白く濁った広い池のように見えた。もっとも池には湯気はないけど。 シンゴに言われるがまま、全裸になって、半分屋根がある広場に出ていく。 横の小さな池で、お湯を被って、二ヶ月ろくに洗っていない体の汚れを落として、大きなオフロに連れられて。 肩までつかると、何て言うんだろう、すごく気持ちが落ち着いた。「はあ~あ~あ~……」 シンゴの気持ちよさそうな声。「気持ちいい……」 むむむ……確かにこれは……。 何か体にたまった膿がお湯に溶けて出てくような……。気持ちいい……楽で……お湯に浸かっているだけなのに身体が解れて疲れが抜けて行って……。「気持ちいい……」 俺も呟いた。 思えばエンド往復の際は湯浴みどころか体を拭く暇さえなかった。 俺、疲れてたんだな……。 目を閉じて、全身を包む、微かに匂いの付いたお湯を全身で楽しむ。「……悪い、ヴェデーレ」 シンゴの声に、俺は目を空けた。「シンゴ?」「誰にも言わないつもりだったし、誰もここに連れてこないつもりだった」「え?」「俺の問題だった。誰も巻き込むつもりはなかった。なのに、結果的にお前を巻き込んだ」「俺は巻き込まれただなんて思ってない」 俺は反論した。本当は立ち上がりたかったけど、お湯に浸かっていたい欲に敗北している。「俺は自分の意思でここまで来たんだ。……いや、オフロは気持ちいいけど」「この後が大変なんだ」 シンゴは顔の半分までお湯に浸かり、ブクブクと泡を吐いた。「俺は何だと思う?」「何だって」 思いがけない問いに、俺は頭を捻った。「レベル超高の魔法剣士?」「魔法剣士じゃないんだ」 空を仰いで、シンゴは言った。「生神なんだ」「ふうん、なるほ……」 今度こそ俺は立ち上がった。「生神ぃ?!」 立ち上がった俺に、シンゴは悪戯がバレた子供のような気まずい顔をした。「うん」「それって、つまり、モーメントを再生するために降臨するって言う、あの?」「うん」 驚きだった。 神なんて、いるかいないか分からない存在だと思っていたのに、目の前の俺と同年代の男は生きた神様なのだと言う。 でも、何となく腑に落ちたこともある。 浮世離れして、妙な能力をたくさん持っていて、何処かここではない場所を見ている目。 人間の
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