Tous les chapitres de : Chapitre 301 - Chapitre 310

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第307話・正体

 なんじゃそりゃ。そんな人間いるわけないだろ。「……ていうか、そんな実験をどうやってやるんだよ」「簡単だ」 俺と一定の距離を保って立ったまま、魔神は言う。「子供を一人、手に入れればいい。その子供を育てるのだ」「……子供」 ピリッと、うなじの毛が逆立つのを感じた。「私の言う真っ当で善良……不正に立ち向かい、正義を行う子供……それを私が作れるかどうか。それが生前の私のテーマだった」「……そんな子供を育てた人間が、何故魔神に?」「気付かれていたのだろうな……私にとっては実験に過ぎないということを」 魔神は顎に手を当て、呟く。「私には正義があった。私には思想があった。だが、それを広める気はなかった。それを実行するつもりもなかった。ただ子供に、その思想を植え付けた場合、どのような人間ができるか実験したいだけだった。正義は思うだけではなく実行しなければならないというのだろうな……思想だけの正義には何の意味もない」「……正義を抱いた人間が、何故世界を滅ぼそうとしたんだ」「それが私の役目だからな」 魔神は平然と答えた。「何かを生み出すためには古い物を壊さなければならない……そう言うことだ」「んな無茶な!」「無茶ではないだろう。お前は、来る前のこの世界を知っているか?」「……いいや」「人間の種族同士の争い。死物に赤ん坊を捧げて危地から逃れようとする親、親を捨てて飢えをしのぐ子。世界として成り立っていないと思った。だから滅ぼそうと思った」「あんたの言う正義はどこ行ったんだよ!」 俺は思わず叫んでいた。「あんたは正義を持っていたんだろう!? それを子供を使って実行しようと思ったんだろう!? それが何で、その正義を捨てて世界を滅ぼそうとするんだよ!」「私の正義は思想でしかない……自ら実行する気は欠片ほどもなかった」「正義の味方じゃなくて、哲学だった……そう言うことか?」「そう言うことだ」 俺は頭をガリガリと掻いた。「その哲学に巻き込まれた子供は……どうして手に入れた」「偶然だ」魔神は淡々と話す。「目の前で両親を失った子を手に入れた。この子供を使えば私の正義を実行する人間が育つかもしれないという興味と好奇に負けた」「じゃあ……じゃあ」 俺は叫んだ。「育てたのも、色々教えてくれたのも、全部……全部、実験の為だったのか? そうな
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第308話・荒み切った世界

「シンゴに……全てを教えたという、叔父上か?」 この中では唯一おじさんの話をしたベガが、引っかかったような声を出す。「ああ……間違いない」 今まで気づかなかったのは、濃い気配のせい。 世界を破滅に導く滅亡の神威が濃すぎて、俺とベクトルが真逆の破滅の神の存在が、三年前に死んだおじさんとなかなか結び付かなかった。 魔神の話を聞いて、ようやくそれが俺と結びついたんだ。 だけど。「何で……何で、もっと早く、名乗り出てくれなかったんだよ」「確信が持てなかったのでな。まさか魔神として送り込まれた世界の生神としてお前が来るとは予想がつかなかったんだよ……真悟」 竜介おじさんは仮面を再びつけた。 おじさんの厳しくも優しい顔立ちが隠れれば、俺と正反対の力の持ち主……魔神としか感じられない。 でも、俺はその正体を知っている。知ってしまった。 仮面の下にあるのは、俺の思考を、理想を、全て受け入れて育ててくれたおじさんであるということ。 そして、おじさんが俺を嫌がる親戚から奪って引き取って育てたのは、愛情ではなく実験の為だった……。「……今のモーメントに存在価値はない」 おじさんは魔神の仮面をつけたまま静かに告げた。 三年前に失われたと思った、何処か憂鬱そうな、しかし間違えない事実と真実を伝える声で。「人も、獣も、荒み切っている」「そんなことはないよ!」 俺は声を張り上げた。「お前は生神で、お前に従うのは神子」 淡々とおじさんの言葉は続く。「神子は生神の思想を理解している。故に、真っ当な人間として育ったお前の真っ当な考えに共感した。だが、その思想を理解し神子になれる人間はこの世界に数えるほどしかない。少なくとも、今まで出会い、滅ぼしてきた人間は、他者を蹴落として、屍を乗り越えて逃げ、最後には何でもするから見逃してくれと来た。中には共に逃げていた子供を差し出すこともあった。……そう言う人間を、生かしておいても意味はないだろう?」 俺は反論しようとした。 だけど、出来なかった。 俺の思想は、おじさんが作り上げたもの。おじさんの教えを受け取り、俺なりに解釈して実行してきたもの。 師であるおじさんを論破できるはずがない。「だけど……そんなのばかりじゃないだろ?! 真っ当な人間だっていただろ?!」「ほんの一握りはな」 おじさ
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第309話・存在理由

 仮面の額の部分にはキャッツアイのルビー。いつか聞いた、魔神の第三の目がそれなんだろう。 それは赤々と、本当の目のように光っている。「私が下らない人間を一掃する。何もなくなったモーメントを下地に、私とお前が認めた真っ当な人間だけの世界を一から作り上げるんだ、真悟。私が教えた、真っ当で正義を愛する者たちが生きる世界に」「でも、それは……」「お前はこの世界を全てとは言わないまでも旅してきただろう。どんな人間がいた? 新しい世界に生かせる人間はいたか? ……下らない人間が、圧倒的に多かっただろう」 下らない人間。 他の人間を蔑視しているエルフやフェザーマン。 旅人である俺たちを売り飛ばして生き延びようとしたアムリアの人々。 露骨に他者を馬鹿にした大人のアウルム。 商人として訪れた俺たちを捕えたプセマ、プセマに任せれば何もないと彼の悪行を見逃して利益を得ていたケファルの人々。 確かに……下らない。 下らない人間ばかりだ。 だけど……だけどさ!「真っ当な人もいたよ……。一生懸命働いてる人もいた……蔑視されてもちゃんと生きてる人も、たくさんいたよ!」「ならば、彼らを守れ」 魔神は言った。「世界中から真っ当な人間を集め、待つがいい。下らない人間を私は一掃する。その後の世界を生神、お前が再生すればいい。それが、魔神、生神としてこの世界に派遣された我々の存在理由」「何だよ……それ……」 俺の手が震えているのを感じていた。「私は言ったな、真悟」 おじさんの、感情のあまりない声が俺の耳に響き渡る。「下らない人間を相手にしてはいけないと。他人を見下す人間にマウントを取られても放っておけと。それしか存在理由のない人間など、相手にするだけ無駄なのだと」「……言った」「そう言う人間ばかりなんだよ、モーメントは」 額のキャッツアイルビーが赤い光を放つ。「気にするな。私が手を汚す。お前は世界を作り直せばいい。正義を謳いながらも実行に移さなかった人間が、生神降臨までの整地をする。それが、私が魔神となった理由なのだろう。正義を行わなかったのだから、正義を行う人間だけを助けよと」 おかしい……おかしいよ……。 俺は思いながらも反論できない。 人間を全部殺すなんてやっちゃいけないよ……下らない人間がいい奴になることだ
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第310話:いい奴

「シンゴ兄ちゃん!」「シンゴ!」 漆黒の床の周りをオルニスが輪を描いて飛んでいる。スシオやヴェデーレが俺の名を呼ぶ。 彼らはいい奴だ。 人身売買の片棒を担がされて、それでも俺やみんなを助けようとしたスシオ。 魔獣すら見捨てられない優しい獣使師ヴェデーレ。 ケンタウロスを守護し、スシオも鍛えてくれ、俺の混乱にたびたび助言をくれたベガ。 俺に従い、俺の神子になると何度も繰り返し訴えてきたグライフ。 ヴェデーレに呼ばれ、無窮山脈を元に戻す為にと俺たちに力を貸してくれるオルニス。 それだけじゃない。 生神降臨を餓死寸前になりながらも待ち望み、今も神殿で俺たちの帰りを待っているシャーナ。 エルフの騎士として、最初こそ険悪だったけど、エルフやドワーフとの折衝を請け負ってくれたレーヴェ。 強い戦士であり、信念を持ち、不倶戴天であるエルフと手を組むことも拒絶しなかったヤガリ。 可愛らしい外見と正反対の有能な聖獣、みんなを和ませてくれた灰色虎コトラ。 草原を救ってくれた借りを返す、とついてきてくれたミクン。 時に叱り、時にからかいながらも、お前は正しい、といつも肯定してくれたサーラ。 俺が初めて創った神獣、ヤガリに従う神驢のブラン。 みんな、みんないい奴だ。 ああでも、そうしても思い出す。 四種族共同の、ベガス、大樹海、無窮山脈、奈落断崖を繋ぐ交易ルートで手を組むのに揉めたエルフとドワーフの長老。 プセマに従って自分たちだけいい思いをしようとしていたので反省するまで街に閉じ込めた、ケファルの民。 あの中に、救うに値する人間はいたか? いや、ない。 でも……それを選んだ俺の判断基準は、おじさんに教えられたもの。おじさんが教えてくれた。 そう言う連中は決して反省しないから、心を砕くだけ無駄なのだと。 魔神となったおじさんの判断基準で、俺は生神として助けるべき人を選んでいたのか? 俺は……生神として、正しいのか?(迷うな、シンゴ!) ベガの声が、心の中に直接響いた。(お前の判断は常に正しかった!)(だけど……その判断を教えてくれたのは、魔神なんだよ)(……!) おじさんが魔神と言うのなら、その教えを受けた俺は何なんだ? 俺は……本当に、生神でいいのか?「どうした
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第311話・二度目の死

 それに、魔神を倒さなければ、サーラたちは戻ってこない。ベガたちも殺されてしまう。生神と滅ぼすと決意した魔神は、神子を殺せる唯一の存在だ。 俺が助けたいと思った人たちも、俺が戦いに敗れれば全て滅ぼされる。俺が今まで創ってきたもの、守って来たもの、全部、全部。 だけど。「……できない」「何?」 ぴくり、と魔神が動いた。「できないよ……俺……おじさんと……」「そうか……」 魔神は息を吐いた。「では、魔神として、生神を滅ぼすとしようか」「シンゴ!」「シンゴ兄ちゃん!」 スシオやヴェデーレの悲鳴に、俺は応えない。……応えられない。 おじさんの右手に、青白い光が宿る。 それが破壊の力……全てを完璧に無に帰す力。俺とは正反対の、純粋な力。「どうした。殺すぞ。死んでもいいのか」 死ぬ? ふと、俺はあの時のことを思い出した。 俺が一度目の生を終えた時。 車に轢かれかかった子供を助けて死んだ、あの時。 生神になるなんて言わずに、そのまま死の先の世界へ逝っていれば、こんな思いをしなくて済んだんだろうか。「いいのか」 俺はがっくりと肩を落とした。「俺……俺の信念は、おじさんが教えてくれたものだ」 口が勝手に言葉を綴る。「魔神の信念を持った生神……そんなの、矛盾してる……。魔神と生神は正反対な存在のはずなのに……」「そうか。お前は戦えない。生神としての役目も果たせない。即ち、死ぬ。と言うことなのだな?」「…………」「シンゴ!」 ヴェデーレの叫びが、スシオの叫びが、ベガの叫びが聞こえる。 でも、俺にはもう、何もできない。 魔神の信念を持った生神が……誰を救えるというのだろう?「そうか……死を選ぶか」 おじさんの相変わらずの淡々とした声が言う。「ならば、一瞬で滅ぼしてやろう。お前が死に、私が世界の全てを滅ぼし尽くせば、新たな生神が目覚めるだろう……。魔神の教えなど知らぬ純然たる生神が」 青白い光がどんどん小さく凝縮されて、強い光を放つ。 最初の力は俺より弱かった。 だけど、全力を、一点に研ぎ澄まされた力は、今の俺の信仰力の壁を貫いて、俺を滅ぼすだろう。 それが魔神の力なのだから。「では……さらばだ、真悟。生神の役目を捨てた者よ」  こうっ。 おじさんが適当に振り下ろした右手から放たれた力は、真っ直ぐに俺の、胸の
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第312話・地球の魔神

 我に返った時、俺は、白い空間に立っていた。 すぐに思い出した。 俺が……最初の死を迎えた時に来た場所。 ぽつんと机があり、そこにあの職員さんが座っている。「お帰りなさい、遠矢真悟さん」 その名前で呼ばれるのも久々だ。 だけど、俺はその呼びかけに答えるのも憂鬱で、椅子に座り込んだ。「何故、死を選んだのですか?」「……死ぬしかないでしょ」 それが俺の本心。「魔神の理念を受け継いだ生神なんて、世界の為にならないでしょう」「そうは思いませんがねえ」「もう、さっさとルーレット回してくださいよ。次の人生はルーレットで決まるんでしょう?」 机に突っ伏して呟く俺をなだめるように職員さんは言った。「その前に、話してほしい方がいらっしゃるんですよね」「話……?」「ええ。それを聞いてからでも遅くはないかと」「長い話をだらだら聞く余裕なんてないんですよね、俺」 俺は机に突っ伏したままだ。 早く終わらせたい。記憶なんて全部洗い流して、別の世界に行ってしまいたい。それだけを望んでいる俺に聞こえたのは、溜め息をつき、立ち上がる音。 少しして、座る音。「お説教なら手短にお願いします」「短くなるか長くなるかは君次第だ」 低い声。 遠い記憶を揺さぶり起こす、力を持った声。「顔を起こしなさい」 ただの人間だった頃の記憶を起こされて、俺は顔を上げた。 黒いスーツ。黒いサングラス。 白髪と白いひげ。 痩せたサンタクロースにも見える彼が、しかしそのサングラスの下の目が鷹のように鋭いことを覚えている。「あなたは……貴船、さん?」「如何にも、私は貴船だ」 机の向こうの椅子に座っていたのは、貴船と名乗れば生神に慣れると教えてくれた、あの老人。「あなたは……何者なんですか。何で、俺を生神に……」「それを話すと長くなるが、いいのかね?」「……どうせ時間なんてこの世界じゃ無限にあるんでしょう」「間違いない」 貴船さんは深く行方に座り直して、俺を見た。「では、私の正体から話そうか」「正体……?」「私はかつて、魔神だった」 貴船さんは静かに告げた。「地球と言う世界を滅ぼす為に、別の世界から呼ばれた魔神だった」「あなたが……地球を滅ぼす……」 地球が……滅びる? 戦争、疫病、貧困。確かに地球は大変なことになっていた。滅びる
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第313話・選んだ人

「正確には、一度地球を滅ぼした魔神、とでも言うか」「地球が……滅んだ?」「そうだ。私が滅ぼした後、私の対である生神が再生した。それが君の生きてきた、地球の真実だ」 地球が一度滅んだなんて……世界史でも学んでいない……。「あなたは……何故、地球を滅ぼしたんですか」「許せなかったからだ」 貴船さんは静かに話し始めた。「地球にいる人間は、皆上っ面だけの生物だ。一度滅ぼして作り直したほうが美しい世界になると、そう思った」「でも、世界が再生された後……魔神は……」「そうだ。私は生き残った。生神が私を滅することを是としなかったからだ。私は自分の命を絶ったが、死ななかった。この世界で、私に与えられた役目は、別の世界に派遣する生神や魔神を選び取ることだった」「選ぶ……って」「そう。君の叔父上を魔神に選んだのは私だよ、真悟君」 俺は音を立てて机から立ち上がった。「何で……何で、おじさんを選んだんだ!」「魔神に相応しいと思ったからだ」 全てを滅ぼす神に……おじさんが相応しいって……何で。「魔神は、ある意味生神より選ぶのが難しい」 貴船さんは座るようにと椅子を指す。座るまでは話しそうになかったから、俺は渋々腰かけた。「魔神は、ただの破壊願望持ちや自殺志望者ではなれないのだよ。世界の再生のための破壊……それはただ世界を滅茶苦茶にしてしまうのではない。世界を一度更地にして、生神に引き渡さなければならないのだからな」「それが……おじさんにできることだと思った……?」「思った」 貴船さんは小さく頷く。「彼は信念を持っていた。彼の中には正義があった。その正義は今のままでは成し遂げられないと判断していた。正義を実行しようとしていた。そして彼に残された寿命は短かった」 病気であっと言う間に死んでしまったおじさんの、覚悟を決めたような死顔が今も鮮明に焼き付いている。「彼の中で正義は正義に成り得なかった。いったん世界を更地にしないと、自分の正義は成し得ないと思っていた。そう、世界を滅ぼすのではなく更地にする覚悟がないと、魔神にはなれない。故に私は遠矢竜介を魔神に選んだ」「おじさんの……正義って……」「彼が後継者を残そうとしていたのは知っていた」 貴船さんは目を伏せた。「だが、彼の正義は高すぎた。後継者にも理解されないまま死んでゆく
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第314話・正義の執行者

 鷹のような瞳が、俺を見据えている。「彼が望み、描いた夢……正義は、確かに君の中に受け継がれた。だが、そうではない。君の持つ正義は決して遠矢竜介のコピーではない」「でも……俺の考えは、全て、おじさんから受け継いだ……」「そうではない」 貴船さんは小さく首を振った。「君の叔父の正義と君の正義は、紛れもない別物だ。確かに根は彼の正義だったろう。だが、君は教えをそのまま受け入れたのではない。君の中で噛み砕き、熟成させ、そして君自身の正義となったのだ」「俺の、正義……?」「君は座り込んでいた私に、普段は寄らないコンビニへ行って水を買ってきてくれた。そこで問う。私を助けるのは君の中で正義だったのか?」「正義……?」 俺は首を傾げた。「正義……じゃ……ないな……」「では、何だ?」「当然のことでしょう? 困っている人を助けるのは、正義とかじゃなくて」「そう、無意識の内に刻まれ、正義を行っていると意識せず実行する。それが君の正義だ」「……は?」 いや、当たり前だろ。困っている人を助けるのは人として……。「君が死んだのは、子供を庇ってだった。君の叔父は、自らを犠牲にしてでも赤の他人を助けよと教えたか?」 ……確かに、おじさんはそう言うことを言ったことはない。 助けられる人がいるなら助けなさい。それは、おじさんの教えだった。 だけど、少ない金を削ってでも水を買えとは、命と引き換えにしてでも助けろとは……確かに言わなかった。 ……いや? それって当然のことなんじゃないだろか? 助けられる力があるなら助けるべきだろ。貴船さんと会った時俺は財布の中にミネラルウォーターを買うだけの金額は入っていた。子供を助けた時、その場で助けられそうなのは俺だけだったから自転車を捨てて飛び出した。「そして、全てを投げだして救った時、君は一度でも後悔したか?」「何で」 財布の中が空っぽになっても、命が終わっても、多分無視した時の方が心が痛んだ。助けられなくて後悔するのはごめんだった。自己満足と言われようが何だろうが、言いたい奴には言わせておけばいい。俺がやりたいことをやっただけ。「そう。君は意識せずに正義を行う。それが正義なのだと認識もせずに。それが君の積み重ねた正義。助けも求められない弱い者が虐げられていることを見逃せないし、自分が傷付こうと成した
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第315話・正義と正義がぶつかれば

「俺の……正義……」「君は生神になっても、助けを求める人を放っておけなかった。助けるに値しないと判断した相手でも、機会を与えた。ただ更地にすることしか考えていない魔神とは、そこも違う」「魔神って……何で、おじさんは魔神に……」「さて、それは本人に聞いてみなければわからない」 貴船さんは腕を組んだ。「ただ、彼は彼なりに正義を執行しようとしたのだろう。正義を執行できる力と心の強さを手に入れたのだから」「それが……世界の滅亡?」「そう。だが、君から見てどう思う? 本当に正しいとしか思えない人間だけが生き残った世界で、世界は、再生できると思うかね?」「無理だろ……」 俺は息を大きく吐き出した。「全員が正しい世界なんてありえない。あったとしても、その正しさの在り方はそれぞれ違うはず。正義と正義がぶつかり合えば、……それは戦争なんだ」「そうだ。やはり君は分かっている」 貴船さんは静かに頷いた。「彼の正義とはそこが違う。君の叔父は異なる正義を認めない。君は正義の多様性を知っている」「おじさんは……知らないのか?」「知っていても認めはしないだろう。彼は己の正義が最も正しいと思っているのだから」 そんなこと、知らなかった。 思わなかった。おじさんの正義が偏ってるだなんて。 でも、このままおじさんを放っておけば、仲間が死ぬ。 俺が助けてきたのは正しい人だけじゃない。気位の高いエルフや気難しいドワーフ、俺に恐れをなしているビガスの街人、それから……。 俺は彼らを助けたことを後悔してない。むしろ嬉しかった。こっちがどう思われようが、そこに助けた命がある、というだけで。 でも、俺が納得していても、おじさんが納得しなかったら? 俺がいなければ、力を使い、知恵を絞って助けてきた人たち全員が殺される可能性だってある。 それは……ダメだ。 やっと生き残った人たちを滅ぼして、立ち直りつつある村や集落を潰して、その先に何があるか。「そう……その先のことを考えるから、君は生神なのだ」 貴船さんは俺の手を取った。 血管の浮いた細い手が、俺の手を叩く。「戻るがいい。君が成すべきことはまだあるはずだ」 何をしたらいいかなんて、正直分からない。 でも、俺が助けた、助けようと思った人たちを殺されるのなんて、絶対嫌だ。 だから。「貴船さん、
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第316話・生還

 足元に、急に感覚が戻った。「……っ」 左胸に激痛。 そのまま、俺は吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられた。 ……なるほど、俺が死んだ瞬間に戻したわけか。 なら、せめて痛いのはなしだろーが貴船さん……。「……む……?」 俺は、さっき魔人がやったように、右手に力を集中して、血の溢れる胸に当てた。 神は神の力でしか殺せない。心臓をやられて危ないと思ったけど、……そもそも神の心臓って動いてんのか? 一度死んだ人間だし。「あ~いってぇ!」 傷が完全に塞がり、血が止まったのを確認して、俺は半身を起こして叫んだ。「ったく……死んだらどうすんだ!」「何……?」 叫んで起き上がった俺を見て、おじさんは絶句していた。 おじさんは俺を殺す気満々だったからなあ。急所ぶち抜かれて血ィ噴いて倒れた甥っ子が起き上がってきたらびっくりだよなあ。「シンゴ!」「シンゴ兄ちゃん!」 泣きそうなスシオやヴェデーレの声。「大丈夫、大丈夫だから」 胸に空いた穴が塞がる。神衣に空いた穴は自動的に再生し、俺の血がしみこむこともなく床に落ちる。「でも……あ~やっぱ痛かったわー……。死ぬだけの攻撃だもんな、マジ痛かったわ~……」「何故……死ななかった……?」「死ねなかったから」 俺は指先を伝う血をぺっぺっと弾く。「生神が世界を再生させないで死ねるはずないだろ」「魔神の理念を教え込まれた生神が? 私とは戦えないと死を覚悟していたお前が?」「ちょっと考え直してね」 俺はまだ痛みの残る左胸を神衣の上から擦りながら首を軽く傾げる。「俺が死んだら、おじさんは世界を滅ぼすんだよな」「無論。次の生神の為に」「じゃあ、これまで俺が助けてきた人たちは、どうする? 大樹海のエルフ、無窮山脈のドワーフ、奈落断崖のフェザーマン、ビガスのヒューマン、それから……」「下らない人間を助けてきたものだ」 おじさんは吐き捨てた。「確かにその中には助けるべき人間もいたと見受けられる。だが、大多数が性根の腐った存在価値のない者ばかりだ」「それは違うと、俺は思うよ」「生神の力にすがり、生神の存在で自己正当化する人間が?」「それが人間ってものだろ?」 仮面の奥、今は見えないおじさんの顔はどうなっているだろう。 俺の記憶にあるおじさんは、常に何処か諦めを含んだ無表情
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